剣の音は止まない。 作:クリクリストッキングフォロ
原作よりも強めにメンタルブレイクアタックを仕掛けられていますが、うちにはメンタル補強材シェロくんが居るので何とかなるはずです。
鳴潮が面白すぎる。誰か年表作ってくんねぇかな……物語がクッソ面白いんですよね。
みんなも鳴潮、やろう!
白亜の床に、神の使いが立ち並ぶ神聖にして厳粛な大聖堂が見えた。
――これは、アヴィノレームの大聖堂……?
『汝は茨を冠として自らを戒める義務を完遂した。この冠は、原初の海より新生を授けてくれるだろう』
歳主インペラトルの共鳴者は主座と呼ばれ、それはナポリ2世を始めとして代々人々を黒潮の脅威から救ってきた。
私も、先代の主座より冠を授かったインペラトル様の共鳴者。分不相応だと自分でもわかっているが、それでも務めを果たすつもりだった。
『フルールドリス。神の寵児にして、穢れなき者よ。汝は崇高な戒律を守ることを心から誓えるか?』
『――心から誓います』
そうだ、私はここで人々の救済となることを決意した。
『汝は、天国と現世を繋ぐ架け橋となった』
『我が主を除き、汝に命を下せるものは存在しない』
今では懐かしさを覚える光景。
場面が切り替わる。ここは……そよかぜの丘? 隣に座っているのは、幼い頃から仲が良かった赤銅色の髪を持つ少年。
『私は、聖女として正しい行いをできるのでしょうか。もちろん、全力でそのように生きるつもりではあります。ですが、私のような人間に歳主の正義を体現するのは――』
『馬鹿だなぁ。カルテジア……今はフルールドリスだったか? 無駄なこと考える暇があったら、とりあえず動いちまおうぜ』
『その結果、間違った行為をしていたらどうするのですか? あんまり適当言わないでください』
『正しい正しくないなんて物の見方に左右されるもんだろ? だったら間違った行為と初めは言われたとしても、後から正しかったと言わせてやればいい。これまでもそうだったろ? それに』
『俺はカルテジアの正義を信じてる。お前の選んだ道は、俺も信じている道だ。だから俺の分も含めて、二倍自信持て! 間違ってても偉そうに自信満々にしてればいい! どうせ後から正しいことにするんだからな』
『……ふふ、なんですか。それ。でもいいですね。あなたの正義は、私が背負います。ですから、あなたも私の正義を背負ってくださいね?』
『――カルテジアの、正義か。……ああ。俺もお前の正義を背負うよ』
あっけにとられたような顔を浮かべる少年に、一本取ったような気持ちになったあの日。とても懐かしい記憶だ。木陰に香った風の匂いに心が落ち着き、緩やかな時間を過ごした。
でも、どうしてこの光景を見ているんでしょうか。私は、何か大切な戦いの最中だった気が――
「皆さん! 私の後ろに控えてください! 私が食い止めますから! だから――しなないで!」
「バカ言うな! か弱い小娘に守って貰うほど俺らは弱くねぇ!」
「その通りだカシテンム。我らには民を守る義務があり、そして年若いカルテジアは我らが守るべき民だ!」
そうだ。今は黒潮との戦いの最中だ。
呆けている暇はない。今にも信徒たちは命を捧げて黒潮を食い止め、人々の命を救っている。
私が聖女になる前からの幼馴染だったシェロも、鬼気迫る表情で黒潮を食い止めている。
共鳴能力ですらない、謎の力。でも、それはあなたの周波数を汚染する。シェロの優しい周波数が、鋭く甲高い剣の音に徐々に呑み込まれていっている。
本音を言えば、シェロにその剣の力を使ってほしくない。でも、それでもシェロが止まらないことは昔からわかっている。人々を救うためならば、その身を捧げても不思議じゃない。
私もそうするし、シェロもそうするのでしょう。お互い、似た者同士ですから。
投影された多くのランタンが変形し、起源の光をまき散らす浄化の炎に変化する。そのまま黒潮を一時的に退け、ドレイクたちも果敢に攻撃する。
……でも、これも過去だ。
何もできないまま、私はこの戦いの過去を幽霊のように見ている。過去の私の行動を見せられている。
「気に、するな。力を使いすぎただけだ! それより、前を!」
「……っ、わかりました!」
何がわかったのでしょうか。少しでも彼に気を使っていれば、もっと結末は変わったのではないのでしょうか? 見るからに辛そうにしている彼を差し置いて、過去の私は飛翔し、アヴィノレームの中心に向かう。
結末……? 私は、何かを忘れている。
うぐっ……頭が痛い。割れるような痛みが、騒々しい耳鳴りが脳内に木霊する。
そうして辿り着いた先に、馬頭魚身の化け物の姿があった。黒潮はあの化け物より湧き出ており、アレをなんとかすれば黒潮を止めることができると確信した。
でも、できなかった。
