陵南高校で全国を目指す 作:第ゼロ感
県大会ベスト8の成績ではスカウトの話も無く、亮は一般受験で進学する道を選ぶ事となった。
亮は進学先に幾つか条件を定めた。
一つはある程度のバスケの強豪校であるという事。誰にも負けたくないというのは、それは言い換えれば日本全国の頂点に立つという事に他ならない。
そしてバスケは何処までいってもチームスポーツであり、どんなに凄い選手でも一人で試合に勝つ事はできない。進学先が強豪校であるという事は言うなれば、そんな亮の目標を目指すための土台であり、必須事項だった。
そして二つ目が家から近い県内であるという事。亮の成績は決して悪いわけではなかったが、学費免除の特待生を取れるほど頭はよくなく、県内ベスト8でスタッツもパッとしない亮ではスポーツ推薦の話もなかった。
亮の両親は私立でも公立でも学費は払うつもりであると言ってくれてはいるが、県外の高校に進むとなれば学費以外にも様々な費用が発生しまう。できる限り負担はかけないようにしたいのが、亮の思いだった。
以上の条件をまとめると神奈川県内ベスト4以上。それが亮の定めた進学先の候補だった。
そうして亮はそれら条件に当てはまる高校を調べた。
14年連続の全国大会IH(インターハイ)進出の王者・海南大附属高校。
そんな海南に次ぐ2位の座を死守し、IHにも多く出場している歴史ある翔陽高校。
全国大会出場の経験こそまだ無いものの、神奈川ベスト4常連の陵南高校。
激戦区神奈川において古豪の津久武や箕輪を差し置き、ここ数年ベスト4に進出している新鋭・武里高校。
亮はそれぞれの学校見学会に赴き、部活体験にも参加した。
まずはじめに武里に行き、海南、翔陽と見学会に参加した。どの高校もベスト4に名を連ねる強豪校という事もあり、体験会に合わせ、調整したであろう練習内容でもハードなものだった。
亮の身長の高さもあり、声をかけられる機会も多かった。だが、練習において屈強な高校生の身体に圧倒される亮を見て「今の体重だとセンターは厳しい。技術はあるが、もっと体重増やさんとな」と海南の監督に言われた時は向こうに悪気はないのだろうが、いい気分ではなかった。
事実、センターのポジションをやるならば体重の増加と筋力の向上は必須であり、海南の監督が決して間違った事を言っているわけではないというのはわかっていた。
だからこそ亮はそんな言葉に「はい」と頷く事しかできなかった。
高校でも、やりたくないセンターをやるしか道はないのか。自分の可能性を諦めようとしたその時、亮は最後に向かった陵南高校において運命の出会いを果たす事となる。
「相模!お前、外からのシュートは打てるか!」
そう語りかけてきたのは陵南高校の田岡茂一監督だった。
練習最後のフリースローの練習メニューに入ってしばらくした後、亮のシュートを後ろから眺めていた田岡が不意に話しかけてきたのだ。
外からのシュート。その言葉に亮の心臓がドクンと跳ね上がる。
「は、はい。小学校の頃はSGだったので、多少は」
「よし!それじゃあ打ってみろ!」
田岡の意図が読めないまま、亮は言われるがまま3ポイントラインに立ち、シュートを放つ。
久々の3ポイントシュートだった。
それでも亮はそんな事実を微塵も感じさせないような滑らかなシュートフォームで音も立てずリングを射抜いた。
身体のバランス。
指先のボールのかかり具合。
手首の返し。
その全てがカチリと当てはまったかのようなシュートだった。
「見事なシュートだ」
シュート後の余韻に浸る亮の背中に田岡が語りかける。
「相模、お前はセンターをやるには体格が不足している。その体つきからして、脂肪が着きにくい体質なんだろう。だがその身長とシュートフォームはお前にとってのこれ以上ない武器だ」
田岡の言葉に亮は目を見開く。
身長とシュートフォームが自分の武器になる。そんな事を言われたのは初めてだったから。
「ウチは毎年シューターが不足していてな。才能あるシューターを求めている。お前さえ良ければウチに来ないか?」
「──!!」
「もちろんウチの練習は厳しい。練習量なら全国屈指と言っていい。今日の所は体験会用に軽めにはしたが、実際に入部してからはこんなもんじゃないぞ」
だがウチは全国を目指すチームだ。
田岡の瞳に熱い思いが宿る。
「全国を獲る覚悟があるなら連絡してくれ。推薦の枠を取っておく」
最早亮にその手を取らない理由は無かった。
+++
来年4月。県内で一番デカい中学生の魚住が陵南に来る事が決まった。
ビッグ・ジュンと言われ、中学界に名を轟かせる魚住の加入は、全国が夢では無くなった事を示していた。
この田岡茂一が陵南の監督に就いて10年にして初となるチームの中心になれる男を得たのだ。
このチャンスを無駄にするわけにはいかない。だからこそオレはこれまであまり積極的に行っていなかったリクルートに熱を入れ始めた。
狙ったのは武石中の三井寿。県大会優勝校のMVP。県内どころか全国屈指のシューターである彼をとれれば魚住の中と彼の外で凄いコンビが生まれる事は間違いなかった。
だが三井はオレの決死の勧誘を断り、安西監督のいる湘北に進学する事を決めた。安西監督……元全日本代表の安西監督がいるからなのか!?
