カスカディアの空の王(先代)、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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連邦迎撃スペシャリストは僕の1番好きな部隊です。原作では1ミッションしか出てこないですが、治安維持軍に並ぶエース格というキャラ付けが好きです。
テーマ曲のDanger Boundもいい曲ですし。
なお、連邦迎撃スペシャリストは少し直訳すぎるかな、ということで本作の中では連邦迎撃任務部隊という訳を当てることにしました。


EMBER-02: Wilhelmers

「...い...おい...おい!!」

 

やたらと耳に響く声。午睡を愉しんでいた俺の安眠を妨害したのは、紛れもない僚機の声だった。

 

「...もう少し寝かせろチャーチズ...どうせやることはないだろう」

 

良くもまぁ、ヘッドフォンで流しているジャズを貫通してくるものだと、チャーチズ──ヒューゴ・ガーランド少佐の声の大きさに少しばかり感心する。

 

リクライニングチェアを元の位置に戻し、ヘッドフォンを耳から外す。見上げた先の顔は、もう何年と見慣れたものだった。

 

「確かに俺達の仕事なんてないも同然だが、お前が寝てると色々と示しがつかないんだ。周り見てみろ、みんなお前の事見てるぞ」

 

少し辺りを見回してみると...なるほど、あからさまに顔を背けた奴が1名、2名、3名。

 

確かに、空軍大佐が格納庫の外に椅子を持ち出し、ヘッドフォンで音楽を聴きながら昼寝を貪っている...というのは、外から見ればあまり褒められたものではないのだろう。

それについての俺の見解はと言えば。

 

「...まぁ、昼寝したいのなら誰だってすればいいんじゃないか。俺は別に何も言わん」

「そういう事じゃなくてだな...」

 

呆れたように言うチャーチズの事を心の中で面白がる。チャーチズが何か言ってるのを尻目に、再度ヘッドフォンを耳に当ててやると、曲目は子供の頃から子守唄のように聴いてきたクラシックへと変わっていた。

 

青い空。暖かい空気。懐かしい曲。そしてやかましいチャーチズ。

カスカディア紛争が終わってからの、ヴィルヘルム首都シンプソンハーフェン、まさにその名を冠した空軍基地には、凡そ穏やかな日々が流れていた。

 

 

シンプソンハーフェン空軍基地。ニューギニア島とその周囲の島々から成る、太平洋連邦構成国ヴィルヘルムの首都、シンプソンハーフェンの玄関口となる国際空港に併設されたこの基地には、主にふたつの部隊が駐留している。

 

第1に、連邦空軍のラズリ隊。正式には「太平洋連邦空軍ヴィルヘルム方面軍第18中隊」とも言う。マガダン侵攻への対処に出向いた後、カスカディアに行くはずだったのだが...例の大災害で行き場が無くなり、結局紛争終結までマガダンに居座った後、こちらに帰ってきた。

 

そして...ここ、シンプソンハーフェンの看板部隊にして、我らが所属部隊たる第42迎撃中隊。長ったらしいフルネームを名乗るなら、「連邦迎撃任務部隊ヴィルヘルム方面防空戦闘群第42迎撃中隊」という名前になる。

と言っても、ヴィルヘルム方面防空戦闘群は俺達第42迎撃中隊しか所属していない以上、わざわざそう呼ぶ奴は基本いない。第42中隊、これだけで充分通じるからだ。

 

第42中隊のメンバーは4人と1隻。

まずは俺、指揮官のエメリッヒ・ミヒャエル・フォン・シュヴァルツェンベルク。TACネームはトリプリケーション。由来?聞かないで欲しいものだ。撃墜数は、確認済のものが54機。空戦の腕は、そこらの治安維持軍の連中よりよほどあると自負している。

 

そして、2番機のヒューゴ・オイゲン・ガーランド。チャーチズ(教会)なんてTACネームの理由は、実家が教会だから、らしい。航空アカデミーに入れなかったら神学校に行くつもりだったと聞く。撃墜数は37機。俺程ではないが、十分トップエースの名を称すに相応しい能力を持っている。

 

