星野家双子の誕生日は不明ですが、原作でアイが妊娠20週のときに推定冬らしいのでアクルビの出産は推定春。アクアマリンとルビーの誕生石が3月と7月なので間を取って5月誕生日としてます。
小学五年生になった私は、学校の合間合間にアイドル修行を続けていた。
学校が終わればすぐに鈴木さんの運転する車でジムに直行、そして自主練。たまに師匠の誰かが見に来てくれるときは、その人に特訓を見てもらっている。
「ところで、学校の勉強の方は大丈夫なの?」
「ぼちぼちです……」
「アイドルになるからって勉学を放り投げちゃダメだよ。義務教育は万人に与えられたチャンスなんだから、ちゃんと考えて活用しなさい」
「はい、師匠」
師匠にそう言われたおかげで私の学校での成績はちょっと伸びていく……かもしれない。どれだけ背伸びをしてもお兄ちゃんには届かないだろうが。
お兄ちゃんはすごく勉強ができるのに、家で自主勉強しているところをみたことがない。もっぱらパソコンにしがみついて、夜遅くまで何かをしているだけだ。前世で頭がよかったのだろうか。だから勉強しなくても良い?
くっ、私もドルオタにかまけてないで勉強しておけば良かった。転生すると分かっていたらレベル上げを怠らなかったのに。
と、言うわけなので。
『勉強を頑張って評定平均4以上を取る!』
と書かれた紙が私の部屋の壁に新しく飾られた。ママのポスターと『ママみたいなアイドルになる!』と書かれた紙の隣だ。こうすると自然とやる気が手出てくる、と御行師匠が教えてくれた。心なしかやる気がかき立てられる気がする。効果ありかも。
そんな感じで私の新年度は順調に進んでいるのだが。私はある悩みを抱えていた。
それは、5月に入るからだ。母の日と私とお兄ちゃんの誕生日がある月である。
ここ数ヶ月、私はアイドル修行にのめり込んでいてあまり二人とコミュニケーションが取れていない気がする。なのでここらで一度仲良しゲージを補充しておきたい。
「つきましてはプレゼントを買おうと思っているんですけど!」
「ボクからお小遣いをもらおうとしてもダメだよ?」
「違いますよ。ちょっとアドバイスとか貰えないかなって思って」
「ああ、なるほど。母の日なんだから花で良いんじゃない? それかミヤコ社長がもらって嬉しくて、かつ元手がいらないものを自分で考えなよ」
「やっぱり花ですか……お兄ちゃんには何を上げたら良いですかね?」
「ボクは君の兄と会ったことがないから分からないよ。手作りケーキでも渡したら?」
とのことだったので、私はそのアドバイス通り花とケーキの材料を地元の商店街に買いに来た。
「あらあら、可愛いお客さんだね。お使いかな?」
「こんにちは! ケーキの材料を買いに来ました!」
「はいはい、ケーキの材料ね。おまけに飴ちゃんをあげよう」
「ありがとうございます!」
その後も子供が珍しいのか、私に話しかけてくれる人たちがたくさんいた。なんだか人気者みたいになったみたいで楽しい。
「えっと、花屋さんはここかな。ごめんくださーい!」
私はそう言って花屋さんの中に入った。だけどお店の人らしい姿は見えない。
代わりに立っていたのは私と同じお客さんだけだった。細身で長身、顔はサングラスに隠れていても分かるほど整っていて、吸い込まれるような瞳をした大人の男性。
まるで、お兄ちゃんをそのまま大人にしたかのような──。
「こんにちは」
「……あ、こ、こんにちは!」
その男の人に話しかけられて、私ははっと思考を絶った。
「お使いかな、偉いね。君はどうして花屋に?」
不思議な声だ、頭が蕩けてしまいそうで、だけど聞いていると安心する声。
顔も良くて声も良い男の人かぁ、きっとモテるんだろうな。
「もうすぐ母の日と兄の誕生日があるんで、家族に花を贈ろうと思って」
「そうだったのか、君は家族思いな素敵な子だね」
「そ、そう言われるとなんか照れちゃいますね」
「君にとって母と兄はどんな人なのかな」
「母は……実の母じゃなくて、育ての母なんです。実の母は亡くなってしまって、今の母が引き取ってくれて……でも本当の母親みたいに私を愛してくれて」
「……君の実のお母さんには花は贈らないのかい?」
「あ! そ、そうだった。普段お花なんて買わないから気が付かなかった。ママの分も買わなきゃママがかわいそう……お小遣い足りるかな……?」
私は急いで自分の財布の中身を確認する。ひいふうみいよう……野口さんが5枚。ミヤコさんとお兄ちゃんの分を考えると大きな花束は買えないかな。
「ああ、ミキさん。ご所望の白い薔薇の花束です。いつもご贔屓にどうも」
そんなときお店の人らしき人物が、奥から白い花束を抱えて出てきた。
「ありがとうございます、店主。それから、この子にも花束を包んであげてくれませんか。カーネーションとルリトウワタの」
「え? え? あの……?」
私が右往左往していると、ミキさんと呼ばれた男の人は勝手に会計を済ませてしまった。
「ご、ごめんなさい! お金払いますから……」
「あげるよ。この白い薔薇は、君の本当の母の仏壇にでも飾っておいてくれ」
「え!? それはあなたが買った花束ですよね!? その上私の分の花束まで買ってくれるなんてどういうつもりですか……?」
「ただの気まぐれだよ。強いて言えば、君と今日ここで出会えたことへの感謝の印だ」
言ってる意味が分からないよ。この人もだいぶスピってる人なのかな。ゆめ師匠みたいに。
「またいずれ会おうか。次はもっと成長していることを期待しているよ」
そう言って謎の男の人は去っていった。
成長……? さ、さてはロリコンかあの人!?
