超越者な退廃聖女様のTS影武者にされた結果 〜滞る聖務を捌いて狂信者爆増だし、聖女様にはドロドロに依存されました〜 作:玉鋼
そうして。
いつものようにベッドで横向きに寝て、肘を下につき手のひらで頬を支える聖女様。
俺は目を閉じ動かなくなった聖女様を見たあと、胸に残る後悔とともに仕事に取り掛かる。
……聖女様は教会どころか聖王国でもトップクラスの重要人物だ。そんな人に、無邪気なお願いなんてぶつけるべきじゃなかったのかな。
それでも……あの子を見捨てることは、きっと良くないことだ。また聖女様が悪く言われるかもしれないし、そもそも助けを求める者を助けることに理由はいらない。
よし。どうやら俺には魔法の才能なんてものがあるらしいし。やっぱり特訓だね。
思索を巡らせながら、部屋の掃除や消耗品の交換をして。あとは、万が一聖女様が夜間になにか食べたくなった時のために軽食を準備。
そんなもろもろの仕事がやっと終わった頃。
「――それでは、聖女様。今日はこれで失礼いたしますね」
「ん」
「今日はほんとうに申し訳ありませんでした。明日もまた、いつもの時間に来ます」
「……待ってる」
ベッドから返ってくる言葉を聞いて。俺は、白亜の寝所を後にした。
今日はいろいろと濃い一日だった。
いつものごとく聖務の代理は精神的に疲れるけど、あれも聖女様の親切の一環だって分かったし。それに、俺に聖女様と同じ才能が眠ってるって。
これからも、聖女様にはじゅうぶん気を遣ったうえで、チャンスがあれば教えを乞うてみようかな……。
そうぼんやり考えながら、すっかり人がいなくなった大聖堂を歩く。時間も遅いから、いつも通り人に会うことなんてないと、そう思い込んでいた。
その、直後だった。
「――おっっっそい! ですわね! 待ぁちくたびれましてよッ!」
「う、わッ!?」
ええ! ま、曲がり角の先に人が……! だれ!?
「いっったいどれだけだらだら作業してたのかしら。あなたまさか、お美しい聖女様に見惚れてサボってたんじゃありませんことッ?」
そんな怒りのこもった言葉を浴びせてきたのは、修道女服を身にまとう小柄な女性。頭巾の下から、腰に届くほど長い金髪が波打ってる。
なんか、当たり前のように話しかけられてるけど。誰だこの人。向こうは俺が聖女様の側付きをしてるって知ってる?
「あの……失礼ですけど、あなたはいったい? 俺のことはご存じみたいですが」
「ええそれは存じてますとも! ……というか、当然知ってるに決まってるでしょッ! 聖女様の真の側付きたるこのわたくしの、その後任が誰かなんて!」
「え。後任って。じゃあもしかしてあなたは、俺の前任の――?」
「……ええ、いかにも! わたくしこそが、だれよりも聖女様のことを敬愛し、理解し、お世話させていただくに相応しいッ。タタラさん、あなたの前任者である――――ミンク・スクアードよ! ……ですわよ!」
この人、ちょこちょこ口調が。……いや、まあいいや、それより。
「自己紹介、ありがとうございます。ご存じとはいえ、こっちからも一応……。俺はタタラといいます。よろしくお願いします」
「よろしくする気はありませんことよぉ!」
あ、あの。もうちょっと声、抑えられません? 誰か来ちゃいますって。
と、いうことで。
俺の前任者を名乗る、ちょっと賑やか目なミンクさんを連れてきたここは。
「ふうん。中庭、ね」
「はい。ここなら建物の中とは隔てられてますし、多少うるさくしても――」
「……やるわね、この子。ここに聖女様がお好きな白夜草の花が咲いていると知って? このわたくしに、聖女様知識で勝負を挑んできた……ッ」
「違います。誤解です」
「……あら、そう? 失礼しましたわ」
なんだかすごく愉快な人みたいだけど、なんだか俺にすごく対抗心を持ってそうだ。聖女様に対する崇拝を聖女様の姿以外で受けとめるのは初めてだけど、俺の立場を知られてるとこんなことになるんだ……。
「なんだか、疲れたような顔をしているのが癪ですわね。こんな時間まで聖女様と一緒にいられたくせに、仕事が大変だとでも言いたいのかしら?」
あの、言いにくいんですけど。ミンクさんと話しているからかもしれないです……。
と、それよりも。もう時間も遅いし本題に。
「――それで、ミンクさん。俺に話っていうのはいったい?」
そう。ここへ来る前、ミンクさんから言われたこと。現在の側付きである俺と、なにやら話したいことがあるって。
実はちょっと警戒してる。この人、聖女様のことをすごく慕ってるみたいだし、なにか俺に理不尽なこと言ってくるんじゃって。
なんなら、側付きを変われなんて言われるかも……?
