超越者な退廃聖女様のTS影武者にされた結果 〜滞る聖務を捌いて狂信者爆増だし、聖女様にはドロドロに依存されました〜 作:玉鋼
なんでも、ふたつ。
それってもしかして、さっきのご褒美追加でふたつ? というか、なんでもって。
たいていのことは叶えられるなんて、ふつうなら耳を疑う言葉だけど、それを口にしたのが聖女様だっていうなら話は別。
なんせ聖女様は、かつて人間では敵いようもないと言われた魔王討伐に大きく貢献して。あらゆる怪我や病の治癒、果ては限定的な死者の蘇生までできるなんて話だ。
治癒魔術以外にもいろんな魔術を修めてるっていうから、聖女様にできないことなんてほとんどないに違いない。
そんな聖女様から、なんでも。
「どうした。タタラ、なんでも言え」
「はい……。でも、なんでもって言われると悩んでしまって」
頭を悩ませる。聖女様に叶えてもらいたいこと、ふたつもって言われると……。それに、俺は仕事としてやらなきゃいけないことをしてるだけだし。
やっぱり、欲張った願いなんて言うべきじゃないよね。じゃあ、まずはひとつ――。
「決めました。……ひとつめはその。質問、です」
「ふうん? いいぞ、なんでも聞け」
「はい、じゃあ」
ちょっと、聞きづらいんだけど。ずっと気にかかっていたこと――。
「聖女様が俺を側付きにして。聖務の代わりなんて口実で――――俺に力を与えてくださったのは、なぜですか?」
そう口にした瞬間。いつも半分閉じられた聖女様の目が、すこし大きく開いた。
黄金の瞳で俺を射抜いて、聖女様がひとこと。
「ひとつめ、それでいいのか?」
「はい。聖女様は俺にすごく優しいから。……そんなの、ほとんど初めてで。気になってたんです」
「わかった」
俺はごくりと唾を飲み込む。そして、聖女様は言った。
「タタラ。――お前は、わたくしにすこし似ている」
「え……にて、る?」
「すこしな。タタラ、才能があるのに……これまで酷い目にあってきたろう。ちがうか?」
「ちょ、ちょっと待ってください。理解が追い付かない……。その、まず俺に才能って、そんなわけないです。だって俺、魔術で聖女様の姿にしてもらえるまで、まともに魔術一つ使えなくって」
聖女様に似てるどころか、才能の欠片も持ってない。だから俺はこれまで、いろんな人に迷惑をかけて嫌われて……。
「嘘じゃない、タタラには才能がある」
「そ、それってなんの……もしかして、魔術関係以外ですか? 俺が今まで気づいてないだけで、実はすごく剣術の見込みがあるとか」
「違う。でも、魔術ってわけでもないか。タタラの才能は――」
俺の、才能は?
「――魔女の才、だから」
「……魔、女?」
なんだそれ。魔女って、魔術師じゃなくて? 俺、男なのに?
混乱の渦中にいる俺に、聖女様は言葉が足りないと思ったのか、補足を入れてくれる。
「魔女とは、魔法を操る者。すなわち、魔法の才を持つ者だ」
「魔法? それって、魔術と何が……」
「魔法は術理ではない。法――法則だ。それも、使用者の内にある」
術理、法則。ダメだ、よく分からない……。
俺が今まで魔術を成功させられなかったのも、魔術じゃなくて魔法の才能があったから? じゃあ、何で俺は魔法を使えないのか。
「ごめんなさい……まだあんまりわかってないです。法則ってなんですか? 魔法を使ったら何ができるんですか……?」
「広く知られたことじゃないから、知らなくても仕方ない。魔法とは――――世界に己の望む法を敷くこと、あるいは願った事象の構築。呪文も陣も必要ない」
「それって。なんだか、とんでもない力のような……ッ」
「そうだ。神話の時代にはたくさんいたらしいが、いま魔女の才を持つ者は世界でもほんの一握り。この国では、わたくしの他にはタタラしか見たことない」
「そんな珍しい……というか、聖女様も魔法をっ?」
「似てると言ったろう。わたくしも魔女だ。そもそもタタラを側付きにしたのもそれが理由だ」
初めて聞いた。似てるってのはそういうことか! 俺にも、聖女様みたいなとんでもない実力を身に着けられる可能性が? ええ、ほんとに?
「比較対象が聖女様しかいないと、ちょっとその、一切実感が。そもそも俺、魔法なんて使ったことないですし……」
「? 気づいてないのか?」
「え?」
「タタラ、もうすでに魔法使ってるぞ。聖務のとき、毎日」
ええ!?
