陵南高校で全国を目指す   作:第ゼロ感

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3話

 

 時は流れ、4月。相模亮は陵南高校へと進学していた。

 入学式や部活紹介などの学校行事を終え、早速亮は体育館へと足を運ぶと辺りがざわついている事に気がついた。

 

 「お、おおー」

 「デケェ……」

 「あれが1年ってマジかよ……」

 

 それらの言葉は自分に向けられたものではなかった。

 見ると体育館には一人の男を中心に人だかりができていた。そしてその中央に立つ男は、その中でも一際身体の大きい。

 これまで相模が生きてきて、初めてだったかもしれない。自分よりデカい男と出会ったのは。

 

 「うおっ!」

 「こっちもデケェ……」

 「今年の1年もしかしてヤバい……?」

 

 相模の存在に気づいた人だかりがサッと分かれ、目の前の男の身体が完全に顕になる。

 デカい上に高校1年生とは思えないくらい体格がいい。亮が中学最後の大会でマッチアップしたセンターも相当体格が良かったが、目の前の男はそれ以上だ。そもそも本当に高校1年生なのか。亮の中で疑問が生じる。

 

 「……」

 「……」

 

 お互い初対面で何を話せばいいかわからず、沈黙が広がる。

 なんとも気まずい空気だが、これが亮と共にチームの中心となる男……魚住純との出会いだった。

 

 

+++

 

 

 「身長199センチ?」

 「ああ。相模君は?」

 「俺は192。──君は必要ないぞ。同学年なんだし」

 「それもそうか。わかった相模」

 「それにしても俺よりデカい男に会ったのは初めてだ」

 

 お互い身長が高いという共通点もあり、亮と魚住はすぐに打ち解けた。

 それから程なくして田岡が現れ、新人一年生の自己紹介をする流れとなった。

 

 「魚住純です!山内中学校出身!身長199センチ体重85キロ!ポジションはセンターです!」

 「相模亮。萩野中出身。身長192センチ体重74キロ。ポジションはセンターです」

 

 その他15人程の新1年生が自己紹介を行い、田岡は頷いた。

 魚住に相模。田岡自ら見出し、スカウトした逸材に加え、他の新一年生にも何人かめぼしい生徒が揃っている。

 

 「監督の田岡だ!ウチに入部したからには知っているかと思うが、ウチは神奈川県ベスト4、全国出場を目指して活動しているチームだ!当然、練習も厳しいものになる!」

 

 その言葉に魚住はゴクリと唾を飲み込み、亮は当然と言わんばかり頷く。

 

 「だがついて来い!なんとしてでもついて来い!厳しい練習にはなるが、その分オレも全力でお前達を鍛える!サポートする!──お前達が陵南高校の新たな歴史を切り開くんだ!いいな!」

 「「「おぉう!!!」」」

 

 田岡の熱い言葉に2・3年生含む選手達が声を上げる。

 新生陵南高校バスケ部が今ここに始動した。

 

 +++

 

 「ソォー!」

 「エイ!オウ!エイ!」

 

 陵南高校バスケ部の練習は体力と基礎を徹底的に重視して行われる。

 ウォームアップ代わりのフットワーク練習で新1年生の大半は力尽きる。

 

 「ゼェ……ゼェ……」

 「ハァ……ハァ……」

 「1年、下を見るな!顔を上げろ!」

 

 亮は何とか練習に喰らい付いているが、対して魚住は体力が限界なのか青白い顔をしている。

 

 「相模……悪い、少し吐いてくる」

 「お、おう」

 

 この光景も既に日常茶飯事だ。

 

 フットワークの練習が終わり、守備練習。ドリブル・パス・シュート練習に続き、ツーメン・スリーメンといったランメニューをこなしていく。

 ひたすら基礎に基礎を固めて、スクリメージで5対5の試合形式の練習を行った上で練習最後にセブンティーンという60秒以内にコートのサイドライン間を17回走る地獄のランメニューを行い終了となる。

