陵南高校で全国を目指す   作:第ゼロ感

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4話

 インターハイ。それは全国高等学校体育連盟が主催する高校生を対象とした日本の総合競技大会の事だ。

 予選は5月中旬辺りからスタートし、本戦は7月〜8月辺りに開催される。

 激戦区の神奈川県ではABCDそれぞれのブロックの1位の4チームで決勝リーグが行われ、最終的にインターハイへと駒を進めるのは1位と2位の2チームのみだ。

 田岡率いる陵南高校は県ベスト4の成績を残していたため、スーパーシード──ベスト8からの試合となる。

 そして本日──県予選ベスト4を決める試合が行われようとしていた。

 

 「「「しゃーす!!!」」」

 

 コートに挨拶し、陵南高校はウォームアップを開始する。

 

 「陵南だ!」

 「去年ベスト4!」

 「デカいの入ってるな!何センチあるんだ、アイツ!」

 「ビッグ・ジュンだけじゃねぇ!あのヒョロ長いのも相当デカいぞ!」

 

 観客席が沸き立つ中、ウォームアップを進めた陵南高校はやがて試合1分前になり、キャプテンの石倉が声をかける。

 

 「集合!」

 

 田岡の元に円陣を組んで集う陵南選手達。腕を組んでいた田岡が声をかける。

 

 「スタメンは先のミーティングで発表した通りだ。初戦とはいえ油断するな……と言いたいところだが、こんなところでつまづくようなチームが全国へ進めると思うか」

 「「「……」」」

 

 田岡の言葉に陵南選手達の目が気合を帯びる。

 

 「圧倒的に勝て!容赦はするな!この試合ダブルスコアをつけて勝つぞ!」

 「「「おぉう!!!」」」

 

 陵南高校スターティングラインナップ

#4 石倉 翔ニ 3年 PG 176cm 68kg

#5 高木 連太郎 3年 SG 182cm 75kg

#9 藤井 雄太  2年 PF 186cm 83kg

#14 相模 亮   1年 SF 192cm 74kg

#15 魚住 純   1年 C 199cm 85kg

 

 対する相手校は逆山から順当に上がってきた東豊科高校。センターラインの向こうに立つ陵南高校のメンバーに完全に気圧されているようだった。

 

 「陵南!」「陵南!」「陵南!」「陵南!」

 

 『勇猛果敢』の横断幕を垂らした観客席に座る陵南応援団の声援が会場に木霊する。

 

 「それでは陵南高校対東豊科高校の試合を始めます!」

 「「「しゃーす!!!」」」

 

 ジャンプボールを制したのは当然ながら魚住だった。ボールをコントロールした石倉から高木にパスが渡り、ローポストでポジションを獲った魚住へとパスが入る。

 

 「ふんっ!」

 

 ワンドリブル付いた魚住はそのまま強引にゴール下へ侵入し、バンクショットで得点を決めた。2ー0。

 

 「「「いいぞいいぞ魚住!いいぞいいぞ魚住!」」」

 「高ぇ!」

 「あんなのアリかよ!」

 

 会場がどよめく中、雰囲気に呑まれた東豊科の選手からスティールした石倉がそのまま速攻でレイアップを沈める。4ー0。

 完全に流れを掴んだ陵南はその後も堅守速攻で魚住を中心に得点を積み重ね、開始3分で追加で16得点を上げる事となった。20ー0。

 完全に流れを失った東豊科が先にタイムアウトを取り、流れを切ろうとする。

 

 「相手Cに簡単に点を取られてしまっているぞ!外はある程度捨ててもいい!内を固めろ!内を!」

 

 そんな監督の指示に従い、東豊科は内を集中的に守ろうとする。

 

 「魚住に3人!!」

 「流石の魚住もこりゃ厳しいか!?」

 

 しかし魚住は冷静だった。

 

 「相模!」

 

