カスカディアの空の王(先代)、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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EMBER-04: Heading North

『隊長〜本当に探せるんですかぁ?』

 

シンプソンハーフェンを発って数時間。我々第42迎撃中隊は、西ロシア方面へと向かうべく、インド方面へ進路を...取ってはいなかった。

インド亜大陸へ向かうと、その道中で辺境国家の上空を通ることになる。今や連邦が辺境国家と紛争状態にあるのは周知の事実だ。そのため、多少遠回りになるとはいえ、連邦の加盟国家──ベトナム中王国──の上空を通るべく、北西へと向かう進路を取っていた。

 

何事もない空を、ただずっと編隊を組んで飛ぶ。そんなのは、エーリヒ・“アークティック”・リッチャーという男には随分とつまらなく感じたらしい。セレベス海を出て、ベトナム中王国領空に入らんとする時、アークティックから延びたような無線が聞こえてきたわけである。

 

まぁ、アークティックの言うことも無理からぬことか。ほぼ俺の思い付きで3人を集め、1時間もせずに空軍基地から発進し、ロシアへ向かう──しかも、ミサイルを探すために。なかなかアホらしいと思われるかもしれないな。

俺の考えを代弁したのはチャーチズだった。

 

『アークティックの懸念はごもっともだが、これでミサイルがどっかに撃ち込まれちまったらトリプリケーションの奴がケツ拭いさせられるんだぞ。最悪それだけならどうでもいいが』

『ガーランド少佐?』

 

前言撤回。代弁者などでは全くなかった。

 

『まぁよく聞けよ。これでトリプリケーションが実名報道されてみろ、どうなると思う?』

『...シュヴァルツェンベルク家が槍玉に上げられる?』

『ミサイル密輸疑惑とともに、な』

『えぇ?それは理論飛躍が過ぎるんじゃないですかね?』

 

それがそうでもねぇ、とチャーチズが続ける。

 

『連邦軍は今横行してる盗難を全部隠蔽してる。メディアの連中、カスカディアの一件の後から統制がほとんど利かなくなってる以上、スキャンダルとしていいように書き立てるだろうよ。ましてやシュヴァルツェンベルク家は物流もやってるし、ヴィルヘルム最大級の企業グループだ。ブン屋共からしたら、ネタの玉手箱だろ。で、顔に泥塗ったくられた連中が俺達にすることといえば?』

『...報復ですか?あまり合理的ではないように思えますが』

『考えてみろ、そもそも報復なんて合理的思考でいけばなんの意味もねぇぞ。それに、シュヴァルツェンベルク家はあいつが連邦空軍にいることをよく思ってねぇ。僚機の俺達にここぞと言わんばかりにとんでもないことをしでかすかもな。ましてや、42中隊を一緒に立ち上げた俺なんてどうなることか』

 

それはさすがに、とアークティックが漏らす。...残念ながら、シュヴァルツェンベルク家長男の俺の意見で言えば、それを全く否定することは出来ん。貴族や金持ちというのは面子や外面というものを重視する。ましてや俺は身内どころか敵だ。本来あの家を継ぐ立場だったのに、それを弟に押し付けるようにして軍に入ったのだから。

 

それどころか、とさらにチャーチズが続ける。

 

『報復程度で済めばマシだろうよ。ダメージコントロールのために、第42中隊の中の誰かをスケープゴートに仕立てるかもしれねぇ。むしろ、メディアへの影響力を考えたらその方が納得だろ』

『え、もしかしたら俺が大量虐殺の手引きをしたことにされるかもしれないんですか?』

『3分の1の確率で、な』

 

うぇぇ、と声を無線に漏らすアークティック。そうも言いたくはなるか...。

そして、ここで久方ぶりの声を聞くことになる。

 

『...3分の1の確率というには、それぞれの事象──つまり、私とアークティック、それにガーランド少佐がスケープゴートに仕立て上げられる、という事象の起こる確率が同様に確からしくある必要があると思いますが』