俺達2人は第42中隊設立時からのメンバーで、乗ってる機体はF/S-15。治安維持軍と同格の機体を寄越してくれるのは、クリスタル・キングダムに感謝すべきだろう。

 

そして、今はここにいない2機。つい1年前に加わったばかりの、期待の若手達だ。搭乗機はVX-23の、カール・アルベルト・“ゼクス”・オイラー大尉と、エーリヒ・“アークティック”・リッチャー中尉である。

 

だが、それ以外にこの部隊には「目玉」とも言える存在がいる。

空軍基地から見下ろす港に停泊する、1隻の連邦軍エアシップ。その船の主翼には、FI-42のテールコードが描かれている。

あれこそが、我が部隊の目玉にして、シンプソンハーフェン名物。リットリアMk.III級空中巡洋戦艦、FIS アークブレイドだ。

 

主砲となる、次世代型レールガン1基に、長射程の対空ミサイルランチャー2基と多連装対空ミサイルランチャー1基、そして対地対空両用のCIWSが4基。その他に対地攻撃用の105mm砲や37mm両用機関砲、対地ミサイルなどを発射可能なVLSが装備されている。連邦垂直海軍の中でも注目に値する火力を持つエアシップが、俺の配下にあるのだ。

 

 

そんなエースとエアシップを抱えた迎撃中隊も、この情勢では大してやることも無い。

連邦が平和なのかだと?間違いなくノーだ。むしろ、建国以来の危機に立っている。クリスタル・キングダムだって俺達を使えるなら使いたいのだろうが、あいにく連邦軍は予算不足が著しい。なんせカスカディアのアレで行動可能な軍部隊がほとんど消滅したのだ、再建に金をつぎ込んだら、俺達みたいなのを実戦に飛ばすような余裕は無い。訓練飛行だって、せいぜい週に1回か2回。どこの辺境空軍だ、という話である。

 

そういう状況下において、我々はタダ飯食らい兼給料泥棒としての任務に勤しんでいた。具体的には、格納庫の外で昼寝をしたり、昼飯から夕飯まで空き格納庫の中でポーカーをする、あるいは空港の連邦軍敷地側のエプロンの端から端まで、自転車レースをするとかである。

 

世間一般では、大佐階級なんて仕事ばかりで非常に忙しいと思われているのかもしれないが、少なくとも俺には当てはまらない。そもそも指揮しているのが1個飛行中隊だけである以上、書類仕事だのを扱う絶対数が少ないというのもあるが。一番は、俺達に何かと仕事を回そうにも回せないこの状況だ。

 

 

──全く愉快なものだ。夕食を食べた後の自由時間。日課の読書を、家から持ってきた古いレコードプレイヤーから流れるクラシックとともに愉しむ。これほど素晴らしいこともない。42歳にしては幾らか歳を取っている趣味だと取られるかもしれない。だが、こうして心落ち着かせる時間とは何にも変え難いものである。

そうやって、一日がまた過ぎ去ってゆく。願わくば、この日々が永遠ならんことを。

 

 

 

翌日。俺は空軍基地から足を伸ばし、ここ数ヶ月ずっとまともに活動していないアークブレイドまで来ていた。艦内は非常に静かだ。それもそのはず、最低限の乗員を残してほぼ皆下船しているのだ。多くの乗員は、シンプソンハーフェンの市街地の方で長期休暇を楽しんでいるようだ。

 

このアークブレイドも一応俺の指揮下にある以上、最低でも週一回は訪れて顔を出しに行くことにしている。

 

それなりに重厚な雰囲気を漂わせている艦長室の扉を開ける。芳香剤の甘ったるい匂いが俺の鼻を突いた。部屋の住人がおもむろに顔を上げる。

 

「トリプリケーションか。そこに座ってくれて構わん」

「ありがたく座らせてもらう、キャプテン殿」

 

俺がソファに座ると、この艦の艦長──ヨーゼフ・マティアス・クラテンシュタイン大佐は、部屋に備え付けのコーヒーポットに向かった。

 

「ここは相変わらず酷い匂いだな。今度はどこの芳香剤だ?」

「何でもいいだろう。お前のように貴族の家の出ではないんだ、高い芳香剤だの香水だのの趣味は無い」

「これについては出身の問題では無いと思うが...」

 

