そしてようやく原作キャラが登場します。はてさて一体誰になるのやら。
柱の存在
雅は一般隊士達の質を底上げする為に編成された特別部隊。それ故に編成された隊員も相応の実力がなければ務まらない。
疼木 緣
筆頭を務める雅の花。それは誰よりも戦場を舞い、鬼を皆殺す者。
土岐 伊万里
義理人情を重んじる雅の鳥。それは誰よりも戦場の空を駆ける者。
生天目 輪廻
誰にも思考を悟らせない雅の風。それは誰よりも妖しく戦いを掻き乱す者。
煉獄 御憑
炎に焦がれ、その背を追う雅の月。それは、誰よりも闇を背負いながらも己を律する者。
四人の実力は並の隊士より遥かに高く、その階級も全員が通常最高位である甲。中でも伊万里以外は鬼の中でも異次元の強さを誇る十二体の鬼、十二鬼月の鬼を一体は倒している。
だが四人は柱に到達する事はなく、その直下である育成部隊の地位にいる。勿論、当然名誉な事ではあるが、何故柱になりうる力を持っていながらその地位に甘んじているのか。
その事もあってか一般隊士達の間ではこんな噂がまかり通っていた。
この四人を柱にするにはあまりにも危険すぎる、鬼殺隊存続を脅かす存在だからこそ、上層部は雅に隔離したのだと。
○○
日が天高く昇り、暖かい時間になる昼。雅屋敷では緣と輪廻が稽古役となって、一般隊士達の指導に当たっていた。
緣は道場の中で引き続き体幹及び足腰強化、反撃の稽古を行っている。だが相変わらず次の稽古に進められる者はおらず、緣に木刀を打ち込まれただけで倒れてしまう。
一方、輪廻は屋敷の敷地外にある広い竹林の中で稽古をしている。巨大な竹の幹より生えている大量の枝葉が太陽の光を遮っているが、僅かな隙間から零れ日が差し込む。
その中に放り込まれた隊士達はというと、ここに鬼はいないというのに、すっかり怯えた表情で木刀を構えている。
だがこの空間に漂う静寂、纏わりつく恐怖。まるで最終選別の時のような場所だ。
ある一人の隊士は突然吹いてきた風が枝葉を大きく揺れると、隊士達が抱える恐怖をより煽り立てている。
「な、何なんだよ……」
驚きの余り過剰に身構え、脚も産まれたての子鹿のように震えている。武者震いと言い張ろうものなら説得力なんて皆無だろう。
「にゃぁ」
「うわぁっ!えっ?何?!」
突然の鳴き声にまた驚くも、その正体を目の当たりにした時は拍子抜けする。
「ね、猫?」
右目と耳の周りが茶色、左目と耳の周りが黒い毛が特徴的な三毛猫がいた。突然の事で戸惑う隊士だが、猫と分かると構えを解いて猫に近寄る。
「お、おい。大丈夫か?何でこんな所に迷い……」
が、突然後頭部に強い衝撃が叩き込まれて倒された。
「油断しすぎ」
倒れた隊士に呆れてそう言うのは、指導役の輪廻だった。
この稽古は実際に鬼との戦いを想定した実戦形式となっており、鬼役である輪廻に一本入れれば完了となる。
だがこの竹林には様々な罠を仕掛けてあり、先程の三毛猫は輪廻がけしかけた飼い猫の薫もその一つである。
他にも落とし穴や丸太、ししおどしなど巧妙な罠が盛り沢山。それらの罠を掻い潜った上で、竹林の何処かに潜んでいる輪廻を探して一撃を入れなければならないのだが、これがまた厄介なのだ。
足音すら立てないその身のこなしと気配を消す立ち回り。そして隠した鋭い爪を突然振り下ろすかのように、襲いかかって来る。
ちなみに稽古は六人受けているが、その内罠にかかった二人もおり、今の隊士で三人脱落していた。
「ふわぁ……。早く来てくれないと、眠くなっちゃう」
欠伸をかいて次の
「うわっ!いた……がはぁっ!」
その途中で稽古を受けている隊士と遭遇。いきなりの事で驚いた隊士が慌てて木刀を振り上げたが、突然の事で大振りになっていたのを見逃さなかった輪廻に一撃で意識を刈り取られた。
やがて悲鳴の張本人の所まで辿り着いた輪廻。なんと竹の枝葉が腕に絡みついてしまった事でここから動けなくなっていた。
