ガンダムNTのVigilante聞くと頭イカれるほど集中できるので初投稿です。
顔の真ん中に差し込んだ光で、眼球が目玉焼きになる。
目が覚めて最初に、そう思った。
水の底から戻ってきたみたいに、身体の重みが消えていく。徹夜明けみたいな感じだ。しっかり寝て、しっかり回復してる感覚がする。昨日まで無理矢理起こさなきゃいけないレベルだったのに。
夢を、見ていた気がする。けれど、その中身を形にしようとすると、霧みたいに逃げてしまう。怖い夢じゃなかったのは覚えてるし、気にしすぎる必要も無いか。
もそもそと布団から起き上がって、深く息を吸う。喉の奥には鉄の味が残っていて、思わず唇をなぞる。塞がってはいるけど、思い切り唇を噛んでいたらしい。傷口の下では、血が巡っている熱い感覚がある。
俺は、生きてる。俺だけが、生きている。
今日はそれが、少しだけ優しい実感を持っていた。
事故の後、実感を持った俺が最初に気付いたのは、泣いても家族は戻らないということだった。ガキみたいに泣いて、周囲を困らせて、前に進めないだけ。そう理解するのには、二十四歳と十二歳の頭は足りていた。けれど、泣かないには十二歳に引っ張られた俺の感情は成熟していなかった。
──だから、借りた。思想だけじゃなくて、立ち振る舞いも、口調も。壊れると思ったより先に、〝彼女〟を。泣かない、毅然とした強い大人を。
冷静で、非常で、決断できて。それでもユーモアと温かさを忘れない〝アナ〟。それを、借りた。
ミスティさんに何を言われたか。はっきりと覚えている。全部正しくて、目を逸らしてた内容だった。
俺は撃てない。
撃たないんじゃなく、撃てない。撃てない自分を、正当化している。
殺したくないから。
言われてから、余白のあった場所が埋まった感覚がした。憧れだったはずのそれは信仰になって、信仰の下には恐怖があったのだと、限りなく正当に近い答えを多分、彼女はだしてくれたのだ。
毅然と立つ者でありたいと纏った彼女の姿は、いつからか恐怖を隠すための物になっていたのだ。傷付けないで済む自分でいたい、が俺の本心だった。俺はその形を模倣しただけのニセモノ。
理性と慈悲で鎧い、非致死を掲げて、致死性を切り落として。見映えのいい正しさと清廉さで、〝私〟を包帯のように巻いた。表から見えるのは、清潔なガーゼとそれを覆った部分。中身の傷は見ない。
それが、俺の信仰の正体だった。
俺の
無力化の為の麻酔、抑制。負傷にもならないレベルで作ってある。そうすれば、俺は罪を背負わずに済む。相手を止めるだけ。後は誰かが、捕らえてくれる。
支援ヒーローのフリをして、手を汚すことを人に押し付けていた。俺はずっと逃げていた。戦術でも理性でもなく、心の根っこにある「殺したくない」という感情のままに。
理由はいくらでも並べられる。命は誰にだってひとつで、殺せば蘇らない。理屈としては正しいし、お綺麗だ。でもその奥ではただ怯えている。自分の手が、誰かの未来を断つのが怖かったから。
自分が終わらせなくても結末が同じなら、責任の分母は変わらないのに。「アナならこうする」を拡大解釈して、彼女の姿を借りて逃げた。憧れは祈りで、同時に拠り所だ。けれど拠り所は、自分が立つための土台であって、隠れる衝立ではない。
体育祭で、デクくんと轟くんの試合を見た時。
綺麗だと、思った。
自分の目を、疑った。血と炎と氷がぶつかるあの光景を「綺麗」と感じた自分がたまらなく恐ろしく、心の底から嫌悪した。
けれど今は、分かる。あれは暴力の美ではなく、意思の美だと。衝突の中心にあったのは破壊ではなく、誰かを奮起させる言葉と思いだった。熱も冷気も衝撃波も付随物で、ぶつかり合うのは双方の魂。それを見抜けず、「暴力を綺麗だと感じた」と誤ったのは、俺が長い間「見ない」ことに慣れた目で観測を強いたからだ。