俺の言葉に鼻を鳴らしたヨーゼフは、そのまま淹れたコーヒーをこちらに持ってきた。コーヒーの香りが、部屋の匂いを打ち消す。

 

カップに口をつけると、フルーティな味わいが口の中に広がる。飲み込んだ後味は大いに爽やか。なるほど、これは...。

 

「ニューギニアのアラビカか。今回は地元の豆にしたんだな」

「ご名答。懐かしい味だろう?」

「いつもの味、とも言えるがな」

 

中々美味いものを淹れるものだ──ここに来る度に、この男のコーヒーの味には驚かされる。

 

「最近のアークブレイドはどうだ?」

「変わらずだな。クリスタル・キングダムからは出撃命令も出ていないし、訓練さえまともにしていない。技量の低下が心配になってくる頃だ」

「...生憎、コルディアムは中核領に優先的に回されてるからな」

 

カスカディアの喪失により、連邦のコルディアム生産量は大いに減少した。特に、連邦中核領はカスカディアのエネルギー資源に頼っていたため、計画停電による混乱が度々生じている。

 

軍に回される燃料用のコルディアムも、辺境反乱への対処に出撃していたり、中核領防衛部隊に所属しているエアシップに優先して割り当てられている。そのため、ヴィルヘルム方面軍のエアシップは慢性的な燃料不足に陥っているのだ。

 

「お前はクリスタル・キングダムや中央政府にも顔が利くだろう。何とかならんか」

「...クリスタル・キングダムに借りを作りたくないんでな」

 

そう返すと、ヨーゼフは顔を顰めた。自分勝手と言われればそれまでだが、ただでさえコルディアム不足で頭を悩ませているであろうクリスタル・キングダムを下手に突っついたら、俺の退役後の余生プランに影響が出るかもしれない。定年まで軍人勤めなど、御免である。下手に借りを作り、辞めたくても辞められない状況になるのだけは避けたい。

ましてや将官にでもなるなど、考えたくもない。政治屋とのパイプは持っていて損は無いが、自分自身が政治屋になっても何ひとつとしてまともなことは無いのである。

 

「全く...ヴィルヘルム随一の貴族、シュヴァルツェンベルク家の長男がこれとは、世間が知ったらどうなるだろうな?」

「今頃貴族を気にかける奴などいるか。いたとしても、皆弟のパウルが長男だと思ってる。あいつは、今やシュヴァルツサーマルの社長だからな。次の選挙で知事になるのはほぼ確実視されてる。世間の目はあいつに集中しているのに、こんな出奔息子のことなど、誰が気にするというんだ?」

「...治安維持軍に入ってない理由が分かった気がするぞ」

「こちらから願い下げだ」

 

何が嬉しくてポスターボーイなぞにならなければならないのか。ただでさえ、フォン・シュヴァルツェンベルクの名が鬱陶しいというのに。俺の名前が宣伝でもされたら、ただでさえ面倒な家との関係が、混沌極まりなくなることは見えている。今度は俺が顔を顰める番だった。

 

嫌な気分をアラビカとともに流した時、部屋の外から忙しない足音が響いた。

 

艦長室のドアノックに、ヨーゼフが「入れ」と反応すると、ノックの主は紅潮した顔を見せた。急いでやって来たらしい。

 

「艦長、それにシュヴァルツェンベルク大佐まで...」

「邪魔してるぞ、エルツェン中尉」

 

ヨーゼフの副官を務める、ヨハン・エルツェン中尉は少々の焦りを見せていた。ヨーゼフに何かを伝えに来た、というところか。

 

「俺が聞いていればまずいようなら、お暇させてもらうが」

「いえ!そんな...」

「お前は中隊指揮官だ、俺が知るべき情報でお前が知らない方がいい情報があるか?エルツェン、話せ」

 

ヨーゼフに促され、エルツェンは報告を始めた。

 

「その、また()()が起きまして...」

 

その言葉を聞いたヨーゼフが頭を抱える。アレ、とは。

 

