カスカディアの空の王(先代)、先生になる   作:コルディアムに脳を焼かれた阿慈谷ヒフミ

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SUPER GTに行こうって日の直前になぜ体調不良になるのか...。


EMBER-05: Deadland

「...間違いない、な」

 

目の前にある事象を信じないことは簡単だ。それは万物に対して言えることである。だが、世の理とは、簡単なことが必ず自分に有利に働かないように出来ている。

つまるところ、俺はPW-MK.Iがこの目の前にあることを受け入れなければならない───そういうことである。

 

「製造番号は...間違いない、俺が乗っていた機体に違いない...」

 

テールコードと機体形状を模したレプリカを疑ったが、製造番号がそれを否定した。ただ、ひとつ引っかかる点があるとすれば。

 

「損傷が見当たらん...。エンジンもまるで新品だ...」

 

ミサイルどころか、機関砲の着弾痕も見当たらず、コルディアムの高熱に晒されるエンジンノズルは、未だかつて火を入れたことがないような、新品のような具合だった。

外観を確かめた程度ではあるが、工場出荷状態のようなものである。この機体の状態がどうなっているのか──内部から確かめてみよう。

 

薄暗い中、手探りでコックピットの下を探る。お目当てのハッチを探り当て、レバーを操作すると、タラップが降りてきた。

キャノピーはオープン状態。そのまま機内に乗り込み、APUを起動させる。機体後方から響く重低音とわずかな振動と共に、アビオニクスの一つ一つが覚醒する。

 

「予備電源、問題なし。油圧システム稼働中、コルディアム計測計正常...」

 

一通りの計器に目を通して、俺は目を疑った。燃料のコルディアムの残量計だ。この濃度は...満タンじゃないか。

 

「プレシディアの時もここまで積んではなかったな...。これだけあれば、ダストランドの端から連邦中核領を飛び越して、ベトナムあたりまで飛んでいける」

 

もっとも、ここがどこかも分からないが───いや、今なら分かるか。

コンソールを操作して航法システムを起動する。慣性航法装置のアラインを飛ばして、GPSの座標表示を実行───

 

「...クソ、ダメか」

 

...まぁ、薄々分かってはいたが。やはり都合よくは行かないか。GPSはシグナルロスト、ディスプレイにはただ自機を示す輝点のみが映し出されている。

 

兵装システムを確認する。外から見た時は、うっすらとしたシルエットでしか分からなかったが、機体下にはレールガンが吊り下げられているように見えた。主翼にもSTDM(標準ミサイル)があったように見えたし、少なくともレールガンとミサイルは搭載されているだろう。

 

「コルディアムが満タンなら、こっちもか」

 

やはりと言うべきか。STDMとレールガン、BML-U(汎用バーストミサイルランチャー)はフル装填だった。その上AEWL──空中エネルギー兵器発射装置の投射器も装備されている。PW-MK.Iに装備できる兵装は全て搭載されている。

 

これはもはやオカルトの類だ。俺がこんな訳の分からない世界に飛ばされるだけでも謎だというのに、なぜPW-MK.Iがフル装備状態、損傷なしでここにあるのか。あの日───モナークが俺を撃ち落とした、あの時にPW-MK.Iはもはや修復不可能なレベルの損傷を負っていたはずだ。

 

塵なる母(ダスト・マザー)、か」

 

なんという皮肉、あるいは気まぐれなのだろうか。カスカディアの大地を痛めた男を生かすとは。

もしくは、これは罰なのかもしれないが。キャノピーに映る、醜い男の顔。醜いのは火傷のみではない、血の付いた口周りもだ。その顔付きからして、この男に死人と大した相違はない。

 

(祖国を燃やした男への懲罰は、苦痛と共に少ない余生を生きる事か。神といえど、考えることは人と変わらんな)

 

古い時代の記憶が蘇る。母と共に教会に行った時のことだ。司祭の説教を子供心ながらに信じていた時代。塵なる母さまが、自分を守ってくれる───そう思っていた時代。だが現実はどうだ。守るどころか、痛めつけ、苦しめているじゃないか。信仰など、バカバカしい。

 

辛うじて信じられるのは見えているものだけだ。尤も、今や見えているものさえ信じられなくなってきてはいるが。神をバカバカしいと思いながら、その実「今生きている」ということに関していえば、神の介入以外に説明する手段の持ち合わせがないのも事実だ。

 

 

 

「......」

 

ハンガーの外。見渡す限り、廃墟ばかり。遠くに見える山々は、人の立ち入りを拒んでいるようにさえ見えた。立ち込める雲は立ち去る気配を見せない。

死んだ土地、と言うべきなのだろう。ソルスティティウムの光景を空から見た時も、ちょうどこんな様相だったか。40年前にコルディアム爆発事故により地図上から消えた、カスカディア第2の都市。そのような大都市さえ、コルディアムにかかれば地図から消すのも造作もないことなのだ。

こんな空、見上げていても仕方がない。すぐにモイラの秘密基地に戻ることを決めたのは当然の帰結だろう。

 

 

 

戻ってまず直面したのは食糧問題だ。一通り秘密基地を漁ってみたが、およそ食い物といえるものは存在しなかった。強いて言うならば、棚を動かして、裏から出てきたネズミくらいか。...いや、食いたくはないが。俺もそこまで落ちぶれた覚えは───よそう。俺は墓穴は掘らない主義だ。

