「あーあ、明日で臨海学校も終わりかァ〜。なーんか、思い返すと鳴岩にふりまわされてばっかだったな〜」
臨海学校2日目の夜。
宿泊先で一息ついていると、猿山が布団を用意しながら喋り出す。
周りにいたクラスメイトたちもその話に対して、首を縦に振っていた。
「しかもアイツよォ〜、せっかくの海なのに体育の授業で女子とプールは別々だから、『臨海学校も別々にするっ!』って、ありえなくないかっ!!俺は梨子ちゃんの水着姿を見るために、ここまで!遥々!!やって来たというのにっ!!!!」
「…わかるぜ、猿山。俺もララちゃんの水着姿を楽しみにしていた。体育の授業であれだけ揺れるなら、水着だったらどれほどの破壊力なんだ…ってな」
「あぁ、俺もララちゃんの水着姿が見たかった…」
「俺もだ」 「右に同じくです」 「拙者もでござる」 「本官もであります!」
悔し涙を流す猿山に優しく寄り添う我がクラスの野郎共。
なんか変なやつが多い気がするが、それにツッコミを入れるなんて野暮なことはしない。
なぜなら、俺も同じ気持ちだからだ。
俺も女子たちの水着姿が見たかった。
猿山たちに誘われて岩場の陰からこっそりララたちのいる海を覗き込んだりしたが、遠すぎてよくわからんかった。
唯一わかった事といえば、古手川。
1人だけ学校指定の水着だと思われる装いの人物を、奥の方の砂浜で偶然発見した。
黒髪ロングの髪型だったし、浮き輪を持って独りで歩いていたので、あれは古手川だと思う…たぶん。
周りにいる同級生たちは自前の水着を用意しているのに、彼女が持参したのは学校指定のもの。
それでもちゃんとその水着に着替えて、ビーチに出て来れる古手川の精神力は本当に凄いと思う。
もし俺がその立場だったら、
「いっけねー、水着忘れちまったぁー。てへぺろっ⭐︎」
って感じで、絶対に誤魔化している。
「そうだよな、皆。こんな何もなかった臨海学校じゃ終われないよな。せめて最後に、楽しい思い出を一つ残して帰りたいよな?」
猿山は涙を浴衣の裾で拭き、徐に立ち上がる。
「こんなかに女子との思い出が一つもないのに、満足って奴いる⁉︎女子との思い出がないのに、見回りをしている指導部の鳴岩に日和ってる奴いる?…………いねえよなぁ!!?」
「“女子部屋〟行くゾ!!!」
猿山はマイキーくんのように声を張り上げ、野郎共はそれに応えるように拳と雄叫びをあげた。
部屋割りの関係でここにいるのは少数のクラスメイトだけだが、そいつらの心は一つになっていた。
俺の心を含めて。
俺も女子との思い出がもう一つくらい欲しい。
だから、
「やはり女子部屋か……いつ出発する?わたしも同行する」
「「「「古織院」」」」
花京院ムーブで会話に割り込む。
このクラスの男子は、皆んなノリが良い。
臨海学校で猿山以外の男たちと仲良くなれたのは僥倖だった。
「行くぞ!」
バーンとそれぞれ好きなジョジョ立ちを決めてから、我々は女子部屋に向けて旅を始めた。
道中、部屋にいなかった的目くんにばったり出会し、一応誘っては見たものの即座に断られた。
やはり彼は真面目だ。
ちなみにこの世界は、ハイキューの世界にONE PIECEの漫画があるみたいに、矢吹先生と長谷見先生が関係している作品以外は存在している。
だからマイキーくんの口上も知ってるし、花京院ネタも通じたのだ。
そんでフリージング星には漫画がなかった。
だから初めて彩南に来て、前世の漫画がずらりと並んである本屋を発見した時は、めちゃくちゃ驚いて本屋の店主に変な目で見られたのは良い思い出である。
◼️
結論から先に言うと、我々のミッションは失敗した。
やはり指導部である鳴岩のガードを突破する事が出来ず、おめおめと男子部屋まで逃げ帰ってきたのであった。
「ちくしょー、鳴岩のガードが固すぎる」
「あいつ、女子部屋のフロア巡回し過ぎだろ!ステルスゲーの敵でもあんな頻繁に動かねぇよ」
野郎共がそれぞれに愚痴をこぼしながら、各自用意しておいた布団の上にどさっと座る。
俺も自分の場所に座るが、視線の端にある違和感に気づく。
その正体は、隣に敷かれてある布団。
数分前に会った的目くんが用意したものだろう。
彼の掛け布団が盛り上がっており、もう眠りに入った事がわかる。
顔を出さずに、全身を掛け布団の中に入れている寝方は息苦しいのでは?
と思うが、それは人それぞれ。俺がどうこう言える話ではない。
「なぁ、みんな。的目くんがもう寝てるみたいだ。声のボリューム少し落としてあげようぜ」
隣を指で差し彼らに伝えると、全員が了解のサムズアップを返してくる。
その瞬間、的目くんの布団がもぞりと少しだけ動いた気がした。
きっと寝返りでもしたのだろう。
その後、【鳴岩の壁をどうやって破るのか】という会議が開かれた。
しかし、これと言って最良の選択肢は出てこない。
結果的に、
消灯時間までまだそれなりの時間があるから様子見で行こう!
