味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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キルケーの魔女見てにっこりねっとりしてしまったので投稿します。



#13 インヴァリアント・クラリファイ……?

 

 

 一回戦は、あと四試合ある。実質的には五試合だが、切島くんと鉄哲(個性ダダ被りコンビ)は腕相撲だから、そこまで深く考える必要はないかもしれない。原作じゃ切島くんが勝ってたけど、今度はどうなるかな。どっちも対策自体は立ててるけど、うーん。どっちが勝ち上がってきても俺には苦しいのは違いない。

 第五試合。飯田くんと発目ちゃんの試合はきっと、この場の誰もを裏切るものだったに違いない。戦いではなく、彼女のサポートアイテムのダイレクトマーケティング(ダイマ)だから。

 

『サポート会社の皆さんッ!! この発目明、発目明、発目明を! どうか、どうかよろしくお願いします!!』

「マーケティング、という言葉がよく似合うな」

「いやあれ、通販番組だろ……」

 さっきと同じく、尾白の隣に座って見てるけど……こうやって会場で見ると、発目ちゃんのプレゼンテーション能力がよくわかる。尾白の言う通り、通販番組みたいだけど、ただの商品じゃなくてサポートアイテムということもあり、俺も見入ってしまう。

 俺は入学より前から、サポートアイテムがなければ本来の力を発揮できない。回復なんてほとんど無理で、ちょっと動き回ったり液体をちゃぷちゃぷ出来るくらい。だから、その重要性を……もしかしたら、ヒーロー科の中でも特に知っているかもしれない。オートバランサーや移動の補助。果ては捕縛用ネットまで。多種多様なそれらを解説しているのを、じっと見ていた。

 

 ──そして、十分後。

「だぁぁあああまぁああああしぃぃたぁなあああああ!!!!!」

 飯田くんの声が、会場全体に響き渡った。

 

「……試合に勝って、勝負に負けたな」

「あ、ああ……」

 正直なところ、笑いをこらえるのに必死だった。好き放題やられて振り回されてるところは、面白い以外の何物でもない。能力のアピールができなかったのはちょっとかわいそうだけど……二回戦があるから大丈夫だろう。

 

 第六試合は、ヤオモモちゃんと常闇くん。例によって、常闇くんの圧勝。攻防一体のダークシャドウを前にしちゃ汎用性の鬼じゃ勝てないもんな……。正直なところ、よくわかる。潤滑剤生み出すのと違って、回復用の薬剤生み出すのは何倍も時間かかるから。対処が遅れるのは自明の理だ。

 最終的に、原典と変わらず場外に押し出して勝利。

 

 第七試合、尾白と上鳴のマッチはなかなかに長引いた。序盤に尾白が近接戦闘を仕掛けて、上鳴くんは放電。真っ向からぶつかり合った勝負だけど、最終的に限界を迎えた上鳴くんがデメリットでショート(ウェーイ)して試合終了。飯田くんとは別の方向に腹筋に悪かった。

 

 そして第八試合。展開を知っていても、中々キツいものがある。観客からのヤジには俺がフーリガンになりそうだった。爆豪にもお茶子ちゃんにも失礼極まりないし、相澤先生が代弁してくれてよかったよほんとに……。

 大量の瓦礫を空中に蓄えて、爆豪に流星群(メテオシャワー)落とした時は壮観だったね。これほんとに破壊できんの? って。破砕されたのを見た時は言葉が出なかった。

 

 第三試合で一旦引き分けになった、個性ダダ被りコンビによる腕相撲。こちらは切島くんの勝利に終わった。他の人達にとっても、この試合は小休止になったに違いない。漢同士のぶつかり合いは大いに盛り上がっていた。

 

 ──で、一回戦は終わり。二回戦第一試合は轟くんとデクくんだ。激アツ過ぎて死ぬほど楽しみだ。

 最低なことに俺は、自分が誰かを傷付けることには忌避感があっても、誰かがぶつかり合っていることにはそうは思わないらしい。

 美しいとさえ、思ってしまった。ぶつかり合う魂に、〝人間賛歌〟というのはこういうものかと。その素晴らしさは、在り様に現れると。障害物競走や騎馬戦とは違う、命のやり取りに近しいそれを、肯定しかけて。

 

 我に返った。誰かが傷つくことを肯定するのは、彼女らしくない。彼女はいつも、何かを守るために撃っていたはずだ。俺の知っているアナ・アマリという狙撃手は、そんな風には絶対に思わない。俺がそれを捻じ曲げる訳にはいかない。

「──ッ」

 許されない。そんなことは。そんなふうに思うのは。

 ぞっとした。自分がそう、感じたことに。

 

「すまない。少し席を外す」

 尾白にそう告げて、俺は観客席を離れた。真っ直ぐにお手洗いに掛けて、奥の個室で鍵をかける。

「俺は、何を……」

 ──何を、考えていた?