「あの治癒魔術って……魔術じゃなくて、魔法なんですか!?」
こくりと頷く聖女様。呆れた目で見られてる。
確かに、とんでもない効果とは思ってた。
【
てっきりあれは、聖女様の姿でだけ発動できる、聖女様の力なんだと思ってたけど――。
「タタラにはわたくしが力をあげる必要などない。望めばそれを為せる――魔法とはそういう力だ」
「それは……」
本当に、そんなとんでもない力が俺に? でも、それならなぜ聖女様の姿でしか力を使えないんだろう。それに、今日癒しの力が及ばなかった人がいたのは……。
「――ただし」
そんな俺の疑問に、聖女様は回答を告げた。
「……どういうわけか、タタラの力はかなり不安定だ。だから、わたくしが安定した器を作って、力を振るえるようにした。それに、型にはめてしまえば自由もきくまい」
「それってつまり、あの聖女様の姿は俺が魔法を使えるようにするため……ってことですよね? じゃあやっぱり、聖女様のおかげだったんですね」
「……。そうとも言うかもしれん」
ちょっとばつが悪そうにうなずく聖女様。
「だが。わたくしの形代として力を振るう感覚に慣れれば。いずれは姿に関係なく魔法を扱えるようになる」
「……それは、とても嬉しい報せですね」
冗談でもなんでもなく、ほんとにそうなんだとしたら。これまたくさん嫌われてきた俺も、やっと人の役に立てるように。
……と、今はそんな皮算用はよしておこう。聖女様が言うんだから嘘じゃないだろうけど、きっと言葉で聞くよりずっと大変な修練が必要だろうから。
今日からは毎日仕事終わりに特訓かな……!
そう、ひそかにやる気を燃やしていると。
「じゃあ、次」
「え?」
「褒美。ひとつめが今のでいいなら、次はふたつめ」
そうだった。衝撃的な話を聞いて頭から吹っ飛んでたけど、願いはふたつ聞いてもらえるんだった。
でも。ふたつめは、実はもう決めてるんだ。
俺には、少なくとも今はできなかったこと。俺の望みで、しかも聖女様の評価にもつながる一石二鳥の願いを。
俺は口にした。
「実は。今日の聖務で、俺が治せなかった人がいるんです。だから……聖女様には、その人の治療をお願いし――――」
その、瞬間だった。
唐突に。
――全身にかかる、凄まじい重圧。
「――!?」
まるで白い寝所がどす黒く染まったかと勘違いするほどに。重たくとげとげしい、魔力と感情の発露。
その出所は、ずっと穏やかな退廃を漂わせていた聖女様で。
あまりに荒々しいその――怒りにも似た何かに、俺は思わず呼吸すら止めてしまっていた。
しかし、その状態も長くは続かなかった。一瞬たりとも逸らせなかった視線の先、恐ろしく見えた聖女様が、ハッと何かに気づいたように目を開く。
そしてその瞬間、嘘のように消え失せる重圧。
「――ッは! はぁッ……!」
ようやく帰って来た体の自由に、慌てて酸素を吸い込む。
ほんの少しの時間だったはずなのに、まるで永遠のように感じた。あの圧力、恐怖……。
そんな俺に対して聖女様は。
「……ごめん。すこし、冷静さを失った」
「ッ。せ、聖女様が謝ることは……! ただ俺が、きっと何か失礼なことをっ……」
「べつに、失礼ではない。ただ――――わたくしは、才人の足を引くことしかせぬ凡愚に救いなど与えん。反吐が出る」
さっきまで優しかった聖女様とは思えないほど、黒い感情がこもってる。
その目は俺を向いてるけど、俺じゃない誰かを見てる。
きっと、俺は聖女様の触れちゃいけないところに触れちゃったんだ。やっぱりちゃんと謝らないと。
「あの、本当に、申し訳ありません……! 俺、調子に乗って……」
「謝る必要はない。願いを求めたのはわたくしだ。ただ……わたくしにも、叶えたくない願いがある。……こうして願いを聞いてやるのも、タタラが特別なだけのこと」
すっとソファから浮かび上がって、ベッドへと戻っていく聖女様。
「――今日はすこし疲れた。もう休む。……ただ、あまり気に病むな」
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら。
「タタラは、わたくしの特別だ。この国でもただひとりの同輩。――……どうか、わたくしを恐れないでほしい……」
顔を見せずに俺を気遣う聖女様の言葉を、ただ、聞くことしかできなかった。