味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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No.170+1「More」が来るので投稿します。




#25 オルヴォワール

 

 

 

「おはよォ~、緑谷くん。三人とも寝られた? 俺は全く!」

 戦闘中とは似ても似つかない声色で、バイターは三人に声を掛けた。緑谷・轟・飯田。いずれもすでに起きていて。

 彼の後ろにいるのはマニュアルとグラントリノ。そして、保須警察署・所長。

 感謝と、ステインの容態と、超常黎明期の話を織り交ぜて、個性の無断使用についての叱責。それから、マニュアル及びグラントリノには処分が下されなければいけないということ。

 

 反論したのは轟だ。唯一保護監督者から許可をもらった彼の発言は容赦なく切り捨てられた。

「結果オーライならば、規則など有耶無耶でよいと?」

 もっともな話ではあるが──ここで雄英だけでなく、父親の話を引き合いに出されては、轟に耐えろという方が無理な話だ。思わず悪態をついて踏み出したのを、バイターが慌てて割り込む。

「待ッて待ッて轟くん! 人の話は最後まで聞かなきャ」

 両手を前に突き出しているバイターの背後で、「以上が、警察としての公式見解」と締める。

 

「で、処分云々は……あくまで公表すればの話だワン。公表すれば、世論は君らを褒めたたえるだろうが、処罰は免れない。一方で、汚い話……ヒーロー殺しの火傷痕から、エンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い、目撃者は極めて限られている。この違反は、ここで握りつぶせるんだワン」

 だが君たちの英断と功績も誰にも知られることはない。

 どちらを選ぶかを提示されて。

「一人の人間としては、前途ある若者の偉大なる過ちにケチを付けたくないんだワン」

 

 室内に一瞬、沈黙が下りて。

「まァ今回、俺が勝手に許可出したンで責任取らないといけなくなッちャッたし。マニュアルにもグラントリノにも影響ないから安心して決めていいよ」

 極めて軽い調子で、空気を超重量にしていくバイター。それに押し切られた、というわけでもなく、三人は頭を下げた。それから、ともに平和を守る人間として、重ね重ね感謝を述べて。彼も同じく、頭を下げる。

 

 彼が出て行って、部屋に残るのは緑谷たち三人とヒーローの三人。口火を切ったのはまた、バイターだった。

「マニュアル、グラントリノ。俺から話してもいいですか? 説教臭くなッちャいますけど」

「大丈夫です。お願いします」

「好きに話せ」

 双方からの許可を取って、彼は続ける。

 

「まず、俺個人……いやちョッと違うな。一人のヒーローとしてッていうのが正しいね? ごめんごめん。あそこ、俺一人だッたら確実に死んでた。ありがとう」

「いえ、そんな……」

「それはそれとして。何回も言われてると思うけど、許可もらわずに個性使ッたらヴィランと同じ穴の狢だからね! やめようね! ……ここまでが猫様からのお説教です。続いてハイレンくんが心配してました。あんまり無理すると彼の胃に穴がこう、ね。気ィ付けてねェ。以上! 何か聞きたいことある?」

 

 説教臭くなる、と言った割に多少の注意に近しい発言の後、バイターは三角巾に吊られた左腕を振ろうとして「いてて」と小さく呟く。

「……怪我は、大丈夫ですか」

「え? これ? あー大丈夫大丈夫。これからリカバリー姉さんのところ行くし」

「ここからだと、すごく遠いんじゃないですか……?」

「ちょっと遠いね。まぁでも大丈夫でしょ、すぐ着くもん」

「すぐって……」

「俺の個性。今日は重量ギリギリかな? ダメそうだったらポーチ置いてくし」

 

 そこで、容体についての話題は終わった。次にバイターの処分について。先程はさらりと流したが、具体的にどのような罰則が下るのか。

「罰金刑というか三か月の減俸。牛乳買えなくなッちゃうよォ……あ、ウソウソ! 俺泥被るとかそんなつもりなくて! お二人にも許可取りたかったけどさ、どこいるか分からなかったし無理だったんだよね! エンデヴァーには運よく会えたけど。洞等(うろひと)って零細事務所だし指導の禁止とかって大したダメージないんだよね」