 ジャンプからのオーバースローで相手選手の上から0度の位置に走り込んでいた亮にパスが通る。東豊科の選手がしまったと慌てるがもう遅い。

 美しいフォームから放たれたシュートは高く綺麗な弧を描いた。

 その光景は亮が好きでやまなかった光景。中学時代は諦めたあの景色だ。

 

 「……」

 

 入る事を確信した亮は指先を天に突き上げる。シュパァッと心地よい音と共に亮のシュートはリングを射抜いた。

 

 「3点──!!」

 「嘘だろ!あの身長で外があるのか、アイツ!」

 「こりゃ東豊科はキツイな!」

 

 その光景を見た田岡はドカッと自信満々にベンチに座るとニヤリと笑った。

 

 (よし……この試合勝った……!)

 

 田岡の確信は程なくして現実を迎える。

 

 「強えっ!陵南強ぇーぞ!」

 「ベスト8相手に危な気なし!」

 「こりゃ今年はひょっとすると有り得るのか!?」

 

 132ー42。当初田岡が告げたダブルスコアを上回るトリプルスコアの圧勝だった。

 経験豊富な3年の安定感ある活躍ぶりもそうだが、特に目立ったのは1年にしてスタメンの座を勝ち取った二人の男。

 

 魚住 純 28ポイント18リバウンド6アシスト8ブロック

 相模 亮 35ポイント8リバウンド2アシスト3ブロック

 

 二人の怪物ルーキーのデビュー戦だった。

 

 

 +++

 

 

 その後、決勝シリーズには前評判通りの4強が顔を揃える事となった。

 初戦の武里高校に関しては相手も流石の強豪校、ベスト4決定戦の東豊科程の点差は広がらなかったが、魚住を起点に安定した攻めを見せた陵南高校が点差をつけ、104ー76で勝利する事となった。

 対する海南大附属高校対翔陽高校の伝統ある一戦は、両校それぞれに加入したスーパールーキーの牧紳一と藤真健司が活躍を見せ、両者一歩も譲らない展開となったが、最後、スーパールーキー対決を制した牧のブザービートによって海南が逆転。89ー88で海南が勝利する事となった。

 こうしてインターハイへ一歩先に進んだ陵南と海南であったが、続く2回戦はその両校がぶつかり合う事となった。

 

 「よろしくお願いします!」

 「相変わらず顔デカいな」

 

 高校時代、ライバル同士であった田岡と海南監督高頭力が試合前に挨拶を交わす。がっしりと握手を交わした二人からは火花が飛び散った。

 

 「正念場だ!」

 

 試合前の最後のミーティングにて田岡は告げる。

 

 「相手は14年連続この神奈川を制し、全国にも名を轟かせる超強豪校だ!はっきり言ってこれまでの相手とは比べものにならん相手だ!だが、お前達もこのオレの厳しい練習を耐えて乗り越えてきた男達だ!練習量なら海南にだって負けてはいない!自信を持って行け!」

 「「「おぉう!!!」」」

 

 田岡の激励に陵南選手は返事をするとスタメンはそのままセンターラインに向かう。

 既に海南高校選手は並んでいた。

 

 陵南高校スターティングラインナップ

#4 石倉 翔ニ  3年 PG 176cm 68kg

#5 高木 連太郎 3年 SG 182cm 75kg

#9 藤井 雄太  2年 PF 186cm 83kg

#14 相模 亮   1年 SF 192cm 74kg

#15 魚住 純   1年 C 199cm 85kg

 

 海南大附属高校スターティングラインナップ

#4 岩野 剛  3年 PF 188cm 88kg

#5 宇野 義教 3年 SG 178cm 70kg

#6 佐野 良太 3年 SF 186cm 83kg

#7 野崎 健吾  2年 C 198cm 89kg

#12 牧 紳一  1年 PG 180cm 75kg

 

 「それでは海南大附属高校対陵南高校の試合を始めます!」

 「「「しゃーす!!!」」」

 

 センターサークル内に入った魚住は同じくサークル内に入った海南のセンターの姿を見る。

 

 (こいつ……俺くらい身長ありそうだな……)

 

