カスカディアの空の王(先代)、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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『マガダンの英雄、先生になる』と同じ世界観で展開される小説です。
独立性が強いものになること、視点が増えすぎると訳が分からなくなってしまうことから、このように別の小説として分けました。
マガダンとは基本的にほぼ同時並行で展開される予定ですので、両方とも見ていただくとより楽しめるかと思います。

マガダンの方はほとんどブルーアーカイブ原作に沿ったストーリーになったことで自由度が少なく、キャラの置物感を払拭出来ませんでした。
こちらでは、ある程度その点について気を払い執筆していこうと考えています(尤も、肝心の第1話たる今回はその目的はあまり果たせませんでしたが...)。
評価、感想お待ちしております。


EMBER-01: The Crimson Skies

『...何、警告が鳴っているぞ!』

『誰だか知らんが、今すぐやめろ!戦争は終わりだ!』

『こっちは警告の対象が見えない!何が起きているの?』

『機銃を使え!今すぐに!』

 

...ターゲットロック。目標は───

 

『全員が攻撃を受けてる!』

 

残存するカスカディア独立軍と連邦軍の全て。

そして。

 

『どこからだ?敵を教えろ!』

『敵が消えた?』

『見えた!避けろ──』

 

カスカディア首都プレシディア市街地。

 

 

 

 

例え祖国を燃やしてでも、成すべきことがある。

 

 

コルディアムの影響でノイズまみれのレーダーの中に、傭兵IFFを1機確認。機種、ACG-01キメラ。

 

 

祖国を燃やすことになったのも、同胞を殺したのも、中隊の僚機が死んだのも、この顔の傷も。

 

すべて。

 

すべて。

 

すべてすべてすべて。

 

すべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべて

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は歴史の奴隷に過ぎん」

「貴様が拒んだのは、大厄災に見舞われたこの世界で人々を守ることができる唯一の秩序だ」

「これは全て貴様のせいなのだ」

 

 

 

──これは復讐だ。祖国を燃やし、僚機を殺した傭兵への。そして、最後にこの焼け爛れた大地に立つ者を決める戦いだ。

 

「そうして貴様は何を得た、傭兵?屍の山か?金か?それとも瓦礫の上に経つ玉座か?」

「貴様を完全に闇に葬り去ってやる。例え千度天地が返ろうと、お前に光が当たらないぐらいにな」

 

奴はACG-01、オセアニアの試作機だ。Sk.37(今までの機体)で及ばないのなら、新たな機体を使う。

 

──PW-MK.I(プロジェクト・ウィングマン)を。連邦の、イカロスの全てを注ぎ込んだこの機体に、俺自身の全てを注ぎ込む。

 

BML-U(バーストミサイルランチャー)発射。本来は多目標を同時に叩き潰すべく開発された多連装ミサイルを、王冠付きただ1機の為に撃つ。

 

外れ。外れ。またしても外れ。一斉射でカスカディア軍と連邦軍の戦闘機は全て落とせたのに、この野郎だけはかすりもしない。

 

お返しと言わんばかりに、奴からのミサイルが来る。2発接近。1発目を回避するが──

 

「...驚いたな」

 

不安定なコルディアムを燃料に使っている分、簡単に機体が破損しては話にならない。そのためか、機体の耐久性は今までの機体とは比較にならない。ミサイルを被弾したが、機体の管理システムは、その損害がまったくの軽微であることを示していた。

 

「逃げも隠れもできんぞ。これは貴様の行いが呼んだ結果だ。貴様が結んだ契約、その果てだ!」

 

この傭兵が結んだ契約の報酬──それは、まさに世の傭兵が神聖と崇め奉るもの。15年前、傭兵国家と化す寸前だったオセアニアより、カスカディアが回収したもの。プロスペロの惨事でカスカディアが燃えようとなお、奴が戦い続けた理由。その契約が故に、この国はこうなった。見渡す限りの地熱嵐。地上の地獄。それも全て、あの傭兵が為に起きたことだ。

 

「カスカディアは俺の故郷だ!喜んで祖国を燃やし、同胞を殺したと思うか!?」

「お前が現れなければ、俺は全てを失わずに済んだのに!」

 

この不安定な世界でカスカディアが生き残るには、連邦の門下に降る他はなかった。だが、カスカディア自身がそれを拒んだ。

だから連邦の側で戦った。祖国を守るために、祖国に牙を剥いた。その行き着いた先が、これだと?