俺の願いは〝救う〟ことであって〝壊す〟じゃない。それはずっと、変わらない。
救うとは、結末に責任を持つことだ。
止めたら止め切る。助けたら助け切る。
撃たないのなら、撃たない代わりに誰も死なせない。
その重さを背負えるなら、俺は本当に〝撃たないヒーロー〟になれるだろうか。
もしそれを背負えないのであれば、その時、俺はまた逃げるのだろうか。
誰の思想も借りないで、
もう一度、息を吸って、吐く。肺の奥まで染み入る温度が、現実感を否応なく高めていった。これは夢じゃない。昨日までいた場所じゃない。
立ち上がって気付く。ネクタイとブレザーは壁に掛けられているものの、シャツとスラックスはそのままだ。昨日意識がなくあったあと、恐らくバイターさんが運んでくれたのだろう。気遣いに感謝しつつも、申し訳なさが勝る。
「おっはよォ〜〜〜!! 起きてる?」
「……おはようございます。さっき起きました」
襖を隔てての会話。この人、昨日から思ってるんだけど足音無さすぎじゃないか……? そういう個性なんだろうけど、心臓に悪い。
開けてい? と聞かれ、こちらから襖を開いた。バイターさんは昨日と変わらない顔でこちらを覗き込んでくる。
「いやァ〜〜〜さっぱりしてるねェ、昨日死人みたいな顔してたから!」
「……そんなに、酷かったですか?」
「イレイザーみたいに〝視る〟ことに意味がある人なら気付くかも? ま、今日のハイレンくんはだいぶ生者寄り! 生きてる!」
菜箸をメトロノームみたいに振りながらけらけら笑っている。廊下の向こうからは出汁の優しい匂いがして、家事の真っ最中であることを伝えてくる。
「あっ、所長は昼に起きてくると思うから。そっから支度とか色々あって〜〜〜、多分顔合わせるの三時くらいかな? 職場体験、基本俺と一緒にいて貰うから、仲良く巡回、宜しくねェ」
「はい。よろしくお願いします」
「とりあえず風呂入ッておいで。昨日あのまんま寝せたから気持ち悪いでしょ。皺ッちゃった制服はあとで渡してくれれば整え……あッゴメン、お湯湧きそうだ。またねェ」
ありがとうございます、と伝える前に、彼はまた消えた。目の前にいて、しっかり捉えてたのに、消えた。
「どうなってんだ……」
お言葉に甘えてシャワーを浴び、持ってきていたタオルで頭の水分を吸い取る。いつも通りのケアを済ませ、学校指定のジャージに着替えた俺に、バイターさんは手招きして笑いかけてきた。
「ご飯出来てるよ〜。丁度良かったねェ、ぴったり。ご飯どうぞォ」
卓上には、味噌汁と焼き魚、炊きたての米。香りがふわりと広がって、自分の腹が減っていることに気付く。そういえば、昨日の夜は何も食べていない。空腹になるのも当然だ。
俺は椅子に腰かけて、手を合わせる。
「……いただきます」
「どーぞどーぞ。ま、味噌汁と魚には自身あるよォ。猫だからね」
「……貴方の個性、〝猫〟なんですか?」
「猫だよ。本当に猫。だから鰹節と魚は大好物」
「分かるような、分からないようなことを言いますね」
「まァいーのいーの。理屈で理解しようとするほど消えやすくなるからねェ」
「……それは、比喩じゃなく?」
「ガチよ。マジよ。物理的にいなくなるッてワケ」
バイターさんは汁椀を傾けて、「んー、やッぱ熱いねェ」と感想を漏らした。猫舌でもあるんだ……。それから、焼き魚の骨を綺麗に外す。
「ハイレンくん、今日の予定。言っていい?」
「はい。お願いします」
「午前中は巡回。というか、基本巡回だけだね。ヒーローのやることって、ヴィラン事件と事故の対処だろ? で、俺たちは京都の半分を任されてる訳だけど……」