『共鳴者、フルールドリスよ。なぜ諦めない? なぜ誓いを破り、福音の伝播を妨げるのだ?』
馬頭魚身の化け物は語り掛けてくる。
知っていた。あの姿は歳主の姿。しかし、私たちが崇めるインペラトル様がこんなことをするはずがない。アレは歳主の皮を被った偽物だ。
人権の剣、オートクレアを振りかざし、化け物に斬りかかる。
「偽りの神め……『ゲヘナ』が必ず真実を世に伝える! それに、私には頼もしい仲間たちが居る! 偽りの神に負けるほど、私の仲間は弱くない!」
私の攻撃も宙を切っているかのように手ごたえがないまま、無為に時間が過ぎていく。
『ゲヘナ……あの逃げ延びたドレイクのことか? 黒潮の祝福を受けた以上、やがて私の下に戻るだろう。もし逆らい続けたら、待ち受けるのは破滅と狂気のみ』
嫌に確信しているその声は止まらない。
『後ろを振り返れ。お前が頼っている仲間とやらは、もう誰一人としていない』
「ッ、シェロは黒潮に負けたりなんかしません! 教団の皆は強い意志を持っています! 多くの期待、多くの願いを背負って、私はあなたを打ち倒すためにここに居る!」
その通りだ。私はここで倒れるわけにはいかない。
でも、それならどうして私はこの光景を幽霊のように見ているのでしょうか。
『ならば、嫌でもわからせてやろう。所詮、神の前では人は無力に過ぎないと。我が共鳴者よ。黒潮がお前が頼った仲間たちの、その結末を見せてやろう――』
――そう、か。そうだったのですか。
朗らかに笑うアンナ。いつも眠そうにしながら、禁書の管理をしていた彼女は足元に忍び寄った黒潮に足を取られ、そのまま黒潮に呑み込まれていた。
こっそり作ってくれたアップルパイの味を、今でも覚えている。
やめて。
いつも私を子供扱いしていたカシテンム。彼は年長者の務めと言って、大変な作業や人々の不満をいつも引き受けて、そして豪快に笑っていた。彼は仲間を庇うために黒潮の前にランタンを放り投げ、そのまま黒潮に呑まれた。
神の使いたる音骸に変なことを教え込むカシテンムをみんなで叱ったのは忘れられそうにない。
やめてっ。
戒律の全てを覚え、しかし人々を救うには戒律を破ることも必要なのだと説いていたオムナット。彼もカシテンムと同じように人々を救う意志に溢れていた。たまに公共音骸に餌やりをしていて、やり方を教えて貰った。彼は学生たちを救おうとして、背後から偽物の信徒たちに刺され、そして黒潮に呑まれた。
平和なラグーナの町をまぶしそうに見つめるオムナットの顔を見ていると、不思議とやる気が溢れた記憶がある。
やめて……!
無数の人の最期を強制的に見せつけられる。
何度も、何度も、何度も、何度も。
死に際の絶叫が、痛みの恐怖が、後悔が、脳裏に木霊し続ける。
『少し時間が掛かってしまったが……お前が最も信頼する、あの男の結末がもうすぐ訪れるだろう。黒潮と対等に渡り合う心の海ですらない珍物には手を焼かれたが、それも限界がある』
『さぁ、見ろ。フルールドリス。お前の願いの象徴が。お前の日常の象徴が。お前が共に生きたいと願った、お人良しの青年が死ぬ姿を、はっきりと目に焼き付けろ』
緋色の光が差し込む灰が降り積もった海の底に、無数の剣が突き刺さっていた。それはまるで墓標のように見ているだけで心に寂しさが募る。
その先に片腕を無くし、無数の残像に取り囲まれているシェロの姿があった。
「……ここまで、か」
いつもの赤銅色の、ラグーナを照らす夕日のような暖かい髪色は真っ白な、まるで燃え尽きたような灰色に変わっていた。筋肉質な褐色の肌の見覚えのない姿に違和感を覚え、そして失われた片腕からぼたぼたと血が溢れる光景が鋭利な刃物のように私の心に突き刺さる。
逃げてっ! お願い! あなたが、あなたまで死んでしまえば、私は、どうしたら――
「――どうせ見ているのだろう。鳴式レビヤタン。お前の陳腐な目論見などとっくに気付いている。カルテジアの心を折り、己に都合の良い操り人形にするつもりだな?」
『……忌々しい。大人しく無様な悲鳴を上げていればよいものを――!? 接続が切れない、?』
「馬鹿め。俺の心象世界に足を踏み入れ、そして黒潮から接続しているということは逆に俺からも干渉できるということだ。聞こえるか、カルテジア! お前は決して独りじゃない! そいつは俺の心の海に勝てなかった負け犬だ。だからこうして物量戦を仕掛け、物理的に俺を殺そうとしている!」
シェロ……!
「わかるか!? この意味が! 人は、人間は! 心の強さがあれば黒潮にも、鳴式レビヤタンにも負けることはない! うだうだ考えているより動くのがお前だろう!? ならば動け! 動いてから考えろ!」
そうだ。シェロは負けない。他の仲間たちがたとえ黒潮に呑まれようとも、同じくシェロのように抗っているはず!
私はこうして、絶望に膝を折っている時間はない!
