味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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作者はゴールド床ペロなので初投稿です。



#03 コンシャスネス・リバーサル

 

 

 ベランダの向こうで、大きな木が揺れているのが見える。街灯だけが周囲を照らしていて、雲一つない夜空には星と飛行機の光が瞬いている。

 肩は未だに痛かった。そりゃあんな勢いでぶつかってたら、受け流したって言っても痛いに決まってる。ラインハルトのチャージかよ……。

 あとなんで自分にはゆっくりしか回復しないんだよ俺の個性は。知ってはいるが、地味に憎い。痛みもあるが、それ以外の理由でも眠くない。今日使ったスリープ(睡眠)ダーツを使えばせいぜいが五分しか持たないものの、導入にはなるだろう。そこまでして寝る理由はない。

 

 今日はまだ、日課を終えていない。弾丸を作ろう。そう決めて、俺は部屋に戻る。

 ──バイオライフルの弾丸は、銃弾というより小さな容器だ。中に詰まっているのは、俺の体内から合成した薬の成分。治療用なら黄色、阻害用なら紫。弾頭は命中したときに変形して、中身をばらまく。負傷しないダムダム弾みたいなものだ。

 両方とも、生体適応率を優先して生み出している。当たればそこから薬液が吸収されるのだが、布だけじゃなく大抵の素材に──ゴムだとか難燃、難電素材とか、撥水加工も──浸透するように、可能な限り分子を細かくしているのだ。アナフィラキシーショックよろしく触れるだけで治療ができるのは、便利だけど誤射が怖い。

 

 手順はシンプル、体内で作った成分を引き出して、弾の中にあるカプセルに詰め込むだけ。作れるだけ作ったらランダムに選んで、作用が間違っていないか検食──もとい、検薬する。一日に多くても三十個がせいぜいだが、毎日やっていれば困ることはない。体内から生み出しているのだから当然だ。

 体内で作る、と軽々しく言っているが、それはつまり〝身体の一部を削っている〟ということ。正直だいぶ疲れる。

 幸いにも、肩以外に怪我はないから自己治療は問題なし。いつもの数を作れるだろう。

 

 それから、スリープダーツ。某探偵の腕時計型麻酔銃みたいな効果だ。これも、体温で溶ける金属針に圧縮して詰めるだけ。一歩間違えば暴発待ったなしだが、マガジンに詰めれば問題なし。

 身体の芯から、冷えていくのを感じた。

 セラムを生成するたび、体温が下がっていく。だんだん頭痛がするし、四十を超えて作ると、最後のあたりは五分以内に寝られる。要するに、気絶に近い。この感覚にも、もう慣れてきた。

 

 昔は、ゲームの中で味方を支援してきた。今は、現実でそれをしようとしている。

 違うのは、命は一つ。スポーンしないことだけ。

 

 それぞれを色の違うマガジンに詰める。黒は標準濃度の治療弾。ベージュは高濃度の治療弾。緑は短時間・高濃度の阻害弾。灰色は持続型の阻害弾。今日作ったものを、ベージュの弾倉を詰めていく。少しだけ、安心する。備えがあるということは、明日を守れる。それは逆に、明日に備えなければいけないほど、この世界が平和ではない。

 タンブラーに残った紅茶を飲み干して、アタッシュケースにマガジンをしまう。

 

 疲れた。──もう、寝よう。

 

 

 

 

 数日が経って、俺もクラスに馴染んできた。なんだか変な気を使われてる気もするが、そのやり方は老人扱いに近い。「湿布貼る?」とか「荷物を持とう!」とか。俺を何だと思ってるんだ。身体は十五歳だぞ。

 過保護にも思える気遣いが、ちょっとだけ心地よくもあったのが悔しい。前世でも受けていたはずだが、今回は病的なものではないこともあって冗談交じりに流せる。

 

 食事が終わった昼休み。一口サイズの煎餅が入ったパッケージを開くと、その場にいるクラスメイト数人に手招きした。

「チーズとアーモンドのやつだが、いるか?」

「いいのか!? いただきます!」

 目を輝かせて飛びついたのは峰田だ。お前エロガキのガキの部分、しっかり機能してたんだな。

 ヤオモモちゃんも控えめに、「私も一枚、頂いていいですか?」と聞いてくる。そりゃいいに決まってる。軽い調子で手渡すと、丁寧なお礼が返ってきた。

 