〝ミスティ〟!? 知る人ぞ知る京都の半分を守ってるヒーローじゃないか! 彼女は京都の半分を自治していて、ヴィランが動いたらすぐに他のヒーローたちに報告して動かすんだ個性で監視してるんだろうけどその精度がすごくて他のサーチ系より範囲が広いのはもちろん生身の戦闘も得意なんだ身長は百五十満たないのに京都でも太刀打ちできる人は中々居ないんじゃないかな本題から外れたね彼女の個性は〝方陣〟プロセスは分からないけど一定のエリアに任意の──デクくんの言葉を思い出す。
漬物を咀嚼し終えたあと、バイターさんが聞いた。
「そういや、ミスティの個性って知ってる?」
「……索敵の個性だと」
「んまー合ってる。で、対処はともかく、特定の範囲での察知なら〝ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ〟のラグドールにも引けを取らない──というか、彼女とは別ベクトルだから比較も何もないかァ。受け持った範囲を全部監視してるンだけど、指示貰ったら俺が飛んでくってワケよ」
「この区域全てを、三人で自治している……その認識で合ってます?」
「概ね。俺は足速いけど二人しかいないから、エリアの隅の方は他の事務所と協力すンね。あと同時に発生した時とか」
なるほど、デクくんの言ってた通りだ。機動力が高い個性を持っているが、その正体は不明。けれど、その動きと言葉を組み合わせれば、答えは自然と導き出せた。
──ただの猫。ねこです。よろしくおねがいします。
──生きてるか死んでるか分かんない猫。
生死の分からぬ量子の猫。
「……あの」
「んゥ? なんか気になることあッた?」
「不躾ですみません。貴方の個性、シュレディンガーの猫……ですか?」
バイターさんは両目をぱちくりさせている。それからぱあっと子供みたいに笑って、頷く。
「やっぱ気付いた? やるねェ、賢いねェ。正確には〝逆〟シュレディンガーの猫。フツーの猫は観測されるまで生きてるか死んでるか分からないって思考実験でしょ? 俺はその逆。〝見られてない〟時だけ存在できる猫。見られてたら結果如何に関わらず縛られる。観測された瞬間に動けない」
「……つまり、見られてはいけない」
「そそ。変な話だろ? ヒーローって本来は見られてなんぼのお仕事なのにねェ。俺の場合、存在の根底が真逆なモンで。だからまァ、〝
冗談めかして言いながら、バイターさんはもう一口、魚を口に運ぶ。その軽さが、逆に怖かった。自分が今見ている人が、次の瞬間には存在しないかもしれない。そういう、儚さと軽さだった。
「寂しいよ。超ォ寂しい。だから喋ッてるしうるさくしてんの。誰かが聞いてくれてるうちは、まだ〝いる〟って実感するからねェ」
今度は味噌汁をふーふー冷ましている。改めて口にして「あちち」と言っているあたり、本当に猫舌なのだろう。俺も味噌汁を啜ったが、むしろぬるくなりつつある。
会話がなくなった食卓で、生活音だけがある。それから数分して、俺はごちそうさまと食器の片付けを口にした。
バイターさんは「一応お客さんだからいいのに〜」と言っていたものの、「まァでも合法的にサボれるしィ? お言葉に甘えま〜す。歯磨きとか色々終わったらコス着て玄関集合ねェ」とどこかへ行ってしまった。
手早く片付けて、部屋へと戻る。開いたケースには変わらぬ状態のコスチュームが入っていて、袖を通したのは久しぶりだ。以前と違って、〝彼女の意思〟みたいなものを感じられない。何故だろうか。遮音マフラーやスリングを調整しながら考えていると、はっと結果に行き着いた。
勝手に〝彼女の意思〟を込めて着用していたのはきっと、俺だ。それを、ミスティさんが現状を見せてくれたことで、少し変わっているのかもしれない。
誰かになりたいという言葉を隠れ蓑にして逃げるんじゃなくて、現実を見て、やることをやり切って、結末に責任を持つ。その考えに、ようやく至れたからだ。
ヘッドセットを首にかけて、深呼吸をひとつ。酸素が染み入るような感覚がした。
鏡の自分を見ても、もう口にはしない──俺は、〝アナ・アマリ〟にはならない。シンセヒーロー〝ウンターハイレン〟だから。