 海南2年センター野崎。屈強な身体とそれに見合わない技術を合わせ持つ海南の主軸だ。

 

 (去年は野崎一人に手も足も出なかった……魚住には厳しい戦いになるだろうが、ウチで対抗できるのはお前だけだ)

 

 そしてスーパールーキー牧紳一。1年とは思えないくらい既に完成されたプレイヤーだ。マークする石倉がどこまで対抗できるか。それ以外のメンバーに関しても苦戦は必至だろう。

 

 (だがウチの選手も決して負けてはいない。頼んだぞ)

 

 そんな田岡の祈りと共についにジャンプボールが行われた。

 

 「ぬぅん!」

 「くぅぉ!」

 

 ジャンプボールを制したのは野崎だった。僅かに上回った指先で自軍側へとボールを弾く。

 

 「魚住が負けた!?」

 「まさか!?」

 「狼狽えるな!試合は始まったばかりだ!」

 

 動揺する陵南ベンチに田岡が檄を飛ばす。そうしている間にもボールを受け取った牧が相手コートへとボールを運ぶ。

 

 (スーパールーキーだの騒がれているようだが、中学とは違うぞ牧!)

 

 牧をマークする石倉が気合を入れる。しかし牧はそんな先輩の気迫に動じず、冷静に野崎へとボールを回す。

 

 「野崎に入ったぞ!」

 「センター対決か!」

 

 観客が沸き立つ中、野崎が魚住を背にドリブルを開始する。いかに体格のいい魚住でもまだ1年。屈強な身体を持つ野崎に押し込まれ始めていく。

 

 (ぐっ……負けるか!)

 

 負けじと力を込める魚住だが、そんな魚住の緊張を察したかのように野崎がフッと身体を回転させ、魚住を躱し、そのまま得点する。

 

 「ターンアラウンド!」

 「うめぇ!」

 

 2ー0となった展開。石倉がボールを運ぶ。石倉から高木、高木から魚住とパスが入る。だがフィジカル差で不利な魚住はうまく攻め込む事ができない。

 

 「野崎のブロック!」

 「海南の速攻だ!」

 

 そこから流れを掴んだ海南が怒涛の攻めを見せ、さらに2ゴールを奪う。6分間点が取れないまま、ジリジリと点差を開かれていく。

 

 (いかん……タイムアウトを)

 

 流れを切ろうと田岡が立ち上がろうとする。その時だった。

 試合の最初と同じように野崎へとボールが入る。野崎が魚住を躱し、シュートに入るが、そこに現れた影があった。

 

 「相模!」

 

 現れたのは亮だった。抜かれた魚住のカバーに入った亮はそのまま後ろから野崎をブロックした。うまく身体の接触は避け、笛は鳴らない。

 

 「ナイス!」

 

 ルーズボールを取った石倉が素早くドリブルして相手陣地へと攻め込む。

 

 (ここは絶対に落とせねぇ……どうするか)

 「先輩」

 

 ボールを要求した亮に石倉はパスをしながら考える。魚住が厳しい場面。他で道を切り拓かなければならない。だが、思考がまとまるよりも早く亮が行動を移した。

 

 「なっ!?」

 

 亮がシュートモーションに入ったのだ。ショットクロックもまだ僅かにしか進んでいないこのタイミング。しかもスリーポイントラインよりも更に1メートルは離れた遠い位置から。

 まさかその位置から打つとは思っていなかった海南選手も度肝を抜かれる。しかし美しい弧を描いたシュートはリングに当たることなく吸い込まれていった。

 

 「うおお!3点!」

 「あのタイミングで打つかフツー!?」

 

 11ー3となったこの展開。陣地へと戻りながら亮が口を開く。

 

 「思い切り行きましょう。相手は海南。遠慮している暇はない」

 

 亮の言葉に陵南選手はハッと気づく。そうだ。相手は神奈川最強・海南。実力ではまだ届かないこの状況、尻込みしていれば勝つための僅かな可能性もゼロになる。亮の言う通り、攻め気を忘れてはならないのだ。

 

