雅なる隊士達   作:レーラ

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ストックがある程度あるので投稿し続けられると思います。

今回は伊万里姐さんの番です。


黒き大鳥 斑鳩伊万里

 陽が沈み、月が浮かぶ夜。それは、鬼達が蠢く刻。

 

 鬼は何時、何処から、どうやって現れるか分からない。

 

 身体能力も人を遥かに上回り、如何なる傷も瞬く間に再生する。生身の人間が正面から相手にしても、力の差は歴然。

 

 だからこそ、鬼は無垢で非力な人間を狙う。

 

 今宵もまた、鬼によって肉親を奪われた哀れな者が、生き残るべく林道を走っていた。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 ここまで必死で走ってきたのか、頬の汗や瞳孔の揺れ、息遣いの荒らさが尋常ではない。

 

 母親から逃げるように促され、裏口から逃げ出した。だがそれから間もなく、母の断末魔が聞こえた。

 

(助けて……!助けて……!誰か……!)

 

 だがその祈りも虚しく、突如目の前に降り立った、まるで狼を思わせる風貌の怪物。両親を殺した鬼がその鋭い爪を振り下ろした。

 

「きゃあぁぁっ!」

 

 咄嗟に構えた腕を切り裂かれ、娘の鮮血が舞う。返り血が顔にかかり、それを舌で舐め回した。だがその程度で満足するなら、獲物を追い詰めたりしない。

 

 今度は血肉を貪り食うべく、娘の首を強く掴んで巨木にその身体を叩きつけた。

 

「ぁ……ぁっ……」

 

 息ができなくなり、何とかもがこうとその手を掴んでも、非力な娘と人の範疇から外れた鬼では、その差はあまりにも埋めがたい。

 

 次第に掴む手が強くなりすぎて、爪が首の皮に食い込んで出血する。

 

 何も出来ない哀れな獲物が出来たのは、精々小さな悲鳴をあげることと、死を待つことだけ。

 

 まずはその喉笛から噛み千切ろうと大きく口を開かせた時だった。鼻をスンスンとすすると、何かを察知したのか視線を娘の方ではなく、後ろの方に向ける。

 

 途端に頭を屈んだその刹那、幹が太かった巨木が轟音を立てて倒れた。

 

 しかもその斬撃は屈まなければ頸に直撃していた。間一髪と冷や汗をかくが、大事な事に気が付いた。首を掴んでいたはずの娘がその手から離れていた。

 

 一体何処へ逃げたのかと辺りを見回すが、それはすぐに見つかった。

 

 だがそれを見つけた時、その眼が鋭くなる。

 

 黒い隊服に、背中には白く刻まれた滅の文字。

 

 鬼殺隊だ。

 

「大丈夫かい?って、無理もねえか……」

 

 後ろに束ねて結った髪を鴉の羽根を模した銀の簪で止めている。その隊服に袖はなく、肩は丸出しで、丸み帯びた体格を強調している。そして娘に掛けた声。女なのは明白だ。

 

 ならばその女も殺して食ってやろうかと唸り声を挙げたが、女がこちらを睨んだ目を見て、その声は封殺された。

 

 狼鬼も鬼殺隊の隊員と戦った事はある。その隊員を葬った事だってある。

 

 だがこの女はそれらとは明らかに違う。そこから醸し出される威圧感と存在。まるで場数を踏んだ歴戦の猛者、厳しい野生の世界を生き延びた強者。

 

 そこまでは読み通りだったが、一つ大きな見落としをした。この女こそが雅の一人、黒き鳥である斑鳩 伊万里だということだ。

 

 狼鬼が足をすくませている間にも、伊万里は娘を危険な目に遭わないよう草むらの中へと安置する。

 

「さてと。お前、カタギに手ぇ出してタダで済むと思ってんのか?」

 

 両側の腰に一本ずつ携えた日輪刀を鞘から抜いた。通常の刀より刀身の反りが浅く、物打が刃と同等と思える程に薄くなっている。だがそれを左右の手に持ったその姿は鳥を思わせる。

 

 その山吹色の刃が月光によって煌めく。

 

 唸り声を挙げながら、四足歩行の体勢になったその瞬間、喉笛を噛み切らんと襲い掛かる。

 

 だがその牙で噛み砕く前に、その場に伊万里の姿は無かった。辺りを見渡すが何処にもいない。だが匂いは近くに存在する。

 

「おいおいやる気満々ってか?鬼じゃなければそういうの好きなんだけどなぁ」

 

 頭上から伊万里の声。上を向くと、木の枝から見下ろしていた。

 

 だがそれより音もなく、それも三十尺(9m)以上の高さがある枝にいる。地上からあの一撃を一瞬で避けれたとしても、そのような高さまで登れるわけがない。

 

「どうしたぁ?ここまで登ってみろよワン公!」

 

 挑発されて憤怒に燃えて唸る狼鬼。こうなれば何としてでも殺してやろうと爪を立てて幹に引っ掛けて登った。そして標的に向かって爪を振り下ろした。

 

 だが切り裂いたのは枝だけ。またしても伊万里を取り逃した。

 