 

 練習が終わった後は自主練の時間だ。自主練はあくまでも自主なので、強制ではない。だが、試合でスタメンを勝ち取るような選手達はほとんど残って練習をしている。

 亮もまたそのうちの一人だ。

 CからSF、SGにコンバートする事となった亮は練習後、3ポイントライン5箇所それぞれ100本計500本のシューティングを欠かさず行っていた。

 シューターとしての亮はその身長から最初はとても驚かれたものだが、亮のシュート力を目の当たりにした今、誰も陵南内でそのポジションに否を唱える者はいない。

 魚住というインサイドで身体を張れる選手がいるなら尚更だ。

 

 その魚住だが、練習後の体育館にその姿は無かった。体力の限界でとてもではないが、練習後の自主練を行えるだけの体力が残されていなかったのだ。

 

 (相模は同じ1年で残って練習しているのに、それに比べて俺は……)

 

 帰路に就いた魚住は一人、暗い表情で薄暗くなった夜道を歩く。

 中学時代は身体のデカさ。ただそれだけで周りを圧倒する事ができた。魚住のいたチームは彼を中心としたハーフコートバスケットが基本で、陵南ほど走る事もなく、体力を使う事もなかった。

 ビッグ・ジュンと呼ばれ、正直なところ驕りもあった。だがそんな自分のプライドも陵南という強豪校に入学して粉々に打ち砕かれた。

 

 入学して早1ヶ月。同期の相模は体格に見合わぬ技術とシュート力で既に先輩からも認め始められている一方で、自分は何だ。何もできていない。

 

 ただデカいだけ。

 そう陰口を叩かれているのも知っている。

 

 それでも今の魚住には反論する事もできない。

 体力も無く、愚鈍な自分はただデカいだけ。それはただただ残酷なまでの事実なのだから。

 

 

 

 +++

 

 

 

 最近の魚住の表情の暗さは亮もまた気がついていた。

 その表情の暗さがひとえに練習が厳しいだけではないという事も。

 フットワーク練習で最後。一人遅れて練習メニューをこなす魚住の姿。

 そんな魚住を期待の現れか、一際厳しく指導する田岡監督。

 そんな彼を呆れ半分、哀れみ半分で見つめる部員達。

 

 「魚住がいると休めるな」

 「バカヤロウ。練習になんねーよ」

 「フットワークでへばっててどうすんだよ、まったく」

 

 そう陰口を叩く先輩達に亮は内心舌打ちする。まだ入学して1ヶ月の1年に何を言っているのか。同じチームメイトとして腹立たしかった。

 故に亮はそんな先輩に対抗するかのように手を叩き、声を上げる。

 

 「魚住!もう少しだ!」

 

 そんな亮をやれやれと言ったように見つめる先輩を無視する。

 実際練習でマッチアップする機会が多いからこそ亮は知っている。亮以上の高さと亮にはない体格の強さ。インサイドに押し込まれれば圧倒される。まだまだ荒削りな部分も多いが、魚住の才能は紛れもない本物だという事を。

 

 (だがこのままではその才能が開花する前に魚住が潰れてしまうかもしれないな)

 

 

 亮は田岡を見る。腕を組み、厳しい表情でコートを見つめる田岡の内心は読めない。

 亮もまた同学年のチームメイトとしてできる限りフォローに回っているが、それでも限界がある。

 

 (監督にも少し話をしてみるか……)

 

 田岡が現状のチーム状況を把握していないはずがない。それでも現状の魚住の状態を見れば監督からのフォローも必要となってくるだろう。

 そうして練習中。魚住が練習途中で消え、田岡も現れない。練習メニューの確認のため監督を探してこいと先輩に言われた亮は田岡を探し、体育館裏まで来たところで。

 

 「──もう辞めます!」

 

