陵南高校で全国を目指す   作:第ゼロ感

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幕間 諦めの悪い男の目覚め

 

 ──諦めたら、そこで試合終了だよ。

 

 県大会決勝。一度は勝ちを諦めた俺を奮い立たせた、安西先生のその言葉。

 あの時の安西先生の言葉があったから、あの日、俺はあの試合に勝つ事ができた。

 

 この人の下でバスケットがしたいと思った。

 安西先生のいる湘北高校へ行って、全国へ導き、恩返しがしたいと。

 そう思っていたのに。

 

 

 

 ────いてェ……。

 

 

 

 膝の怪我が俺の行く手を阻んだ。

 インターハイ予選も近いのに。

 赤木に負ける訳にはいかないのに。

 こんな所で立ち止まっている訳にはいかないのに。

 

 焦りと不安が俺を苛んだ。

 すぐに復帰しないと。練習しないと。

 そればかり考えて、膝の痛みが無くなった事に安堵して、医者の診断も許可も得ずに練習に復帰して。

 

 

 

 俺の膝は再び悲鳴を上げた。

 

 

 

 結局、俺がインターハイ予選に間に合う事はなかった。

 期待の新人としてスタメンとして試合に出て、一年ながら活躍し、脚光を浴びる赤木と。

 チームの期待を裏切り、コートではなく観客席から仲間の試合を見ることしかできない俺。

 

 俺は絶望した。

 俺という人間の存在価値がわからなくなった。

 

 これ以上、試合を見ていられなくなった俺は逃げるように会場を後にした。

 

 それからの俺は屍同然だった。

 あれほど好きだった、1日触らない日はなかったバスケットボールにも触れず、ただただ塞ぎ込んだ。

 足の治療の為に病院にはいたが、リハビリをまともに受けることもなく、ぼんやりと毎日を過ごした。

 

 アイツが俺の隣のベッドに入院してきたのは、インターハイ予選も終わり、これから本戦に差し掛かるだろうそんな初夏の頃だった。

 一目見た時、ヒョロ長い奴だと思った。身長は190以上あるだろうか。だが身体の線は細く、どちらかというと童顔な事も相まって脆弱な印象を覚えた。

 

 そして入院道具の中に紛れていたバスケットボールを見て、俺はコイツもまたバスケット選手である事に気がついた。

 当然、男も俺のスペースに置かれたバスケットグッズに気がつく。

 

 「お前もバスケやってるのか?」

 「え、あ……いや……」

 

 ──バスケはもう辞めたんだ。

 何故かその言葉が俺の口から出る事はなかった。

 しどろもどろになる俺を見て、これ以上の詮索はよしたのか男は「ま、いいか」と言った。

 

 「俺は相模亮。よろしくな」

 

 もしこの時、相模と出会っていなかったら今の俺はいなかったと断言できる。

 大人しい見掛けの癖して誰よりも熱く、誰よりもバスケ馬鹿なコイツとの出会いが、俺の運命を変える事になるなんて──

 

 「……」

 

 ──この時の俺には思いもしていなかった。

 

 

 

 +++

 

 

 

 「ふっ……ふっ……ふっ……」

 

 「……」

 

 「ふん……ふん……ふん……」

 

 「……」

 

 「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 「うるせーぇええええ!!!」

 

 俺は敷居の向こうにいる相模へ怒鳴り込む。そこにはダンベル片手に筋トレするヒョロ長男の姿があった。

 こうして隣のベッドに怒鳴り込むのも何度目か。

 

 「一体何度言えばわかるんだよ!ちょっとは隣人の事も考えろ!ハァハァ息づかいがうるせぇんだよ!」

 「悪いな三井。時間は誰も待ってはくれない。やれる事やっとかないと身体がなまっちまうだろ」

 「公共の場ってことを考えろ馬鹿!迷惑なんだよ!」

 「そうは言ってもな……身体が疼いちまうんだからしょうがないだろ」

 

 あっけらかんと告げる相模に舌打ちする。

 この男が来てから俺の静かな入院生活は終わりを告げた。

 毎日うるさい。脚に負担をかけない範囲で毎日筋トレして、ボールハンドリングの練習して、何かしら毎日やっている。たまに静かな日があったと思ったらバスケの本を読み込んで、戦術の勉強をしている始末だ。

 

 その姿を見てると無性にイライラしてくる。

 まるで過去の俺の姿を見ているような。

 かつて俺が逃げ出した責任を突きつけられているような。

 そんな気分になってくる。

 

 「……んで」

 「ん?」

 「なんでそんなに頑張れるんだよ!」

 

 今まで溜め込んできた思いが吹き出したかのように俺は相模に自分の思いをぶつけた。

 

