雅なる隊士達   作:レーラ

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いよいよ原作の那田蜘蛛山に突入します。


宜しければ感想、アドバイスなどいただければ幸いです。


那田蜘蛛山へ

「今日はここまでだ。お前達は明日が最終日となる。だが手を抜くつもりはないと知れ」

 

 日没を迎えて、本日の稽古終了。隊士達を屋敷の宿直で休息させてやる。

 

 いずれも成果が出たとは言いきれない結果だった。勿論頑張っている者は成長しているのだが、如何せんあと一歩が届かない。

 

 柱達から再三言われてきた事だが、近年の鬼殺隊の隊員の質が落ちている。鬼殺隊は命懸けで鬼を倒さなくてはならない以上、常に死と隣り合わせ。

 

 さらに人手不足であるが故に任務で負傷しても、また次の任務に赴かなければならない。それだけ鬼の数が多く、力の差も雲泥の差がある。

 

 少しでも新米や未熟な隊士が生き残る可能性を底上げする為の一環として、この雅が建設された。その結果、問題点が浮き彫りとなった。

 

 まずは駆け出しの経験お未熟であるが故の技能不足。柱が会得した技を伝授する機会が無く、殆どの新米が見て盗むか、自身で発見して会得していくしかない。

 

 二つ目は隊士の志。鬼殺隊の入隊する主な理由の多くが、家族や大切な人を鬼に殺された事によるものであるが、中には金銭や出世といった俗物的な目的で入隊した者もいる。

 

 そういった者達への指導も役目として果たさなくてはならないのだが、如何せん反抗的な態度を取る者も少なくはない。それによって大した成長も見られず、時間の無駄になるのが、一番問題視されている。

 

 隊士達がいなくなり、一人残った緣が腕組んでため息を吐く。務めとはいえ、あまりの嘆かわしさに頭すら抱えたくなる。

 

「今日も良い出来とは言えませんでしたか」

「御憑……」

 

 任務から帰って来た御憑が電球を点け、声を掛ける。

 

「緣さんが溜め息とは珍しいですね」

「私も人間だ。溜め息くらい吐く」

「とはいえ、そのお気持ちは理解出来ます。この間も、指示に従わないで勝手に辞めてしまった者もいましたし」

 

 稽古期間内に耐えきれずに期間終了まで逃げ出す、言わば脱走者も存在する。その場合は連れ戻さなくてはならない。

 

「失礼します」

 

 そこに龍馬と髪を全部剃った巨漢の剛亀(ごうき)が、隊士をそれぞれの手で引きずって入って来た。それも隊士達の顔には打撲痕があり、その犯人は言うまでもない。

 

「脱走者を連れて来ました」

「ご苦労だった」

 

 緣が脱走者を捕まえた二人に礼を言う。

 

 脱走者の対処に龍馬、虎次郎、剛亀を使っており、三人とも鬼殺隊ではないにも関わらず並の隊士以上に強く、剣を使わずとも彼らを倒してしまう。

 

 今回、脱走者は四人だった。

 

「ありがとうございます。龍馬さん、剛亀さん。では、彼らをここにお願いします」

「はい、煉獄の姐さん」

 

 そう言うと龍馬と剛は脱走した隊士達を放り投げた。

 

「では、夕餉の支度をしてきます」

「ありがとうございます。後で宿直の隊士達にも振る舞ってあげてください」

「はい」

 

 龍馬は剛を連れて台所へと行った。なお剛はここまで一言も発さず、頷くのみ。伊万里からは無口だと言っていたが、彼女ですら声を聞いた事がないらしい。

 

 それよりも、脱走した隊員の処遇を決めなくてはならないが、一先ず話だけは聞くことにする。だが緣では問答無用で厳しい罰が下されかねない。ここは御憑が話を聞く。

 