 息が浅くなるのを感じた。暴力の肯定、命の削り合いへの賛美。撃つべき時が来るのは理解している。ここにいる誰もがヒーローになり、ヴィランと戦ったり災害救助を担う。だから、その時に個性は必要だ。けれどそれを、美しいと暴力を評するなんて到底許されない。

 

 個性が目覚めて、転生者であることを自覚して、力を伸ばしながら歳を重ねて。彼女への憧れと信念を抱いてここまで来たはずだった。そして家族の前で無力感に震えて、命を救う為という名目で気が狂う程の研究さえ続けていた、はずなのに。

 喉がからからに乾いていた。さっきまで水分を取っていたのに、それを上回って口の中を貼り付かせている。

 ──目の前が、暗くなった。

 心操に見せたのとは違う。人格じゃなく価値観の話だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。違う。それは違う。違うんだ。そんなの彼女じゃない。怖い。俺が俺でなくなることが怖い。抱いた信念も願った在り方も全部が崩れていく。どうして俺は今こんな所で悩んでいる。

 

 彼女と限りなく近い個性に生まれて、彼女のようになりたくて、ここまで来た。アナのように立ち上がって世界のためになればって思ってた。今も思ってる。それを根本から否定したのは俺だ。なんで。こんなことを。

「息をしろ」

 頭の奥で、先生の声が蘇った。暗くなった世界が色を取り戻して──それでも、考えることをやめられない。

 

 乱雑に、扉を開けた。誰もいなかったのが不幸中の幸いだ、俺は蛇口を捻って、数度顔を擦る。冷えていた頬がより冷えた気がした。

 鏡の向こうに映る自分は、酷い顔をしている。体力はあるはずなのに、気力が無い。そういう目だ。母さんの目を受け継いだはずの色は曇っていて、光を反射しない。

 それでも、呼吸を整える。表情筋に力を入れて、眉間の皺は解いて、微笑む。あの日壊れた彼女になる為の〝スイッチ〟を介さなくても、そのくらいはできた。

 

 お手洗いを出て、廊下を歩く。距離があったはずの客席にはすぐに戻れて、皆が迎えてくれた。

「天成くん! 帰ってきたのか! もう試合が始まるぞ」

 いつも通りの声で飯田くんは迎えてくれる。その言葉通り、二人は既に向き直っていた。

 

「何かあったか?」

「いや、少しトイレに。実のところ、爆豪と麗日の試合中、漏らしそうだったからな」

「そこまで言わなくていいだろ……」

「ばーちゃん頻尿かー?」

「そこまで耄碌はしておらんよ」

 少しだけ笑いが起こって、「ああ、ちゃんと()()()()な」と安心した。言葉も出ているし、声も出ている。

 

 風がやんで、張り詰めた空気が全体に広がる。俺はこの試合を、正常な思考で見られるだろうか。

 プレゼント・マイク先生の声が遠く聞こえていた。どれだけ人としてまともでいられるか、ずっとそれが頭にあったから。開始の合図と尾白が肩を揺らしたことで我に返った──瞬間、轟くんの氷が吠えた。観客席まで冷気が伝わってきて、青白い者が地面を這ってデクくんの足場を奪おうとするが──氷が砕けて、観客席まで吹き(すさ)ぶ。

 

「……寒いな」

「それで済む風じゃないけど!?」

「真冬も半袖半ズボンで過ごすといい」

「はぁ!?」

 

 やり取りの向こうでもう一度。自損覚悟での衝突は、狂気に似た誠実さを感じさせた。どちらも止まらない。氷は大地を滑って、指弾が空気を裂く。轟くんには一切の無駄がないけれど、肉体が削れていくデクくんはどうしたって分が悪い。痛みの上に立つ戦闘なんて、あっていいはずもない。

 

 ──お前は限界まで自分を削って、仲間を援護しようとしている。

 ──殺さないために自分を危険に晒すのは、英雄じゃなく殉教だ。

 ──生き延びるために使え。自分が生きる為だ。それができて初めて、他人を救える。

 

 今更になって、相澤先生の言った意味が分かった。身を削る戦いがどれほど愚かしいのか。今のデクくんの〝ワン・フォー・オール〟は、はっきり言って自爆技だ。それ以外の何物でもない。

 俺のは「殺したくない」。デクくんは「みんなを助けたい」。そうやって気持ちの違いはあるだろうけど、やってることは同じ。

 