「...今度はなんだ」

「FCSです。新型巡航ミサイルの制御装置がやられました」

「オセアニアで改修した時に装着したやつか。プレシディアの件でミサイル自体が使用禁止になってるから直ちに影響が出る訳では無いが...」

「それでも軍事機密だらけのブツです。看過できませんよ」

「クソ、今まで以上に処理が面倒な案件だな...」

 

ヨーゼフが頭を搔く。その目付きは苛立ちが伺えた。

 

新型巡航ミサイルの制御装置。それだけ聞けばなんてことは無いだろう。しかし、問題は制御するミサイルの方。型式はAGM-92。自走砲発射型の地上発射タイプ、MGM-92は、プロスペロの大惨事の際に連邦軍が用いたコルディアム弾頭ミサイル、まさにそのものである。そして、AGM-92はプレシディアの惨事の時、クリムゾン1の一派がプレシディアにぶち込んだミサイルだ。

アークブレイドは、このAGM-92を運用できるエアシップの第1号として、オセアニアでMk.III級に装備を更新すると同時に改修を受けていた。しかし、気になるのは。

 

「ヨーゼフ、『アレ』ってなんだ?」

 

俺の問いに、顔を上げたヨーゼフが驚いた顔でこちらを見る。奇妙なことに、エルツェンも同じだった。

 

「トリプリケーション、お前知らないのか」

「司令部の公報にあったはずですが...」

「...?いや、全く知らんが」

 

ヨーゼフは、少し呆れたような顔でこちらを見つめた。...司令部公報に最後に目を通したのが3週間前とは、とても言えなかった。

 

「今、各地の連邦軍で物資の盗難が相次いでいる。奇妙なことだが、いくら対策を講じようが、何ら効果がない。最初はちょっとした食糧から始まり、弾薬や砲身、今ではこうしてミサイルの制御装置を盗みやがる。その目的はまるで不明」

「同時多発的な犯行で、司令部も調査をしているのですが、痕跡という痕跡がまるでなく...」

「そうだな、まるで元からその場に無かったかのように消えて無くなっている」

 

物資の盗難が相次ぐ、か。今の連邦軍の体たらくは酷いものだ、警備の目をすり抜けて多少の盗難が起こるのは頷けるが、司令部が調査しても痕跡ひとつないというのは気がかりだ。

 

「今までアークブレイドは何を盗まれた?」

「最初は3週間前だ。食堂から、牛肉20kgが消失したという報告が上がってな。その次は乗員用の個人火器が3丁と弾薬が300発。そして...37mm機関砲の予備砲身と多目的砲弾が200発。1週間前には、VLSのミサイルコネクターが盗まれた」

「ミサイルコネクターだと?簡単に盗めるものではないだろう」

 

VLS(垂直発射システム)のランチャーとミサイル本体を接続するコネクターを盗むのは、肉だの銃だのを盗むのとは訳が違う。内部犯?だとしても動機が不透明に過ぎる。

 

「ああ。その日の艦の出入りを一通り洗ったが、そもそもその日はVLS区画に出入りした人員はいなかった」

「不法侵入者も捜索しましたが、成果はなし。痕跡は何一つありませんでした」

 

まさにお手上げと言ったところか。こうも盗まれては、そのうちコルディアムエンジン丸ごと持っていかれるのではないだろうか。

 

「少なくとも、バレないようにこっそり持っていくだとか、そういうタチでは無さそうだな」

「盗難自体はバレても構わんということか。しかし...」

 

ヨーゼフが顎に手を当て考え込む。俺もまたカップに口をつけた。すっかり飲みやすい温度になったコーヒーは、思考の整理に最適だった。

 

「やはり、動機が不明です。肉や銃火器はともかく、ミサイルコネクターや巡航ミサイルの制御装置なんて、金目当てに取るにはリスクが高すぎます」

「どれも足が付くからな。リスクばかりが無駄に高い上に、それら単体では何か出来る訳ではない。闇社会相手に売り捌くにしろ、使い道が無さすぎてむしろ値がつかんだろう」

「金目的ではないとして、では何だ?盗んだ部品でエアシップでも組み上げる気か?」

「パートワーク雑誌じゃないんだぞ、と言い切れんのがな...」

 

全員で唸る。こうなってくると、考えても仕方なくなってくる。不幸中の幸いと言うべきか、無くなったところで大した影響はない。大人しくクリスタル・キングダムに言うべきか...。