「何故逃げ出したのかな?」

「す、すみません!稽古が辛くて……ほんのつい出来心で……」

「出来心か……。僕達は君達が少しでも生き残れるように、その術を教えているだけなんだけどな。君は?」

 

 あまりにも軽率すぎる理由に嘆かわしさを感じるが、すぐに二人目へ質問をする。

 

「俺も正直……かなりキツくて、全然成果も出ないし……」

「君もか……。いや、もしかしたら合わなかったのかもしれないな……。こちらのやり方か、指導者を変えてみるという手もある。二人はまた後で話をしよう。君は?」

「すみません……勢いに流されて……」

「はぁ……。それに関しては呆れる」

 

 三人目は理由がしょうもなく、呆れてしまう。最後の四人目。御憑は彼に見覚えがある。というのも彼の指導者こそが御憑だからだ。

 

 だが彼はよく御憑に向ける眼差しは反抗的であり、名を呼ばれるだけで舌打ちしている。だが御憑はそのような事を気にする素振りすらなく、涼し気な顔で稽古していた。今も同じように問いかける。

 

「何故脱走なんかを?」

「冗談じゃねえよ……。何が悲しくて年下のお前なんかに見下されなきゃいけないんだ?」

「それは単純に君より強いからだ。それだけは言える」

 

 そうバッサリと断じてしまうが、それが彼を余計に不快にさせる。

 

「ざっけんな!何が炎柱の弟だよ!兄貴の七光りのくせに、俺ら相手にいびりやがって!」

 

 隊士が本音をぶちまけて反抗したが、それが御憑の眉をピクリと震わせた。

 

「何……?」

 

 声の震えから怒りが混ざっている。だが反抗的な隊士はそれに気付かずに続ける。

 

「もう一度言ってやるよ!隊に入って一年で甲になれるはずがない!炎柱のコネで……」

 

 だがいい終える前に後ろから木刀が飛んできて、その頬のすぐ側を木刀の切っ先が掠めて、小さな悲鳴をあげた。木刀が壁にぶつかり、道場中に音が大きく鼓膜が破れん程に響く。

 

 投げたのは緣だ。彼女からは鬼面越しに怒りが伝わる。こうなっては御憑でも止められない。

 

「ならば、一つ特別試験だ。まとめて私に向かって来い。一撃でも入れられれば、お前達は無罪放免。稽古の参加も免除する」

 

 まさかの特別試験。しかも合格すれば稽古も免除。条件は圧倒的に一般隊士達の方が有利。

 

「そして私は、六十の間はお前達へ攻撃しない」

 

 さらに追加で自身に制約を課した。これなら勝てる。隊士達は意気揚々と木刀を手に取る。

 

 緣も構えの体勢に入った。審判役は御憑が執り行う。

 

「では、始め!」

 

 御憑の合図と共に、隊士達は一斉に襲いかかる。四本同時に振り下ろされる木刀。だが緣は一人の木刀を受け流しすと、その隣にいた隊士にぶつけてやり、一人は木刀を受け止めて回して無力化。

 

 飛んで行った木刀はもう一人の額に直撃した。全員の攻撃を受けずに、それも一回も攻撃せずに無力化させてしまった。

 

「どうした?数ではお前達が有利のはずだ。早くしなければ、お前達は負けるぞ」

 

 早く緣に一撃入れられなければ、緣の攻撃によって全員倒されるのは明白。故に急がなくてはならないのだが、並の攻撃では今のように簡単に流されてしまう。

 

 反抗的な態度をとっていた隊士が木刀を持ち直して、木刀を振り下ろすが、相も変わらずの単調な攻撃に失望。木刀を持つ手を片手に切り替えると軽く流して、転倒させた。

 

「あれだけ息巻いておきながら、蓋を開けてみればこの程度か……」

 

 教えた事を何一つものにしていない。反抗はする。挙句の果てに脱走。もはや怒りを通り越して呆れるしかない。他の隊士も既に戦意は失っている。

 