 

絶対に認めない。もはや停戦は結ばれ、カスカディアは独立した。それでも、王冠付きだけは殺す。

 

BML-Uを再度発射。今度は、2発命中。だが、こちらも何発かミサイルを食らった。少し損傷が増えてきたが、まだ支障はない。

 

この程度で殺れるとも思ってはいない。そもそもBML-Uの1発の威力など、微々たるものだ。何発と当ててようやくダメージが入る。ましてや、相手が王冠付きなら、ミサイルの威力を受け流されもするだろう。

 

コンソールに起動キーを入力。レールガンを起動。クールダウン・インターバルなど不要だ。今、この時だけ使えればいい。

 

「一騎打ちだ。邪魔は入らん。僚機もいない。戦争でさえない。お前と俺。勝った方が最高のパイロットになる」

 

王冠を狙い、6発を連続発射。オレンジ色の光の筋が放射状に伸びる。

全て外れ。最初から当たるとも思ってはいない。まともに食らってはエアシップもタダでは済まないレールガンを、通常の戦闘機が食らっては粉々になる他ない。例え王冠といえど。どこかで、1発でも当たればいい。

 

「安全装置は全て切った。本当の勝負だ」

 

中心に捉えた。奴を囲むようにレールガンを撃ち、続けざまにBML-Uを発射。逃げられはしまい───

 

いや。逃げられた。レールガンの弾筋の間をすり抜けて低高度に逃げ込んだか。

 

翼を翻して奴を追い、溶け落ちたプレシディアの市街地を飛び抜ける。倒壊しかかったビルの間を縫って飛ぶ。

 

「モナーク、お前は王を名乗っている。だが、何を支配しているのだ?死者か?連邦は平和のためにこの戦争を戦った。それを貴様は否定したのだ!」

 

奴からの返事はない。ただ、ミサイルと機銃の弾を浴びせてくるだけだ。

──忌々しい。まるで機械のように、正確無比に、なんの感情も乗っていない弾を撃ち込んでいくのみ。それが苛立って仕方がなかった。

 

「カスカディアの人々から貴様は何を奪った?故郷だ。では一体何のために?世界との繋がりを絶つことになるだけだ。50年も経てばまた同じ争いが起きる。歴史が、貴様の正義を証明してくれると思っているのか!?」

「──どうしてここにいるのかすら、どうでもいいくせに!」

 

奴が金の為に繰り返した殺戮が故に、この先さらに多くの血が流れる。

──貴様は果たして、この血に流れる血を、漂い続ける幽霊達を、50年先でも背負い、塗れる覚悟はあるのか?

 

「国という概念を取り払うことについてはどう思う?世界に対する自分を定義する国境がないことについては?」

 

国を持たぬ傭兵に、大義などない。あるのは名声と金だけだ。金が為に国が焼け、幾百万が死に、不安定な世界の中に故郷が置かれる。

 

「『大厄災』は人類を破滅させた!やり直すチャンスを得たのだ!なのに、これがお前のやり方なのか?」

 

やはり返事などない。少したりとも、奴の飛行が乱れることもない。ビルに空いた穴の中に飛び込んで逃げようとする奴を追いかける。

ビルの向こう側に飛び出たが、奴が見当たらん。どこかと思えば、上からミサイルが撃ち込まれた。迎角リミッターを起動して逃げ切る。

 

「貴様が俺をここまで駆り立てた。連邦ごときのために人が死に、国が燃え、何百万が死んだ。一体いくつの魂が漂い続ける?俺と貴様、どちらかがその道連れだ!」

 