 「頑張っても報われないかもしれないのに……届かないかもしれないのに、なんでお前はこんなにっ……!」

 

 感情が極まって言葉にならない俺を相模は静かに見つめ、やがて口を開いた。

 

 「逆にお前はなんで、こんな所で燻ってんだよ?」

 「──!」

 「その飾ってあるバスケグッズを見ればわかる。お前も筋金入りのバスケ馬鹿なんだろ?──入院しているのは脚の怪我か?ならなんでリハビリもまともに受けねぇ。なんで毎日悟ったかのようにダラダラ過ごしてんだよ」

 

 俺からすればそっちの方が信じ難いね、と相模は告げる。

 

 「諦めたのかよ。怪我くらいで」

 

 相模の言葉に俺の中の何かがプチッと切れる。

 

 「お前に……お前に俺の何がわかるっていうんだよ!」

 「わかんねぇよ。何も話さねぇお前の気持ちなんて。──けどな、これだけははっきり言っておくぞ」

 

 そして相模は俺のことを力強く見据えて告げた。

 

 「俺は絶対に戻ってくる。絶対に復帰して、陵南を全国に連れてくんだ。そのために今、できる限りの事をやってるんだ」

 「──!!」

 

 それはあまりにも真っ直ぐな言葉だった。

 

 

 ──目標は湘北高校全国制覇!日本一です!

 

 

 それは俺には向き合う事ができなかった、チームを背負う選手としての覚悟だった。

 勝てない。俺はそう思った。

 いや。進むことをやめた俺はそもそも戦いの土俵にすら立っていない。

 俺にはそう在れなかったその姿があまりにも眩しくて……だから俺は相模に突っかかっていたのだ。

 

 「諦めんなよ、三井」

 

 俯く俺の耳に相模の言葉が届く。

 

 「1人じゃ頑張れないなら一緒に頑張ろうぜ。バスケットマン同士、助け合える事もあるはずだろ?」

 

 それは今の俺が一番欲しかった言葉だったのかもしれない。

 安西先生も言っていた。

 

 ──諦めたらそこで試合終了だよ。

 

 なんで忘れてしまっていたのだろう。目を背けてしまっていたのだろう。

 諦めないことの大切さをあの日、俺は教わっていたはずなのに。

 

 いつのまにか、俺の頬を熱いものが伝っていた。

 

 

 

 

 

 「……あぁ」

 

 

 

 +++

 

 

 

 その日から俺は相模とリハビリの日々を送る事となった。

 お互いの思いをぶつけ合ったおかげか、そのせいなのか前よりも意見の食い違いでぶつかり合う事も増えたが、充実した日々を送る事ができた。

 

 聞いたところによると相模の高校は前にも言ってた通り、陵南高校という神奈川屈指の強豪校で、相模はインターハイ予選の決勝リーグの海南戦で負傷交代して無念の敗退となったそうだ。

 絶対にリベンジしてやると相模は言っていたが、俺も負けてはいられない。

 結局、湘北はあの後点差をつけられて一回戦負けしていたらしい。……まずは湘北を決勝リーグまで連れてかないとな。

 

 入院の間、相模には陵南高校のバスケ部メンバーを始めとする様々なメンバーがお見舞いに顔を出していた。

 陵南高校田岡監督──スカウトを受けて断った間柄だが、そんな過去の事は微塵も出さず、俺にも励ましの言葉を送ってくれた。

 相模の同学年のチームメイト魚住──「三井!?武石中の三井寿が何故こんなところに!?」……中学時代に対戦経験のあったビッグ・ジュンも陵南にいたのか。こいつを抑えるには赤木の成長が不可欠だろうな。

 

 しかし陵南のメンバーからお見舞いされる相模の姿を見て、相模が陵南においてどれだけ慕われているか、中心的な人物なのか見て取れた。

 俺も1度目の怪我の後は木暮を始め、湘北メンバーがお見舞いに来てくれていた。俺が自ら手放してしまった繋がり。退院したらまずはアイツらに謝る事から始めないといけないな。

 

 そういった出来事もありつつも時は流れ、相模より先に入院していた俺は無事に怪我も完治し、先に退院する事となった。

 

 

 「ひと足先に行くぜ、相模」

 「ああ。俺もすぐに退院してやるからな」

 

 そして握手を交わす。

 

 「「決勝リーグで会おう」」

 

 こうして俺は相模や病院の院長や看護師に見送られて病院を後にした。

 病院の敷居から後一歩で外に出るところで相模から声がかかる。

 

 「三井!」

 

 俺は振り返る。

 

 「もう……忘れるなよ!」

 

 その言葉に俺はニヤリと笑って答えた。

 

 「おう!俺は諦めの悪い男、三井寿だ!!」

 

 

 

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