味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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一日に投稿するの忘れてた愚者なので初投稿です。



#29 バイオティック・ハイバネーション

 

 わずかな違和感に、相澤は足を止めた。地下二回に仕掛けられた複数のデコイ。弾丸を弱い粘着性の液体で保持し、時間経過で落とす──その発想自体には舌を巻いた。そこから上階に逃げ、それぞれの階に設置してある救助袋からの脱出。試験が決まり、十分間で組んだ作戦としては中々にいい。

 試験終了まで残り十五分。移動経路の絞り方、トラップの仕掛け方、居場所を散すための手法は高度だが、時間のなさと経験不足が祟って相澤は即座とは言わなくても結論を導き出せる。

 

 天成は、この建物から逃げていない。だが、痕跡が見当たらない。正確には、生きた人間の気配がしないのだ。一切の無音。

 自分が見落としている可能性は拭えない、先程、僅かに水の音がした。昨日は晴れだし、水漏れにしては大きく粘着質な音だった。ならば、天成の作り出した何らかの液体と見るべきだろう。地下一階の探索を終えて、地上へと上がる。

 天成は基本的に、音を殺して移動することがほぼ不可能だ。銃、スリング、そのほか、装備しなければいけないサポートアイテムの性質上。他の生徒に比べて、必要な物が圧倒的に多いのだ。

 

 それが、一切立っていない。例えどこかで隠れていたとしても、天成が生きている限り身体機能は存在し続けているし、発生する振動は装備のわずかな音へとつながる。

 どこだ。──どこに、隠れた?

 いや、まさか。

 

 天成あまり。

 お前は、やったのか。

 

 

 

 モニタを見つめていたリカバリーガールは、目を見開いた。

 天成の試験では、彼の映る画面ではなくバイタルモニタを見なければならない。ルール違反と事前に〝やる可能性〟として存在している事案の為に。

 そのモニタが、異常値を示していた。急降下していく数値。誰が見ても、分かる。これは異常であると。体温の低下、呼吸及び心拍の回数の頻度の低下。

「これは……天成君のバイタルを計測している物ですか」

「そうだよ。……かなりまずいことになったね」

 明らかな異常に飯田が問うも、リカバリーガールの鋭い声を前にして返答することは出来なかった。先の緑谷・爆豪ペアでの試験でも見せなかった焦りの滲んだ雰囲気。

 

 バイオティック・ハイバネーション。天成がそう名付けた、生きながら死ぬための必殺技が今、使用されているのだとしたら。

 試験は残り八分。あの技術の使用可能時間は最大二十分で、マージンを取って十五分。急降下したのが先ほどだと考えると、十分の使用としたのだろう。その線引きができるだけの常識性は、天成という生徒の中に存在しているのに。使用するというラインを躊躇なく踏み越える非常識性は当たり前のように持ち合わせている。

 

「あの子、()()を使ったよ。最悪の場合の準備はしておくから、とっとと探してやりな」

 相澤に短く連絡を取って、リカバリーガールは厳しい顔で監視を継続する。最悪の場合、という言葉にA組のメンバーがざわついた。観戦用のモニタに移っていたのは、個性で気配を誤魔化したり移動したりするところだけ。そして現在、天成はごく狭いスペースで眠るように目を閉じている。

 ただ、そこに回復位で存在しているだけだ。

 

 この場の生徒たちがどれだけ賢くても、何が起きているかにはたどり着けない。個性を知っていても、そこまでやるとは思わないから、無意識に外してしまう。

 結論を言うと。

 ハイバネーション(休眠)というには、あまりにも危険な技術。

 

体表温度:約33℃→約25〜26℃

核温度(内臓):約37℃ →約29〜30℃

心拍:60〜80回/分→1回/30秒(2回/分)

呼吸:12〜20回/分→1回/60秒

代謝量:100%→約10〜12%

酸素消費:250ml/分→約25ml/分以下

意識混濁〜限界覚醒:視覚・運動ほぼ停止。聴覚がわずかに残る。

 

 これが、天成が現在保っている状態だった。

 

 

 

 

 なんか、おとがきこえる。おなじはやさのおと。なんだろう。ぱたぱたきこえて、しらない。

 ふわふわしながら、おれはそれだけきいてた。

 なに、してたんだっけ。

 からだが、おもたい。

 なにかがこすれるおとがして、おれは少しだけ、あんしんした。

 うっすらと光を取り戻していく視界が、自分が生きていることをいやがおうにも分からせてくる。

 

 そっか。俺。やったんだよね。

 先生に、怒られちゃうかな。リカバリーガールも、怒るだろうな。

 将来必要だからって、先生が言ってくれたからって、俺は一応、命の危機にまで両足を突っ込んでいるわけで。ただでさえ、練習のための書類で難色を示されたし内容も改めてガチガチに固めて許可されたのだ。けれど、使用する条件は揃っている。