『...やかましいぞゼクス。やっぱりお前友達いねぇだろ』

『私に友人がいない、という点とどう繋がるのかご教授願えますか。なにぶん素人なもので』

『このクソが、久しぶりに口を開きやがったと思ったら相変わらず硬ぇ脳ミソしてやがる』

 

相も変わらず、こいつらと来たら...。ゼクスとチャーチズは、1年経った今でも最悪の関係にある。感情型のチャーチズと、数学家らしいゼクスはどうも折り合いが良くない。2人とも優秀なパイロットなのに、これでは戦力半減どころではない。

 

『...隊長、あの2人マジでどうにかならないんですかね?』

「そんな方法があるなら、もう既に試している」

『何事も上手く行きませんねぇ...』

 

アークティックから入った無線に思わず苦笑いする。アークティックがいなければ、今頃俺は心労で寝込んでいただろう。リッチャー家のご両親には、遠くないうちに礼をせねばならないな。尤も、シュヴァルツェンベルク家とほとんど縁を切った今の俺に出来る礼など、どう考えても名前負けしたようなものしか出来ないだろうが...。

 

「チャーチズとゼクスもそこまでにしろ。まもなくベトナムの領空だぞ」

『ったく...。こちらチャーチズ、了解』

『ゼクス了解』

『アークティック、了解しました』

 

先程セレベス海上空で空中給油を回してもらった。予定では、少し余裕を持ってベトナムのザーディン空軍基地で燃料補給と小休憩を挟み、その後トムスク空軍基地を経由して、サンクトペテルブルク空軍基地に向かう予定である。

 

「ベトナムか。久方ぶりだな」

『ん、お前ベトナムに来たことあるのか?』

「ああ。例の偽預言者共の時にな」

『嘘だろ、お前あの時展開したのか?あの時に展開したのはほとんどカスカディアの連中だろ?』

「ヴィルヘルム派遣軍は少なかったからな...」

 

俺とチャーチズがベトナムの有名な話──偽預言者の時の事に花を咲かせている中、無線からノイズが走る。

 

『すみません、偽預言者ってなんですか?』

 

その言葉に、俺は思わず絶句する。嘘だろう、偽預言者を知らんとは。

 

「そうか。もうそれくらい前の話になるのか...」

 

考えてみれば、アークティックはまだ若い。そして、ベトナムの一件は、俺もまだ30になる前に起きたからな。知らんのも無理からぬことか。

 

それでは少し昔話をしよう。とある哀れな国の話だ。

 

「ベトナム中王国は知ってるな?」

『ええ。今は確か、連邦の加盟国ですよね。前はカスカディアと同じで、準加盟国だったって聞きましたけど』

「加盟国、なんて聞こえのいいものじゃない。実態は監視下だ」

『...なんでまた、そんな物騒な』

「13年前、ベトナムに偽預言者達がやってきた」

 

偽預言者──読んで字のごとく、と言うべきか。自らを預言者と偽った連中。本来なら狂人として誰もが耳を貸さぬだろう奴ら。

 

「まぁ、預言とやらの内容はありがちなやつだな。まもなく人類は終焉を迎えるだとか、そういうやつだ。面白いことに、奴らはダスト・マザーの預言者を名乗っていた。遠く離れたカスカディアの信仰を持ち込んだわけだ」

『それに、連邦は遠くないうちに燃える...みたいなことも言ってなかったか?』

「言ってたな...そういう意味では、典型的な扇動勢力、宗教反乱と言うべきだった」

 

ここまで話したところで、無線の奥から唸るような声が聞こえる。

 

『うーん...でも、結果的にベトナムには連邦軍が派遣されたんですよね?正直、話を聞いているだけなら軍を展開するほどのことでは無いと思うんですが』

 

やはりそうなるか。実際アークティックの言うことは正しい。連邦軍だって暇じゃない。ましてやあの時に展開した軍の主力であるカスカディア国防軍は基本的には領土防衛が専任だ、他の連邦加盟国に出向くことはそうない。

 

「まぁ、これがただの狂人共の戯言で終わってたなら、お前の言う通りだったんだが」

『そうは、ならなかった』

「ああ。奴ら、どんな魔法を使ったんだか...。ベトナム国民のかなりの数が、偽預言者共の妄言を信じてな。ベトナム政府に反乱を起こした」

『しかも、皇太子を担ぎ出して、だ』

『え、皇太子まで信じたんですか?』

「信じ難いことだが」

 

