味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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古戦場の間オーバーウォッチがやれなかったので投稿します。



#23 ピルグリム・リーパー

 

 

「たかがあいつ一人にわざわざでかい賭けに出たな。正体勘づかれたら殺してたよ……」

 閉ざされた、オレンジの光が灯る中で、死柄木弔は苛立ちとも呆れとも取れる言葉を吐いた。

「そうなったら、それまでのことだ。どの道、あれを処分するのは予定に含んだのだろう。それに()()を得られたのは、想定以上の利だ」

 ひら、と紙片を晒しながら、男は死柄木を一瞥する。暗緑色の瞳は、ただエイドスを映すための機能として鋭く、平坦だった。

 

「……()に接触して、あの様な行動をするのは──貴方のような人間が他人に興味を持つのは、意外でした」

 す、と置かれたのはグラス。黄玉色のスコーピオンで満たされたそれに手を伸ばすでもなく、彼は眉間に皺を刻んだまま。

「貴様らにそれを見せたことは、ないが……俺にも人並みの感情はある」

「天成あまり。USJではイレイザーヘッドを瞬時に治療し、強化さえなした薬理の個性使い。脳無と弔を相手に重傷とはいえ生き残り、体育祭ではトーナメントの途中で──」

「ああ、そうだ」

 

 流れるように喋る黒霧を遮る。今更な説明を黙って聞いてやるほど、彼の気は長くなかったし、黒霧がそれを咎めるような者ではないと理解している。

「今、天成あまりの状況は上向きつつある。歪んだ精神状態は緩やかに伸ばされ、自身を改めて定義する入口を見つけた。少なくとも俺は、その状況を好ましく受け入れている」

 言葉に反して、声色は苛立ちのいろが濃い。

「ですが貴方は、顔を晒してしまった。それはいずれ、大きな損失につながるのではありませんか」

「その程度で起きる損失が大きく影響するのなら、元から無理だっただけの話だ」

 静かに吐き捨てた男に、死柄木は短く呟く。

「勝手なことしといてよく言うぜ」

 

「──レイエス・レイス」

 

 

 

 

 あれから特に何もなく、パトロールだとか模擬戦だとかが続いていた。大きな事件もなし。ヴィランを捕まえたことはあったけど、これも個性を使うこともなく終わったし、平和なのはいいことだ。流石に「技術磨きたいからヴィラン出ないかな」なんて思うほど倫理観はいかれてない。

 ……それ以外の時間は散々しごかれているが。バイター強すぎない? どんだけ頑張ってもボコボコなんだけど。

 

「そういえば、なんですけど。ネットの記事には三人で運営してる事務所って情報があったんですが、ここ。その人ってどんな

人なんですか?」

「あァ。その子ね──」

 早めの夕飯も済ませて、洗い物も終わったその時。ついにやってきてしまった。

 送り主はデクくん。A組のグループチャットに投げられたのは、位置情報だ。知っている。この意味が何か。反応すべきかどうか考えていると。

「すみません、バイター。俺、ちょっと」

 着信があった。表示されているのは〝切島鋭児郎〟。なぜ。断りを入れて部屋を出ると、彼の声は珍しく上ずっていた。

 

『天成。さっきの見たか?』

 何のことかは分かっている。

「うん見た。誤爆じゃない。多分だけどあれ、保須ってことは飯田たちの……」

『え、緑谷って山梨に職場体験行ったんじゃねえのか』

「そのはず。けど、お──」

 そこで、言葉が止まる。この数日で被ることのなくなっていた〝アナ〟……いや、〝ばーちゃん〟の仮面をすっかり忘れてしまっていた。

「──私のように、県外に出る場合もある。緑谷もそのパターンなのだろう」

『確かに。そういうパターンもあるよな……けど、それよりなんでこれグループに送ってきたんだよ。誰に居場所伝えるのかも分かんねえし』

 