向かい合う敵に機関砲を撃ち込む。こちらは単発火力に優れる低レート機関砲、奴は通常の機関砲。ガンマン同士の撃ち合いはどちらも同じ程度に被弾して終わった。

 

「ここは俺の祖国だ!」

 

そして、ここは貴様の祖国でもあるのだ。自らの行いが故に祖国が燃えるのを目の当たりにして──いや。貴様はどうとも思わないだろう。

 

「俺達はカスカディアの魂のために戦っている!──それが契約なんだろ、違うか?」

 

契約がそうだろうと、実際貴様がどう思っているかは、別だろうが。カスカディアの事を少しでも考えたか?貴様の目に映るのは報酬だけだろう。貴様のような犬に、祖国の空は渡さん。

 

最後の剣を抜く。エネルギーオーブ弾とAEWL(空中エネルギー兵器投射器)を展開。一方はコルディアムのエネルギーフィールドを展開し、もう一方は空中からレールガンを数発連射する使い捨ての投射器だ。正真正銘、最後の手だ。

 

「俺を落としたらどうなるんだ?考えたことがあるか?どこに帰るんだ?どこに向かう?お互いに最後はどうなるか、分かってるはずだ!」

 

奴にとっても窮屈な空だろう。攻撃の手が途端に緩み、回避に集中しているのが目に見える。AEWLの発射するレールガンの精度は悪い。それでも、レールガンが発射された跡はコルディアムの熱エネルギーが残りダメージを与える。奴の行く先を塞ぐには十分だ。

 

──いける。奴を殺せる。挑発してミスを誘わせる。

 

「殺せ!俺を殺して世界がどうなるか確かめろ!」

 

尤も、殺せればの話だがな。

 

「どっちにしろ、お前の命は今日終わるんだ!」

 

苦し紛れに放たれたミサイルを、迎角リミッターで急旋回し振り切る。代わりにBML-Uを放ち、数発の命中を確認。

 

「それと俺の中隊の連中だ!死ぬべきだったと思うか?」

 

昔からともに戦い続けてきたクリムゾン2から4、そして新入りの5から8。どいつもこいつもいい奴らだった。俺についてきてくれた。だが、全員プロスペロで殺された。

生き残ったのは俺ただ1人。この治ることは無い火傷と、7人の僚機を引き換えに、だ。

どうせ、高濃度のコルディアムの影響でいつまで生きれるとも知らん。なら、やることは1つだ。

 

「連邦はお前について忘れるだろう。だが俺は違う!世界のために戦うんだ!」

 

奴だろうと、巨大国家太平洋連邦の歴史の内に飲まれ、やがては忘れ去られる。だが俺は違う。世界のために奴を殺し、それを死ぬまで記憶し続ける。俺が死んだ後には、奴には文字通り千度天地が返ろうと、光が当たることは無い。

 

死ね、傭兵!(Die, mercenary!)

 

エネルギーオーブと、AEWLから放たれたレールガンの光跡に、身動きが取れない奴の後ろからレールガンを撃ち込む。

 

 

 

 

 

命中した。戦果確認システムが命中を報告してきた。何より、パイロットとしての勘が、奴に当てた手応えを感じている。ついに成し遂げたのだ。

 

 

 

「──!?」

 

いや、違う。命中したのは確かだ。しかし──翼端を少し掠ったのみ。そのまま翼を翻した奴は、4発のミサイルをこちらに撃ってきた。

 

 

1発目。回避。

 

 

2発目。迎角リミッターで回避。

 

 

3発目と4発目は──

 

リミッターは使用不能。既にそばまで迫ってきていたミサイルは、コルディアムエンジンの排熱を捉えて離さない。

 

ひときわ大きな爆発音と衝撃波。

 

 

 

「いや!いや、まだだ!」

 

もはや蓄積されたダメージは隠し通せはしない。キャノピーにはヒビが入ってるし、エンジンは消火装置を使っても消しきれないほどに出火している。コルディアムの漏出は、あと5分も飛べば空っぽになる事を示していた。コックピットの計器の全ては赤く染まり、この機体の終わりが近いことを示していた。

 

「ちくしょう!」

 