という形で会議がお開きとなる。
「んじゃ、女子部屋のことは一旦置いといて。また枕投げでもして時間を消費するか?」
「いや、的目がもう寝てんだから無理だろ。恋話とかどーよ?」
「猿山の好きな人は夕崎ちゃんで、桐生は彼女持ち。残りの野郎はララちゃんが好き。はい、恋話しゅーりょー。なんだこれ、こんなに盛り上がらない恋話がこの世に存在するのか」
猿山が箱を横に置くような仕草をしつつ、話題を変えるが一蹴される。
次に出た恋話も一瞬で終わり、また新たな話題をクラスメイトたちは考えていた。
とりあえず静観を決め込んでいるが、内心ではさらっと流れていった事実に驚きを隠せないでいた。
oh、マジか…。全然、知らなかった。
皆んな、ララ狙いだったのか。
……でも、考えてみたらそうなってもおかしくはない。
なんてったって、リトがいないもんね。この世界。
原作みたいにリトに対して猛アピールするララの姿を見れば、いつの間にかその想いはなくなっていくだろう。
けど、ここにはその抑止の存在がいない。
ララには、好きな異性がいないという事になる。
そんな状況で欠点が見当たらない超絶美少女と同じクラスになってしまったら…、
陥落するのも時間の問題だわな。
彼女と仲良くなれれば、ワンチャンあるかもと思ってしまうのは自明の理。
俺も原作知識がなかったら、ララに落とされていたね。確実に。
そんなことを考えていると、猿山が不意に話を振ってくる。
「そういや俺、古織の好きな人まだ知らねぇや」
「え?俺?」
猿山の方へ顔を向けると、彼は瞳をキラリと輝かせる。
周りも「おー、そういえば」と視線をこちらへ。
「古織はどうなん?転校してきてからまだそんな経ってないけど、好きな人できた?」
「おう、もち。俺は西連寺。クラス委員の西連寺春菜さん」
その問いにあっけらかんとした態度で答えると、周りは想像以上の盛り上がりを見せる。
室内が一気にうるさくなってしまったため、的目くんの布団がびくりと大きく動いた。
心の中で的目くんに謝りながらも、もう一方で俺は別のことを考えていた。
実はこの発言、こういう時のために用意していたものである。
このような場面で「まだいないよ」などの発言はNG。
絶対に雰囲気が盛り下がってしまう。
そんで西連寺と答えた理由だが、ぶっちゃけ誰でもよかった。
というか、最初はララで用意していた。
ただ先ほどの会話で、クラスメイトの殆どがララ狙いだと判明。
かぶってしまうのはまずい。
そう考えた結果、西連寺になっただけなのだ。
てかさ、彩南高校の女子、ちょっとレベル高すぎるって。
ヒロインたちは言わずもがなだし。
モブの沢田や新井、白百合なども当然の事。
原作に存在すらしなかった女の子も、すごい可愛い。
失礼な発言になるけども…、色々と目移りしちゃってね。
1人に絞りきることができないんすよ…。DDってやつです。
「いやー、マジか!!西連寺のどこが好きなん?」
「顔・性格。つーか、全てが完璧」
「好きになったキッカケは?」
「あー、そうね。偶然にも一回だけ見た事があるんだけどさ、ヘアピン外した時の前髪が垂れてる西連寺、めっちゃ可愛いの!普段もお淑やかで可愛いんだけど、ヘアピンないと結構イメージ変わるんよ。そのギャップってやつにやられちまいました」
「もしも西連寺さんと付き合えたとしたら何がしたいですか?」
「料理が得意って聞いたから、お弁当を作って欲しい。そんで公園でも遊園地でもどっちでもいいからデートしたい」
「でも胸は小さいでござるよ?」
「バカヤロウっ!お前らのタイプであるララが規格外過ぎるだけで、西連寺だって十分あるだろうがっ!!」
そこからクラスメイトたちの怒涛の質問ラッシュをアドリブも加えながらそつなくこなす。
それより的目くん、大丈夫か?
さっきから何度も寝返りしているけども。
そんなに寝相悪かったっけ?今日はちょっと布団離して寝ようかな…。
「なぁ、お前ら。既にそれなりの時間が経過した。この話はやめて、そろそろ再チャレンジといかないか?」
野郎の1人がスマホの時計を見せてそう発言すると、ようやく最初の本題に戻った。
俺たちはゆっくりと立ち上がり、各々準備体操を始める。
再び猿山の日和ってるコールが始まり、我々は拳を突き上げたあと、女子部屋への旅を再開させたのだった。
:
:
:
:
男たちが女子部屋に向かい、誰もいなくなった部屋。
そこにある一つの掛け布団がもぞもぞと動き出す。
「ど、どうしよう…。絶対に聞いちゃいけない事、聞いちゃった…」
そこから出てきたのは、青紫色にも見える黒髪の美少女。
友人たちとのトランプで負け、罰ゲームとして男子部屋にまでやってきていた彼女。
しかし、その部屋には誰もいなかった。
内心ホッとしていると、彼らが帰ってくる声や足跡が聞こえてくる。
咄嗟に近場の布団で身を隠すが、そこで聞いてしまったのはとあるクラスメイトの恋話。
「古織くんが私の事を…。は、初めて男の子に可愛いって、す、すっ、すすすk…………。うわぁ、どうしようっ!明日から古織くんと、どう接すればいいのーっ⁉︎」
彼女は男子部屋から出ると、小走りでどこかへ行ってしまった。
旅館内で彼女とすれ違った人々は必ず心の中でこう思っていた。
あの子の顔はなんであんなに真っ赤なのだろうか、と。
1-Aクラスの愉快な仲間たち
桐生くん
猿山が生まれた事により存在が消えてしまった男。
クソイケメンの何でもできる完璧超人。他校に通う幼馴染の彼女がいるリア充。
会長
これから創設されるララのファンクラブ、LALALOVE。
通称『LLL』の会長を務める変態。丁寧な口調で喋る。
ござるくん
オープンなスケベ。
本官くん
ムッツリスケベ。
※もしかするとこれからも変なオリキャラが出てくるかもしれませんが、覚えなくても大丈夫です。