それでも、彼女への敬意を忘れることは無いと、俺はそう思ってる。
靴をもって歩いていくと、バイターさんは猫みたいにしゃがんでいた。
「おッ、準備できたねェ。……ふむふむ、こりゃ軍医さんってカンジ。実は最前線にいた?」
「前線どころか、活動したこともないですが……まあ、そうだと思います。そういう理由で選んだので」
マフラーの位置を引き下げながら返す。普段はインカムで話しているから、つい口元に隠してしまう。
「ねェそのコート、結構詰め込んでる? 重そォ」
「それなりに。最大では、およそ十五キロほどかと。今は八キログラムです」
「わ、ホントに重かッた。そんなにあッたら動くの遅くなンない?」
「なりますが、個性の性質上免れないものです」
「個性、身体から液体生み出すって奴だよね。やッぱ瞬時には生み出せないカンジ?」
「はい。生体由来の薬液を生み出す個性ですが、即席での生成は難しいです」
うんうん、と頷きながら彼は壁に指を滑らせている。指先で何かを書きながら考える人間は結構多い。俺の友人にも、座学をやってる時に指の腹で机をグリグリしている奴がいた。
バイターさんは「聞きたいけど先に歩くよ〜」と玄関から足を踏み出した。俺もそれに続く。
「体内が薬品工場ッてワケだ。それを弾丸に詰めてると。いやァ凄いねェ現代の子たちは。で、ケースに入れてるそれから撃つんでしョ? 仕組みどうなッてンの?」
「セミオートの
「ふんふん、ふむふむ。ちなみに弾ッて痛そうだけど、そッちは?」
「当たった瞬間に砕ける──合法な拡張弾頭って言ったらいいんですかね。それで液体を浴びせて効能を発揮させます」
「おお〜、合法な違法。面白いねェ。ッてコトは中距離が主体?」
「必然的に。味方のバックアップと敵への妨害がメインになります」
「へえへえ。よく映画とかで見るけど、撃つ時ってやっぱ息止めンの?」
「重要な局面では」
「まァそうだよねェ。窒息死しちゃう」
バイターさんが好奇心丸出しで聞いてくるから、こちらも必然的に喋り続けることになる。嫌というわけじゃなくて、本当に「喋ってるしうるさくして」いるんだ。意図的に。
「体育祭で使ッてた拳銃は? あれの弾も同じ?」
「似た機構ですが、こちらは貫通力を高めて刺したあとに血管に広げます」
「じゃあじゃあ、マフラーは? 防寒じゃないよね。めっさ暑そうだし」
「遮音用です。必要ないのに癖で付けてきてしまいました。ヘッドセットも」
「遮音! 凄いなァ今の技術! ヘッドセットは分かるけど、そこまで徹底するンだ。──あー、あと言いたいことあったんだ、ハイレンくん」
学生同士の雑談みたいなトーンから一気に落ちて、なにかやらかしたかと焦る。
「俺の事、呼び捨てね。〝さん〟付けちゃダメだよ」
「は、はい?」
「いやァ、敬称付けンのは距離感じるし? 敬語は多分抜けないと思うからいいけど、喋る度二文字ロスしてるッて言うか?」
敬語が抜けないなら敬称も抜けないんじゃなかろうか。
「お菓子一口分損してるッてカンジ。勿体ない、経済損失ゥ」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟じゃないよ。それが隙になる時もあるし、今からでもクセ付けといたほうがいい」
「……わかりました」
「ま、切り替えできンならいいけどねェ。ほら俺のはキャラ付けだし? でもそッちは呼び捨てでいいから、ね?」
「えっ、いや、理解はできるんですが……」
「ほら、ねえ。──呼んで?」
理解は出来るけど、無茶を言う……。こっちは昨日会ったばかりなのに。
バイターさんは怒っているわけでも、命令してる訳でもない。友達に名前を呼んで欲しいみたいな言い方で来られて、少々面食らってしまう。
「バイターさ──あっ」
「はい不合格。もっかい言って?」