忘れるはずもない、偽預言者とその一派のクーデター。偽預言者共が上手くやってのけたのは、自身らが信者連中のリーダーになるのではなく、実際にリーダーとして担ぎ出したのは中王国の皇太子だった、という点だ。そうやって民衆を掌握し、ベトナム政府への反乱と連邦からの独立を企てた。

だが、奴らは致命的な失敗を犯した。タイミングだ。

 

『...でも、13年前ってことは...』

「気づいたか」

『オセアニア戦争の開戦から2年、ですよね?』

『例の戦争は開戦から2年半経って敵の掃討が完了した。ベトナムの反乱は、ちょうど掃討戦も終わりに差し掛かってた頃だな』

「オセアニアで戦争中なら連邦はベトナムまで手が回らない──そう考えたのかもしれんが、連邦軍の大半はオセアニアでの戦闘を終結させてた上に、連邦政府の方も反乱に敏感だった時期だからな」

『ベトナム政府の救援要請を受けた連邦軍は本土へ帰還中だったカスカディア国防軍と、その他構成国の一部軍を展開して、偽預言者共の一派を駆逐した...ってワケだ』

 

こうして思い返すと、あの時の連邦政府の過剰反応はとてつもなかった。俺はまだ迎撃任務部隊ではなく、通常の空軍ヴィルヘルム方面軍の1パイロットとして展開したが、ほとんどオセアニア帰りのカスカディア人が殲滅したせいで、出撃したのは...確か、2、3回くらいだったか。そもそも反乱一派の勢力も、ベトナム政府単体では厳しくても、近隣国のビクトリア辺りがいくらか軍を出せば無理なく収束させられる程度の規模だったと記憶している。

 

(連邦政府があれだけ反応したのは、単に反乱勢力が脅威だったからというよりは、「反乱の輸出」を恐れたからだろうな...。カスカディアの一件で、こうして辺境諸国が反乱を起こしているのを見れば、それもあながち間違いではなかったのかもしれん)

 

「何にせよ、例の反乱は予想以上に呆気なく収束した。皇太子が反乱に加担した事態を重く見た連邦政府は、ベトナム政府からかなりの権限を剥奪して、ベトナムを連邦政府の直接的な支配下に置いた。最近は少しずつ現地政府の方に権限が戻ってるらしいが」

 

まぁ、ベトナムがどうなろうと俺の知るところではない。燃料補給さえ出来ればいいのだ。

眼下に広がる海が15年前と変わらないのかどうか──それさえ、記憶の彼方へ過ぎ去っていた。それほどまでに、俺はこの国に関心がなかったようである。

 

 

 

そろそろ首都ザーディンの広域管制エリアに入る頃だ。無線の帯域をチェックしようとした、その時。

 

「ん?」

 

レーダーが未確認の反応を一機捉えた。...妙だな、民間機の航路じゃないぞ。

 

「トリプリケーションより全機、レーダーを確認しろ」

『確認...こいつか?』

『機影を確認』

『見えました...変ですよこれ、やけに速いですし航路もおかしいです』

 

質問コードを送ります、と言ってアークティックが敵味方識別を行う。

 

『返信確認...編隊内データリンクで共有します』

 

返信の内容が俺にも届き、未確認機の情報が更新される。

 

「A-71...?」

FIIA(連邦国際情報局)の高速偵察機だと?なんでこんな高度を飛んでる?』

 

A-71──連邦国際情報局が運用している、最高速度マッハ3超の高高度偵察機だ。だが、見たところ飛行高度は2万フィート(約6km)程度だし、速度もマッハ2も出ていない。偵察飛行中では無さそうだが...。

 

『こちらゼクス、新たなボギーを確認。方位280』

『何だって?』

 

A-71だけじゃない、新たな未確認機が接近していることをゼクスが通告してきた。確認すると、4機ほどが編隊を組んで、A-71とほとんど同じ航路を辿っていた。

 

