アルミナム・ステラ   作:妄想壁の崩壊

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20.能ある鷹の隠蔽スクールライフ

 

星野ルビーの朝は早い。日が昇る前に目を覚ましたあとはすぐに炊飯器でお米を炊き、ジャージに着替えて家を出る。

 

それからは朝のランニングだ。セーブしながらもキツイと感じるギリギリの速度で町中を駆ける。このときたまに顔見知りの人に会ったりするので挨拶する。商店街のイメージガールを務めるようになってから一気に人脈が広くなった気がするな。今じゃ顔をみればその人がどこの何屋さんの人なのか一目でわかるよ。

 

折り返し地点の神社に来たら社の前で二礼二拍手一拝をして祈る。二年続いている習慣なのでもはや祈ることがあんまりない。世界平和でも祈っておこうか。

 

祈りを終えて目を開けるとだいたいいつもカラスたちが集まってるので、彼らの前で舞を踊る。これだけのカラスがいるのに騒音被害とかにならないのはこの子たちがみんな静かで良い子だからだろう。もしかしたらツクヨミ二世が群れを統括してるのかもしれない。

 

家に帰ったらミヤコさんが仕事をしているので朝ごはんを作っておく。

 

「お兄ちゃんおはよう!」

 

「ん、今何時だ……?」

 

「七時。ちゃんと起きてご飯食べてね。私もう学校行くから!」

 

少し打ち込み稽古してシャワーを浴びたらお兄ちゃんが目を擦りながら部屋から出てくる。

 

「もう出るのか?」

 

「朝清掃あるから。行ってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい」

 

ミヤコさんとママの写真にそう告げて私は中学校へと向かう。

 

学校に着いたら職員室に挨拶して箒を借り、落ち葉やゴミの清掃に入る。登校してくる人たちへの挨拶も忘れない。これがボランティア同好会としての活動である。

 

「おはようルビー、相変わらず早いね」

 

「私眠くてしょうがないよ」

 

「おはよう二人とも。はいこれ箒ね」

 

遅れてやってきたボランティア同好会メンバーの友達二人に私は笑顔で竹箒を渡した。

 

「にしても毎日朝から清掃なんて、ルビーったら模範的な優等生だね」

 

「私たちはたまにしか参加できてないもんね」

 

「二人は無理してやらなくても大丈夫だよ? 私が好きでやってるだけだし。あ、校長先生おはようございます! 今日も校門前での挨拶お疲れさまです!」

 

校長先生が帰ってきたってことはそろそろ朝のチャイムが鳴る頃かな。ゴミと箒を片付けて教室に戻ろうか。

 

そして朝のホームルームが始まれば保健委員としての健康観察だ。クラスに体調の悪そうな人がいないかバッチリ観察する。私の目から逃れられる人はいない。

 

「顔色が悪いよ。夜ふかし厳禁だからね?」

「ちょっと熱っぽい? 保健室行く?」

「今週は健康強化週間なので手指消毒の徹底をお願いします。以上保健委員からでした」

 

ホームルームが終われば授業が始まる。今日は英語、国語、理科、社会、体育だ。

 

英語の授業は……うん、はっきり言って退屈で仕方ない。千花師匠から語学指導を受けてるからね私。中学英語なんてもう過去の範囲だ。まぁ基礎の復習のつもりで教科書を眺めておこう。

 

国語の授業は結構好き。載ってる物語が面白いんだよね。古典は分かんない。必死に電子辞書とにらめっこしながら内容を解読するだけだ。中身が分かれば面白いんだけど。

 

理科の授業はダメダメ。理系科目は苦手なんだよね。アイドルには必要ない分野だと思うんだけど、ここで成績落とすと師匠に叱られちゃうからなぁ。それにお兄ちゃんにマウント取られるのも癪だし。

 

私は必死に先生の話を聞きながらノートに重要事項を記していく。あとで見返せるように。

 

そして社会の授業。もうとにかく眠い。でもここで成績落とすと(以下略)なので理科と同じく必死に腿をつねって目を開ける。なんで先生の声ってこんなに眠くなるんだろうね。催眠術かな。

 