「あ、ええと、その……バ、バイター……」
「ン〜〜〜おけおけ! よォくできました! 偉いねェいい子だねェ」
「子供扱いしないでください……」
「してないよ! こういうの必要、必須。ヒーロー同士の距離感ってやつ? きひひ」
表通りに出ると、まだ朝特有の匂いがあった。軒先から立ち上がる台所の香りだとか、朝露だとか。バイターはこの前に比べて〝いる〟足取りで歩き、俺はその後ろを歩いていく。
「おはよー! 苦労さんやで」
「はよはよ〜。この前腰痛めたッて聞いてたけど、そのあと大丈夫?」
「ばっちり元気や。整骨院でガシガシやってもろたからな」
「おはようございます! 今日も頑張ってください!」
「うん、おはよう。気ィ付けて学校行きなねェ」
「あれ? そっちは確か……体育祭出とった天成くんか? 見とったで」
「そうそう。画面で見るより男前でしょおじさん」
通行人だったり、商店街の人だったり。色んな人が声をかけてくる。彼は人当たりのいい笑顔で答え、ついでに俺をからかうみたいにつついてきた。
「ほらほら、雄英体育祭ッて規模凄いじゃン? 一回戦が一回戦だッたし、結構認知してる人多いと思うよォ」
「あんなことするんじゃなかった……」
「人気商売だしいいと思うんだけどなァ。恥ずかしい?」
「当たり前ですよ……」
した側がこれってことは、芦戸ちゃんも同じ目に遭っているだろう。帰ったらまた怒られるかもしれない。
「おばちゃん見てたよ。お姫様抱っこ、あんな風にされたら私だったら惚れちゃうわね〜」
「そんな……ありがとうございます」
「応援してるからね。頑張って!」
多少詰まりながらもお礼を言う。緊張で声が震えてるのは自覚してるけど、ちゃんと返せてるし動くこともできる。半分素の声で喋ってるのに、感じるのは恐怖だけじゃない。誰かの視線の中でも半分、〝私〟じゃなくて〝俺〟もいる気がした。
角を曲がって、大通り。バイターの方は変わらずファンサしたり住民を気にかけたりしていて、改めてヒーローは大変だと思い知らされる。
その中で、ふと。
「──あ、あの!」
後方から、声が飛んできた。何事かと振り返ると、だぼっとしたパーカーとジーンズという装いの、どこにでもいそうな少年だ。ちょっと身長が高い事くらいだ。
「天成さん、ですよね……? 体育祭、テレビで見ました! 切島さんとの試合も、お互い全力出しててその、凄くかっこよくて……」
少しだけ落ち着いた息でそう発したあと、彼は手帳とペンを差し出してきた。
「もし良ければ、サインっ……いただけませんか!」
思わず、たじろいでしまう。バイターは隣で「おお……」なんて言っていて、驚いているのかからかっているのか分からないけど、「ハイレンくん、」とつつかれて頷いた。
「是非」
筆記具を受け取って、どう書くべきか一瞬悩む。名前を書く。授業で発表した時もやったはずなのに、ペンの重みが違う。
緊張で、手が震えている。書き損じがないようそれを抑えて、丁寧に。ペン先が紙を滑る音が、周囲のざわめきよりも大きく聞こえた。〝Unterheilen〟。スペルも合っている。それと。
「……お名前、聞いてもいいですか?」
彼は数秒フリーズしたあと、か細い声で「セイです」と名乗る。
「……か、カタカナで〝セイ〟です」
『セイくんへ』と添える。その人への物であると、思ってもらいたいから。
彼は手帳を受け取って、深く礼をする。
「ありが──」
「ありがとう」
そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……
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赤(アニメ)
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金(原作)