「しかしそれは……!」

「いいッて言ッたんだよ。君らが死なないならそれで」

 静かに、有無を言わさぬ声でバイターは断じた。

 

「ほら、あの人言ッてたみたいに前途ある若者ッて大事だし。四十近いオッサンだからさ俺。いつ引退するか分かんないし、次の世代を優先するわけ」

「よ、四十……!? 相澤先生より若く見えるのに……」

「うん、そうだよォ。外見年齢イレイザーより下、ってか二十くらいに見えるでしョ? ふふん。あと聞きたいことある? 大体話しちゃった気がするけど」

 次に尋ねたのは、轟だった。

 

「天成も、来てるんですか」

「ハイレンくん? 来てないよォ。流石に京都からここまで来られるわけないじャん? 大絶賛京都で職場体験中~。今日は所長にしごかれてるだろうからぐッすりコースだろうねェ」

「……そうですか。ありがとうございます」

 今度こそ質問がなくなって、グラントリノとマニュアルと共に病室を出ていく。遠ざかる足音を聞きながら、飯田が口を開こうとして。

 

「──ごめん忘れてた君らのヒーローネーム教えて!!」

 勢い任せの問いが飛んできた。まさしくとんぼ返りというにふさわしい速度で、バイターが病室のドアを開けて。

 三人は一瞬戸惑った後、それぞれ名乗る。それから。

「デクくん、ショートくん、インゲニウムくん。いいヒーローになりなよ」

 

 ひらりと手を振って、バイターは言葉通り〝消えた〟。

 

 

 

「──そうか。やはり昨夜のものは、救援要請だったのだな。緑谷は別の県に行ったと聞いていたが、私のように県外での活動となったのか?」

『うん。バイターさんがいるから、てっきり天成くんも来てると思ったんだけど……心配かけてごめん』

「気にするな。それより、怪我は……大丈夫なのか?」

『うん。そこまであとには響かなさそう。飯田くん達はまだ診察受けてるけど……』

 確か、ここで飯田の腕には後遺症が残るはず。バイターがいたから負わなかった? いや、そこまで単純じゃないはずだ。あの場所は閉鎖的だし、轟がいるならなおさら、個性で飛べる場所が少ない。

 

 そして、ステイン。手数もレンジもあっちが上なんじゃないのか。それでも退けないのがプロで、デクくん達みたいな子供がいたら猶更退かない。この数日間で、そういう人間なのは分かっている。

 自称猫。でも中身はちゃんと、守るべきものについて考えていて。英雄(ヒーロー)かは分からないけど、仕事人(ヒーロー)なのは間違いない。

 

「バイターは処理があるようで、まだ帰ってきていないのでな。リカバリーガールのところに行くとミスティが言っていた。二人にも伝えてくれ、「お大事に」と」

『分かった。皆にもそうだけど、……心配かけてごめん』

「次からは、ちゃんと許可を取らなければいけないぞ。何度も言われているだろうが」

『うん。それじゃあ』

 

 通話終了の音が小さく鳴って。俺は詰まったものが取れたみたいに息を吐く。

「よかった……本当に、生きてて……」

 この世界には、バタフライエフェクトというものがある。〝蝶の羽ばたきのようなごく小さな変化が、時間とともに予測不能なほど巨大な結果を引き起こす〟ってやつ。俺という異物(バタフライ)を混ぜてしまったこの世界では、その結果としてあの場所でデクくんや轟、飯田の路地裏組が死んでしまう可能性だってあったのだ。それが恐ろしかった。

 それに関しては少なくとも杞憂であったけれども、バイターの負傷が気がかりだ。リカバリーガールのところに行かなきゃいけないってことは多分、相当傷が重いはずで。

 