 どうやら、一瞬被り損ねた〝私〟は無視してくれたらしい。冷えた空気の中で再び口を開いたところで、背後から肩を叩かれた。

「ハイレンくん。俺出ないといけなくなったから。管轄の事はよそに頼んであるから風呂とか適当に済ませて寝て大丈夫、もしもの時は所長に判断仰いで」

「え、バイター。どこに……」

「保須」

 それだけ言って、バイターは姿を消した。彼の個性は〝視られていない場所〟ならどこにでも出現できるというし、曰く「こんな個性全国引っ張りだこ」。ほとんどワープに近しいのだから、必要な場所に駆り出されるのはよくあることなのだろう。

 残ったのは俺と、俺と繋がってる切島だけ。ミスティは部屋に戻っているし、五月としては冷え込んだ風に押されたように用意されている部屋に歩く。

 

「すまない、切島。通話の途中に」

『いや、俺が突然掛けたしよ。盗み聞きになっちまったけど、お前んところ京都だよな。保須に行くって……そういう個性なのか? えーっと……』

「クロークヒーロー〝シャドウバイター〟。機動性が非常に高い個性の使い手だ、恐らく、現在起きている事案の応援だろう」

『だとしたら、これって緑谷が救援要請してるって事だよな。物理的に行けないけど、なんで……』

「分からない。だが、……」

「だが?」

 

 どう伝えるべきか、悩んだ。俺はこの裏で起きていることを知っている。メッセージの意味も。

「……終わった後に、聞くしかあるまい。いずれにせよ、私たちにできるのは無事に帰ってこられることを願う、それだけだ」

 

 

 

 

「口先だけの人間はいくらでもいるが、お前は生かす価値がある。……こいつらとは違う」

 ──ちくしょう……!

 ──やめろ……!!

 動くことは、できなかった。全身にかかる重圧が、僅かな身じろぎのみを許している。眼前には飯田が倒れている。ほんの数メートル先。その数メートルが何キロにも感じるほどに遠かった。

 

 ただ、ヒーロー殺しがおもむろに歩いていくのを、見ていることしかできなかった。送ったチャットは恐らく、見ていないのではなく伝わっていない。当然だ、突然送られてきた意味不明な位置情報、何も添えられていないそれは誤爆と思われる。

 動けなくなってようやく、そこに思い至った自分に苛立ちながら。焦りが膨らんでいく中で、脳裏に過るのは、複数の男たち。

 

 オールマイト。

 グラントリノ。

 轟くん。

 かっちゃん。

 ──天成くん。

 

 どうしてかは、分からなかった。あの黒い髪に琥珀の瞳を持った、落ち着いた佇まいのクラスメイト。

 皆には〝ばーちゃん〟と呼ばれ、どこかズレた言動を垣間見せる、高校生としては異質な人物。破壊のできる直接的な火力を持たない、代わりに後ろから治療や阻害といった遍くを援護する存在。だからだろうか。〝下から支える者〟。

 ウンターハイレン。

 彼ならば、どうしたのだろうか。ステインを相手にしても、戦った? ヒーローに救援を要請していた? クラスのチャットではなく。

 

 どんな選択肢を取ろうとも、彼はきっと、この場から飯田くんも、皆、救い出せていたんじゃないか。USJでは僕のせいで重傷を負ったけれど、それでも、もしかしたら、彼ならなんとかできたんじゃないか。的確な判断と正確な射撃で手を伸ばせる、天成くんなら。

 

 体育祭で彼が倒れた、という情報がすっかり抜けたまま、緑谷はそう心中で叫ぶことしかできなかった。己への怒りも込めて。

 そして。

 眼前に現れた黒い影が、その双眸だけを煌めかせて、いた。

「──え」

 逆光のせいで、その顔は見えない。路地の闇にゴールドとミストブルーの残光が走る。その色を、緑谷は端末の向こうで知っていた。

 クロークヒーロー、シャドウバイター。

 

「お前がヒーロー殺しか。()()()の端末が見えて良かッたよ」

 その〝あいつ〟が誰を示すのか、緑谷の中ではすぐに結びついた。

 ──サイドキックがクロークヒーロー〝シャドウバイター〟。個性はよく分からないけど、機動力が高いんだ。口にしたのは、自分だから。

 けれど、どうして? 天成くんもこっちにきてるんだろうか。だとしたら恐ろしいほどの偶然だと半分寒気に襲われながらも、緑谷には噛み合う刃物の音を聞くことしかできない。