 ぼんやりとしたまま周囲に視線を巡らせた。まだ視界はぼやけていて、誰かが俺を持ち上げたのが分かる。

 

「……馬鹿が」

 どこかで、その声を聞いたことがあって。

 三年前まで、毎日聞いていたものだと気付いた。

 

 

 

「おはよーございます……」

 ふにゃふにゃした状態で、身体を起こす。あれ、、俺テスト受けたのかな。いつのまにか寝てたんだけど。いや、先生から逃げ回ったのは覚えてる。脱出シュートで移動して、そのあとハイバネーション使って。多分、十分で切れたあと疲れて寝てた。

 右を見ると、デクくんと爆豪が転がっていて。左にはリカバリーガールが座っていた。

「おはよう、お馬鹿。言いたいことはいくつもあるけど……とりあえずこれ飲みな。足りるだろ」

 差し出されたスポーツ飲料をありがたく受け取って、口の中が絶妙に気持ち悪いことに気付いた。

 

「リカバリーガール。ちょっと口内ゆすいできてもいいですか」

「好きにしな。ふらつくなら手伝うよ。あと点滴抜いたら怒るからね」

 そこで、俺の左腕には点滴が刺されていることに気付いた。生食だ。……そこまで必要? いやまあ個性ガッツリ使ったんだし、そうか。

 ベッドにボトルを置いて、俺は立ち上がる。一瞬立ち眩みがしたけど問題なさそうだ、点滴スタンドを連れて行きながら洗面台に行ってうがいする。そうだ、口の中で粘着液作ったから気持ち悪いの当たり前だよな。段々記憶を取り戻してきた。

 

「うぇえ……」

 口の中がもさもさする。衝撃吸収のゲルを作ったもんだからまあ、気持ち悪いのは当たり前だけど……。その場であそこまで生成したのは初めてだから、ちょっと頭も痛い。何より、最後に使ったあれが大きかった。ちゃんとプログラム組んでるからって、影響がないとは言っていない。

 神経抑制、筋弛緩、代謝抑制、体温制御、酸化防止。これらの成分を内包したカクテルを使用した、俺の編み出した〝生存方法〟がそれだった。理由が半々の必要に駆られた内容で、試験の最中だから最終的に問題はなかろうと判断して隠れる為に使ったけど……これ、リカバリーガールの声色的にガチで怒られるんじゃないか。

 

「あたまいたい……」

 ベッドに戻った後は、端に座ったままぐにゃぐにゃ揺れていた。「そりゃそうさね」と呆れたように言われ、その節は本当に。しばらくそうしていると、寝ていた爆豪が起きたみたいで、寝ぼけているのか呂律が怪しい。

「あまなりぃ……」

「どうした」

「なんでてめェがここにいるんだクソ医者ァ……」

 理不尽!? いや、自業自得ってことを考えればデクくんと爆豪とは違う放り込まれ方だけど。

 

「見ていたが、そなたの負傷は中々のものだった。リカバリーガールは治してくれたようだが、具合はどうだ」

「あんたが聞けたことじゃないだろ、天成。ちゃんと復帰できたのかい、私が治せるものじゃないよ」

「おい天成、試験で何したンだ」

 言葉に迷っていると、保健室の扉が開いた。相澤先生だ。

「おかえり。丁度この子が目覚めたよ」

「天成」

 地を這うような声だった。静かにこちらへ歩いてくる先生に、思わず身構える。

 

「……何をした」

 まず飛んできたのは、疑問形にならない問いだった。

「言え」

 こんな先生は、見たことがなかった。怒りだけじゃない。なんだろう。悲しい? どうして。

「……〝ハイバネーション〟、使いました」

「そうだろうな。何故そんなことをした」

「何故って……あの場で使っちゃいけない理由、無かったで──」

 胸倉を掴まれた。後ろが壁だったら、後頭部を強打していただろう。そのくらいの勢いで。

 

「ちょっと先生! どうし──」

「お前は黙ってろ緑谷」

 デクくんも目が覚めたらしい。まあこの絵面みたら止めちゃう理由も分かるよ。俺だって、ここで怒られてる意味が分からない。

 俺は書面のルールを守っているだけだ。相澤先生が追加した文言も含めて。

 

「……ふざけるなよ」

「ふざけてませんよ。ちゃんと使ってもいい条件のもとですし、先生もあの書面に同意したでしょう」

「俺が同意したのは「この練習で天成あまりがどのような状態になっても、雄英高校は責任を取らない」。そして俺が足した「相澤消太とリカバリーガールの立ち会いの元のみ使用を許可とする」の二つだ」