 あれは救助でも、理想でもない。自分に火をくべて、誰かに灯すような戦い。そんなの、長く続くはずがない。分かっているから、目が離せなかった。轟くんの氷はデクくんを食い殺さんばかりに動いているし、彼の指は砕けるたびに音がこっちにまで聞こえるような気がする。

 先生の言葉が離れなくて、俺はかぶりを振った。肺が痛い、それでも目を逸らせない。

 

「次、ばーちゃんとだ。よろしく」

 自分に振られた話題に気付いて、俺は振り返る。切島くんだ。そうだった。二回戦は彼だ。

「ああ。切島、よろしく頼む」

 言葉を交わしながらも、思考は試合に向いていた。氷が裂けて、霧が立ち上る。轟くんの足元から伸びる氷柱が砕けて、連なる氷風が音にも叫びにも聞こえた。

 

 誰かが、息を呑んだ音がした。尾白か瀬呂か、それとも。俺も、いつの間にか呼吸を忘れてしまっていた。──あれはもう、戦いではなく意志のぶつかり合いだ。

「……君はそれでも、叫ぶのか」

 全身が軋んで、砕けた指で拳を握る。彼の腕はもはや、欠片の入った肉の袋と変わらない。動くだけで悲鳴を上げている。

 

 氷が砕ける。指の骨が、砕ける。その繰り返しを、俺はもう数え切れなかった。痛覚が伝染してくるように感じた。無意識に、胸に手を当てていた。冷たくなった指に心臓の鼓動が染み渡って、喉が渇く。

 こんなのは、違う。違う、はずなのに。理屈は分かっている。身体の許容量を超えて個性を使うのは愚かだと。命を削ってまで戦うことは殉教と変わらないって。先生が、教えてくれた。だけどなぜか、その愚かさが美しく見えた。

 

 ──あの時と同じだ。爆豪とお茶子ちゃんの時も、そうだった。暴力の美しさを感じてしまった時の、あの忌まわしい感覚。

 違う。これは間違いだ、俺は観測者だ。そう、見届けるだけでいい。

 言い聞かせるのに、胸の奥にある何かが掬って、かき混ぜられたみたいに湧き上がってくる。

 

「どこを、見てるんだ……!!」

 デクくんの声が破壊音よりも鮮明に、耳の奥に刺さる。

「皆ッ……本気でやってる! 勝って目標に近付くために、一番になるために! 半分の力で勝つ!?」

 氷が砕ける音と、唸る風が混ざり合って、客席まで押し寄せてくる。轟くんは動かない。きっと彼は目の前のデクくんではなく、エンデヴァーを──父親を、見ている。

「まだ僕は、君に傷一つ付けられちゃいないぞ!!」

 

 叫びの一つ一つが、氷を叩いたみたいに震えている。寒気が増した気がして、俺は両腕で身体を抱く。感情が、揺れている。湧き上がってくる。やめろ、揺れるな。これは戦いで、物語で、観測すべき現象だ。割り切れ。けれど、喉の奥で何かが脈打っていた。

「どうして、……どうして」

 彼はそこまでして、誰かに叫ぶ? 自分を、壊してまで?

 自分でも、答えは理解していた。

 

 轟くんが走る。動きは重かった。氷を生成する度に体温が奪われていく──個性の性質は、視たし見たから知っている。吐息は白くて、肌は血の気が引いている。デクくんの腕が冷気を切り裂いて、轟くんの腹にモロに入ったのが見えた。身体の限界を超えた一撃に、奥歯が砕けるくらいの力が入った。

 

 なんでそこまで、と発した声が、掠れていた。

「期待にッ……答えたいんだ!」

 即座に返したデクくんの声が、破砕音よりも鼓膜を殴打した。

「笑って答えられるような、かっこいいヒーローになりたいんだっ!!」

 歓声も風も、何もかもが消えて、二人だけの空間がそこにあった。──あれは、届く。

 あの声は、彼の奥底にあるものを、確かに揺らしている。他人の傷を見て、それを見ぬ振りができず、ただ真正面から向き合う。理屈なんてない、ただ届いてほしいという願いだけで。

 

 いつも計算して、効率を考えて、傷つけない方法を選んで。正しさに逃げてきた。彼女のようになりたいと言いながら、誰かの命を奪わないために、誰か(じぶん)の痛みを減らすために。ただ、怖かったのだ。

 自分が誰かを壊すのが。

 自分が、間違えるのが。

 だから、俺は。

「俺は……!!」

 