 

「次から次へと、今日はよく邪魔が入る……」

 遠い炎の色を受けて煌めく銀の髪。自身に割って入ったその男に、ステインは眉を顰めた。

「……お前は、誰だ」

 いかなる所属であろうとも、ステインには関係がない。十七人を殺害、及び二十三人を再起不能に追い込んだヒーロー殺したる彼の前には、眼前に存在するヒーローが贋作か否かを判別することが先で。

 お互いに距離を取ったところで、バイターは答えた。

 

「はあ。クロークヒーロー〝シャドウバイター〟。未来ある若人を殺すのは見てられないねェ、ッてわけで。これから救援も来る。おとなしく捕まってはくれないだろうが、投降しろ……とは、口にしておこう」

 低く、唸るような吐息。

「プロヒーロー〝シャドウバイター〟の名において、緑谷出久・飯田天哉の両名に、()()()()()()()()()使()()()()()()()。責任は俺が全て取る──もうすぐ轟焦凍も来る、それまで逃げ回れ」

「と、轟くん……っ?」

「貴様も紛い物か」

 バイターの言葉に緑谷が目を見開くよりも先に、ステインが刀を振るっていて──そこにはもう、誰もいなかった。

 ステインにとってバイターは既に、紛い物のヒーローだった。ヒーロー候補とはいえ仮免もまだの学生に個性の使用を許可し、救出よりも自分の捕縛を優先した贋作。ならば粛清対象。それだけだ。

 

「結構」

 背後からの出現。ほとんどワープに近しいそれから放たれたのは二本のスローイングダガーで。

 片方は打ち落とされ、もう片方はステインの向こうへと消えていく。

 

 斬り上げ、薙ぎ、袈裟懸けかと思えば別の場所へと消えて刺突。そして斬り払いからのダガー。噛み合った刃が火花を散らす中で再び消えて右足による蹴り。

 数度、ナイフと刀の応酬が続いて、口を開いたのはステインだった。

「瞬間移動の類か……遠くには行けないようだが、近接で絡まれると厄介だな……」

 種明かし、というにはまだ浅い範囲内のそれに、吐き捨てる。

「好きに解釈しろ」

 そして切り抜け。低く保った姿勢のまますれ違いざまに斬り伏せたはずのステインは、バイターの使用するナイフの機構によって地に伏せることは、なかった。

 なぜだ。声にはせず、〝少しだけ肉体年齢が高い方〟のバイターは目を見開く。

 

 バイターの個性は、自身という猫を〝いるかもしれないし、居ないかもしれない〟誰も見ていない場所に転移する。そしてこの際、自身の体重に加えて最大で十キログラムの物体しか携行できない。衣服も込みで。

 ゆえに使用しているサポートアイテムは二つ、重量を可能な限り抑制したスローイングダガー〝スプレッドナイフ〟複数と、黒塗りの〝ブラッシュナイフ〟。

 そのブラッシュナイフが、機能をなしていなかった。

 毛細管現象によって麻痺成分のある液体を染ませ、敵を無力化する機構を搭載しているそれが。

 

 ナイフとしては使える。しかし無力化のための機構が、ない。ナイフの表面に目を遣ると、ステインの刀由来か、めちゃくちゃな形の傷が一本走っていて。これまで使用してきて初めての事案だった。

 地面にひとつ、麻痺の薬液が滴って──直後、それを蒸発させる炎の奔流が、意思を持って迸った。

「緑谷。こういうのはもっと、詳しく書くべきだ……遅くなっちまっただろ」

 

 時は数分前に遡り──

「江向通り4-2-10の細道。そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援頼む。そっちの事件は任せた、お前ならすぐ解決できんだろ。友達がピンチかもしれねぇ」

 そう、踵を返した轟に、エンデヴァーは制止の声を上げようとしたのが止まる。眼前に突如現れた影があったから。ヴィランではない。ほぼ身体のラインが出ているボディスーツと複数のポーチ、ナイフ。黒い装いに反して銀色の髪が靡いていて。

「シャドウバイターだな」

「要請に応じ出撃した。状況は理解している、轟焦凍の個性使用の許可を頂きたい。俺も行く」

 