 

「ともかく、この事は司令部に報告しておく。流石にミサイル制御装置が盗まれたことは隠蔽できない」

「もちろんそのつもりだ。司令部も状況の異常さは把握してる、特段の処罰は下らんだろう」

「港の警備部隊に、警備体制の強化を要請しておきます」

「頼んだぞ、エルツェン」

 

そう言い、エルツェン中尉は艦長室を後にした。俺もそろそろお暇する時間か。

 

「そろそろ俺も帰る。コーヒー美味かったぞ」

「巻き込んですまなかったな、トリプリケーション」

「むしろこれからは盗まれたらすぐに連絡を入れろ。またそのうち来る」

 

 

 

「...ん?」

 

空軍基地に戻ってきた俺の目にまず映ったのは、基地施設ロビーの人だかりだった。あそこは...確か、掲示板だったはずだ。

最近は気にしていなかったが、そういえば今日は司令部からの公報が来る日か。

 

「すまん、失礼するぞ」

 

俺が声を掛ければ、この基地の人間を少しどかせる事くらいは簡単なものだ。大佐階級の良い点、その1といったところである。

 

人混みをかき分けた先には、見知った顔が1つ。

 

「あ、隊長。こんにちは」

「アークティックか。ゼクスは?」

「部屋にこもって数学の問題を解いてますよ」

 

その場にいたのは、エーリヒ・“アークティック”・リッチャー中尉だった。かつての夢は冒険家だった──そう語っていただけあり、うちの中隊の中では特に朗らかな性格をしている。

奇妙なのは、普段からアークティックと共にいるカール・アルベルト・“ゼクス”・オイラー大尉が、真反対な性格をしていることである。著名な数学家の息子だけあって、その才能は抜きん出ている...らしい。

が、数学家の性というか、ステレオタイプと言うべきか。どうにも内気で、通信も最低限のことしか喋らない。地上でもアークティック以外と会話をしているところを見たことが無い。チャーチズに言わせれば、「面白くない野郎」といったところか。優秀なパイロットではあるんだがな...。

 

「相変わらずだな...。ここにこれだけ集まってるのは、公報か?」

「そうです!見てください、これ」

 

そう言ってアークティックが指差した方を見る。予想通り、司令部からの定期公報だった。上から下へと、お役所的文章が並んでいたそれは、見ていて楽しい部類のものではなかった。

 

「なんだ、そんな騒ぐ程のものでも...ん?」

 

俺の目に止まったのは、連邦軍から紛失した物資のリストだった。ギリギリ紙1枚に収まる程度で羅列されていたそれは、奇妙という他なかった。

 

(やはりまるで統一性がないな...下はちょっとした調理器具から、上は巡航ミサイルまで...)

 

 

(待て、巡航ミサイルだと!?)

 

すぐさま嫌な予感が頭に過ぎる。司令部としても巡航ミサイルの盗難は見過ごせなかったのか、これだけ別紙に詳細が記述されていた。

 

「盗難日時、AC432年12月14日...盗難箇所はペテルブルク空軍基地...!?待て、確かペテルブルク空軍基地は...」

 

カスカディア紛争終結の決め手となった講和条約では、連邦軍のコルディアム弾頭兵器全ての破棄が条文にあった。破棄は、講和の仲介役となったUKA(統一カーンエウロパ同盟)の監視の元、サンクトペテルブルク空軍基地で行われていたはず。まさか、この巡航ミサイルは...。

 

いや、そんなはずあっていい訳が無い。僅かな希望を掛け、盗難されたミサイルの写真を確認する。

 

 

「...嘘だろ」

「隊長...?」

「...AGM-92...アークブレイドが搭載するはずだったミサイルだ...」

 

 

まさか、考えすぎか?いや、しかし───。

 

(誰かが、クリムゾンの凶行を再現しようとしているのか...?)

 

アークブレイドのミサイルコネクター、巡航ミサイル制御装置、そしてミサイル本体。あとは電源とランチャーそのものさえあれば、ほとんど発射可能みたいなものだ。

 

そうなった場合───

 

 

 

真っ先に首を切られるのは俺だ。不名誉除隊どころか、そのまま責任を取らされて刑務所送りか?