「……お友達は、大丈夫そうだった?」

「ギャ!!!!」

 振り返るとミスティがいた。心臓が口から飛び出るかと思った。珍しくコスチュームではない彼女を見た気がする。ちなみに、下着でもない。

「大丈夫そうでした。まだ診察が終わってない人がいるらしいので、そっちが心配ですが……」

 原作では後遺症あったし。確か左手のしびれとかいろいろ。腕にナイフがグッサリいってたのが記憶にある。……今回は、どうなったんだろうか。重い怪我は防げた? だといいけど……そんな簡単にいくほど、世界の是正力ってきっと甘くない。

 俺が二十一人目として入学したことだってそうだ。同じ得点だったとはいえ個性の種類も、実技も筆記もすべて違う。どちらかに絞ることだってできたはずだ。それなのに、こうやって俺が雄英に入学できている。俺はこれを、本来歩むべきだった世界が俺込みで回るようにしてると勝手に思ってる。

 

「これから、外の見回りに行くわ。他の事務所にも依頼はしているけれど、それだけじゃいけないから」

「分かりました。え、ええと……コスチュームは、」

「わたしはこれ。今日は冷えるみたいだから……。あなたも、着替えたら来て。三十分後に」

「分かりました。すぐに準──ひえっ」

 ひたり、と首に冷たいものが走った。恐る恐る振り向いた先には、愉しげに細まった二色の目があって。

 

「ただいまァ……」

「寝なさい。以上」

 俺が何かを言う前に、彼女がバイターをそうはたき落とした。普段のボディスーツでなく普通のシャツとパンツを着用したバイターは、包帯やらガーゼは多少あるもののリカバリーガールの治癒で間に合う負傷だったらしい。いや、間に合わない方が珍しいんだけども。俺の背骨やられた時みたいに。

「リカバリー姉さんのところ行ッてきたよォ。もうちョいズレてたら左手に後遺症残ッたッて言われてヒンヤリ。投げながら斬れなくなるところだッたぜ」

「軽い調子で言う事じゃない。寝なさい」

「えー所長。俺行けますよ、元気ですよ、行かせてくださいよ」

「嫌。所長権限」

「職権乱用だねェ陣ちゃん!?」

 

 一通りやり取りを挟んだ後、バイターは廊下の向こうへと歩いていった。リカバリーガールの治療は体力を使う。一夜明けたとはいえ、ミスティはそれを危惧しているのだろう。ただでさえ──恐らくだが──激しい戦闘の後なのだから。

 ミスティと別れ、俺も部屋に戻る。ライフルはケースごと背負って、腰にダーツガン。先にバイオライフルの動作確認をして、ヘッドセットはいい。気温がどうとかじゃなくて、ここでは必要ない。考えながら、ケースを開いて。

「そういえば言い忘れてたんだけど」

「うわあああ!?!?」

 

 今日何度目だろうか。心臓が口から飛び出そうになりながら、バイターを小さく呼ぶ。

「……どうか、しましたか」

「現場で君のお友達に会ッたんだけどね。デクくんと、ショートくんと、インゲニウムくん。いやァラジカルでヒロイックで青くていいね! ガンバレッて感じ!」

「え……あ、そうですか……」

「特にあのインゲニウムくん! 俺結構好きかも」

「飯田ですか……。真面目で、ちょっとズレてて、でも熱くて。面白い奴ですよ」

 

 

 

 この十日にも満たぬ期間で。

 一人の少年は、願った場所にたどり着くため、そして戒めのため傷を残し、

 一人の少年は、正しいやり方で結果を出すことを誓い、

 一人の少年は、どれだけ強い個性であっても補完できぬ可能性を知り、

 一人の少年は、自らを縛る包帯を、僅かに緩めることができた。

 

 

 

 

 煙が薄く、空に昇っていく。

 庭の土の上で燃えていく数冊のノートを眺めながら、俺は息を吐いた。

 職場体験が終わって、今日は一日だけ振り替え。疲れた。すごく。精神的にも、肉体的にも。

 保須の一件から一日で包帯も取れていたバイターとは、また何度かスパーリングしてもらって。身体どうなってんだって言いたいけど、大方リカバリーガールにもう一回治してもらったんだろう。こっちはありがたいけど、これじゃ洞等にも保健室にも足向けられなくなるだろ。