「敵味方識別実行...返信確認」

『ビクトリア方面軍のF/C-15が4機?』

 

こいつらはザーディン空軍基地に駐留してた連中か。連邦中核国からの派遣機──連邦政府のベトナム監視部隊といったところか。A-71とは異なり、こいつらはむしろ全速力を出していた。どうも様子がおかしい。まるで、何かから逃げてるような──

 

『...!隊長、A-71から通信が来てます!』

「繋いでくれ」

 

アークティックにA-71からの無線が入った。編隊内データリンクで各機に通信が届く。何が起きているのか分かるといいが。

 

『...聞こえるか!こちらFIIA-ROG(連邦国際情報局偵察作戦群)所属、コールサインはウォッチタワー!ヴィルヘルム方面の連邦迎撃任務部隊で間違いないか!?』

「こちら第42迎撃中隊指揮官、コールサインはトリプリケーション。ヴィルヘルム方面防空戦闘群所属だ。何が起きてる?」

 

入ってきた通信の声の主──A-71のパイロットは憔悴しきっていた。どうもただ事ではないことは確からしい。

 

『助けてくれ!俺はザーディンに配備されてたんだが、ベトナムの奴ら、突然反乱を起こしやがった!おかげでベトナム国外から派遣されてきたパイロットはほぼ全員捕まるか殺されちまった!』

「何だと!?」

 

ザーディン基地所属のパイロットが、突然ベトナム人に...?一体どういう訳だ?

 

『ただの殺人事件とかそんなもんじゃない!ベトナム各地で同じようなことが起きてる!ザーディンの生き残りは俺と後続のビクトリア空軍の4機だけだ!俺は何とか発進できたが、すぐにMANPADSを食らっちまった!おかげでこれ以上高く飛べないしスピードも出せん!』

『本当にお前達以外はいないのか!?』

『ああ、この目で撃ち殺されてるのを見た!クソッタレの反乱軍の連中の目を掻い潜って機体にありつけたのだって奇跡に近い!』

 

クソ、辺境どころか連邦加盟国でさらに反乱とは...!しかも中央政府の監視下にあったはずのベトナムで起こるとは、なんという事態だ。その上、ザーディンがやられたなら、俺達の補給もままならん。こうなったら別の飛行場に着陸して補給するしかない。

 

「こうなったらビクトリアの空軍基地に降りるしかないな。近くに降りれる場所は?」

『広州空軍基地なら降りれるな。あそこは結構な規模だったはずだ』

『ついでにウォッチタワーとビクトリア空軍の4機も連れて行けるんじゃ?』

『いい考えだ』

 

広州か...十分飛んでいける距離だな。損傷したA-71をカバーして飛ぶと考えても、問題はなかろう。広州に連絡を入れよう。

 

「広州コントロール、こちら連邦迎撃任務部隊所属のトリプリケーション。応答願う」

『広州コントロールよりトリプリケーションへ、どうぞ』

「当部隊はザーディン空軍基地へ向かうルートを通っていたが、ザーディン基地で反乱が生じたため着陸不能となった。ダイハードを要求する」

『広州コントロールよりトリプリケーションへ、ダイハード要請受諾。何機だ?』

「当部隊の4機と、ザーディンより逃げてきたビクトリア空軍機4機とFIIAの偵察機1機の計9機だ。うちFIIAの機は携行地対空ミサイルを被弾しているため、着陸の優先を要する。該当機のコールサインはウォッチタワー」

『了解。ウォッチタワーについてはメーデー宣言とみなして良いか』

「ああ。我が部隊は今のところ被弾していない。後回しで構わない」

『了解した。5機の誘導は可能か』

「問題ない。広州まで誘導を行う」

 

とりあえず逃げ場は確保できたか...。逃げてる連中に伝えよう。

 

「トリプリケーションよりウォッチタワー及びビクトリア空軍の編隊へ。これより我が部隊が貴機らをエスコートする。広州空軍基地へ誘導する」

『こちらウォッチタワー、援護に感謝する!広州ならこの機体でも降ろせそうだ!ああ神よ...』

『こちらビクトリア空軍のアンバー1、本当に助かるぞ!感謝する!これで部下を死なせずに済む...』

 