頭を過ぎった王冠のエンブレムを振り払いつつ、さてそれではどうすべきか、という話だ。飯が無ければ野垂れ死にだ。───ほとんど死人だから変わらないだろう、だと?やかましい。

 

戦闘機パイロットたるもの、SEREは心得ている。それぞれの頭文字の意味するところは、生存・回避・抵抗・脱出である。

さて、今必要なのはこの中でも生存の技術だが...食糧確保の場合、手っ取り早いのはPW-Mk.Iのサバイバルキット内の糧食を食うことだ。訓練でもこいつを食うことが推奨される。なぜか?例えば現地民から提供された食事や、自然から入手した食糧───そういうのには、何が入ってるか分からない。極限状況下で食当たりなど、話にならん。

...が、今回の場合、撃墜されてもいないのに、サバイバルキットの中身を使うのは褒められたことではない。今のところこの機体を使う予定はないが、それが将来に渡り続くとも限らん。なにより持続性がないしな...。

 

と、いうわけで。次の選択肢だ。自然から食糧を得る他あるまい。さっきモイラが俺に隠れるように言っていたことから推測するに、おそらく俺はここにいることがバレてはいけないのだろう。ここの住民が排他的なのかは知ったことでは無いが、いずれにせよ学校の方に向かうのはいい選択肢ではない。

あの山は──遠すぎる。現実的じゃない。

...そういえば、学校に向かう途中で川が見えたな。魚の1匹や2匹くらいいるだろうか。

 

それならと、そこら辺にあった素材で釣竿をこしらえてみる。簡単なことだ、適当な木の棒に、軽い糸とフックをつければいい。

木の棒は、そこらに落ちていた。その中から、しなりがよいものを探す。そうしたら秘密基地の中にあった糸を少しばかり拝借して括り付ける。フックは、安全ピンを曲げたものにしっかり糸を巻き付けてさえやればいい。

 

「悪くない竿だ。多少の魚程度なら壊れまい」

 

出来た竿を川に垂らし、しばらく待つ。──懐かしいな。こういう工作や釣りは、軍に入ってからはずっと離れていた。小さい頃はといえば、故郷の自然こそが俺の師だった。自然の産物と、少しばかりの文明の助けを借りて、よく遊んだものだ。

しかし、晴れてさえいれば───こうも曇っていては、数年ぶりの釣りもそこまで気分が乗らないものだ。

 

 

 

釣りとは忍耐である──偉人がそう言ったことがあるのかは知らないが、ともかくそういうものであることは、幼少の時分の経験で身をもって知っていた。付け加えると、忍耐とはつまり、大方の場合何もない時間であることと同義であったりする。何もない時間を漠然と過ごすのも悪くはなかろうが、生憎今の俺の置かれた状況はそれを許さなかった。自然と思考が生まれる。

 

(今ここで急場を凌いでどうなる?この先、いつまでも釣りをして、コルディアムで死ぬのを待つのか?ダスト・マザーはそう言っているのかもしれんが)

 

大人しく神の意思に従うか?否、それは俺の性ではない。こうして生きているのは、ある意味チャンスでもあるのだろう。奴が──王冠が、カスカディアに膨大な死と不安定を強いた。今の祖国がどうなっているのか。それを知るチャンスだ。態々苦しみながら生きるように強制されているのだ、それくらいのことはしてもよかろう。

 

 

 

なによりも。

PW-MK.I。あれがあるなら、あの時の続きを。プレシディアの続きを、もう一度。

 

───なぜ(Why)

 

奴の言葉の真意を知らねばならない。

 

 

 

その為にも、今は生きねば。例えコルディアムが俺を蝕もうと。

──こういう、身を包むような熱い感情を覚えたのはいつぶりか。

そうして、少しばかりの感慨に浸りながら、俺は曲がりすぎたフックを直し、また水中に垂らすのだった。




人物解説:ヒューゴ・オイゲン・“チャーチズ”・ガーランド少佐
搭乗機: F/S-15 テールコード: FI-42 00231 INTERSPEC 08 HWID-38.050.929

第42迎撃中隊の2番機であり、中隊の設立メンバーの1人でもあるヒューゴ・ガーランドは、その軍歴の多くをエメリッヒ・“トリプリケーション”・フォン・シュヴァルツェンベルクと共に過ごしてきた。トリプリケーションと同じく42歳のチャーチズは、連邦航空アカデミーの同期ではあったが、優秀な成績を収めていたトリプリケーションとは対照的に、素行不良が目立つパイロットだった。常に留年スレスレの成績で進級していたトリプリケーションは、そのあまりの成績の悪さから「低空飛行」などという不名誉な呼び名を付けられていたが、実戦配備されてからは、その呼び名の如くの物怖じしない飛行術で数々の戦果を挙げる。1機分の隙間もない超接近戦に飛び込む格闘戦能力や、卓越した近接爆撃能力と低空飛行術で数々の艦艇やエアシップを葬ってきたチャーチズは、26歳の時に初めてトリプリケーションの僚機を務め、抜群の連携を発揮する。その後、29歳となったチャーチズとトリプリケーションは本格的にエレメントを組むようになり、以後ヴィルヘルム方面軍のトップエースコンビとして活躍してきた。7年前のAC425年、2人は連邦迎撃任務部隊ヴィルヘルム方面軍防空戦闘群のパイロットとして抜擢。以後も活躍を続けている。
TACネームの由来は、生家が教会であることから。
3年前に離婚した元妻との間に2人の娘がいる。目下の悩みは養育費の捻出である。
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