給食を食べて教室の清掃をしたらお昼休みだ。とは言っても私にはやることがある。

 

「失礼します。一年A組、保健委員の星野ルビーです……って、先生いないのか」

 

そう、保健室の清掃だ。私は保健委員だからね。

 

ロッカーから清掃道具を取り出して床を箒で掃き、ベッドのシーツを整えコロコロで埃を取り除く。前世のほとんどを病室で過ごした私にとって保健室は馴染み深い場所だ。感謝を込めて丁寧に掃除しよう。

 

ベッドが綺麗だと使う人の心も安らぐよね。

 

「失礼します。一年B組の星野アクアマリンです」

 

「あれ、お兄ちゃんどうしたの。サボり?」

 

保健室の入り口にお兄ちゃんが立っていた。というか、いちいちアクアマリンってフルネームで言うんだ。面白い。

 

「昼休みなのにサボりも何もないだろ。友達が突き指したみたいでな。冷却用の氷をもらいに来た」

 

「友達?」

 

よく見るとお兄ちゃんの後ろに一人の男子生徒がいた。お兄ちゃん男の友達いたんだ。てっきりボッチなのかと。

 

「痛む? ちょっと見せてね。うんうん、腫れてるけど骨まではいってないかな。今冷やすから待っててね」

 

私は氷と水で氷嚢を作り患部に押し当てた。

 

「お前がやるのか?」

 

「仕方ないでしょ、今先生は会議中なの」

 

私はテープを適度な長さに切り、彼の薬指と、隣の中指を一緒に束ねるように巻き始めた。いわゆる『バディテーピング』。隣の健康な指を添え木代わりにする手法だ。

 

「きつくない? 関節の部分は避けて巻いとくね。よし、これでOK」

 

シュッ、とハサミでテープを切り、端を綺麗に整える。シワひとつない、完璧なテーピング。我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。

 

「慣れてるな」

 

「私も突き指何回もして、そのたびに処置してきたからね。これくらいは。次の授業ってお兄ちゃんたちのクラスも一緒だよね?」

 

「ああ、確かA組とB組で合同授業だったか」

 

「そしたら体育かぁ。残念だけど君は見学かな。ちゃんと安静にして、先生が来たら診てもらってね?」

 

さて、そろそろ昼休みも終わるし行こうか。着替えて体育館に行かないとね。

 

 

 

 

 

「アクア、お前の妹地味だけど何か良いな」

 

「絶対やめろよ?」

 

 

 

 

 

本日最後の授業、体育の時間である。A組とB組で対抗ドッジボールをするそうだ。

 

ドッジボールかぁ、苦手な子にとってはちょっと楽しくないかもね。当てられるのも怖いだろうし。

 

あ、前の子がボールを避けようとしてしゃがんでしまった。でもそれ悪手じゃない? そのままだとボールが顔にぶつかっちゃうよ。

 

仕方ない。

 

目の前で目を瞑り震えているクラスメイトの女子の前に私は割って入った。ドンッとバレーボールのレシーブの要領で腕でボールを受け止める。ボールは高く打ち上げられた後、私の手の中に収まった。

 

「大丈夫?」

 

「え、すごい……ありがとう」

 

「どういたしまし、て──ッ!」

 

狙うは当然お兄ちゃんだ。あんな端っこで目立たないように突っ立って、せこいやつ。それなら真っ先に潰して差し上げよう。

 

……あ、気づかれた。視線で悟られちゃったか。仕方ない。まずはお兄ちゃんの周りにいる輩から削いで行くとしよう。

 

そして私の手から放たれた速球は二名の男子生徒を討ち取った。

 

「あちゃあ、ボール取られちゃったね。くるよ。ボールが怖いなら私の後ろに隠れてて。ちゃんと守ってあげるから」

 

「……きゅん」

 

きゅん? 今何か変な声しなかった? それとも気のせい?