そう身構える俺に、ミンクさんはすこし言い淀んで。けれど、意を決してという風に、口を開いた。
「あ、の……。――聖女様は、なにかわたくしについて話したりしてませんでしたこと……?」
「え? ミンクさんについて?」
「ええ。……わたくし、あなたの前の側付きを一年以上続けていましたが、こんなことは初めてですわ。――あれほど頑なだった聖女様が、また聖務を再開されるなんて」
それは……。どうしよう、言えない! 実はあれ聖女様の姿をした俺です、とか。そんなことしてくれてる理由も、たぶん俺が魔法使えるようにするためです、とか!
「今回のことを聞いたときは、ほんとうに驚きましたわ。わたくしが聖女様の側付きを解任されたショックで寝込んでる間に、まさか聖女様がこれほど精力的に動かれるなんて、と」
「……寝込んでたんですね」
「ええ、当たり前でしょう? あの時のことを思い出すといまでも胸が痛いッ。せめて聖女様から直接言われるならまだしも、人伝だし! ……でも、それはもういいんです。聖女様がお決めになったんですから、深い理由があるに決まってますわ」
言えない。俺が原因だなんて。この人、言ったらたぶん爆発するよ。
「――わたくし、今回のことをお父様から聞いたとき、心臓が止まるかと思いましたわ。まさかまた聖女様がその奇跡を振るってくださるなんて。……極めて治癒魔術の水準が高いこの聖王国で、それでもなお誰も癒せない病や怪我。それをたちどころに癒してしまう、聖女様の尊きお力……ッ」
「ス、スゴイデスヨネー」
「すごいなんてもんじゃありませんわッ! あのお方ひとりで、これまでいったいどれほど多くの人を救ってきたと思っていますの!? 百年近くも動かれ続けた結果、自分あるいは身内がその恩恵を受けている割合はおよそ――五割! 国の半分ですのよ!?」
「ごッ……五割ッ? そんなに」
「ええ! ですからわたくしたちはみな、この体に流れる血に聖女様への敬愛が宿っているのですッ。それこそ、わたくしなんて聖女様に直接……ッおっと、これはあなたに話すには惜しいですわね。心のぽっけにナイナイしまして。――……でも、だからこそ――」
どうしたんだろ? 急にしゅんとしたミンクさんは、どこか切ないような表情で、聖女様の寝所がある方向を向いて。
「――心配、なんですの。聖女様が聖務をこなせなくなったのは、きっと何か大きな理由がおありのはず。それがまたこうして聖務を再開してしまって、国中からの大きすぎる期待を、あの小さな可愛らしいお体ですべて受け止めて」
「それ、は」
言われてみれば、そうなのかも?
現状は聖女様……というか俺に何人もの命が預けられている状況。重圧がないと言えば嘘になる。
でも。人の役に立てる喜びはそれ以上だけどね!
「わたくし、側付きを外れると聞かされた日、思わず聖女様に直談判してしまいましたの。聖女様を思うあまり、余計なことも言ったりしてしまい……。――だからずっと、心配で」
……でも、そっか。ミンクさんはほんとに聖女様のことが大好きなんだ。ここまで聖女様のことを気にして、もしかしたら自分のせいで聖女様が無理してるんじゃないかって。
俺が聖女様の代わりをしてるなんて、ミンクさんは知りようはずもないし。
よし。それなら……!
「大丈夫ですミンクさん、安心してください。聖女様はずっと健やかに過ごされてますし――――ミンクさんのこと、一言も話してないですから!」
そう、優しく笑って言ってあげたんだけど。
「あなた、それは。――わたくしのこと煽ってますのォ!?」
なんでえ!?