「鬼は人を喰らって強くなる。それが鬼殺隊の人間であれば尚更、格好の餌だ。我々は可能な限り生き延びられるよう手解きをしている。だがこの七日間、お前達は何も得ようという姿勢が見られなかった」

 

 静かに怒りを抑えながら吐露した緣の本音。彼らにそれが届いたのかは分からない。だが倒された隊士達は気まずそうな表情をしている。

 

「六十経った。終わりにする」

 

 もはや時間の無駄。さっさと終わらせて、鬼殺隊からの除隊を提案しよう。そう思い木刀を両手で構える。構えた赤き鬼巫女を前に最早抗える術などない。隊士達が怯える。

 

「急報!急報!」

 

 そこに紅葉が黒い羽根を羽ばたかせながら、慌てて入って来た。

 

「雅全員!救援ニムカエ!那田蜘蛛山ニテ、被害甚大!」

 

 救援要請。それも雅全員が駆り出される事態。かなり深刻だ。

 

「訓練は中止だ。御憑」

「愚問です」

 

 木刀を立て掛けると、御憑と共に屋敷を飛び出した。紅葉によると、数十という単位の鬼殺隊士がやられているらしい。

 

 一箇所だけでこれ程の被害を被ったとなると、敵は強力な鬼なのだろう。

 

「十二鬼月の可能性がありますね」

「それが何だ?我々は鬼殺隊。敵が数字を刻んでいようとも、鬼を皆殺すまで」

 

 鬼面から僅かに垣間見える赤き瞳。鬼への憎悪と怒りを剥き出しなのは言うまでもない。

 

「ナオ!柱二名向カッテイル!」

「柱も?!」

 

 御憑が伝令を耳にして驚く。

 

 鬼殺隊最高の剣士である柱が二名も派遣しなければならない程、今回の任務は相当深刻な状況にあるのだろう。御憑はそう考察する。

 

「緣さん。今回の任務……」

「余計な事を口にするな。行くぞ」

 

 御憑の考察は遮られた。緣の言の葉の重さを察して大人しく黙した。

 

 

○○

 

 

 時を同じくして、別の任務を完了したばかりの伊万里も那田蜘蛛山からの救援要請を受け、いつものように木々に飛び移りながら移動している。

 

 だが那田蜘蛛山はここからではかなり遠く、普通に向かっただけでは時間がかかってしまう。だが伊万里は、たとえどんなに遠くても、険しい山道や足場の悪い森の中であっても、想定よりも早い時間で到着出来た。

 

「あたしが一番乗りみたいだね」

 

 森を抜け、飛び移る木々が無くなって降りると、大きな山が目に映る。だが鬼がいるという事もあり、闇夜の中でそびえ立つそれは、より禍々しさを感じさせる。

 

「確かにこりゃあ、一人じゃ手に負えない大きさかもね」

「やはりもう到着してましたか」

 

 那田蜘蛛山を見上げてボヤいていると、後ろから緣と御憑が到着した。後は輪廻だけなのだが、待っている時間はない。

 

「入山するぞ。輪廻を待つ暇など」

「生天目輪廻!先入山!入山確認!」

「「「えっ?」」」

 

 紅葉の報告に寸分違わぬ反応。あの自由奔放で会議中に居眠り、稽古の時間に遅刻が当たり前の輪廻が最速で入山して行ったのだ。

 

「い、行くぞ」

 

 出鼻を挫かれてもそこは筆頭。すぐに切り替えて先頭を走って山へ入る。伊万里と御憑も後に続いた。

 

 入って間もなく、禍々しく重い空気を感じ取った。そこらの異能の鬼が放つものではない。明らかにその上位だ。

 

 だがこれしきで三人は駆ける足を止めることはない。あるとすれば……

 

「これは……」

「酷えな……」

「想定以上に被害が大きいようですね……」

 

 隊士(なかま)達の多くの屍が転がっている事だ。

 