「急げ急げ!早く……はっ!来たぁ!」
輪廻に気が付いた隊士の顔が真っ青になる。防御も出来なくなって隙だらけの哀れな隊士に情けをかけるはずもなく、トドメを刺しに行ったその時だった。
「い、今だ!」
何と隊士が合図を送ったと同時に、もう一人の隊士が上から輪廻を目掛けて襲い掛かる。勝ち誇った顔で木刀を振り下ろそうとしたが……
「薫……」
「にゃああぁっ!」
「ふごっ!」
輪廻の指示で薫がその隊士の顔を目掛けて飛び掛った。突然視界を塞がれては正確な攻撃が出来るはずもなく、そのまま落下した。
「嘘……そんなのありかよ……」
「穴だらけの作戦……」
そう評価して残り二人の隊士に一撃入れて気絶させた。
これにより稽古は中止。誰一人合格者が出ないまま、走り込みをさせられることになった隊士達の悲鳴は夕方まで響く事になった。
ちなみに輪廻も任務の指令が通達され、御憑と交代する形で任務へと向かう事になった。
――
翌朝、輪廻と交代して稽古指導に周った御憑は早速打ち込み稽古から始める。今回は太刀筋の矯正も兼ねており、特別な鍛練となっている。
隊士達八人の前に立てられた幹が太く、一回り大きい立派な竹が石庭に堂々と並び立っている。御憑が竹を背に立って、隊士達に説明する。
「これを真剣で斬ってもらう。だがこの竹の強度は硬い。半端な斬り方では刀の方が折れる」
そう言いながら裏拳でコンコンと軽く叩く。
「一応鍛錬用の真剣を提供するが、数には限りがある。もし刀を折った場合……彼のお仕置が待っている」
御憑の目線を追った隊士達の顔がこの世の終わりが訪れたかのように絶叫した。何と龍馬が指の骨と首の骨を鳴らしながら仁王立ちしていた。
雅の稽古を受けた者達は龍馬の恐ろしさを知っている。鬼殺隊でないただの一般人であるにも関わらず素手で隊士を、それも十単位を相手に全員蝶屋敷送りにした事を。
そんな彼のお仕置。鋭い眼光に睨まれ、隊士達の心と身体中の細胞が泣き叫んだ。
「だからと言って、斬るだけじゃない。ここを見てくれ」
まだあるのかと、すっかり怯えきった隊士達は恐る恐る竹の方を見る。何か変わったものは至ってないように見えるが、目を凝らすとそれぞれ薄ら墨で描かれた細い線が刻まれている。
「この線に沿って斬ってもらう。当然、寸分狂いなく。もし少しでもズレたりしたら……分かってるよね?」
涼しい顔をして、言っている事があまりにも恐ろしい。立て続けに戦慄する彼らの心は始まる前からすっかりボロボロになっている。
「では始めてくれ」
手を叩いて開始の合図を送る。隊士達はそれぞれの竹の前に立って訓練を急いで始める。やらなければ龍馬のお仕置が待っている。
「よし……やるぞ!」
一人の青年隊士が早速始める。雄叫びをあげながら竹を横に払った。
ガキィン!
と、金属の音が庭に木霊する。庭の石に何かが落ちる音が聞こえた。その音の正体を確かめた時、彼の顔は再び青く染った。
真剣の切っ先が落ちていた。そして自身の刀の切っ先が無くなっている。折れたという事だ。
「おい」
ドスの利いた声が後ろから耳に突き刺さる。お仕置執行を告げた。
「や、やめてください!お許しくだ……うわあああああぁぁぁ!!」
刀を折った不届き者を片手で襟元を掴んで持ち上げ、そのまま高く放り投げた。空中で回りながらそのまま池に落とされた。水飛沫が竹の塀を上回った。
容赦ない仕置に他の隊士達は三度戦慄した。
「何を突っ立ってる?今度は壁に叩きつけるぞ」
「ひ、ひいいぃぃ!」
「やりますやります!」
厳つい風貌もあって、隊士達はすっかり怯えきっている。すぐに鍛練に入るも、間もなく刀を折った者が続々と現れ、その度に龍馬に投げられた。
その間、御憑は素振りの鍛練に取り組んでいた。足を強く踏み込んでから、袈裟斬りにて刀を振り下ろす。
振り下ろした衝撃が庭の石を軽く飛ばす程の勢いだった。幾度となく研ぎ澄まし、練り上げられた技を何度も繰り出す。