とにかくオレの考えていたチーム構想はいきなり破綻する事となった。ウチは毎年外が弱いと言われている事もあり、仮に魚住を抜きにしてもMVPシューターは喉から手が出るほど欲しい人材であったが、諦める他なかった。
だが神はオレを見捨ててはいなかった。
毎年行っている部活体験会に奴はいた。
──相模亮。身長192センチ。体重73キロ。ポジションはセンターです。よろしくお願いします。
何人かいた参加者の中でも一際高い身長の彼は、センターと言うにはあまりに痩せ細った身体をしていた。
バスケにおいて身長は重要だ。たとえオレにどんな指導力があったとしても身長は伸ばす事はできない。それはまさに天から与えられた最高の才能だった。
この時点でオレのスカウトセンサーは一定の反応を示していた。仮に彼がウチに来てくれれば魚住と二人でツインタワーを戦術に組み込む事も可能になる。体重が軽くともその長い手足は相手校の選手からしてみれば脅威だろう。
そうして実際に練習する相模のプレイを見て、オレはますます彼が欲しくなった。
体重差で押し出される場面は少し多いが、技術はある。長い手足を活かしたブロックやリバウンド、相手のフィジカルに対抗するために編み出したのだろうフックシュートはかなりの精度を誇っていた。体重が軽い分、その体格からは想像できないくらい走力と敏捷性がある。
魚住を剛のセンターというならば、相模は柔のセンターと言うべきだろう。
しかしなんだ、この違和感は?
確かに相模は上手い。センターとしてこれまで努力を積み重ねてきたであろう事が見て取れる。
だが相模はずっとやりづらそうにしていた。それはフィジカルの弱さだけではないもっと根本的な部分に問題があるような、そんな気がした。
そして練習最後のフリースロー練習にてシュートを放つ相模の姿を見て、今まで感じていた違和感がカチリと当てはまる音を聞いた気がした。
それはセンターというポジションの男が放つにはあまりに柔らかい綺麗なシュートだった。
それこそ県大会決勝で見た武石中の三井にも引けを取らないくらい綺麗な──。
「相模!お前、外からのシュートは打てるか!」
気がつけばオレは相模に声をかけていた。急に話しかけられた相模は戸惑いながらも頷いた。
「は、はい。小学校の頃はSGだったので、多少は」
「よし!それじゃあ打ってみろ!」
3ポイントラインに立った相模はそのまま滑らかな動作でシュートモーションに入る。
高い打点。しっかりと回転がかかるフォロースルー。彼の手首の柔らかさが見て取れた。
シュパッ。
「──!」
逸材だと思った。
インサイドプレイヤーでこれだけ柔らかなシュートを放つプレイヤーは見た事がなかった。
これだけの高身長・高打点で3ポイントを打てるのであれば、それは最早ブロック不可の無敵の必殺技だ。
中学生においてはチーム事情もあり、センターをやらされていたのだろうが、これだけのアウトサイドシュートの技術を持つプレイヤーをインサイドに置いておくのはあまりに勿体無い。
ウチであれば中には魚住が入るため、相模が外に出る事は全く問題ない。むしろ相模のアウトサイドシュートがあれば、相手のディフェンスは外に広がり、魚住のインサイドプレイのスペースが確保できる。
中の魚住に外の相模。二つの陵南の柱が全国に導く光景を想像したら身体が震えた。
欲しい。是が非でも相模には我が陵南高校に来て欲しい。
その一心でオレは相模に熱心に語りかけた。
「相模、お前はセンターをやるには体格が不足している。その体つきからして、脂肪が着きにくい体質なんだろう。だがその身長とシュートフォームはお前にとってのこれ以上ない武器だ」
そして陵南なら、お前のその武器を最大限に活かしてやれる。だからウチに来い。
「ウチは毎年シューターが不足していてな。才能あるシューターを求めている。お前さえ良ければウチに来ないか?」
「──!!」
相模が衝撃を受けたかのように目を見開く。それは求め続けても届かなかった場所に手が届いたかのような、そんな表情だった。
「もちろんウチの練習は厳しい。練習量なら全国屈指と言っていい。今日の所は体験会用に軽めにはしたが、実際に入部してからはこんなもんじゃないぞ」
しかし、釘を刺す事も忘れない。ウチは全国を目指すチームだ。当然練習も厳しいものとなる。
いくら才能があっても、本人にその気が無いのなら、伸ばす事はできない。
「全国を獲る覚悟があるなら連絡してくれ。推薦の枠を取っておく」
オレの言葉に相模はしばらく押し黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「陵南に入れば、オレは強くなる事ができますか?」
クールな外見に秘めた熱い闘志を相模から感じた。
それは勝利への渇望。抑えられていた自分自身の可能性に対する希望だった。
選手がやる気を示したのだ。指導者として、その想いは絶対に裏切ってはいけない。
「ああ。それはオレが保証する」
そうして相模は深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
この日、オレは魚住に続く陵南の柱となる男を手に入れた。
最初、思い描いていた三井の獲得こそ叶わなかったが、それに匹敵する──いや、オレの見立てではそれ以上の才能を発掘できた。
まったく。出会いというものはどこに転がっているか、本当にわからないものだ。