「だから相澤先生がいて、リカバリーガールが見ていてくれたでしょう。ちゃんと「立ち会いの元」使ってますよ?」

「……詭弁だ」

「詭弁? どこが。書いてあることを守ったまでです」

 

 本当だ。俺がやったのは言葉通り、先生とリカバリーガールがいるテストの最中での〝バイオティック・ハイバネーション〟の使用。詭弁でも屁理屈でもない。俺の言葉に納得してくれたのだろうか、相澤先生は手を離して。

「──ッ」

 真面目に返答したのに、殴られた。

「……体罰はいけませんよ、先生」

「正当だよ。言葉で止められない人間を止める為だ」

「禁止すると言われていないのなら。使ってもいいという意味じゃなかったんですか、試験の内容は〝生存〟。私が先生に、「生きる為のもの」としてあの練習を持ってきました。それから、緑谷。腰逝っちゃう寸前だったんでしょう? それと変わらないし、()は言葉で止まれます」

「おいババア」

 

 まだ痛いだろうに、爆豪が立ってこっちに向かってきた。

「てめェ頭まで老人になったのか天成」

「は? 私はそのようなことを言われる行動は」

「ルールなくてもやるなって行動あンだろ。ハイバネーション(休眠)だァ? 身体の成分弄って仮死状態にでもしたんだろクソが」

「それが何だ。言ったろう、私の行動はルールに従ったもので、誰も傷つけていない。復帰するための()()()()も組んでいる。そなたの負傷に比べれば後遺症など微々たるもの、消耗のみだ」

「知るかボケ。てめェが体育祭で倒れたあと、どんだけ心配されとったか聞いてないんか」

「あれとこれとは別だ。引き合いに出すな」

 

 今度は爆豪に殴られた。相澤先生も止めない。先生の拳とは違って痣がはっきり残るだろうやり方に、堪らず爆豪を睨んだ。

「……そなたと争う気はないのだが」

「ああ? 耄碌してンのか。死ね」

「あくまで仮死であって死なないがな。復帰のプログラムも組んである」

「てめェのその感じがやべェっつってンだよ一人相撲野郎」

 もう一発飛んできた。今のは要らないだろ。

「勝手にやろうとしてる時点で間違ってンだって分からねェのか自己満野郎」

「ニックネームを増やすな、ババア呼びだけで十分だ。それに、勝手にやろうとしてる? 聞いていただろう、契約の書面に私は従って」

「死に晒せコラァ!!」

「かっちゃん!」

 

 もんどり打って転がった。今度は逆の頬だった。

「……いい加減にしろ、爆豪」

「いい加減にすんのはてめェだって言ってンだろうが! しみったれた空気の教室作ンじゃねぇクソババア、USJン時も体育祭ン時も通夜どころか葬式の空気になっとんだこっちの気持ちも考えろやうぜェんだよ!!」

 USJ? 前を張れる性能でもないのに前に出て、背骨の骨折で数日入院した。

 体育祭? 自分勝手な理由で撃った挙句倒れた。

 あぁ、そうか。そこまで。

「……私が、心配。か?」

「気色悪い言い方するんじゃねェ一人相撲野郎」

「爆豪。もういい」

 

 帰る! と怒鳴って、制止するデクくんとリカバリーガールを無視し、爆豪は保健室を出ていった。

「殴られたところは、大丈夫か」

 相澤先生が言う所じゃないでしょ。俺合計四発殴られたんだけど。

「言っとくけど治さないからね。教訓にしな」

 ……これは当然の権利だ。さっき爆豪に言われたことを考えると。

「頭とか打ってない?」

 デクくんありがとう。君が癒しだ。でもね。

 

「……そっか」

 それほどまでに、俺は皆を心配させてたんだ。自分が自業自得だと思ってたから。自分が分かってるし、外から見てもわかる事案だったから、心配してもそういう気持ちがあるものだと思っていた。

「思っていたより、私は人に迷惑を掛けていたようだ」

「迷惑? 違うねあんた。心配だって言ってたろ、これを機に自分を実験材料にするのはやめるんだね」

 パタン、とノートを閉じたリカバリーガールに目を遣ったあと、相澤先生が口を開く。

 

「契約書は更新する。「相澤消太とリカバリーガールの立ち会いの元、かつ許可された場合の使用とする」だ。嫌なら家でやれ」

「そうですか。……ねえ、先生」

「何だ」

「俺、また死ぬために戦ったんですかね……?」

 先生は背中を向けて一言。

「お前は生きて帰った。それだけは言ってやる」

 それだけ残していった。

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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