『おのれ、シェロ・グラディウスッ! 我が力を愚弄するかッ! 貴様を取り込んだ後は使い潰してやる! この異端者め!』
シェロの表情には覚えがあった。知らぬ間に刻まれた傷跡が目立つ顔には、してやったりとした顔が焼き付いている。
例え今の私たちが勝てなかったとしても!
――後から変えていけばいい!
『死ぬが良い! 我が共鳴者を惑わす不届き者めッ!』
そうして彼は増大した黒潮に呑み込まれ、そして消えてしまった。
けれど、私の心には彼から貰った勇気の焔が煌々と輝いているッ! 黒潮の闇を切り裂き、馬頭魚身の化け物に突貫する。
『いかにその精神を奮わせようとも、もうお前は独りだ。たった独りで、一体何ができると? なぁ、フルールドリス……なぜアヴィノレームで二回目の黒潮が起きたと思う?』
「っぐぅぅ……っはぁあ!!!」
迫る黒潮を切り裂き、歳主の力でもって退ける。
『それはお前が私と共鳴したからだ。わかるか? お前が原因なのだ。数多くの学生が死に、仲間が死に、お前が最も愛しているあの男が死んだのは全てお前が原因だ』
悪意の囁きは止まず、絶えず耳元で聞こえ続ける。包み込むようなその声が知らせる真実に私は足が竦みそうになる。でも、戦うのをやめない。
『お前は私の手によって、『完全性』と『純真性』を落としこんで造られた被造物。その思想も、経歴も、力も、全て私が造ってやったのだ。お前を信じる信仰心が、より私を強くする』
人生を丸ごとひっくり返すような、耳を塞ぎたくなる真実。今にも頭を抱えてしまいそうで、それでも。戦うのをやめない。
「だから、なんだと言うのです! そのような言葉で、私が受け継いだ正義の焔は消えません!」
『……なにが、そこまでお前を奮い立たせる? お前たちは負けた。ここで呑み込まれる運命に変わりはない。幾らお前と言えど、この差を理解していよう?』
「――正直に言えば、震えそうになります。これまでの人生がこの滅びを起こしたのだと、私の人生は全て無意味どころか、害にしかならないものだったのだと――そう考えるだけで、一歩も動けなくなりそうなことは確かです」
『ならば、なぜ!』
「私の正義は彼のモノでもある。間違っていたのなら、後から正解に変えていけばよいのですッ! 彼は証明してくれました! 人の意志はあなたに、黒潮に打ち勝てるのだとッ! ならば今度は私が証明する番ですッ!」
――私は、あの人の隣に立つと決めているのだからッ!
そうして、私はこの負けを修正し、勝ちに変えるため思慮を尽くしました。
そして戦いの最中に突如、歳主を蝕んだ鳴式の中から『分断』の力が増大し、その力が流れ込んできた。
私はこの機会を逃さず、生きなければならない部分を『分断』し、そして歳主の『分断』と『空間』を司る力を全力で行使し、このアヴィノレーム神学校自体を空に浮かべ、封印することに成功したのです。
歳主の力の周波数が滞留する
私は、私たちの正義を全うする。
例え負けようと、最後の最後に勝つために。
「あなたの正義と私の正義。どちらが間違っていた、なんてことは誰にも言わせません」
だから、私は待ち続ける。歳主の力を扱える、この負けを挽回できる誰かを。
永遠に。
★
「クハハ……これまた珍妙なヤツが落ちてきたな。面白い、面白いぞ。小僧。レビヤタンがわざわざ黒潮の奥深くにまで放り込むとは、よほど腹を据えたらしい」
「お前は……一体? それに、ここは……」
「まさか黒潮に呑み込まれてなお、その剣の音は消えないとは。ひとたび歩けば灰が舞う。黒潮を更に上から塗りつぶしているのか? おおよそ人間の持ち得る精神力ではないな。おい、小僧。名前は?」
「俺の名前は、なま、えは……一体……何だったか」
「……くく、クハハ! レビヤタンめ! そこまでするか! どれだけこいつが気に入らないのだ。クク……まさか人間の周波数を全て剥ぎ取られてもなお動くとは。この俺の執念すらも越えかねん小僧だ。ますます気に入った。おい小僧。名前がないなら、無銘でよかろう」
「無銘……なんだか、しっくりくるような気もする」
「そうか? 我はキメラ。無銘よ、我と契約を果たせ。さすれば貴様に力を与えてやろう」
黒潮の底、謎の存在が無銘に囁く。
自分で書いてて面白いんだから、鳴潮はすげーぜ。
作者にはシェロくんが総督に武器の貯蔵は十分かと聞くところまで見えている。見えているだけで過程は考えていない。
早くクリストフォロ殴らせてくれよ~頼むよ~。
TIPS:鳴式とは最強の残像であり、人類の心の闇から生まれた存在である。不滅不死身の存在であり、一度打ち倒してもそのうち復活するKAISENの真人みたいな存在。
それに対抗するために作られたのか、人類には歳主という文明の守護者にして、歴史と文明の境界に居る存在が居る。
作者の予想だと彼らはアトラクタフィールドの収束による未来を改変するため、鳳凰院凶真(偽)によって未来から過去に送られた存在である。
みんなのコメント、考察待ってるぜ!