 

 原作知識を記したノート。覚えているものを時系列順、可能な限り詳細を記したそれを燃やすことを決意した。感情的なものじゃない。自分の中で一気に危険性が跳ね上がったからだ。

 書かれている内容が絶対に解読されないという確証はないし、もし分かってしまった場合、危険が降りかかるのは俺だ。ヴィランが具体的にどのような作戦を立てているかも、現在知っているキャラクターの過去も。

「〝ナノブースト〟の〝ナ〟から──」

 五十音表の〝な〟を基準点として、一文字ずつ漢字もなしに数字としてテキストにした内容。人名は、前世にあったヒロアカの検索避けの記号だ。後者はともかく、前者は察される可能性を否定しきれないのだから。この先待ち受けている未来の知識が明確でなくなることよりも、内容が誰かに割れた結果変わる未来のほうが恐ろしい。

 

 例えば、ヴィラン側に漏れた場合。どのような作戦を立てて動いているのかを知られたとなれば、内容を変更するのは当然だ。そうなれば、例えば林間合宿。爆豪が拉致された上未曽有の被害を齎した神野の事件が変わるとなったら、その先も大きく歪んでしまうだろう。

 それで被害が減るからOK? そうかもしれない。けれど、さらにその先で死人が増えたり、もっと言えば世界が終わったりするのを否定できない。ならば、今持っている知識で戦って、最低限の地獄を回避するしか俺には選択肢がなかった。USJで相澤先生を何とかしようとして完治させてしまったのも、傷の重さだけじゃなく自分の恐怖心がもたらした改変であり、それによって起きる影響について考えるのが浅すぎた。傷が軽くなる程度なら大丈夫? そんなわけがないだろう。

 

 原作の展開を変えるということは、それだけ未来が歪む可能性が高まる。けど、この程度なら問題ないはず。インターバルが長くなるだけだから。そう考えていた過去の自分を平手打ちしたい反面、あそこで介入しなければ、もしかしたら相澤先生は死んでいたかもしれない。正しい判断だとは思っているけれど、だからあの後、一線を引いた。

 あちらから接触してこない限りは、何もしない。そう、世界を変えないための一線を。

「……ごめんなさい」

 もしかしたら、これで忘れてしまうことがあるかもしれない。原作とは違う展開を辿る介入をしてしまうかもしれない。数日間、悩んでいた。記憶を違えたせいで起こるミスを恐れて。

 けれど。

 

 これでいい。

 流れていく雲と煙の前で、そう思った。

 

「あ」

 スマートフォンが振動した。ポケットから取り出すと、心操からのメッセージ。「職場体験、お疲れ」。普段喋ってる時と同じ、短くて静かなメッセージ。個人チャットを開いて、お礼を送る。既読はつかなかった。普通科は今日も学校で、昼休みと授業の境目の時間だ。

「明日からまた学校かー……」

 来月は中間テストがある。そろそろ試験範囲が明言されるだろうし、そうなったらノートを作らないといけない。ただでさえ前世と違う歴史があって社会科は苦手なのだ。物理法則と違って社会は移り変わるし、超常社会のそれは「年号が変わった」程度でなく近未来の話が入っているのに近い。

 

 あと授業参観。まぁ俺には関係ないけど、他の奴らの親御さんがいると思うと、というか外部の人の目にさらされるのは羞恥心が大いに刺激される。根っこは陰キャのゲーマーだからしょうがない。

 いろいろ考えこんでると、全部で五冊のノートは完全に燃えてしまったようだ。水だけかけて確実に火を消して、家の中に戻る。あと一時間もすれば、スーパーの精肉コーナーが特売の時間になる。それまでに掃除を済ませて、自転車の空気も入れてしまおう。

 

 それから、相澤先生に渡すための書類。

 内容は、決まっていた。

 

 





今って落葉焚きは違法なんですか?

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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