死せる臓に花を捧げて 作:塵芥
日本という国がある。日本では戦時中、「死者」に関する研究が行われていた。その当時、他のどの国よりも先に「生きている死者」を作ることに成功した国であった。
言っている意味がわからないかもしれないが、俺もよくわからなかったので大丈夫だ。
ともかく、その研究は当時から見てもひどいものだったらしく、今ではあまり語られない、都市伝説のようなものとしてごく一部の人間が知るのみとなり、その人々にも消失したものだと思われている。
俺はその存在のことを知っていたが、迷信だと思っていた。そうでなかったと俺が知ったのは、やけに空が暗くて嫌になるような日であった───
俺は廸崎宙。しがない大学生である。今日は冷蔵庫の中身が尽きたので買い物に行っていたのだが...
「...なんで女の子が?」
家の前、アパートの部屋の目の前に、少女が倒れていた。わけがわからないんですがそれは...何故?
少女はおそらく高校生ほどの年齢だと思われる。童顔気味の、金髪ショートの少女である。
「ええと...こういうときはどうすればいいんだ。通報か...?」
スマホを取り出し、110番をしようとする。しかしよく考えると、どう説明すればいいのだろうか。俺は正直あまり気が進まない。うーむ。
悩みながらしゃがみ込み、顔を近づけてみる。近くで見れば見るほど可愛らしい顔立ちだ。ターコイズのような青緑色の目も相まって、まるでこの世の人間ではないような...ん、目?
「...」
少女が起きた。正直かなり驚いたのだが、どうやらそういうときには声ってものは出ないらしい。
「ええと、俺は──」
とりあえず誤解されないように言い訳をしようとしたとき。
「───しない?」
「...なんだって?」
多分寝ぼけているのだろう。寝ぼけ眼とでも言うのだろうか、目がこちらを見据えていない。しかし、その質問は俺に通報する気を失わせたのだった。
「貴方は私のこと、刺したりしない人だよね...?」
さて、どうしようか。連れて帰ってしまった...
仕方ないだろ、反射的にしたんだから。しかたないな、うん。うん...
今俺は子守をしている。いや、子守とかいったらこの子に失礼かもしれないが。ともかく少女はぐっすりと眠っている。
ふと外に出て、煙草をくわえる。いつもは部屋で吸っているのだが、あの子は未成年らしかったから流石に他の場所で吸おうと思ったのだ。
それにしても。
あの子はなぜここに来たのだろうか。いやまぁなんで俺の家の前だったかといえば俺の部屋がアパートの入口に一番近いので適当な家を訪ねたといえば説明はつく。...そうだな、俺が気になっているのはなぜ「ここ」に来たかではなく、「なぜ」ここにきたか、ここに来る羽目になった理由だ。考え始めて最初に思いついたのは虐待だが、正直これは違うような気がする。特にこれだという理由はないのだが、何故か確信がある。
いや、さっきいったことを返すようで悪いのだが、俺の頭は一つの考えが浮かんでいる。
ある意味虐待のようなものではあるのだ。だが、ソレを行っているのは家族ではない。
...なぜだか、彼女の
「あの子が、死人だって?...そんなわけ無いか。」
隣りに立つ、音がした。
「...いや半分正解だ。」
隣を見る。
「手当、ご苦労さんでした。」
発砲音が聞こえる。
暗殺者は部屋に入る。こぢんまりとはしているが綺麗な部屋だ。大学生くらいだろうか。殺してしまって悪いが、ソレはそういうものだ。仕方ないのだ。
寝室に通じるドアを見つける。どうやらあいつはここにいるらしい。ドアに手をかけ、引き開け───
「...殺したの?」
「───っ!」
突然、背後に気配を感じる。あいつだろう。手に持っていた銃を突きつけようとするが、間に合わない。
「あの人、いい人だと思ったのに。」
「知るかよ。巻き込んだお前が悪いんだ。」
背後から首を絞めようとするあいつ、彼女の腕を掴み、壁に押し付ける。
「痛っ...」
「武器がなけりゃ、お前は普通の人間だろって。ほら...」
腕を持ち、引っ張ろうとする。
「帰るぞ。」
「...いやだ。」
「...そうか。」
ならしかたない、と、その格好のまま蹴り飛ばす。彼女は壁に叩きつけられる。
「くっ...」
「一回気絶させて運ぶか。...安心しろ、痛くはないはずだ。」
そうして銃を向け、引き金を引く。普通なら死ぬだろうが、こいつなら耐えられるだろう、そう思っていたんだが。
──突然、銃弾が止まった。
「...何?」
ソレはあまりにも予想外であって、暗殺者は一瞬、たった一瞬だが、固まってしまった。
だからだろう、彼は視界外からの蹴りに対応できなかった。
「がっ...!?」
「あれじゃあまりにもカッコ悪いだろっての...」
打たれたとき。
あぁ、俺は死ぬんだなぁ、と思った。だが同時にこうも思った。
こんな雑な死に方をしたくない、と。
「まさかあんた...生き返ったのか?僕等と同じ...」
「わからない。けどそうなのかもしれない。なんだか体が半分になったような感じがするからな。ま、それはそれとして。」
相手の方に歩く。
「その分、借り返させろよ?」
が。
「...いや、断る。」
「は?」
お相手さんは立ち上がり、銃を構える。警戒はしたが、どうやらこっちに撃つ気はなさそうだ。
「また合うだろうよ。そいつも一緒にな。」
そう言って暗殺者は銃を撃つと...姿が消えた。
「──どういう原理さ。それにしても...」
俺はある一点を見つめる。ぐっすりと眠っている少女を。
「よく寝るなぁこいつ...」