 あと数歩間違えれば聞こえないだろう、という速度での言葉。瞬時にその言葉の意味を噛み砕いたエンデヴァーは了承、と同時にバイターの姿は掻き消えた。そして轟の眼前に。

「轟焦凍。個性使用の許可はエンデヴァーより取っている。先行する、俺が前衛で気を引く、攻撃を」

「あんたは──」

 再び、彼の姿は消えて。それでも、轟は足を動かすしかなかった。

「……数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういう事する奴じゃねぇからな、お前は。ピンチだから応援呼べって事だろ」

 氷の膜が地面を走る。数歩先にいる二人を氷で滑らせて、相対するのは轟とバイターの二人──人数上は、有利だ。

「情報通りのナリだな、こいつらは殺させねぇぞ、ヒーロー殺し」

 緑谷が轟に叫ぶ。相手の血液を経口摂取することで肉体を自由を奪う個性であることを。

「さっき言った通り。牽制」

 

 ほとんど言葉の端に被せて、バイターが踏み込んだ。瞬間移動と見紛う挙動でのそれにも対応してくるステインを睨み上げて、もう片方の手で握ったスプレッドナイフも弾かれる。

「軽い」

 分かっている。そして現状、自分が置かれているこの場所が大いに不利であることも。

 ナイフは機能を喪失しているが、それ以上の問題があった。

 炎と氷、そして個性からなる高機動にも対応しながら、ステインは眉を顰める。

 ──さっきよりもワープの頻度が低下している?

 そして緑谷も同じく。

 ──個性を使う回数が減ってる? 消耗とは思えない。なら、どうして……。

 

 その一方で飯田も、別の疑問を抱いていた。

「何故……二人とも、何故だ……。やめてくれよ、兄さんの名を継いだんだ。僕がやらなきゃ……そいつは、僕が……ッ」

 二人、に自身が含まれていないことは、バイターにも察することができた。轟と緑谷の事であると。

「──継いだのか。おかしいな」

 ステインを引きつけ、回避に徹したバイターの隙間を縫うように放たれた氷の槍が砕け、煌めいて落ちていく。

「俺が見たことある〝インゲニウム〟はそんな顔じゃなかったけどな」

 事情があるのだろう。インゲニウムの名を継いだ。その理由は、ニュースに出ている情報を繋ぎ合わせれば容易に理解出た。体育祭の終わった頃から。

 

 その結論を、緑谷が導き出す前に。

 ステインの刃が、バイターを捉えた。

「視線だな」

 半身になって再び散らばる銀髪。掠めただけだが、僅かに動揺が勝る。この個性の弱点に気付いたのも一人目だったから。

「人数が増えればやりにくくなる。二対一でも勝てないのがその証拠だ。あるいは、光か……どちらでもいい」

 両方とも正解。その隙を逃すほど、ステインは甘くなかった。乱雑な踏み込み、しかしただ抜けるという一点に絞られた行動には──何より〝未観測の場所〟が存在しないここでは、回避も許されず。何より回避すれば、自分の真後ろにいる轟が落とされてしまう。距離を保って戦える唯一の人間が。

 

「う……ぐ、そ……」

 からん、とナイフの落ちる音がやけに、大きく響いた。席は保てている。軽い方のバイターは慌てているが、何をどう足掻こうと個性で動きを奪われたのはどうしようもない。

「時間、稼げ……」

 情けなさのあまり、バイターの言葉は掠れていた。子供を置いて先に倒れてどうする。ナイフを壊されたことも、個性の弱点を見抜かれたことも初めて。それで動揺してどうする、いずれ起きたことだろう。四十年も生きてきてこのざまでは……!

 上。握られた刀は明確にバイターを狙っていた。動けない相手。ヒーロー殺し。命を取られるのは確実だ。再起不能で済ませてくれる訳がないと確信していた。

 それでも、バイターは目を逸らさない。たとえここで死ぬとしても、最後まで足掻いて足掻いて足掻き抜いて、この子たちを生きて帰すのだと、己の生存よりも強く誓っていた。そこで。

 

 





ちゃんと十万位には入ってるから安心してね!

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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