「
市松模様の羽織を着た赤毛の少年隊士、名は
そして妹である
だが
だが
二人の兄妹の力が、厄災とも言える相手に勝利したが、その代償はあまりにも大きかった。ここまで辿り着くのに、数多くの鬼殺隊の隊士の命が失われ、自身も何度か命を落としかけた。
勝てはしても立ち上がる事すらままならず、這いつくばって
(まさか……!鬼殺隊の人!しまった!禰豆子が!)
鬼殺隊の隊士が現れた。当然輪廻の目に
鬼を連れて鬼殺の任務を遂行するなど、あってはならない。他の隊士に見つかれば、
(禰豆子を守らないと……!)
最悪の事態に戦慄する
(あれ……?何だ……?
禰豆子を見て殺そうとする素振りがまるでない。それどころか目をぱちくりさせながら、
「これだけ近づいても襲って来ない……」
しゃがみこんで禰豆子の身体を見回して、その頬を手で触れる?モチモチとした感触が伝播する。その白い柔肌は人と変わらない。
今度は禰豆子の手を握る。これも人と同じ感触。鋭い爪以外は形も同様。関節の可動域、体温、頸の硬さ、どれも人間と同じ。
「凄い……。えっ、この竹は?もしかして轡なの?何の為に?これじゃあ人を食べられない……」
鬼と人の生体の違いをこの手で調べられるという貴重な体験は滅多に出来ない。だがそれよりも、これまで相対した鬼とは違い、
「凄い……こんな鬼がいるんだ……。ねえ君……」
自分の事なのか?それとも
差し込んだ光明を無駄に出来ない。とにかく話をしてみる。
「あの、妹なんです!俺、
「分かってるよ」
炭治郎の話を遮って
後ろから鬼の気配。それもかなり大きく、感じ取ったことがある殺気。
そんなはずはない。鬼は頸を切り落とされればそれまで。塵になって消える。だが、気配は消えてないどころか増大している。
「やっぱり死んでなかったんだ……。さっきから見えてるよ?」
振り返ると斬り落としたはずの頸が、糸によって逆さに吊られている。身体の方も受けた傷など再生してしまっている。
「哀れな妄想をして幸せだった?分かってないようだから教えてあげる。僕は自分の糸で頸を斬ったんだよ。お前に頸を斬られるより先に」
「考えたね……」
鬼の頸は日輪刀で斬らなければ死なない。それを逆手に取り、糸で頸を斬って頸と胴を繋げられるようにしたのだ。
「お前も妹も殺してやる……その女もね」
新たに現れた女の隊士、もとい輪廻にも殺意の目を向ける。誰の事を言っているのかとキョトンとした目をしながら首を傾げる。
「その澄ました顔……やっぱり人間はイライラする……!」
両手の指に結んだ赤い糸を引っ張る。だが憤怒を露わにされようとも、輪廻は顔色一つ変えていない。
「血鬼術
両手を広げ、輪廻と炭治郎、禰豆子を囲う赤い糸の空間、牢屋が形成される。閉じ込められ、炭治郎は戦うべく立ち上がろうとするも身体が言うことを聞かない。
三人を切り刻むべく糸が襲いかかる。
「風の呼吸 参ノ型」
輪廻が抜刀する。即座に輪廻の周囲から繰り出された竜巻のような斬撃が糸を全て斬り刻んだ。
「
全ての糸を斬った
累に向けられた輪廻の目。何を考えているのか、どんな感情なのか、殺意すら感じさせない、まるで虚空の目。
「僕の事を馬鹿にしているの……?僕さ……さっきから苛々してるんだよね……!」
殺そうと放った血鬼術が破られた上に、無表情で累を見る
「血鬼術
「風の呼吸 弍ノ型 」
日輪刀を振り下ろしたと同時に、頭上から四つの風が鋭い爪のように襲い掛かり、累の血鬼術をまとめて斬り捨てた。
「
さらに糸を容易く斬られただけで終わらず、凄まじい勢いは累にも襲いかかった。反応も遅れ、何とか頸を斬られるのは避けられたが、糸を作り出す両腕を切断された。