「やっぱテメェは駄犬だ。まんまとここまで登ってくれたんだからよ」

 

 既に伊万里は別の木の幹に乗り移っていた。だが今度は違う。狼鬼を見る鋭い眼は、まるで獲物を捉えた鴉だ。

 

鳥の呼吸 壱ノ型

 

 幹を強く蹴った。狼鬼はその場を逃れようと幹から爪を離して飛び降りだ。が、その時には既に伊万里は眼前にいた。

 

百舌斬(もずぎ)

 

 二本の日輪刀の斬撃が水平に薙ぐように振るった。その斬撃が鬼の頸を舌諸共刎た。

 

 胴と泣き別れた頸は、唸り声すら挙げる事も何が起きたのか理解も出来ないまま、切断された舌と共に地に転がり落ちた。

 

 しかも、首が落ちた衝撃で跳ねた時、その目を疑った。既に伊万里の方が早く、地に足をつけていた。だがそれを認識した所で、自分が死ぬ運命に変わりはない。

 

 欲をかいたが為に雀によって頸を刈られた。狼鬼はまるで舌切り雀の老婆のような末路を迎えたのだ。

 

○○

 

「では、後は我々に」

「おう。頼んだぞ」

 

 鬼を狩って安全を確認した伊万里は、鬼殺隊の事後処理部隊『隠』を呼び込んで事後処理の仕事を任せた。

 

 隠が来る前に、娘の応急処置をして託した。その傷は癒えるだろうが、心の傷まで快癒させるのは難しいところ。だがそちらばかりに気を取られている暇はない。

 

 即座に次の任務を鴉から通達された。そこには他の隊員数名も向かったそうなのだが、既に死者も出ており、状況は芳しくないとの事。

 

「急ぐか。よっ!」

 

 そう言いつつも木々の枝に飛んでは乗り移って移動する。

 

「すげぇよなあの人……」

「ああ。何か心做しか走ってる時よりも、飛んでる方が早く見えるぜ」

 

 そう言っている間に、伊万里の姿は見えなくなっていた。

 

「ココカラ西!カナリ距離ガアルゼ!」

「西か……。だったら!」

 

 西の方角には道ではなく木々が生い茂る林。とても人が通れるようなところでない。

 

 だが伊万里は鴉の指示通り、西に向かって飛んだ。

 

 先程の隠の言う通り、伊万里の移動は地に足をつけて走るより、このように木々や屋根に飛んで乗り移って移動する方が早い。

 

 緣も空中を高く舞い剣を振るう事は出来るが、伊万里の場合は靱やかな足腰から生まれる強い脚力によって、空中を神速の如く飛翔する。

 

 さらに木々に飛んで移動しているので、足場が悪い獣道であっても、足に気を取られることなく短縮して移動する事が出来る。

 

「あれか!ってなんだありゃぁ?!」

 

 まだ距離は離れているが、先に迎撃している隊士達が豆粒に見える程、鬼が大きい。その大きさは十五尺(約4m)以上はあるか。

 

 だがそれよりも、あまりの大きさに隊士達数人掛かりでも頸を切るのに手間取っているばかりか、負傷者を出している始末。

 

 対する鬼は五体満足。しかもこちらが近づいているのに気が付いたのかこちらを見て、拳を振りかぶっている。

 

「あれは!姐さんだ!」

「姐さん危ない!」

 

 隊士達も伊万里に気が付くが、そのまま巨大鬼に直線的に向かっていて、空では移動も出来ない。このままでは直撃してしまう。

 

鳥の呼吸 弐ノ型!」

 

 すぐさま二本の日輪刀を抜刀し、腕を交差して構えた瞬間、斬撃が左右前後に交差するように放たれた。

 

燕落(えんらく)の太刀!」

 

 巨大鬼の拳は伊万里に届くことなく、その腕ごと細切れになった。伊万里は無傷で地に足をつけた。

 

「す、凄え……」

「刀、一回しか振ってなかったよな?」

 

 あの刹那の斬撃。隊士達は正確に視認出来ていなかった。

 

 鬼の拳が届く前に、確かに伊万里は刀を振るった。だがそれは一振りではない。一度振るったその瞬間に反転して再び振るう。

 

 かつてそれを得意とし、かの宮本武蔵と互角に渡り合った剣豪がいた。それと同じやり方を、伊万里はやったのだ。

 

 だがあくまで斬ったのは腕だけ。肝心の頸を斬らなければ鬼は何度でも再生する。

 

 本来であれば隊士達にやらせるのが筋、というのが伊万里の理屈であるが、このままやらせても被害が増すばかりと、判断する。

 

「しゃあねえ……こいつはあたしが引き受けた」

「し、しかし……」

「死人も出てるじゃねえか。六人もいてこのザマじゃ、ここにいても意味ねえ」

 

 既に三人も死者を出しており、頭部を潰されている者がいれば、首根っこを貪り食われて絶命した者、心臓を潰されて息絶えた遺体があった。

 

 それを鑑みての判断である。

 

「後でたっぷり灸を据えてやるからな?」

「「「は、はい!」」」

 

 一般隊士三人は、それぞれ亡骸になった仲間を担いで離脱した。

 

