味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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トガスキンがかわいいと思っていたら2Bスキンが来ちゃって、カァイイが増えて甲乙つけがたいので、投稿します



#20 オンスロート・アサイラム

「ありがとう」

「え……?」

 

 セイくんに被せて、言ってしまった。驚いたように顔を上げる彼に、言葉を続ける。

「……初めて、だったんだ。声を掛けてくれて、ありがとう」

 自分でも、不思議だった。この口調で話せることも、こうやって何かを求められることも、少しだけ温かい気持ちになる。

 彼は一瞬ぽかんとした後、弾けるように笑った。

「こちらこそ、天成さんの──ウンターハイレンさんのサイン第一号になれて、光栄です。これからも、応援させてください!」

 両手で手帳を抱きしめて、何度も頭を下げながらも走り去っていった。

 その背を見送りながら、バイターはにやにやしながらこっちを見ている。

 

「いやァ~~熱いファンだったねェ。初サインおめでと!」

「恥ずかしい言い方しないでください……」

「いやいや、こッちまで嬉しくなッちゃって。ね、どう?」

「体育祭の後も似たことがありましたけど……ちょっと、言葉にできないです」

「いつか言葉になるかもね。きひひ」

 

 それにしても、とバイターの声が低くなる。

「んー、この辺の子じゃないね。修学旅行かな?」

「今の時期も割とあるんですね。俺が中学校の時は秋でした」

「……だと、いいけどね」

「どういうことです?」

 

 問い返した俺に、バイターは足を止めて、しばらく何かを探すように辺りを見渡した。色違いの瞳を動かして、周囲の人並みや路地の奥、通りを順に眺めている。

「いやァ、何でもないよ。ただの杞憂。たまーに、いるからさ。ああいう子」

「家出とか……ヴィランとかです?」

「ンー、予備軍? 未遂犯? 野良猫ちゃんってところ」

 にま、とまさしく猫のように笑いながらも、声は鋭いまま。目の奥にあるのも同じ、他の人間に向けていたそれとは明確に違った。

 

「猫ッてねェ、見てるようで見てない、見てないようで見てる。自分に害があるかどうか、測ッてるワケ。で、自分にとっておいしい状況なら、寄ってくる」

「じゃあ、さっきの子も……?」

「九分九厘、ただの仔猫ちゃん。多分大丈夫、けどねェ」

 ──こっちが見てるってことは、向こうも見てる。どの方向から見てもこちらを真っ直ぐ見つめてくる。

「だから、見せる時と隠すときは、ちゃんと隠さないと」

 

 言葉の意味を咀嚼していると、彼の視線が別の方向に向いた。

「行くよ。出たから」

「え?」

「悪いが追いつけ」

 声が、耳のすぐそばで響いた気がした。視線を向けた先にはもういない。代わりに、遠くから悲鳴が上がる。「放せ」だとか「どこから」だとか。明らかに、加害者側の言葉だ。

 

 音質からして、狭い道。さっきと通ってきたビルの方か。交通量が少なく、監視の目も届きづらいのだろう。彼の姿は視認できていないけど、たぶんそこにいる。駆け抜けた先には、やはり彼はいた。

 そして、終わっていた。一人は路上に伏せられて、もう一人は両手を後ろ手に固められている。その傍らにしゃがみこんでいるのは当然、バイター。

 だった、けれど。

 

 何かが違う。服装は同じで、でも決定的に何かが違う。迷いなく腕を縛り上げた彼は、ゆっくりと立ち上がる。そうして、彼が振り返って──その瞬間、目が合った。

 これは、誰だ。

 ゴールドとミストブルーの瞳が、銀色の髪からのぞく。けれどそこには、掴めなさも何もなく、笑みも演技もない。冷たい何かがこちらを見ていた。猫でも人間でもない、顔。

 

 彼の持つものは、無関心とも違う。視線を合わせたまま、彼──いや、彼の中の〝別の誰か〟は、何も言わない。ひどく無表情で、それでいて残酷でも善意でもない。何も持っていない目だった。ただ視ているだけ。俺を、ではない。周囲を。そして、次を。

 怖いとは思わなかった。声を掛けようとする。でもなぜか出来なかった。呼んではいけない、そんな気がしたから。

 踏み出そうとした俺の足が止まったのは、そのせいだ。

 

「──観測の終点ッてわけで。これにて撤収~~~!!」

 言葉の残響と共に、瞳の光が揺れる。さっきの無表情は消えて、悪戯っ気のあるいつもの調子で笑っていた。

「……え、」

「やだなァ、見て分かるでしょォ? 俺だよ、俺俺!」

 