「ここにいたか!精が出るな!」
大きく快活な声が聞こえ、振り下ろそうとした手をピタリと止めた。踵を返すように振り返った先にいたのは、御憑よりも背丈が大きく、髪が炎のように逆立ち、大きな目が特徴的な隊士。隊服の上から着用している羽織も含めて、彼から炎を彷彿とさせる。
その顔を見た時、御憑の顔に満面の笑顔がこぼれた。
「御兄様!」
そう呼んで彼のもとに駆け寄った。
兄の名は煉獄杏寿郎。鬼殺隊の中でもたった九人しかいない最高の剣士に送られる称号、《柱》の一人。
彼は炎柱と呼ばれており、代々産屋敷家に仕える煉獄家の長男。炎の呼吸を使い、その御業は大炎の如く強く激しい。
「隊士達も頑張っているな!」
「はい!彼らも日々、頑張っております!」
隊士達に見せた凛々しい振る舞いとは打って変わって、まるで子供のような可愛らしいものになっている。
「所で、投げ出されているのはどういう事なんだ?あれも鍛練なのか?」
「い、いえ!あれは刀を壊した罰です!」
「うむ!そういう事か!俺はてっきり、受身を取る稽古かと思ったぞ!」
朗らかに笑う杏寿郎。御憑も釣られてクスッと笑ってしまう。
「あ、あのぅ……」
そこにずぶ濡れになっている隊士が声を掛けられ、元の凛々しい御憑に戻して向かい合う。両手に竹を持っている。
「あっ!炎柱様も!お疲れ様です!」
「うむ!ご苦労!竹を斬ったのか?」
「は、はい!ご確認をお願いします!」
そう言われ、竹を受け取った御憑は断面を確認する。
「うむ?墨を塗ってあるのか!」
「はい。うん、ダメだ」
「えっ?」
即座に宣告され唖然とする隊士。その瞬間、後ろから龍馬に頭を掴まれて再び放り投げられ、池に逆戻りした。
「ハハハ!相変わらず豪快だな!だが御憑!いっその事、見本を示してやってはくれないだろうか?」
「僕がですか?」
「うむ!」
杏寿郎の指示となれば、御憑は喜んで従う。隊士達を集めて、御憑が手本を示す。
隊士達と同じ鍛練用の刀に持ち替える。だが御憑の前に用意されたのは通常の竹よりもっと太いものだ。強度も普通のそれとは段違いだ。
「こ、これをあの人が?」
「いやいや普通じゃねえだろ……」
普通のですら正確に斬れない隊士達では傷一つつけることすら能わない。
だが御憑に二言は無い。鞘から抜刀して構えの体勢に入る。静寂が空気を漂い、隊士達が固唾を飲んで見守る中、御憑は冷静に、斬るべきものを見据える。
「はあぁっ!」
不意に水平に刀を振る。繰り出した一閃の斬撃は太く固い竹の幹を通り抜けた。
斬られた竹が石庭の上に落ちた。それを目の当たりにした隊士達が驚嘆の声をあげる。杏寿郎だけは腕を組んで大きく頷いた。
「マジかよ……」
「本当に斬った……」
「流石炎柱様の弟だ……」
「うむ!見事だ!」
杏寿郎に褒め称えられても御憑は表情一つ変えることなく納刀。斬り落ちた竹を拾い上げた。断面は綺麗に斬られており、指先で撫でて見せてやる。
「これは御憑の絶えまない努力の結晶だ!無論、簡単に至れる境地ではないが、決して不可能ではない!何度失敗しても、諦めずに挑むんだ!」
御憑の手本と杏寿郎の力強い演説に心を動かされた隊士達が大きな返事をして、自身の鍛練に戻る。
「ありがとうございます御兄様。お陰で隊士達もやる気に満ち溢れております」
「ハハハ!役に立てて良かった!では、俺は任務に戻る!後はよろしく頼むぞ!」
「はい!お兄様もご武運を!」
杏寿郎に一礼する。杏寿郎も力強い返事をして、雅屋敷から去った。
「やっぱり……あなたは私の憧れです。
その背を見送った御憑の頬は朱に染まっていた。
大正コソコソ噂話
御憑は鬼殺隊に入る前は杏寿郎の指南を受けており、絶えまない努力で最終選別を突破。一年以内に甲まで登りつめ、杏寿郎の推薦で雅に選ばれた。
ちなみに恋柱・甘露寺蜜璃とは姉弟弟子の関係で、今も尚仲は良好。