だが、それでも。兵装の発射機能は辛うじて持っているし、無理をすればエンジンもまだ回せる。主翼も尾翼も吹き飛ぶ寸前だが、まだ持ちこたえている。

 

奴にだってダメージは入っている。このままいけば、奴を落とせる。

 

「あと少しで仕留められる!」

 

スロットルを押し込め。操縦桿を引け。撃て。殺せ。コックピットに流れ込むコルディアムで朦朧とする意識の中、必死に奴を捉える。

 

頭に浮かぶのは、あの日の記憶。雄大な山脈の広がる祖国が。この戦争で死んだ、かつての友と学んだ校舎が。父と...母の顔が。そして、もういない僚機達と過ごした日々が。全てを砕いた、王冠(Monarch Butterfly)のマークと共に。

 

「はぁっ、はぁっ、ああー!!」

 

記憶を振り切り、機体を傾ける。迫るミサイルを避けながら、レールガンを放ち、BML-Uを撃てるだけ撃つ。レーダー上に示される、レールガンの弾道の赤い警告が、スクリーンを埋め尽くす。

 

「さあ!来やがれ!仕留めてみろ、この野郎!」

 

誰かがこれを見ているならば、もはや戦いの結末は決まっているように見えるのかもしれない。それでも、俺に選択肢など存在しない。戦い続けねばならない。

──そうだ。こうなるのも、奴が導いたんじゃない。俺が、自分自身を抜け出しようのない袋小路に誘ったのだ。

 

「畜生...クソっ!」

 

結局のところ、これは俺にとっては復讐であろうと、それ以外の人間にとっては無駄な戦いであり、こと奴にとっては契約の一部でしかないのだ。

 

ならば、せめて。最後に。

 

 

奴を正面から捉える。相対した王冠に、この機体最後の力を振り絞らせる。

 

レールガンを5発発射。

 

全て外れ。

 

奴からのミサイルは...もはや、避けるだけの機動力もない。

 

全てのスクリーンがダウン。コックピットの各所から火花が散り、スイッチはその全てが機能を停止した。

 

実際のところ、この戦いは復讐ですらなく、ただかつての王座に縋り、求め、悪魔の力に手を出したにも関わらず無様に敗北した、哀れな男の末路でしかなかったのだ。

 

ならば、せめて。この革命の終わりは、潔く戴冠をもって終わりとしよう。

 

「モナーク」

 

この国の空は貴様の物だ。俺から簒奪したならば、その空にいつまでも縛り付けられればいい。

 

雷鳴が聞こえたら(When you hear the thunder.)

 

俺から全てを奪い取った末に得たその座を、守り続けろ。

 

嵐が迫る音が聞こえたら(When the storm comes for you.)

 

それが、貴様の責務だ。俺が──貴様に唯一、一矢報いれることだ。

 

俺を思い出せ(Remember me.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『...なぜ(Why)?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なぜ、だと

 

 

 

 

 




用語解説:クリムゾン隊
連邦治安維持軍カスカディア方面空軍所属部隊。全連邦空軍最高峰の部隊であり、連邦の広告塔でもある。
中でもそのリーダー、クリムゾン1は世界最高のエースとしてその名を轟かせていた。少なくとも15年前のオセアニア戦争時には、連邦の切り札としての働きが成されていた。
治安維持軍は、自身の祖国よりも連邦への忠誠を選んだ者達が選抜されるが、クリムゾン隊はその最たる例と見なされていた。
その構成は、古参のクリムゾン1から4が、機動性に優れたSk.37 デジメーターBを、比較的戦歴の浅いクリムゾン5から8がVX-23を装備する形だった。
カスカディア紛争初期は、大きな星を象り、機体全体が赤を基調としたカラーリングの「パレードカラー」を、連邦空軍が致命的損失を被ることとなったベーリング海峡空戦時は、星を取り除いたカラーリング、そして最終的に全機が撃墜され、隊が壊滅することとなったプロスペロ上空の戦いの時は、灰色と黒で彩られたデジタル迷彩を纏っていた。
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