危機は去ったかと思われた、その時だった。

 

『...!ボギーインバウンド、ハイスピード!』

 

未確認機の接近。確認すると、レーダー上にはウォッチタワーとアンバー隊を追いかけるように飛ぶ機影があった。機数6。逃げるような飛び方じゃない。

 

『...これ、まさか』

 

アークティックの声が震える。俺の予想が正しければ──

 

「IFF確認!ベトナム空軍機だ!」

『ああクソ、こいつはもしかしなくても...!』

『逃げた連邦軍機を追ってます!』

 

やはりか。どうやら易々と逃げることは許してくれないらしい。そして、このベトナムの連中がアンバーとウォッチタワーを追い続けるようなら、我々にとっても無関係ではない。

 

(これから我々がエスコートするなら、連中に撃たれない訳がない...。だが燃料の残量的には、アンバーとウォッチタワーを見捨てれば全速を出して広州には行ける...しかし)

 

レーダーに映る、友軍を示す青い5つの輝点を見る。こいつらを見捨てる──本当に?

 

『トリプリケーション』

 

俺を呼ぶ声がした。

 

「ゼクス...」

『本機の燃料は十分。迎撃戦闘は可能です。ご指示を』

 

ああ、お前はそうなんだな、カール・アルベルト・オイラー。

 

『ゼクスの野郎いいこと言うじゃねぇか。こちらチャーチズ、ドロップタンク内の燃料はエンプティ、だが機内燃料は十分ある。戦闘準備よし』

『こちらアークティック、数十分なら戦闘できます。最悪滑空してでも着陸しますよ』

 

助けを求める味方がいて、僚機達は戦う気に溢れてる。なら──俺が戦わぬ理由など、どこにあるだろうか?

 

「逃げても仕方ないな。本空域の全チャンネルへ通達。連邦迎撃任務部隊ヴィルヘルム方面防空戦闘群第42迎撃中隊指揮官の名のもとに宣言する。連邦憲章に基づき、連邦空軍機の退避および保護のために周囲30マイルの空域を一時封鎖する」

『トリプリケーション...』

 

チャーチズが息を呑むのが聞こえる。空域封鎖──その政治的意味は大きい。一時的とはいえ、決して簡単に出すべき判断ではない。そして、空域封鎖を実行するからには──

 

「このため、第42迎撃中隊が空域の閉鎖を担当する。連邦空軍機を除く全ての航空機は直ちに空域を離脱せよ。警告に従わない場合──撃墜する」

 

実力行使の意思表示。我々はもはや退けない。奴らの反応は──

 

『ベトナム機からの応答なし!』

『連中、進路を変えるどころか速度上げてアンバー隊に接近中です!』

 

予想通りだな。平和的に解決出来ればことなかったんだが、仕方ない。キルマークを増やすとしよう。

 

「了解。どのチャンネルにも応答しないなら、もはや離脱の意思なしと見ていい。ベトナム空軍からのすべてのコードを抹消しろ。IFFの判定を敵性に切り替える。迎撃中隊全機、交戦許可」

 

「トリプリケーション──エンゲージ」

 

 

Heading North

Federation Charter - Article 29-3: “Airspace Lockdown”

1HOUR AFTER VIETNAMESE REBELLION

Place: South China Sea Date: AC433/1/9

CALLSIGN: TRIPLICATION - FIS

 

『承知!チャーチズ、行くぞ!』

『アークティック了解!交戦します!』

『命令了解。ゼクス、エンゲージ』

 

ドロップタンクを投下。両主翼と機体中心線上に存在した重りが消え、F/S-15が最新鋭機の名に恥じぬ身軽さを取り戻す。

スロットルを叩き込み、敵との距離を詰める。こんな風に飛ばすのはいつぶりか──心の中の高揚を、『スペシャリスト』という自身の所属をもって覆い隠す。

 

現在の方位からして、我々は連中から見たら右前方から襲いかかる形になる。この方位ではろくにミサイルなど当たらん。が、事態は一刻を争う。追尾されているアンバー隊に逃げる余裕を与えねばならない。