 そんな魚住の声が聞こえ、慌てて身を隠す。恐る恐る見るとそこには今まで吐いていたのだろう、練習着のまま膝を着く魚住とそれを見つめる田岡の姿があった。

 

 「誰でも一度はそう思うもんだ」

 「毎日思ってます!」

 

 そうして魚住はえずく。

 

 「いっつも怒られて……体力はないし、先輩達の足手纏いになるだけだ!」

 「……口を拭え」

 

 差し出されたハンカチに手を取る事なく、魚住の目からは涙が溢れていた。

 

 「自分はただでかいだけって陰口叩かれてるのも知ってる」

 「……!」

 

 田岡が目を見開くのが見えた。亮は悪いと思いつつも、二人の姿を見守る。

 やがて田岡が静かに口を開く。

 

 「この田岡茂一が陵南の監督に就いて10年──初めて今年チームの中心になれる男を得たんだ」

 

 ──それはお前だ。ビッグ・ジュン。

 田岡のその言葉に魚住が目を見開く。

 

 「で、でも俺なんかより相模の奴の方が……アイツは身長あるのに俺と違って上手いし、外からシュートも打てるし」

 「確かにアイツは上手い。バスケット選手としての完成度は今のお前よりも上だろう。──だがな、オレが最初にスカウトしたのはお前なんだ。魚住」

 「!!」

 

 田岡は優しげな眼差しを向ける。

 

 「でかいだけ?結構じゃないか。体力や技術は身につけさすことはできる……だがお前をでかくすることはできない。たとえオレがどんな名コーチでもな。

 相模のシュートだってインサイドで身体を張るお前がいるからこそ生きる。──それにここだけの話、アイツの体格では陵南のゴール下は任せられんからな。練習でも何回もあっただろう。お前に押し込まれて吹っ飛ばされる相模の姿は」

 

 魚住と、盗み聞きしていた相模の脳裏に練習風景が過ぎる。ゴール下でマッチアップして圧倒される相模の姿。お互い「確かにな……」と思うには十分すぎた。

 

 (そうだ……そうなんだよ。俺の力では陵南のゴール下を守ることはできない。お前にしかできないことなんだよ)

 

 亮はもどかしい思いで魚住を見つめる。

 魚住は陵南に必要な存在だという事を自覚してはほしい。そんな自分を卑下しないでほしい。そう思いを込めながら。

 そんな亮の思いに応えるかのように田岡が魚住に語りかける。

 

 「魚住よ。お前や相模が3年になった時、陵南初の全国大会出場──オレはそんな夢を見ているんだ……」

 「「──!!」」

 

 田岡のその言葉は亮の胸を貫いた。魚住も雷に打たれたかのように目を見開く。

 

 「ん?おかしいか?こんなオッサンが」

 「い……いえ!いいえ!!」

 

 慌てて首を横に振る魚住に田岡は笑いかけるとその肩を叩いた。

 

 「よし!行こうか。練習だ!」

 「は、はい!」

 

 こちらに来る姿が見えて亮は慌てて身を翻す。二人に見つからないよう走りながら亮は拳を握りしめる。

 

 (勝つ……勝つんだ!監督の想いに応えるためにも絶対に!)

 

 監督がここまで期待を向けてくれているんだ。それに応えなければ男じゃない。

 

 (そうだろ、魚住)

 

 亮は内心魚住に語りかける。

 そんな亮の気持ちが通じたのか、田岡と共に体育館に現れた魚住の表情は憑き物が取れたかのようにスッキリとしていた。

 

 そしてその日の練習後。

 

 「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 体育館に残り、一人フットワーク練習をする魚住の姿があった。

 魚住の姿を背景に亮もまたシュート練習を続ける。

 

 「……」

 

 そんな二人の姿を体育館の片隅から満足気に眺める田岡の姿があった。

 魚住達が入部して1ヶ月。今本当の意味で新生陵南バスケットボール部が始動したのだった。

 

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