 

あ、ボールが来る。ちゃんと集中しなきゃ。

 

それからシュートの応酬が続き、最終的にフィールドに残ったのは私とお兄ちゃんだけになった。

 

後ろにいた女の子? 兄の騙し討ちによって私を庇ってアウトになってしまった。確かに投げたと思ったけど手に持ったままだったらしい。守れなくてごめんね。だけど悲壮に満ちた顔で『勝ってください……』みたいなこと言わないで。プレッシャー重いよ。

 

「でも仇は取ってみせる!」

 

「甘いなルビー、兄に勝る妹はいないことを教えてやる」

 

「なにを、双子のくせにッ!」

 

互いが互いのボールをしっかり受け取るガチンコ勝負だ。外野を使って挟むなんて野暮な真似はしない。お兄ちゃんを真正面から組み伏せてやる。

 

「ルビーちゃんカッコいい……」

 

「星野のやつ、なんかすごくね?」

 

「アクアもアクアだよな……」

 

周囲からざわめきが聞こえる。地味子設定が崩れ化けの皮が剥がれかけてるような気もするが、今は兄を叩きのめすことだけを考えよう。

 

そしてチャンスが来た。ボールを投げたあとお兄ちゃんの足が疲労で若干ふらついている。

 

「体力は私のほうが多いよね! だからラリーを続けていれば先にバテるのはお兄ちゃんのほうだよ! おらぁ、喰らえラストシューティング!」

 

「しまっ──」

 

私の手からボールが放たれ、周囲の観客たちの熱狂もピークに達し、まさに勝敗が決しようとしたそのとき。

 

チャイムが鳴った。

 

そしてお兄ちゃんの体に当たって地面に転がるボール。

 

「よし、引き分けだな」

 

「はぁ!? 私の勝ちでしょ!?」

 

「いや、チャイムが鳴った時点で試合は終わりだ」

 

「避けられなかったくせに!」

 

「チャイムが鳴ったから避けなかっただけだ」

 

おいこら先生(レフェリー)! どう説明してくれるんですか!

 

「次回に持ち越しとします」

 

「そういうわけだ。残念だったな」

 

おのれアクア──ッ!!!

 

 

 

 

 

双子の白熱バトルを終え放課後、私は武道場にて柔道部の活動に勤しんでいた。

 

「ルビー」

 

「あ、お兄ちゃんまた来たの?」

 

「またってなんだよ」

 

「だって一日に何度も会うから」

 

タオルで汗を拭きながら水分補給していると帰り支度を整えた兄に声をかけられた。

 

「俺はもう帰るぞ」

 

「ん、分かった。私はまだ練習あるからね。これから主将と乱取りしなきゃ」

 

「は、主将?」

 

「うん、だって私の相手できるの今のところ主将か顧問の先生くらいしかいないんだよ。ほんとは女子部員とやりたいんだけど、あの人たちはそこまでガチじゃないから」

 

残念なことだが彼女たちは柔道を修めることよりも楽しむことに重きを置いている。私としては一応対人を想定してガチの護身術として習っているつもりなので熱量が違うのだ。そこに良い悪いはないけど、でも同性のライバルがいないのは寂しいね。

 

「あとお前メガネ外してて大丈夫なのか」

 

「ああこれね。うーん、でも仕方なくない? メガネつけたまま試合するわけにもいかないしさ」

 

お兄ちゃんが言う通り私は柔道をやるときは瓶底メガネを外している。おかげでこの国宝級のご尊顔が世界におっぴろげなのだ。

 

「変なやつに絡まれたりしてないか」

 

「私と試合したいとか言う腑抜けた男子生徒が何人か来たけど、投げ飛ばしたらみんな帰ったよ。言っとくけど私すでにお兄ちゃんより強いからね?」

 

私が通称『星野ルビー10人抜き事件』の概要を話すとお兄ちゃんは少し顔を青くして、しかし安心したように『そうか』といって頷いた。

 

「お兄ちゃんも何か武道やれば?」

 

「遠慮しとく。それと帰りは監督の家によるから」

 

「分かった。晩ご飯は?」

 

「たぶん監督のところで食うからいらない」

 

そう言ってお兄ちゃんは帰っていった。

 

さて、私もそろそろ休憩を終えて練習に戻ろうか。早く私が不審者を撃退できるくらい強くなって、お兄ちゃんを安心させてあげなきゃね。

 

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