敵との距離が15000まで近づいたところでミサイル発射。牽制だ。

 

「MLAA準備完了...トリプリケーション、FOX3」

 

F/S-15の強み、それは他を圧倒する武装量に他ならない。主翼から6発のマルチロックミサイルが放たれる。

 

『奴らが回避するぞ!アークティック、ゼクス、そこを狙え!俺は飛び込んで引っ掻き回す!』

『チャーチズ頼みます!アークティック、FOX3!FOX3!』

 

俺のミサイルと共にチャーチズが連中の中に飛び込む。敵が混乱している間にアークティックとゼクスが狙い撃つ。

 

「アークティック、敵撃墜を確認!よくやった!」

『こちらチャーチズ、ゼクスの敵撃墜を確認。その調子でやれ!』

 

思わずチャーチズの声に笑みが漏れた。なんだ、実戦ならゼクスを励ませるじゃないか。

 

味方が早速2機落とされた敵は、慌ててチャーチズらから逃げようとしている。...ダメだな、そんな風に自分の真後ろの敵しか見てないようなら──

 

「トリプリケーション、FOX2」

 

敵は真後ろのチャーチズを振り切ろうとして、急旋回で味方のいる方へ逃げようとした──俺がそれを見透かしていないとでも?

 

「1機撃墜」

『確認。これが連携って奴だろ?』

 

すれ違ったチャーチズが、キャノピー越しに親指を立てていたのが見える。しばらく実戦に出てはいなかったが、あいつとの連携は全く衰えてはいないらしい。

 

『FI-42のマーキング...クソ、こいつらヴィルヘルムのFISだ!』

『例の治安維持軍殺しか!なぜあのヴィルヘルム人がここに!』

『連邦の手先め!』

 

無線の中に敵パイロットの声が混ざる。周波数を変えてないのか、かなりはっきり聞こえる。素人共め、「治安維持軍殺し」だの「連邦の手先」だの...。この調子では警告もろくに聞いていないだろう。

 

「こういう連中は気に食わんな」

『治安維持軍殺しなんて古い仇名を...よく言うぜ』

 

治安維持軍殺し──3年くらい前の話になるか。まだ42中隊メンバーが俺とチャーチズだけだった時、演習で各地の治安維持軍を倒して回っていたせいでこう呼ばれていた。

...まぁ、これにはちょっとした裏があったんだが。迎撃部隊である都合上、演習のシチュエーションは、こちら側が有利な状態であることが多かった。AWACSやエアシップによる長距離警戒管制を受けられるとか、近くの航空基地を発進した想定で帰りの燃料を気にせずに済むといったものだ。要するにハンデがあったわけである。

 

──だからこそ、気に食わん。その呼び名は我々の実力を正しく表したものでは無い。

 

残りの敵は3機。五月蝿いベトナム人共を海の底に送ってやる。

 

敵のロックオン、ミサイル警報。下手な撃ち方だ、そんな真横から撃って当たるはずがなかろう。方位90から接近するミサイルを迎角リミッターを解除して回避。その流れでこちらに接近する敵機に機銃を放つ。

 

「敵機被弾、だがまだ飛んでいる。誰か仕留めておけ」

『了解、俺が仕留めます』

 

いつの間にかこちらの方まで接近していたアークティックが、討ち漏らした敵を撃墜していく。

 

「アークティックの撃墜を確認。いいカバーだ」

『お褒めに与り光栄、と言うべきでしょうか?』

『よくそんな言葉を覚えてきたな...』

 

なかなかアークティックも言うこと言うじゃないか、と無線に繋げず笑う。

敵は残り2機...いや、1機か。真正面からゼクスが敵にミサイルを当てた。

 

『こちらゼクス、敵航空機無力化』

『ヘッドオンで勝ったか。度胸があるじゃねぇか』

 

チャーチズの奴、今回のでゼクスを再評価しているな。いい傾向だ、これであの2人が関係改善されればいいんだが。

 

『広州ATCよりトリプリケーションへ、こちらのレーダーでは貴機を含めた4機が戦闘しているのを確認している。どういうことだ?』

 