「全力も出さないで完全否定だなんて、ふざけるなって今は思ってる!!」

 轟くんの身体が揺れて、氷の残響が消え──世界が、止まったように感じた。

 ああ、そうだ。ここからだと、俺は知っている。この試合の結末を、知っている。けれどその「知っている」という感覚が、胸の中で異物のように膨れ上がった。記憶の中ではただ感動の場面だったはずなのに、今は違う。地と熱と音と、空気の震えが全部、現実の重さでもって震えている。

 轟くんの唇が、微かに動いて。

 その続きが耳に届く前に。

 

「君の!!」

 空気が、爆ぜた。

「力じゃないかッッ!!」

 

 全身を貫いて、心臓が止まる。観客席にいても、分かる。振動が皮膚を叩いて、呼吸が弾けた。何かが胸の奥で割れる。熱い、痛い、違う、痛いのに、冷たい。分からない。息が吸えなくなる。指が震える。

 

 ──轟くんの右半身が、燃えていた。

 炎というよりも、太陽みたいだった。

 蒸気が立ち上って白と赤が混じり、陽炎が見えた気がする。悲鳴と歓声、温度がここまで届いた。頬を撫でた熱は確かに現実のもので、思考よりも先に涙腺が痛んだ──これは、陽炎じゃない。

 

 君の、力。

 言葉の余韻で、肺の奥まで焦がしていく。息をするたびに、胸の奥だけじゃなく手足まで、肌の裏から熱が伝わってきたように感じる。涙の向こうで炎と氷がせめぎ合って、蒸気がうねっている。けれど、見えた。彼が初めて、〝自分の力〟として炎を使った瞬間。

 ──ああ、綺麗だ。

 そう、思ってしまった。最悪だ。分かってる。どれだけ破滅的で愚かでも、それでも美しい。俺の中の何かが叫んで、崩れて、そして。

 

 音が、消えた。

 ただ、煙だけが残った。

 頬を伝う液体がどっちか、原因がわからない。俺の喉が勝手に鳴って、心臓は無茶苦茶に動き続けている。冷静になれ、見届けろ、自分の願った道を歪めるな。そう言い聞かせても、もう無理だった。

 

「見ただろう。これが力だ」「違う、これは」「彼の行動を否定するのか? ただ、その人間の力を肯定しただけだ」「力とは救うためのもの」「力とは奪うためのもの」「美しいと思ってしまう自分はどちらか」「俺は違う。絶対に、違う」「俺はただみんなを守ろうと」「俺が願ったものじゃない」「俺はどっちだ」

 

 ──今の俺は、破壊の中に救いを見ていた。

「天成、……おい、天成!」

 切島くんが、肩を揺らしていた。いつの間にか、上体を折ってしまっていたらしい。

「大丈夫かよばーちゃん。体調悪いなら……」

 

 喉が焼けて、声を出すのに時間がかかった。自分の声が、人の声みたいにかすれていた。

「大丈夫、だ。少し、温度差でやられてな」

 笑おうとして、上手くいかなかった。頬が引きつって、表情筋が命令を聞かない。隣から尾白が顔を覗き込んでくる。

「本当に顔色悪いぞ。リカバリーガールに見てもらうか?」

「問題ない」

 そう切り捨てるしかなかった。

 

 フィールドでは、もう決着がついていた。土煙が晴れ、デクくんは壁にもたれて一歩も動かない。──三回戦進出、轟焦凍。

「……天成」

 また、呼ばれる。

「お前、泣いてるぞ」

 指先で触れると、確かに泣いていた。熱くも冷たくもない、温くさらりとした感情の残滓だ。

 どうして泣いているのか、自分でも分からない。

 

「……気にするな。目に、粉塵が入っただけだ」

 アナはきっと、こんな時でも笑っていたはずだ。華やかじゃない、けれど人を包む温かさを持って。

 でも俺は、どっちにも傾けずに、中途半端。誰の為に撃つかも決められず、けれど俺には、それがお似合いなのかもしれない。

 

「次は私だ。先に行く」

 誰の返答も待たず、通路へ出た。観客席の外はいやに静かで、対流する空気は重い。

 ──君の力じゃないか。

 その言葉の意味を飲み込もうとする度に、胸が痛む。

 自分にとってのそれは、誰かの模倣だ。

 アナ・アマリの在り方を、理念を借りて、彼女のような力と姿をなぞって、俺は見届けると願ってきた。でも緑谷出久は違う。彼は自分の意思で、自分の行く先を掴みに行った。俺にはそんなものなかった。

 

 それが今、俺のやるべき事なのかもしれない。

 風が吹いて、首元の汗が冷えた。

「……違う。〝私〟は、まだいける」

 ──二回戦、切島鋭児郎。

 彼と戦う。そして、確かめる。俺の願った力が、まだ誰かを救えるものか、それともただの模造品か。

 

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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