 それが嘘でないと認識できているから、怖いのだ。誰かにすり替わったわけでも、乗っ取られたわけでもない。確かに同じ声で、同じ身体だった。それでも、そこにいたのはただの模倣でなく、純然たる〝別の人格〟。

「いやァ〜〜〜ハイレンくんの顔! 表情! そんなにビビった? すっごい顔してたよ、こんな感じで!」

 両手で自分の頬を引っ張って、けらけら笑っている。ほんの数十秒前まで、機械よりも無機質な姿をしていたのに。

「……ええと」

「ん? あァ、さっきの〝俺〟ねェ」

 

 「コンビニ行ってるところ見られちゃった」みたいなノリで返される。

「驚くよねェ。分かる。理解できる。いや〜〜俺も最初はビビったから。急に席替えしてくるんだもん〝俺〟が」

「……席替え?」

「そそ。こうやって」

 バイターは人差し指と親指を立ててくるりと回した。

「俺ら、人格椅子取りゲームしてんの。始まるのはお互いが合意したところから。基本的にはね」

 

 本当に〝ゲーム〟感覚でのそれだが、ゲームとして笑うことなど出来ない。

「……二人いる、ってことですか?」

「そうそう、それだよ。そんな感じ。病名で言うとお堅いけどさ、俺のはちょっと違う。居場所が二つあったから、二人で住むようになったってだけ」

 ──二人で住む。変わらずに重い言葉を軽く吐いていた。

「猫ってさァ、たまにほんとに同じ猫か分かんない顔するじゃン? 撫でられるの喜んでると思ったら「人間が!! 整えた毛並み乱した!!」みたいに。あれと一緒」

 

「……それで、いいんです? 解釈」

「いいよいいよ。それでOK。違うけど同じ、厄介だけど便利。ちゃんとお互い見てるし。だからほら──」

 バイターは口の前に指を立てた。

「君が向こうの〝俺〟に変なこと言ってても、俺は覚えてるし。俺が君の悪口言っても、向こうは覚えてる」

「言いませんし言わないでください……」

「言わないよォ? むしろ言う暇ないもん。あいつは仕事モード璇耀だから」

 

 あの無表情を思い出す。何も見ていないようで、全部把握してるみたいな目。天井から世界を見てるみたいな視線。

「……最初、怖くなかったですか」

「え、俺が? 何を?」

「自分の中に〝二人いる〟ことが、です」

「んー……」

 バイターは首をかしげて、言葉を選んでいる……と思ったら、飛んでる蝶を見てるらしい。猫か。猫だ。

 

「猫はさァ、どんな顔したって猫じゃン? 例外として液体があるけど。シャーシャー言ッてイカ耳になッてたッて、ごろごろ甘えたッて。俺もそう。俺は俺だし、あっちも俺。どッちも生きてて、〝バイター〟な訳。どッちが見られるかは俺次第、気分次第」

 理解しきれないし、しきれていいのかもわからない。でも、彼の言い方は突き放す感じじゃなかった。

「とりあえず、現場処理は終わり! 残りは警察に回すから、はい行くよ~ハイレンくん!」

 

 腕を退かれて、半ば拉致みたいに路地から大通りに戻された。さっきの彼は跡形もなく消え去っていて、騒がしい平常のバイターと街を歩いていく。

「ン~~~~~まだ震えてンね。大丈夫大丈夫、慣れる慣れる! よその猫だと思って」

「……ええ、まあ……」

「慣れなきゃ疲れちゃうよ! 午後もっと大変だからねェ」

「午後ですか?」

「そそ。ほら、朝言ッたでしょ? 合同での仕事です。大阪に出張。BMIヒーロー〝ファットガム〟が来てくれます!!」

 

 本当に言われてない内容が来た。報連相……。

「合同って、何をするんです?」

「とりあえず、ファットガムは知ってる? あのおっきい人」

「……ええ、まあ。丸っこくてカワイイ、個性でトーートロ! ってできる人……ですよね?」

「かわいい言い方だねェ! でもあッてる! ま、その本人に会えるッてわけよ。生だよ、生。サイン貰っていきなよ、ねェねェ楽しくなッてきたでしョ?」

「……その楽しいの意味はあとで教えてください……」

 

