(やっばい、めっちゃ緊張してきた)
周りには誰もいない彩南高校の廊下で独り、何度か深呼吸を繰り返す。
目の前にある教室のプレートには、1-Aの文字。
「えー突然ですが、また転校生を紹介します。入りなさい、君」
つい先程まで一緒にいた担任の骨川先生に呼ばれ、心の中で「よし!やったりますか」と気合を入れて教室に入る。
今日からクラスメイトになる人達の視線を一斉に浴びる中、教卓の前で止まり、背筋を伸ばす。
「初めまして、
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俺、古織氷翠は転生者だ。
本名は、ヒスイ・ディエチ・フリージング。
フリージング星人という氷などを生成する事が出来る宇宙人で、惑星フリージングの第2王子として生を受けた。
身長は170ぐらい。髪の色は水色で、顔はなかなかの美形。
フリージング王家では代々、長男のみに王位継承権が与えられる。
第2王子の俺にその権利はなく、歳の離れた兄にもしもの事があった時のスペアみたいな立場となる。
それでも家族仲は現在も良好だし、王様なんて役職は御免被りたかったのでちょうどよかった。
古織という名は、宇宙人だとバレない様に考えた偽名。
前世の俺は、日本生まれ日本育ちのどこにでもいる平凡な男子中学生。
何の前触れもなく、気がついたら赤子に転生していた。
けれど、前世で漫画やアニメが好きだった事もあり、異世界転生してんじゃん、スゲー!と現状をすんなり受け入れたのだった。
幼児期から王族としての英才教育が始まり、そこで
そして数年後、【銀河大戦の覇者】としてギド・ルシオン・デビルークの名がフリージング星にも轟き、ここがToLOVEるの世界である事が確定。
あと、いつの間にか俺がララ・サタリン・デビルークの婚約者候補の1人になっていた。
突然だが、ここで【ToLOVEる】という作品について説明させてもらう。
ToLOVEるとは、週刊少年ジャンプで連載されていたシリーズ物のラブコメ漫画。
続編のToLOVEるダークネスは、ジャンプSQ.という月刊誌で連載され、どちらも既に完結している作品でもある。
物語の主人公は、結城リト。
彩南高校1年生のリトは、同じクラスの美少女、西連寺春菜に中学時代から恋心を抱いている。
男友達である猿山ケンイチの前で一大決心をし、彼女に告白を試みる。
しかし、最後の最後で勇気が出せず、想いを伝えることはできなかった。
その日の夜、家出をしてきたデビルーク星の第1王女、ララ・サタリン・デビルークがリトの元に現れ、色々あって彼を好きになる。
そこから始まるちょっとエッチなドタバタラブコメディ。そんな感じの作品だ。
前世でもこの作品は読んでいたし、続編の連載が始まった時はとても嬉しかった。
正直に言うと、もうお気に入りの話くらいしか原作を覚えていないが、単行本を買う時に少し勇気が必要だったのはよく覚えている。
話を戻して次に婚約者候補の件だが、本当は第1王子の兄がその1人になるはずだったらしい。
でも、当時の兄には既に心に決めた人がいたので、両親の前でしっかりと自身の気持ちを伝え、この話を断ったそうだ。
そういうことならしょうがない。
でもデビルークとは今後も友好な関係を築いていきたいし、この話をこちらから断ってデビルーク王の怒りの触れてしまったら、この星がどうなるかわからない。
う〜ん、どうするべきか…。
あっ、そうだ。弟いんじゃん。
兄がダメなら、弟の方でいっか。
ね?いいよね?アイツも天使のように可愛いララ様の婚約者候補になれて嬉しいだろうし、問題ないよね?…よし、満場一致!
それじゃあ早速、デビルークに返事をしておこう。
そんな感じで両親は、俺に相談の1つもなく勝手に話を進める。
こうして俺は、知らず知らずに1度も会った事がないメインヒロインの婚約者候補になっていたのだ。
ちなみに兄は現在、心に決めた女性と結婚している。よかったね。
そして時代は流れ、原作通りララが家出をして地球へ。
それを知った両親が、「婚約者候補ならお前も地球に行けよ」と半ば強制的に送り出され、現在に至る。
◼️
転入の挨拶を終えると、
「えー!けっこーイケメンじゃない?」「外国人みたいな顔立ちしてるー」
何人かの女性陣から黄色い声が上がり、
「けっ、男かよっ」「どうせならまたララちゃんみたいな美少女が良かったぜ」
と、男性陣からは真逆の声が聞こえてくる。
これは人生で初めて彼女が出来るのでは⁉︎と期待に胸が膨らむが、今はそれどころではない。
クラスメイトを順番に見ていると、ララや西連寺、そして籾岡達を見つける。
実際に漫画のキャラクターに出会えた事に感動するが、我らが主人公の姿だけがまだ見つからない。
遅刻でもしているのだろうか。
その後、すぐに窓際にある1番後ろの席に案内されてしまう。
結局、リトさんを見つけることは出来ずに、朝のHRが始まった。
◼️
朝のHRが終わると、俺の席の周りはクラスメイトで囲まれていた。
主に女子が自己紹介を順番にしてくれて、やっぱりイケメンって正義なんだなと少し悲しくなる。
クラスメイトの名前を覚えるために、机にノートを広げて自己紹介をしてくれた人の名前を書いていると、視界の端でピンク色の綺麗な髪が揺れていた。
顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべたララの姿が。
「私、ララ。ララ・サタリン・デビルークっていうの。よろしくね、コーリ♪」
「デビルークさんね、よろしくです」
「ララでいいよー」と返すプリンセス。
うん、自己紹介してる時から気になってたけど、ララさんキラキラオーラが凄いわ。
斎木楠雄の照橋さんみたいな光が彼女の周りに見える…。
あれは俺にしか見えていないのだろうか。
次会った時に思わず「おっふ。で、デビルークさん」って、反射的に言ってしまいそうな美貌だわ、これ。
すると、ララの神々しさで隠れていた女の子が姿を現し、俺は絶句する。
どうりで見つかんないわけだ。
何でそんな格好しているのかもわからんし、何でこうなっているのかもわからん。
状況が全く読み込めない中、ただ1つだけ口に出た言葉は、
「
「何でお前、女なんだよ…」
「初対面の人にいきなり女性である事を全否定されたっ⁉︎」
これが彼女との初めての会話。
結城リトではなく、夕崎梨子との出会いの瞬間であった。