「な、何だ……何で僕の糸が……?!最硬度の糸だぞ……?!いや、そんなはずはない!腕を再生させれば……」
だがその時が訪れる事は永遠にない。腕が再生するよりも前に、
「な……何が……どう……して……」
今度こそ、
――
それに怯えていた姉鬼が逃げるように山道を走っている。
だがそこで待っていたのは、家族ごっこと虐待の日々。
だが一度力を授かった以上、逃げる事は出来ない。故に生き延びる為には従うしかなかった。自分を本当の妹のように慕ってくれたもう一体の姉鬼を差し出してまで。
今の彼女は逃げる事にしか頭にない。しかし、その先に鬼狩りが一人いた。
「あっ!鬼!」
だがその鬼狩りの男は、気付くのが遅かった。反応が遅れた隙に、姉鬼の糸に覆われてしまい、繭のような大きな糸玉に閉じ込められた。脱出しようと刀で突くが斬れない。
「無駄よ。斬れやしない。あたしの糸束はね、柔らかいけど硬いのよ」
そう言うと、糸束の内側から粘液が分泌される。
「まず、溶解液が邪魔な服を溶かす。それからアンタの番よ。すぐにドロドロにになって、あたしの食事になる」
「なるほど、そういう事か」
死にゆく獲物に対して得意げに説明していて、背後の
そのまま姉鬼の腹を蹴って倒すと、動けないよう鳩尾を踏みつけた上で喉元を日輪刀で突き刺した。
姉鬼の悲鳴が森に木霊するが、身体を地に固定されてはもがく事すら出来ない。
「ま、待って……!た、助けて……!」
狩る者から狩られる者へと一転した姉鬼。大した血鬼術もなければ、他の搦手すらない。助かる為に弱々しくなった声で命乞いをする。
「わ……私は……無理矢理命令されて……仕方なく……」
「それは誰の命令だ?名は?どんな姿をしている?そいつはどこにいる?」
「累……目に下伍って……。子供の姿をしてて…む、向こうに……」
弱い鬼は十二鬼月と違い、再生能力はそこまで高くない。まだ腕を失った状態の姉鬼は、目線で伝える。
「そうか」
聞きたい事を全て聞いた緣は日輪刀を抜いてやる。
助かる。そう思った刹那、淡い願いはすぐに裏切られる。
緣は柄を両手で握り直して、それを振りかぶる。この後に起こる事を悟った姉鬼は再び恐怖に陥る。
「ま、待ってよ!話が違うじゃない!知ってる事は話したわ!」
「勘違いするな。貴様が勝手に喋っていただけだ。私は助けるとは一度も言っていない。元より鬼である貴様を助けるつもりなど……端からない」
冷徹な声と共に、そのまま
生き残る為なら仲間を平気で売る。そんな浅ましさを、よりにもよって鬼巫女に見せてしまったのが間違いだった。
「はいはい。
背後から手を叩いて歩み寄って来たしのぶ。既に繭玉の糸を斬っており、中にいた隊員を助け出していた。
溶かされたのは服だけで身体は無事だった。
「代わってください」
「ですが……」
「代わってください」
しのぶに窘められ、緣は不本意ながらも踏みつける足を退かした。日輪刀を鞘に納めてその場をしのぶに譲る。
その間に姉鬼の腕が再生するが、不意打ちをする事が出来なかった。それは良心からではなく、返り討ちに遭って頸を斬られるのを恐れているからだ。
「こんばんはお嬢さん。今日は月が綺麗ですね。先程は私の仲間が大変失礼しました。とても恐かったですよね」
しのぶはしゃがんで姉鬼に呼び掛けた。彼女と相対した姉鬼は
「助けてほしい……そう言ってましたね?」
「え、ええ……お願いよ……!助けて……!命令に従わないと……逆らったら巻き付いている糸でバラバラに切り刻まれて……!」