 「そうだ……そうだな!」

 「攻めるぞ!」

 「ディフェンス時はもっと互いのカバーを意識しあおう!」

 

 その光景を見た田岡は取りかけたタイムアウトを取りやめる。亮の言葉で落ち着きと自信を取り戻した今、流れは一度切れたと言ってもいい。むしろ良い流れを掴むチャンスだ。ここでタイムアウトをとって水を差すような事はしなくていい。

 田岡の予想通り、そこから陵南の反撃が始まった。ディフェンス時はカバーを意識し、野崎にボールが入ったらダブルチーム気味に守りを固める。海南は外からのシュートが決まらず、陵南の守りを外へ向ける事ができない。

 

 「相模だ!」

 「また3点か!?」

 

 シュートモーションに入った亮の姿を見て、海南選手がブロックに飛ぶ。先の光景を見ているのだから尚更だ。だが亮のシュートはフェイクだった。ブロックを躱した亮がゴール下へと侵入する。

 

 「行かすか!」

 

 野崎がカバーに入るが、亮は即座にパスを選択する。身長を活かした高めの浮かすようなパスだ。その浮いたパスを魚住が空中で取り、そのままリングへ叩き込む。

 

 「うおおおおおお!」

 「アリウープ!」

 「まだリング揺れてるぞ!」

 

 どよめきと歓声で会場が沸き立つ中、自陣へと戻りながら亮と魚住はハイタッチを交わす。

 

 「ナイスパスだ、相模!」

 「このまま押し切るぞ、魚住!」

 「1年ばっかいいとこ見せられるかよ!」

 「俺たちもやるぞ!」

 「「「おぉう!!」」」

 

 1年ルーキーの活躍に感化され、石倉・高木・藤井の動きも更に良くなっていく。完全に流れは陵南だった。

 

 「陵南!!!」「陵南!!!」「陵南!!!」

 

 会場に木霊する陵南応援団の声援。そこから陵南高校は大健闘を見せ、前半を44ー46の2点差のリードをつけて折り返す事となった。

 沸き立つ陵南ベンチに対して沈黙の海南ベンチ。流れを完全に失い、意気消沈の中、高頭監督の怒声が響き渡る。

 

 「……」

 

 その中で牧だけはタオルを頭からかけ、静かに深呼吸を繰り返していた。

 タオルの隙間から見えたその瞳に、沸るような闘志を滲ませながら。

 静かに、静かに後半の開始を待っていた。

 

 

 +++

 

 

 後半開始前ミーティング。田岡はかつてない程気分が高揚していた。

 去年はこの時点で15点差はつけられていた海南戦において、今年は前半を2点差で折り返す事ができた。

 差は2点だがあと20分、リードを保つ事ができればウチの勝利だ。そうすれば勝利数は2となり全国への道がかなり近づく事となる。

 

 (やはり魚住と相模の加入は大きかった……)

 

 インサイドの要である魚住に、アウトサイドの得点源相模。現時点で神奈川ナンバーワンセンターの野崎の相手に魚住はかなり健闘している。完全に抑える事はできなくても対抗する事はできているのだ。対抗できれば相模のブロックする隙も生まれる。オフェンスにおいても相模の外により、海南ディフェンスは外に開いている。そのスペースをうまく使い、得点ができている。いい循環だ。

 

 「前半は上出来だ!後半もこの勢いのままいくぞ!」

 「「「おぉう!!!」」」

 

 意気揚々と選手をコートへと送り込む。

 田岡は見落としていた。選手の重んだファウル数を。

 もし把握していれば。否、例え把握していたとしても選択肢はなかったかもしれない。

 前半、静かに積み重なっていた負債が今陵南に牙を向く。

 

 ────ピィッ!!