「お嬢ちゃん、はいこれ。カーネーションとルリトウワタね」
「あ、ありがとうございます。ところで、カーネーションは分かるんですけど、ルリトウワタってどんな花なんですか?」
私は受け取った花束をバッグに丁寧に詰めながら聞いた。
ルリトウワタ……青くて小さな綺麗な花だ。あの人はどうしてこの花を包んでくれと言ったんだろう。
「ルリトウワタは別名ブルースターと言うんだよ。ほら、青い花弁がまるで星のように広がっているだろう」
「わ、本当ですね」
ブルースター。まるでお兄ちゃんになぞらえたかのような花で……あれ。私、あの人にお兄ちゃんの話したっけ?
……たまたま当たったのかな! あの人お兄ちゃんに似てたから自分に似た花にしただけなのかも!
でも今日はラッキーだったな。親切な人のおかげでお小遣いを節約できた。このお金でイチゴを買ってお手製ショートケーキにしちゃおうそうしよう!
私はそんな軽く踊るような気分と足取りで家に帰った。
そして、その日の夜、日曜日の夜、家族で食事をする夜がやってきた。
「ルビー、暗いから明かりをつけてくれ」
「まだだめダメ、お兄ちゃん」
「まだダメってなんだよ?」
「ミヤコさん持ってきて!」
「はいはい」
そう言ってミヤコさんが持ってきたケーキの上には、数字の11を模したろうそく刺さっていて、ゆらゆらと炎を灯している。
「と、いうわけで、私とお兄ちゃんの誕生日会です!」
「ちょっと遅くないか。もう過ぎてるだろ」
「うるさいなぁ、ぶっ飛ばすよ?」
「何でもございません」
私が訓練を受けるようになってから、お兄ちゃんは私のやることなすことに文句を言わなくなってきた。やはり実力! 実力がすべてを解決する!
「ハッピバースデーディア、アクアとわたしー!」
「お誕生日おめでとう、二人とも」
「ほらお兄ちゃん、一緒にろうそくの火消すよ?」
「ルビーだけでやれよ……いえ、やらせていただきます」
私は拳を握りしめてお兄ちゃんを威嚇した。
やはり実力!
「「ふ──」」
ふっ、と息を吹けば儚くその灯火が散ってしまい、あとには細く煙だけが昇っている。
「それでは私からプレゼントです。お兄ちゃんにはルリトウワタの花束を!」
「……ありがとう」
「ミヤコさんにはカーネーションの花束を!」
「ありがとう、ルビー」
「それと、いつもお仕事頑張ってくれてありがとう。お、お母さん」
気恥ずかしくてもじもじと体を揺らしながら、私はミヤコさんをそう呼んであげた。
「ルビ──!!!」
「うげっ……離してミヤコさん。ぐるじぃ……」
私なりにミヤコさんが喜ぶと思って考えたプレゼントだったが、どうやら喜んで貰えたらしい。
「それからママにはこの白い薔薇の花束を──いたっ。お、お兄ちゃん?」
ママの仏壇前に私が花束を置こうとすると、お兄ちゃんの手が私の腕を掴んだ。酷く力がこもっていて、握られるこっちとしては痛みを感じるくらいだ。
「ルビー、それ、どこで手に入れた?」
お兄ちゃんの目が怖い。白い薔薇って何か不吉な意味でもあっただろうか。でも花屋さんの人に聞いた限りだと特に何もなかったし……。
「普通に花屋さんで買ってきただけだよ?」
「……そうか、悪かったな。腕掴んで」
私はこの花束をくれた親切な人のことは話さなかった。だって他人に花を買ってもらったと知られたらミヤコさんが煩いだろうし。
「お兄ちゃんは何をそんなに怒ってるの?」
「いや、別に怒ってねぇよ」
「ルビーちょっと良いかしら」
私はミヤコさんに手招きされ、のこのこと側によると小さく耳打ちをされた。
「アイさんが亡くなった日、ストーカーが持っていたのが白い薔薇の花束なのよ……」
「……え!? そうだったの!?」
知らなかった。いちいちそのストーカーについて調べたりなんてしなかったからさ。だって、もう死んだストーカーのことなんて一刻も早く忘れたかったし。
「アクアはそれを気にしてるんじゃないかしら」
「あちゃー。ならこの花束、どうしよう?」
「……昔壱護が使っていたデスクの上にでも置けば良いんじゃないかしら」
「ミヤコさん天才!」
というわけで白い薔薇の花束は今は物置となっている旧社長の部屋に置かれましたとさ。
娘のように思っていた人物の死の象徴みたいな花を部屋に置かれるなんて可哀想に。でも私たちを置いて蒸発したから、この扱いも仕方ないんだよ。はっ、ザマァないね。
「それで、最後に二人に提案があるんだけど」
「なんだ」
「どうしたの?」
「そのうち、日帰りでも良いから何処か旅行に行きませんか! 家族で旅行、どう!?」
「良いわね。スケジュールを空けておくわ」
「……ミヤコさんが良いなら」
「やった──!」
私はアイドルと同じくらい家族も大好きだから、この時間を大切にしていきたい。
家族とアイドルの両方をこの手に抱える、ママ譲りの欲張りさんだから。