「まあ……そうなんですか。可哀想に。良いですよ、助けてあげます。仲良くしましょう、協力してください」
「助けてくれるの……?」
「はい。でも、仲良くする為にはいくつか聞く事がありす。可愛いお嬢さん。あなたは、何人殺しましたか?」
「……五人。でも命令されて、仕方なかったの。」
泣きながら質問に答えるが、
もし
「嘘は吐かなくて大丈夫ですよ。分かってますから。さっきうちの隊員を繭にした術さばき、見事でした。八十人は喰ってますよね?」
「……喰ってないわそんなに」
「私達は西の方から来ましたよ。お嬢さん、西です」
しのぶは来た道を指した。それでも姉鬼は潔白を訴える。
「殺したのは……五人よ……」
「山の西側では、大量に繭がぶら下がっているのを見て来ました。中に捕らわれた人々は液状で全滅。その場所だけでも繭玉は十四個ありました。十四人、死んでるんです」
ここに来る途中、二人はその繭玉を見つけて数を把握していたのだ。先程の殺した人数が嘘だということは最初からバレていたのだ。
「私は怒っているのではないのですよ。確認しているだけ、正確な数を」
「確認してどうするのよ……?」
「お嬢さんは正しく罰を受けて生まれ変わるのです。そうすれば、私達は仲良くなれます」
「罰……?」
「人の命を奪っておいて何の罰もないなら、殺された人が報われません」
そう言うとしのぶは姉鬼の瞼を指で大きく開かせた。姉鬼の小さな悲鳴が聞こえた。
「人を殺した分だけ、私がお嬢さんを拷問します。目玉を穿り出したり、お腹を切って内臓を引き摺り出したり、その痛み、苦しみを耐え抜いた時、あなたの罪は許される。一緒に頑張りましょう」
救いの手が差し伸べられたと思いきや、待っていたのは地獄の拷問。あれ程恐ろしい事を言われた後で頑張れるわけがない。
姉鬼は恐怖で顔が青褪めているが、それでもしのぶは笑顔のまま続ける。
「大丈夫!お嬢さんは鬼ですから死んだりしませんし、後遺症も残りません!」
そういう問題ではない、と心の中でツッコむ
「冗談じゃないわよ!死ねクソ女ども!」
当然受け入れられるわけもなく、姉鬼は糸束を二人に向けて放った。二人はその場を跳躍して避けた。
「仲良くするのは無理みたいですね。残念残念」
「だから言ったでしょう……人と鬼は、仲良くなど出来ないと」
再び放たれた糸束を跳躍して避けてそのまま姉鬼の目の前で着地した。
「花の呼吸 漆ノ型」
刀を振る前に、姉鬼が放った糸束が迫っていた。
「徒桜!」
斬られた姉鬼の頸が宙を舞った。
(糸束を弾いた状態から……斬った……熱い……。こんな……)
恐怖と絶望から逃れようとしていた姉鬼だったが、最期に迎えたのはより大きな恐怖と絶望しかなかった。頸は燃やされた花のように崩れ落ちて消えた。
相手の攻撃を受け流して舞うその姿は、まさに花の舞。だが攻撃の一瞬だけその鮮やかな舞は激しく苛烈となる。
誰よりも鬼を憎悪し、皆殺しを誓う鬼巫女である
(姉さんが、今の
鬼と仲良くしたいしのぶ、鬼を皆殺すと誓った緣。正反対となってしまった二人を唯一繋ぎ止めているのはたった一つ、今は亡き胡蝶カナエ。
しのぶの姉であり、
大正コソコソ噂話
緣は花の呼吸を用いるが、その際、独自の型を編み出した。強い体幹と靱やかな四肢と、そこから生み出される回転力が必要不可欠になる。
漆ノ型 徒桜
攻撃を受け流す軽やかな動きから一転、回転を利用した超高速の斬撃を出す、言わばカウンター技。無駄な動きと負担を減らす事で、斬撃を出す瞬間に速さと威力を損なわせる事なく、確実に鬼の頸を斬れる。
ちなみに前方のみならず全方向に対応出来る。