 

 審判の笛が響き渡る。魚住のDFファウルだった。

 

 「まずいぞ、魚住これで3つめじゃないか?」

 

 その言葉に田岡がハッと気がつく。

 前半から魚住は県内ナンバーワンセンターの野崎とマッチアップしていた。屈強な野崎を止めるためには魚住もまたアグレッシブに身体を当てに行かなければならない場面もあり、前半の時点で2つのファウルを犯していた。

 そして後半開始早々の3つ目のファウル。田岡はコートにいる魚住に向かい叫ぶ。

 

 「魚住!ファウル抑えろ!これ以上はいかんぞ!」

 「はい!」

 

 魚住を下げるわけにはいかない。彼がいなくなれば一気に攻守のバランスが崩れる。

 田岡の頬を冷や汗が伝う。

 同時に一人、この状況に懸念を抱く男が一人いた。陵南司令塔の石倉だ。

 石倉もまたスーパールーキーと言われ、既に海南エースとなっている牧をずっとマークしていた。

 確かに牧はうまかった。PGとしての完成度は流石の一言で、その風格といい本当にちょっと前まで中学生だったのか疑問に思うレベルだった。

 だが抑えられない程じゃない。スーパールーキーと言われるには前半の牧のプレイは大人しすぎた。

 

 (まさか……)

 

 対峙する牧にパスが回ってくる。石倉が腰を落とし、身構えようとした次の瞬間。

 

 「なにっ!?」

 

 重いドリブル音と共に牧の身体がブレる。一瞬で横に並ばれ、次の瞬間には置き去りにされていた。

 

 「あっ!?」

 

 一瞬の出来事にゴール下の魚住は咄嗟に声を上げてしまう。カバーに入るために前に出てブロックに飛ぶ。反射的に、飛んでしまう。

 

 「よせ!魚住!」

 ────ピィッ!!

 

 田岡の叫びと審判の笛が鳴ったのはその時だった。

 

 「紺15番、ハッキング!バスケットカウントワンスロー!」

 

 その言葉に魚住は目を見開く。

 

 「うわあ!!!」

 「魚住4つ目!」

 

 田岡は天を仰いだ。後半も開始からまだ3分も経っていない今、交代するしかない。

 

 「よっしゃあ!」

 「ナイスだ牧ィ!」

 

 対して海南は前半の消沈具合から一転、一気に勢いを取り返していた。

 その光景を見て石倉は荒く呼吸を繰り返しながら思考する。

 

 (あの野郎、前半は流してたってのか……)

 

 動きのキレ・スピード。その何もかもが前半とは比べ物にならなかった。あのカットインは前半には一切見せなかったプレイだ。

 フリースロー前に魚住が交代する。ベンチに座り、意気消沈する魚住に田岡は声をかける。

 

 「すみません、監督……俺……」

 「ファウル数を把握せず、指示を出さなかったオレのミスでもある。前半からよくやってくれた」

 

 魚住の隣に座り、その肩に腕を回しながら田岡は語りかける。

 

 「今は仲間を信じろ。終盤、もう一度お前の力が必要になる」

 「……!!」

 

 当然、牧がフリースローを外す事はなく、海南が逆転に成功する。

 

 「逆転だ!」

 「魚住無き今、陵南の勢いもここまでか!?」

 

 その言葉に反抗するかのようにボールを運んだ石倉がそのまま3ポイントを放つ。

 

 「んなわけねぇだろ!守り勝てないなら点取って勝つんだよ!」

 

 石倉の3ポイントで再逆転。石倉が亮に叫ぶ。

 

 「ボール回すぞ!ガンガン決めろよ、3ポイント!」

 「──!はい!」

 

 陵南は誰一人諦めていなかった。その光景を見た牧がニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「いいね……ますます燃えてきたぜ!」

 

 そこからは一進一退の攻防が続いた。いよいよ本領発揮してきた牧に加え、魚住無き今、再びゴール下で脅威を発揮する野崎。対して陵南は亮の3ポイントを筆頭に必死にくらいついていく。

 

 「ゼェ……ゼェ……ゼェ……」

 

 亮は必死に走った。マークを振り切り、隙あれば即座に3ポイントを狙う。

 もちろん百発百中などあり得ない。それでも亮は信じられない精度で3ポイントを決め続けた。

 