敵を落として余裕が出てきたタイミングで、広州からの通信が入る。一応連邦憲章と交戦規定に基づいて戦闘をしているが、状況の通達くらいはしておくべきか。

 

「現在、退避中の連邦機を追撃していたベトナム機と、連邦憲章29条3項に基づき交戦中」

『29条3項...空域封鎖をしているのか?』

「ああ。全帯域で周辺機に通達したが、ベトナム機の空域離脱の意志を確認出来なかった。交戦規定には準拠している」

『...クソ、厄介なことをしてくれたな』

「文句はベトナム機に言え。それに迎撃中隊指揮官で大佐階級なら宣言発出の権限もあろう」

『とにかく状況は了解した。ウォッチタワーおよびアンバー隊の誘導はこちらで引き継ぐ』

「助かる。追手を排除したら封鎖を解除して我々も広州に向かう。トリプリケーション、アウト」

 

広州との通信を切り、最後の敵に目を向けなおす。味方を失った敵は追尾を止め、逃げ帰っている。

 

『敵は撤退中。どうします、隊長?』

『決まってんだろ、俺らも撤退だ。無駄に油燃やして追いかけるほどでもねぇ』

 

チャーチズの言う通りだ。味方の退避のために戦闘しているのであって、別に傭兵のように殺し回りたいわけではない。空域封鎖の解除と撤退を宣言しよう──

 

『...いや待て』

 

たった今まで撤退しようとしていたチャーチズの声色が変わる。

 

『...!ボギー8、ハイスピード!機種はF/E-18!』

 

ボギーだと。レーダーを確認すると、ベトナム本土方面から接近する未確認機が8機いた。速度、マッハ1.5。IFFを識別──

 

「...クソ!こいつらは!」

 

ああ、なんてこった。よりによって出てくるのがこいつらなんて。この信号は。

 

『───王室親衛隊か!』

 

まずいことになった。どうやらベトナム人共を完全に怒らせてしまったらしい。王室親衛隊───ベトナム王室の直轄部隊だ。こいつらまで反乱に加わっていたのか...!

 

『散々やってくれたな、エメリッヒ・シュヴァルツェンベルク』

 

敵のリーダーの声。この声には聞き覚えがある。何年か前の演習の時に、やたらとデカい態度を取ってきた王族のパイロットだ。コネで親衛隊に入った野郎だけあって、あの時は大して労せず撃墜判定を取ったが。私怨の権化め、個人的な復讐も兼ねているのか?

 

『ここで会ったが100年目、貴様とその部下を地獄に送ってやる』

 

随分とありふれた台詞を吐き捨てる。畜生、これだからプライドの高い奴は...!

 

『──ラムソン隊、交戦せよ!』

 

 

Federation International Intelligence Agency

//Data Received\\


LAM SON SQUADRON

ROYAL AIR GUARD SQUADRON

 

 

セリフを吐き終わるが否や、敵からミサイルが飛んでくる。本当に私怨で撃ってきやがったな。

 

『ちょ、隊長!こいつとどういう関係なんですか!?』

「話は後だ!カウンターメジャー出せ!」

 

敵から襲いかかるMLAAの嵐。この数を避けられる保証は無い、チャフを展開して回避する。

 

『ああクソ!こいつあれか、お前の言っていた例の王族の奴か!』

「取り巻き揃えて復讐戦ということらしい!とにかく数を減らせ!」

 

俺はただの巻き添えじゃねぇか、と悪態をつくチャーチズからの無線は右から左へと流す。何とか合間を見つけて反撃に転じようにも、ミサイルの攻撃がひっきりなしに続いて終わらん。俺とチャーチズはともかく、ゼクスとアークティックの方が心配だ。

 

狭まる視界の中で、アークティックの方を見る。──まずい、後ろからミサイルが来ている。長時間の飛行で疲労しているのか、明らかに回避機動が精彩を欠いている。

 

「アークティック、デプロイフレア!」

 

無線に叫ぶ。ミサイル到達寸前で、なんとかアークティックはフレアを展開してミサイルを回避に成功した。

 

