主人公の性別が違うんだが…   作:ふくきたる

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第4話

「ふぅ、つかれた」

 

旅館のロビーにある休憩所のソファに座り、自販機で買ったコーラを飲む。

疲れた体と乾いた喉に、冷たい炭酸が一気に染み渡る。

くぅ〜!やっぱこれだよ、これ。

大人はビールなどのアルコールで疲れを癒すけど、学生や子供にとっては炭酸飲料がそのかわりだと思う。

あくまで個人的見解だが。

 

現在は臨海学校初日の夜。

予定されていた全ての行事が終わり、自由時間。

先程までやっていた肝だめしについてだが、実は私、参加しておりません。

理由は、原作知識で西連寺がオバケの類が苦手な事を覚えていたから。

相手が苦手だとわかっているのに自分が楽しみたいからという理由で、無理矢理参加させるような真似は流石に出来ない。

スタート地点に着いた時に「ペアである西連寺には悪いけど、ちょっと体調が悪いからリタイアさせてほしい」という旨を骨川先生に伝え、脱落組が集まる旅館の前でみんなの帰りを待っていた。

そこで西連寺と軽く世間話をしていると、続々とクラスメイトが戻ってくる。

西連寺は籾岡たちに連れていかれ、その後は猿山たちとだべっていた。

ちなみに猿山のペアはララだったみたい。

特に何の問題もなく順調に肝だめしは進行していくが、ここで予想外の事態が発生する。

今年の肝だめしはオバケ役の従業員が仮装などを頑張り過ぎて、予定よりもかなり早く行事が終わってしまったのだ。

もちろん、最後までゴールできたペアは0組。

未来のカップルは誕生する事なく、肝だめしは終了。

そんで消灯時間までの間は自由時間となり、俺たちのグループは男子学生らしく枕投げを楽しんでいた。

はしゃぎ過ぎて喉が渇き、客室から離脱。

そうしてロビーまで降りてきて現在に至るという流れである。

 

「あ、古織だ」

 

「ん?」

 

まったりしている中、いきなり声をかけられる。

顔を向けると、そこにいたのは梨子。

左手には小さな財布を持っており、彼女も飲み物を買いにきた事が伺える。

 

「夕崎か、おいっすー」

 

「おいっすー。…あっ、そうだ!ちょうどよかった。古織に話したいことがあるの。ちょっとここで待っててもらえる?」

 

「?うい」

 

梨子は自販機の方に向かい、ささっとペットボトルのミルクティーを購入し、こちらに戻ってくる。

「お隣失礼しまーす」と同じソファに腰掛け、紅茶を一口。

続いて一息吐いてから、彼女は喋り出した。

 

「待たせてごめんね」

 

「いや、それは別に構わんけど。話したいことってなんだ?」

 

「あぁ、うん。その事なんだけど…私ね、古織にお礼が言いたかったの」

 

「は?お礼?なんでよ?」

 

全くもって意味がわからない。

今日の出来事を脳内で振り返るが、梨子と話したのはここだけだ。

彼女に感謝されるような事をした覚えがない。

 

「あはは、意味がわからないって顔してるね。普通に話してもいいんだけど、ここはあえて問題にしよう!ヒント出すね、ヒント。ヒントは肝だめしだよ」

 

やけに楽しそうに出題してくる梨子。

でも悪いな。

 

「そーゆーのいいからさっさと答え言ってくんない?お前のお遊びに付き合えるほど、こっちも暇じゃないんですわぁ」

 

「いきなり辛辣すぎませんかっ⁉︎」

 

梨子の声が静かなロビーに響き渡る。

 

「しかも現在進行形でくつろいでるじゃん‼︎忙しい人には全然見えないんですけどっ⁉︎少しくらいは考える素振りを見せてよっ!」

 

「えー、めんどい」

 

「理由がとてもシンプルっ!もっと会話にキャッチボールを楽しみませんかっ⁉︎」

 

いやいや、会話はちゃんとしているでしょうよ。

ただ考えたってどうせわかんないんだから、答え教えろってだけで。

 

「もうっ、古織はいっつもそう!ララや春菜ちゃんと喋っている時と違って、私の対応が雑すぎる。全然優しくない‼︎なんでなのっ⁉︎私の事を喋るおもちゃか何かと思ってませんかっ⁉︎」

 

「いやいや、そんな事はない。ちゃんと男友達だと思ってるぞ」

 

「女ですけど⁉︎友達は良いとして、性別が違うんですけどっ!?」

 

度重なるツッコミで疲れたのか、肩で息をする梨子。

いちいちオーバーリアクションだからそうなっちゃうんだぞ。

でもボケる側からしたら最高の相方ではある。いつもありがとう!