「ウチの可愛い部下に手ぇ出してくれたんだ。その落とし前……テメェの頸で、キッチリつけさせてもらうからよ。命が惜しくねえなら……掛かって来ぉい!!」

 

 殺された隊士達の為に怒りを露わにする伊万里。だが鬼はそんな事などお構い無しに拳を振り下ろした。

 

 見え見えの手に伊万里が潰されるわけがなく、高く宙を舞い、巨木の枝に着地する。

 

 十五尺もある巨体でこの木に登ろうとすれば間違いなく折れる。だが巨大鬼は突如、拳をその幹に殴りつけた。

 

 いかに登れずとも高い場所に獲物がいるなら引きずり落とせば良い。いかに太い幹であっても、何度も殴ればいずれは叩き折れる。そうやって足場を無くす魂胆だ。

 

 だがそれは伊万里の予想通り。足場が使い物にならなくなるとすぐに判断し、別の木へ飛び移る。巨大鬼がそれを追い、また木を殴って折る。

 

 そうしている内に伊万里と巨大鬼は足場の悪い森の中へと入り込む。そこはより一層木々が生い茂っており、月明かりすら差し込むのはほんの一筋。

 

 戦いの場が移ろうとも、巨大鬼は木を倒し続けようとしていたが、突如伊万里が飛ぶ速度が早くなる。縦横無尽に鬼の頭上を駆ける。

 

 目で追えなくなったのか、どこを攻撃すれば良いか分からない巨大鬼だったが、突如その上から大量の枝と葉が降り注いだ。

 

 あまりの多さに鬱陶しく、落ちてくる枝葉を手で払う。だがそれが一瞬の隙を与えてしまった。月明かりが差し込んだと同時に、伊万里がこちらに向かって飛んできた。

 

鳥の呼吸 参ノ型!

 

 空中にいる伊万里が体幹を中心に回旋させると、まるでコマのように高速で回転。刃が鬼の頸を皮切りに、全身に次々と斬撃が刻まれる。

 

鴉の猛り

 

 伊万里が着地したと同時に、鬼の頸は、その巨体諸共斬られて落ちた。細かく切り刻まれた分、消滅が早まり、最後に残った頸も身体が全部消えた後に滅んだ。

 

 だがそれに見向きもせず立ち上がった伊万里。そのまま二本の日輪刀を鞘に納めた。

 

「鴉の巣に踏み込めば、奴らは凶暴化する。テメェは土足で踏み込み、部下を殺した。地獄で後悔するんだな」

 

 既に消滅した鬼に、今の言葉が届くかは分からない。だが鬼殺隊として、一人の人間として、矜恃を持たずただ人を殺して食らうしか脳の無い鬼への罰には十分だろう。

 

 そこに退避させた一般隊士達が駆けつけた。

 

「姐さん!鬼は?」

「さっき倒した。ここはもう大丈夫だ」

「良かった……。ありがとうございました、姐さん」

 

 命が助かった隊士は、助けてくれた伊万里に頭を下げた。そんな事はいいと頭を上げさせる。

 

「ったく。このザマじゃ、まだまだだな。お前ら明日から雅の屋敷に来い。みっちり扱いてやるからな」

「は、はい!」

 

 そう言うと伊万里は一般隊士達を置いていき、今度は殉職した三人の前に立った。

 

 立派に戦い、仲間を守って死んだ勇敢な隊士達の目を閉じてやる。

 

(お前達の分まで、あたし達が戦う……!絶対に鬼舞辻無惨を倒して、お前達の無念を晴らしてやるからな……!)

 

 殉職した隊士達に手を合わせ、葬送の言葉を贈って弔った。

 

 戦いを終えた伊万里は、事後処理を隠に任せると次の任務の伝達が無いので雅の屋敷の方へと飛んだ。

 

 




プロフィール

斑鳩 伊万里(21)

階級:甲
誕生日:10月21日
身長:177cm
体重:66kg
趣味:金品収集
好物:焼き鳥
流派:鳥の呼吸

鬼殺隊 隊士育成特殊部隊『雅』の一員。

所々に跳ねさせた長い黒髪を後ろに纏めて結って羽根を模した銀の簪で留めてある。

隊服は袖を破って肩まで露出させており、サイズも体格にピッタリなサイズに合わせて作られている。その為、豊満な胸が強調されている。
下も同様であるが、両側の太腿外側部分を大きく切れ込み、網目状に作られている(これは製作者の独断で作ったもの)。

日輪刀は二刀流であり、刃の色は山吹色。

姉御肌の持ち主であり、気さくな人柄。義理人情を大事にしていて決してエリートぶらない。だが品行方正とは言い難く、上官相手にいい加減な態度を取ってタメ口を叩く、書類仕事をサボるなどいい加減な一面もある。
但し特定の柱や当主・産屋敷耀哉には経緯を払って接していて、しっかり義理を通している。

伊万里の扱う鳥の呼吸は、雷の呼吸から派生しており、同じく速度を武器としているが、こちらは空中戦を得意としている。弾力のある足腰と柔軟性の高い上肢によって空中での速さと斬撃の威力を高めている。
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