 

それだけは絶対に避けねばならない。今のクリスタル・キングダムは頼りにならない。うかうかしていてはどこぞの阿呆がモイラかロンディニウム辺りを焼きかねん。

 

このところ任務はない。そして俺はFIS所属、そしてシュヴァルツェンベルク家の人間。各空軍基地に少し話を通せば、多少の燃料の融通だって効く。上手くいけば、クリスタル・キングダムに貸しを作れる。

 

よし、これだ。はっきり言って無謀でしかない。どうにもならない確率の方が高い。それでも、俺の将来の為には他にできることなぞない。座して死を待つくらいなら、火の中にだって飛び込んでやろう。

 

「...アークティック」

「はい?」

「チャーチズとゼクスを呼べ。機体の準備をしろ」

「...え、何をする気なんです?」

 

 

「ミサイル盗難犯を捜す。西ロシアに飛ぶぞ」




用語解説:連邦迎撃任務部隊
英語表記はFederation Intercept Specialistsであり、略称はFIS。
連邦空軍と連邦垂直海軍の合同部隊であり、治安維持軍のように一種の独立した軍種としても数えられる。この為、連邦垂直海軍から派遣されるエアシップは、接頭辞が垂直海軍所属を示す「FVN」から、迎撃任務部隊を示す「FIS」に変更される。最たる例がFIS アークブレイドである。
その任務は名称からも分かる通り防空任務であり、空域侵入への対応に即座に派遣されるQRF(即応対処部隊)としての性格が強い。治安維持軍の任務が、国外派遣を主とした、対外的な連邦の力のアピールという性格が強い、いわばデモンストレーション性が高いものであるのに対し、FISはアピールというよりも、連邦の国土や、紛争地域の防空圏の防衛という、実戦色が強い任務になっているのが特徴である。
連邦軍内部では治安維持軍の一段格下として位置づけられる。しかしながら、その能力は治安維持軍に引けを取らない。また、治安維持軍との交流も存在しており、カスカディア紛争中、トリプリケーションはクリムゾン1から直接モナークについての警告を受けていた。
第42迎撃中隊は、カスカディア紛争中に、世界の商業および旅客航空の15%が通航する、ジロフ航空回廊へのカスカディア軍の攻撃作戦である「ブロークン・チェーン作戦」への対応のため、トリプリケーションとチャーチズ、および支援エアシップであるFIS グラデウスが展開したが、全機がモナークに撃墜された。
本作に登場する第42迎撃中隊は独自のネーミングである。また、その他
・FISは部隊の絶対数が少ない
・治安維持軍の選抜が連邦への忠誠も試されるのに対し、FISは純粋な空戦能力のみが問われる
という独自設定があることに留意いただきたい。

人物解説: エメリッヒ・ミヒャエル・“トリプリケーション”・フォン・シュヴァルツェンベルク大佐
搭乗機: F/S-15 テールコード:FI-42 03009 INTERSPEC 08 HWID-39.505.113
連邦迎撃任務部隊所属、第42迎撃中隊の指揮官。オセアニア戦争以前から軍歴に就いている、連邦空軍きってのベテランエースパイロットの1人。
彼の率いる第42迎撃中隊は4機の最新鋭戦闘機と、2隻のリットリアMk.III級空中巡洋戦艦により構成されるが、カスカディア紛争時の戦闘により、モナークに空中巡洋戦艦の1隻、FIS グラデウスを撃墜されたため、現在の所属エアシップはFISアークブレイド1隻のみとなっている。
年齢は42歳。完全に婚期を逃した...と後悔しつつ、僚機の面倒を見る日々を送っている。
その能力から、連邦軍最高司令部クリスタル・キングダムからは将官候補の1人と見なされているが、当の本人はあと数年働いたら早期退役し、軍人恩給を受け取りながら、地元で観光ガイドをして余生を過ごすつもりである。
フォン・シュヴァルツェンベルク家は、長らくヴィルヘルムに存在する貴族であることや、彼自身のパイロットとしての戦果から、クリスタル・キングダムはもとより、ヴィルヘルム政府や連邦政府にも顔が利く。
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