 「譲らねぇ!どっちも譲らねぇぞ!!」

 「なんて戦いだ!」

 

 しかしそれでもじわじわと点差は開いていく。いくら亮が3ポイントを決めても海南は牧、野崎を中心に確実に点をとってくる。牧のシュートにファウルをすればほぼ3点の状況下で差が開かないはずがなかった。むしろ3ポイントというシュート効率の良さでよく喰らいついていると言ってもいいだろう。

 そして残り時間5分を残し、得点は85ー78の時点でそれは起きる。

 

 「──ッ!?」

 

 亮がコートに倒れ込んだのだ。右足に鋭い痛みが走り、立つ事ができない。

 

 「相模!?」

 

 審判が時間を止め、レフェリータイムとなった。コート外に運び込まれた亮は治療を受けながらも田岡に叫ぶ。

 

 「すみません!でも、ちょっと伸ばしてテーピングすればすぐに!!」

 「ダメだ」

 「監督!!」

 「何と言おうが足の状態がわからない以上、今日お前はもう出さん。オレの事は恨んでくれていい。だが指導者として生徒の未来は守らなければならんのだ」

 「──!」

 

 その言葉を聞き、亮は目を見開き、そして涙が溢れた。

 

 「すみません……すみません!」

 「お前はよく戦ってくれた。何も気に病む事はない」

 

 そして背後に立つ魚住に田岡は声をかけた。

 

 「ラスト5分……行けるな、魚住」

 「はい!」

 

 魚住は自らの頬を叩き、気合を入れた。

 魚住はかつてないほどの責任を感じていた。もし自分がファウルを抑えていたら、試合に残り続けている事ができたのなら、こんな事にはなっていなかったのかもしれない。

 だが後悔するのは後だ。ここまで相模が、陵南の先輩たちが必死に喰らいついてきてくれたのだ。

 ならば自分だけが諦める訳にはいかない。最後まで戦って戦って戦い抜くのだ。

 

 相模を欠いた後も陵南は最後まで諦めず、王者海南に立ち向かった。

 海南はそんな陵南に対し、最大の敬意を払い最後まで全力でそれに応えた。

 

 そして。

 

 

 

 「3!」

 「2!」

 「1!」

 

 「試合終了──!!!」

 

 94ー82。海南対陵南の試合はこうして幕を閉じた。

 決勝リーグ2連勝となり、武里に負ける事はないと見て海南が1位通過でのインターハイ出場をものにした。

 亮の足は肉離れを引き起こしていた。幸い重度ではなかったが、それでも一月程は完治に時間がかかるとの事。しかし次戦の翔陽戦への出場は絶望的となった。

 そしてインターハイ最後の一枠を賭けた翔陽戦。亮を欠いた陵南は魚住を中心に気を吐いたが後一歩、その背中に届く事はなかった。

 神奈川2強は例年通り、インターハイ出場に駒を進める事となったが新たな風は確実に吹き始めていることを実感させる決勝リーグとなった。

 

 

 

 (海南戦は俺のせいで負けた……俺がもっと強ければ……野崎さんに一人で対抗できていれば相模の体力だって)

 

 後悔と決意を胸に魚住は練習する。相模が復帰するまでに少しでも逞しくなるために。

 

 (後半戦の牧の実力は本物だった。あの怪物と戦うにはウチにも相模や魚住の他に後1人、エースが必要だ……)

 

 魚住・相模のチームに手応えを感じ、更なるチーム強化を図るために田岡はリクルートに精を出す。

 

 

 

 

 

 「お前も足の怪我?──なんだよ、そんな事で諦めるのか」

 「──」

 「わかんねぇよ、お前の気持ちなんて。けどな、俺は絶対戻ってくる。絶対復帰して、陵南を全国に連れていくんだ」

 「──!!」

 

 病院での出会いと衝突。1人のバスケット選手の運命を変えた事も気づかないまま。

 

 「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 今日も相模亮はリハビリに精を出す。

 相模の夏はこうして過ぎ去っていく。

 

 





 1年生編はこれにて終了。
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