 

「…あのさ、まさかとは思うけど本気で男の子だと思ってるわけじゃないよね?初めて会った時も私が男の子じゃない事に凄く驚いてたけど…。それとも、何か別の理由でもあるの?」

 

「あー…、それね。理由はあるにはあるんだが…」

 

「だってお前、リトじゃん」と言われたところで、

梨子の頭は?で埋め尽くされるだろう。

 

正直に言うと俺は、夕崎梨子に結城リトを重ねて見ている。

見ているというより、見えてしまうという表現の方が正しいだろうか。

梨子とリトの性別は違うし、容姿だって違う部分はある。

でも日常生活で見る彼女の性格・行動は、漫画に出てきたリトにそっくり。

そんな姿を見てしまうと、どうしても脳裏にリトが過ってしまう。

だから梨子とは男友達のような距離感で接してしまうのだ。

それについてどう答えるべきか悩んでいると、

 

「あの、夕崎さん。ちょっといいかな?」

 

「え?」 「へ?」

 

突然、知らない男が梨子に話かけてきた。

浴衣を着用しており、梨子を知っている。つまり彩南の生徒。

ただ学校で見かけた事はないので、違うクラスの同級生なのだろう。

身長は俺より少し高いぐらいで、顔も整っている。

そんな彼の表情からは、わずかながらの緊張が読み取れた。

 

「えっと…、私に用事なんだよね?それって、ここじゃ言えない話…かな?」

 

「うん、そうだね。出来れば場所を変えたいんだけど…、ついてきてもらってもいいかな?」

 

男子生徒の言葉を聞くと、梨子にチラリと一瞥される。

 

「…わかった。ごめん、古織。ちょっと行ってくるね。この2つ預かっておいて」

 

「え?あ、おう…」

 

有無を言わさない勢いで、梨子から紅茶と財布を押し付けられる。

その時に初めて男子生徒と目があったが、ほんの少しの敵意を感じた。

2人は旅館の外へと出て行く。

俺は主人公じゃないから、鈍感ではない。

だから気づく事ができる。いや、ここまで条件が揃えば誰でもわかるか。

彼はこれから梨子に告白するのだろう。

修学旅行マジックならぬ臨海学校マジックってところか。

初日に告白するのは凄い勇気だなと感心する。フラれたらその後の日程、地獄だろうに。

でもあれか。

もしそこで付き合う事になれば、どこかのタイミングで一緒に過ごせるというメリットもあるのか。

つーか、もし梨子が彼と付き合う事になったら猿山どうするんだろう。

泣いちゃうのかなぁ、泣いちゃうだろうなぁ。

その時は皆んなで傷心パーティーを開いてあげよう。

案外、すぐに別れるかもしれないしね。

学生の恋愛なんてそんなもんでしょう。知らんけど。

 

 

◼️

 

 

梨子と男子生徒が旅館から出ていき、5分程が経った頃。

2人は一緒に戻ってきたが、男子生徒の方は暗い顔をしていた。

こちらには聞こえないが、ロビーで少しだけ会話をして彼はエレベーターへ。

そして夕崎はこちらに戻ってきた。

 

「ただいま」

 

「おう。はい、これ」

 

預かっていた財布と飲み物を返す。

すると梨子はソファに座り、残りの紅茶を飲み干した。

一言も会話のない静かな時間が流れる。

そこから口火を切ったのは梨子だった。

 

「…聞かないの?何があったのか」

 

「あ?さっきの男に告白されてきたんだろ?彼の表情を見るにお前はフった、あのイケメンくんを。え、なに?自分モテますけどアピールですか?は?ウザ。今までの人生で告白された事がない俺への当てつけかなんかですかぁ?」

 

「あれ今、シリアスな雰囲気じゃありませんでした!?」

 