 

○○

 

 

 見るも無惨な遺体が多く転がっていた。だがこれは下の話。木の幹に縛り付けられたり、枝に吊るされていて動かない者が多くある。

 

 刺傷や斬られた痕、関節がありえない方向に曲がっている等、異なる所もあるが、それは外力からやられたものだろう。恐らく鬼が隊士達を文字通り操り人形にして、同士討ちを起こしたのだろう。

 

 そして全員が共通しているのは首が正反対に拗られたという点。推測ではあるが、もう用済みとなり処分した……ということだろう。

 

「そう考えるのが妥当かと」

「エグいことしやがる……。あっ!こいつ、田岡じゃねえか!佐藤に清水!」

「確かその人達は……雅に来た者達までやられているとは……」

 

 伊万里が見知った顔を見かけた。

 

 死者の中には雅の屋敷で稽古を受けていた者達も含まれていた。上出来とは言いきれなかったが、それでも確かに過酷な稽古を受けて技術を上げていた。それでもダメだったということだ。

 

「尾崎……」

 

 尾崎と呼ばれた女隊士も首を拗られていた。目を見開いたままとなっていて、死の間際まで絶望と痛みを味わっていたのだろう。

 

 だが今は、彼らの死に嘆き、思い馳せている場合ではない。

 

「行くぞ。ここからは三つに別れるぞ」

「承知しました」

「んじゃ、あたしはこっち行くわ」

 

 伊万里は木の枝に飛び移ってそのまま行ってしまった。御憑と緣も進もうとした時だった。

 

 ドカァァァァン!という轟雷と共に閃光が走る。空には暗雲が浮かんでいるが、落雷が発生する程のものではなく、月はハッキリと見えている。自然現象のものではないとしたら、雷の呼吸によるものだろう。

 

「今のは……」

「コノ先!癸隊士!鬼ヲ撃破!意識不明ノ重体!」

「癸の隊士が?」

 

 紅葉から唐突の報告が届いた。雅の稽古を受けた中堅でも殉職する者が後を絶たない中、最下位の新入りが鬼を撃破するという、まるで奇跡にも近い事態に御憑が困惑する。

 

「私が行く」

 

 たったその一言だけ言い、緣がそこへと向かった。木々を掻い潜りながら進んでいくと、木々が少ない一帯に出た。その中央には、木々の間に蜘蛛の糸で支えられて宙に浮かんでいる小屋があった。

 

 見上げると、その屋根に鬼殺隊士が倒れている。

 

「あれか……」

 

 屋根の上で仰向けで倒れたまま動かない隊士を助けようと向かおうとしたが、月を背に蝶のように軽やかに降り立つ女性隊士が見えた。だがその女性の風貌が緣の足を止めさせている。

 

 鬼面でどんな感情を浮かべているのかは分からないが、唯一覆われていない眼が震えている。

 

 蝶を思わせる羽織、結った後ろ髪を留めている紫色の蝶の髪飾り。そして笑顔を浮かべている。

 

「もしもーし。大丈夫ですかー?」

 

 間延びするような口調が奏でる声色は、今でも覚えている。

 

 一人の隊士が抱いた願い。それを胸に笑顔を絶やさない者。片やその願いを踏み躙り、笑う事をやめた者。

 

 袂を分かち、決して交わらぬ道を歩み出したあの日から、あの頃にもう戻る事が出来なくなった。

 

(嗚呼……。何故よりによって……ここに来てしまったんだ……)

「あら、こんばんは。疼木さん」

 

 彼女こそ柱の一人、蟲柱・胡蝶しのぶ。緣が一番会いたくなかった者だ。




大正コソコソ噂話

緣が着用しているお面は元々は般若の能面だった。度重なる戦いで鬼の返り血を浴び続けた結果、白い面が全部赤く染まった。

結果的にそれがより敵味方問わずに与える恐怖は倍増となった。
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