 口ではそう返しながら、肺の奥が少しだけ、高鳴っていることを感じた。戦う事や、事件の捜査にじゃない。次への経験を積める、という意味で。

 初めての職場体験で、県外への出張。さらに〝合同捜査〟。緊張していないと言ったらうそになるけど、恐怖とか焦燥とか、そういうのばっかりだった昨日までと違って、今はそれだけじゃない。

 

 午前中の集会はその後、大きな問題もなく終わった。子供に道を聞かれたり、道行く人に声を掛けられたり。バイターが野良猫に本気で威嚇したりされたり。何やってんだあの人は。

 小さな出来事の連続が、逆に平和を身体に教えてくる。

 

 事務所に戻ると、廊下の空気が午前とは違っていた。

「……起きてる、みたいですか?」

「そそ。所長起床タイ──陣ちゃん何やってるの今日はそれダメでしょハイレンくんちょっと待って前見ない」

 バイターが俺の前に立ったけど……もう、遅かった。

 ──白い肌、均整の取れた体型、濡れた金色の髪。黒いブラとパンツ。下着の方も。つまり。

「え」

 見紛うことなき、半裸である。

 ──この人デフォで露出多いのに普段もこれなの!?!?!?

 

「うわああああああ!!!!」

 近所迷惑とはたかれても文句が言えない声が、口から飛び出た。

 

 

 

 ──十分後。

 ミスティさんは昨日の格好の上にマントも羽織って、魔法使いみたいな格好になっている。失礼ながら、だいぶマシだ……。それでも昨日と同じ、全身黒タイツに水着みたいな服装だけど。四十歳童貞には目に毒過ぎる……。

 ミッナイ先生? あれは18禁ヒーローだから。

「……オハヨウゴザイマス」

「そう動揺することはないでしょう。医療系なら、そのうち見慣れる必要があると思うのだけれど」

「医療行為と事故は別です!!」

「…………」

 

 ふいってしたこの人。いや今回は俺悪くないだろ……。

「それより」

「はい?」

 ミスティさんは荷物を整頓しながら尋ねた。

「よく眠れた?」

「……はい」

 

 昨日までの〝寝る〟という行為とは、意味が違う。彼女は小さく頷いた。

「そう。じゃあ、よかったわ」

  それだけで終わりそうな口調だったのに、彼女はマントの襟を整えながら、さらりと続ける。

「昨日までのあなたは──眠っているふりをして、意識だけを夢に逃がしていた。今日は、ちゃんと身体ごと戻ってきている」

 

 どきり、と胸が跳ねた。図星を刺された、という感覚に近い。

 ミスティさんの見ているものは、いつも「現象」じゃなくて、その下にある「原因」の方だ。

「……そう、見えますか」

「見えるわ。わたしの個性はそういうものだから」

 あっさり言う。こちらの反応を楽しむでもなく、ただ事実として。

 

「……少し、肩の力は抜けたかもしれません」

「それで十分。気休めでも、今はね」

 ふっと口元だけ笑うと、彼女は振り返って荷物を持ち上げた。方陣のラインが刺繍されたポーチやら、布陣に使うストールやら、相変わらず厨二心をくすぐるアイテムばかりだ。

「じゃあ、支度しなさい。一時間で出るわ。余った時間は、休憩していて。荒事になるかもしれないから」

 

「出るって……京都の外、ですか?」

「ええ。大阪」

 隣でバイターが、やたらテンションの高い拍手をした。

「いよッ出張! 合同捜査ァ! はい拍手拍手~!」

「急に難易度上がりましたね……」

 まさか職場体験でガチの捜査に駆り出されるとは思ってなかった……。

 

「うるさい……」

「大丈夫大丈夫。こッちには二人と一匹いるから。あとで説明するねェ」

 〝一匹〟をちゃんと自分で名乗るあたり、やっぱり(自称)猫なんだと思う。

 それに、心配なことがある。二人は、京都の半分をこの人員で回していると聞いている。他の事務所から派遣されるんだろうか。

 

「俺らが管轄してるところがどうなるか心配?」

「え、ええ……まあ。でも、別の事務所の人が来るんでしょう?」

「そうそう。だから大丈夫」

 

 それからライフルの動作確認をしてケースに仕舞って、弾も規定数あるか数えれば準備完了。「荒事あるかもだからちゃんとねー」という言葉に従ってのことだ。銃を抜かなくてもそれなりの重量があるし、内部への衝撃は吸収してくれる仕様だから最悪、これで殴るって手段でも大丈夫だ。

「装備は可能な限り持っていきなさい。今回は、民間人と会うことはないから」

 その言葉に、本当に只事ではないのだと察した。

 

 