いらんいらん、シリアスなんて。

俺は頭からっぽにして読めるゆるふわなラブコメの方が好きなんだ。

シリアスが多すぎると、心が痛くなって続きが読めなくなっちゃう人間なんだ。

 

「良いご身分ですよね、夕崎様は。告白を断る時にこういったんだろ?『残念だけれど、私にはララ・サタリン・デビルークっていう可愛い婚約者がもういるの。私の周りに集まるのは可愛い女の子だけでいい。あなたのような男には興味がないわ、今すぐ私の前から消えてくださる?』って。はぁ〜、ヤダヤダ。これだから、未来の女王様は。本当にたちが悪い」

 

「いや、その人だれっ!?古織の中の私はそんな認識なのっ!?」

 

「っていうか、ララの婚約者の話は断ったよ!デビルーク星では同性婚も認められているみたいだけど、王族だから跡取りが欲しいみたいだし。ララのお父さんも高校生活中に好きな男を見つけろってことで解決した…はなし…、あ」

 

はい、引っかかったー。

オレの勝ち。

何で負けたか、明日まで考えといてください。

そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、いただきます。

 

手に持っているぬるくなったコーラを一気に飲み干す。

よし、これでわかった。

そういう感じになっていたのね、なるほどなるほど。

そんじゃララは、少なくとも3年間の猶予があるわけだ。

その間にいい人が現れるといいね。

 

「いやっ、あのっ、さっきのは作り話っていうか。なんていうか、その…あの…」

 

隣では自身の失態に気づいた梨子が、なんとか弁解をしようとしている。

しかし、ただあたふたするだけでなんの内容もない。

なんだ、こいつ。

どんだけ嘘つくの下手なんだよ。

仕方ない、俺が話を合わせてやろう。

 

「デビルーク星?同性婚?なに言ってんだ、お前?もしかしてそれ、お前の親父さんが描く新しい漫画の設定か何か?」

 

「え?う、うん!そうなのっ!今度お父さんがね、そういう設定の漫画を描きたいってスタジオで言ってたんだ。いつ出るかわからないけど、楽しみにしててね!」

 

いや、絶対にその漫画連載されないだろ。

あとわかりやすくホッとするな。

そんなんじゃ、すぐにララの宇宙人バレしそうだぞ。

原作でどうやってバレたか覚えてないけど、それよりも早くに。

けれど知りたかった関係性も知れたし、コーラも飲み終わった。

そろそろ部屋に戻ろう。まずは空き缶を捨てなくては。

ソファから立ち上がると同時にエレベーターが一台、ロビーに到着する。

開いたドアの先には、焦った表情をした猿山がいた。

 

「梨子ちゃん!変な男にホイホイついて行っちゃダメだ!俺が必ず、必ず助けてやるからなーーーーーーーっ!!!!」

 

猿山はこちらに目もくれず、叫びながら旅館から出て行った。

たぶん先ほどの男子生徒の告白の噂が、もう猿山の耳に届いたのだろう。尾鰭付きで。

もしかしたら、俺が立ち上がってしまったから猿山に視線に梨子が入らなかったのかも。

ごめん、猿山。なんか俺、心の中で猿山に謝る回数多いな。

 

「ごめん、古織。なんか身の危険を感じたから、部屋に戻るね」

 

「お、おう。気をつけてな」

 

青い顔をしながら、ペットボトルをゴミ箱に捨てる梨子。

俺も一緒に空き缶を捨てる。

 

「俺は猿山が可哀想だから、ちょっと探しに行ってくるわ」

 

梨子にそう言い、踵を返して旅館の出入り口へと歩き出す。

しかし、

 

「ちょっと待って、古織!」

 

梨子に呼び止められる。

振り向いた先の彼女は、無邪気にくしゃっと目を細めた笑顔でそこに立っていた。

 

「言い忘れてたけど、私の親友のために肝試しをリタイヤしてくれてありがとう!春菜ちゃんもすごく安心してたよ!それだけっ、また明日ね!」

 

右手をぶんぶんと振ってからエレベーターに乗り、扉が閉まる。

その瞬間、俺の脳内に結城リトの姿はなかった。

ほんの一瞬だけだったが、俺は初めて彼女と、夕崎梨子という女の子と出会えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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