しかしまずい。単に数が多いというのもあるが、流石にこいつらはやれる連中だ。隙を見つけて攻撃しようにも、別の機が隙を埋めてくる。アークティックとゼクスも、疲労が厳しい頃だろう。

 

「チャーチズ、聞こえるか?」

『ああっ...!クソ、どうした?』

「状況が厳しい。どうにもならなくなったら...アークティックとゼクスだけでも逃がすぞ」

『...いざとなったらそのつもりだ』

「お前はゼクスを見ろ。俺はアークティックだ」

『了解、子守か』

 

柄じゃねぇ、と言い残してチャーチズが通信を切る。

 

...しかし、何もせずに死ぬというのも気に食わん。せめて1機は叩き落とす。

 

さっきアークティックを狙っていた奴は、まだアークティックを追っている。こちらは気にしてもいない。

その視野の狭さが命取りだ。

 

「トリプリケーション、ガンズ」

 

機関砲発砲。20mm弾がF/E-18に襲いかかる。そのまま主翼が切り裂かれたF/E-18は、火の玉となり海に落ちていった。

 

スプラッシュワン(敵撃墜)

 

これで敵は7機。...畜生、治安維持軍を相手にしていた時とは条件が異なるとはいえ、明らかに倒しづらい。連中が戦えるからなのか、それとも俺の側の腕が落ちたのか...。

 

『──トリプリケーション、チェックシックス!』

 

チャーチズの叫びが耳に入る。我に返り、操縦桿を右に倒してロール。ほんの0.1秒前までいた所には、曳光弾の弾道がきらめいていた。

 

(やはりだ。今までなら多少の連戦は苦ではなかったのに、明らかに集中と体力が続かん。気合いを入れ直せ...)

 

今までならいらん思考を挟むこともなかったのに、どうも余計な考えがよぎる。努めてそれらを振り払い、後ろの敵だけを考える。

 

敵ミサイル接近。迎角リミッターを解除して方向を急転換し、ミサイルを無理矢理避ける。返す刀で敵にミサイルを発射。

 

「敵がミサイル被弾、まだ飛んでいる。奴にタグを付ける」

『確認...ダメだ、仕留める余裕がねぇ!』

 

クソ、チャーチズもカバーに入れんか...。何とかして自分で仕留めようと、再度敵をHUDに捉えようとした時。

 

『...アークティック...FOX2...』

 

無線から息が絶え絶えながら、声が聞こえる。次の瞬間、俺がやり残した敵は爆散した。

 

『敵を...撃墜』

 

アークティックの敵撃墜を喜ぶ暇はなかった。すぐに別の敵がアークティックを追う。今度はこちらがカバーに───

 

(!?何故だ、ミサイルがリリースされない!)

 

肝心な時に不具合を...!コネクタと接続不良を起こしたかもしれん。敵との距離は6000、機関砲の射程ではない。

もう間に合わん───そう思った時。

 

『ブラック1、FOX3』

 

突如、複数の敵がレーダーロスト。同時に無線が入る。

 

『...!連邦空軍機が4機インバウンド!識別...』

 

あの無線の声。3年前に聞いたことがある。

 

『───ビクトリア方面治安維持軍ブラック隊!』

 

 

ブラック1───アンドリュー・セドリック・ビクトリア=ウィンザー大佐。まさにその人の声だった。

 

『ヴィルヘルムのFISと聞いて、まさかと思ったが。やはりシュヴァルツェンベルク大佐の隊か!うちの空軍の機を保護してくれて感謝するよ。我々ブラック隊が広州までエスコートする』

 

ああ、こういう喋り方だったな───記憶の中の話し方とまるで変わらない彼に、コックピットの中で1人笑った。




恐らくこれを読んだモナークorドライバーの皆様の中には、迎角リミッターとフレアを同時に搭載していることを不思議に思われた方もいると思います。もちろんこれは理由があって、PWをやっている時によく見ると、迎角リミッター機動を使用する敵(連邦迎撃スペシャリストなど)もフレアを使っているんですよね。というわけで作中では両者を併用しています。
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