「おはよう、ファット」

「ミスティ! 久しぶりやなぁ」

「……相変わらず、うるさい」

「そっちも相変わらずうっすい服やなぁ。その年でキツいで」

「やかましいわ。シバくぞ」

 

 オレンジを基盤にした装いの、丸っこいシルエット。実際に目にするとほとんどキャラクターだ。なんか不思議な感じする。死穢八斎會編で痩せてた時イケメンだったって記憶はまああるけど、ふんわりしか覚えてない。

 個性は名前覚えてないけど、トーーー〇ロ!! って感じで、物理的な攻撃にめっぽう強い。タンクとして強すぎる。実質シグマとかオリーサみたいなところある……って言ってもこっちじゃ通じないわけで。

 

「君確か、体育祭で拳銃と体術一本でやっとった子よな? 天成くんやっけ」

「ファット。ちゃんとヒーローネームで呼んで、一応。ヒーロー活動中になるから」

「いや、聞いてへんのやけど。その状態でどないして呼んだらええねん」

「……そうね。ハイレン」

 

 ミスティさんに促されて、頭を下げる。

「雄英高校から来ました、天成あまり──〝ウンターハイレン〟です。つづめて〝ハイレン〟と呼んでいただけると嬉しいです。本日は、よろしくお願いします」

「しっかりしとるなぁ。ええ子やん」

「でしょう? 貴方と違って」

「失礼な。まあ、これ以上雑談してる時間はあれへんし、行こか。詳細は車内で話すわ」

 

 そこからは、今回の仕事の内容に移った。大阪と京都の隙間。そこで環境が汚染──正確には〝泥〟になる、って事件が起きてるらしい。建物も含めて。ヘドロヴィランよりタチ悪いし、あらゆる物質を液状にできるとしたら普通にまずいんじゃないか。ノーコストでそういうことできるってなったら国家転覆狙えるぞ。……流石にコストあるだろうけど。

「捕まった人間は恐らく生きとる。そやから、ややこしい。

 ただ、こっちで追いかけとったけど、京都の方面まで手ぇ伸びてきたらしゅうてな。今回、ミスティに協力を仰いだってわけや。地形の管理はこいつの十八番やからな」

「……だから合同。観測はおしまい。本体を抑えないと、こちらの〝陣〟も削られる」

 

 そこで、彼女の個性──〝理〟とか〝陣〟とか〝繋がり〟とか、そういうふんわりとした情報だけ聞いている──について思い至る。

「……ミスティさんの個性って、なんですか。他人の個性を詮索するのはマナー違反とは分かってるんですが」

 気になったから、というよりは、その全容を把握しないと自分の個性が邪魔してしまうかもしれない。そう考えたからだ。

 

方陣(ホウジン)。魔法陣みたいなものを張って、土地の力を借りて様々な力を発揮するの」

 ──索敵から妨害、緩い回復、その〝陣〟の破壊をコストにして何かを発動したりとまさしく〝現代の魔女〟だ。

 効果の変更をしたいときは張り替え、もしくは破壊の後に起動しないといけないらしく、やや時間がかかる。事前準備がめちゃくちゃに必要だと。

 妨害って味方に刺さるんじゃ? と思ったけど、味方を識別する為の小さな陣(札)を装着させることで〝例外〟と出来るらしく対策も万全。これ、時間かかるらしいしどうするんだろう……に対する答えはこれだった。

 

「簡易的に方陣を使うことは出来る。これ一枚で、五回くらいなら張り替え可能よ」

 首のストール。ブランケットにもなるただの布──とまでは言わないけど、「張るものでも破るものあり、繋ぐためのものよ」と彼女が発しているのを聞いていただけだ。そういう風に使うとは考えてなかった。昨日、ミスティさんが俺に差し出してくれたものだ。

 相澤先生の捕縛布とはまた違う……というか、コスチュームの一つだとか、防御機構だとか。そういう風に推測していた。

「……イレイザーのこと考えてた」

「え」

「……あなた、そんなに好き?」

「……尊敬はしてます」

 

 何言いだすんだこの人。実際相澤先生のこと考えてたから余計怖い。

「そう。じゃあ、ハイレン。一つだけお願いがあるんだけど」

「……何ですか?」

 本心聞かせろとかだったら終わる。この人が本気で圧力かけてきたら勝てる気がしない。

「さん付け、いらない。敬語はまだ許すけど、バイターは呼び捨てにしてるでしょう。しないならもう少しこの話題を掘るわ」

 ……それよりはるかによかったのでさん付けを頑張ってやめた。

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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