「そう畏まらなくていい。一人一枚だ」

 机に置くと、それぞれがお礼とともに手を伸ばしてくる。入っていたプラのシートには、片手ほどの枚数しか残っていない。そこから二枚とって、俺はちょっとだけ声を張る。

「残りの二枚はジャンケンで勝った子に。ほら、二人一組で。奇数なら一人は私とだ」

「ジャンケン! ねぇ、これ小学校の頃思い出さない? デザートとかチーズでやるやつ!」

「懐かしいな。俺もよく参加した」

「昔に戻ったみたいだよな〜!」

 

 そこから飯田くんが二人一組を作るように仕切って、煎餅争奪戦が始まった。残っていた生徒は偶数だったようで半分、そのまた半分と人数が減っていった。

 文化祭や体育祭でもない、高校生特有の騒がしさが教室を包んでいる。こういう日常が、俺は欲しかったのだ。

 中学までは休みがちながらも学校に通えていたが、高校からは通信制にしか行けなかった。ほとんど学生らしいことも出来ずに卒業して、大学も同じ。二年生からはもう歩くことさえ難しくなってきて、そこから一年と少しで俺は生涯を終えたのだ。

 

 前世には弟がいた。名前は……非情にも、思い出せなくなってしまった。両親もだ。五歳下で、全日制の高校に通っていたあいつはよく、学校がどんな感じか話してくれた。写真や動画を見せてくれて、男子高校生特有の騒がしさを自分も感じることが出来た。

 わっと声が上がって、思い出に浸っていたところを引き戻される。勝ったのは芦戸ちゃんと切島くんだ。

 

「では、勝者に栄誉ある二枚を授与しよう」

 冗談めかして言うと、再びクラス全体が笑いに包まれた。

 その中で上鳴くんが一言、「天成って、ばーちゃんっぽいよな」と零した。

「ばーちゃん? じーちゃんじゃなくて?」

「こいつ男だぞ?」

「いやいや、なんかこう、落ち着いててさ。あったかいんだよな。うちの死んだばーちゃんもそんな感じだった」

 

 確かに、言いたいことわかるわ、お布団みたいだよね、と複数の声が重なった。

「言われてみれば、そうだな。頼れる年長者、先達というのが似合うんじゃないか?」

「ふふ、年長者……か」

 飯田くんの言葉に苦笑する。この世界では十五歳。けれど俺の中ではまだ四十歳の自分がいた。何よりその呼称は──アナ・アマリが幸せに暮らしていたら、呼ばれた名前だったかもしれないから。

 少しだけ、憧れた姿に近付けたのかなと思ったのだ。

 

「ばーちゃん。悪くないな」

「え、怒らないのか!?」

「じーちゃんでも怒らないが、ばーちゃん扱いならなお嬉しい。優しく包んでやる側だからな」

 一拍置いて皆が爆笑する。爆豪がぼそっと「何が包むだ、冷血スナイパーの間違いだろ」と呟いたのが聞こえたが、お前もジャンケン参加してただろ。俺は気付いてるからな?

 

「昨日の授業で頭を抜かれたのがそんなに堪えたかい?」

「ちっげぇよ!」

「ではそれより前、せっかく寄って追い詰めたのに、スリープダーツで寝かされたことが?」

「うっせぇ! 皮肉だ!」

 

 怒鳴り声と笑い声が周囲を満たしている。耳郎が「寝る前にホットミルク飲んでそうだよね。はちみつ入った」と冗談を飛ばしたのに、「惜しいな。私は紅茶派だ」と答えると、どっと笑いが起こった。

「ばーちゃん! 今度の授業一緒だったらアドバイスくれよな!」

「俺も!」

「落ち着け、私は一人しかおらんぞ」

 

 やっぱばーちゃんだ、と誰かが言って、俺は優しい笑みを浮かべる。

「そうあるとも。そなたらが立派なヒーローになるまで、な」

 予鈴が鳴って騒ぎが一段落したあと、俺は水筒の中身をあおった。

 強い風が、髪を頬に張り付ける。

 明日。

 来るのだ──嘘の災害や事故ルーム(USJ)に行く日が。

 

 

 

 

 嘘の災害や事故ルームは、その名の通りの施設だ。権利が危なそうな略称だが、中身はれっきとした訓練施設。

 今日ここで起こるのは、ヴィラン連合による襲撃。死柄木とか、黒霧とか、オールマイトのメタの脳無。めちゃめちゃなパワーと複数個性。相澤先生との戦闘は……正直、顔を背けたくなるくらいきつかった。あとチンピラが来たはずだ。対人戦闘は御免被るけど、どうしようもない。誰かとワープさせられるならいいんだけど。

 

「そういえば。答えにくいのなら大丈夫だけれど。天成ちゃんはどういう個性なのかしら」

 私、気になったことはなんでも聞いちゃうの。ゆるく投げられた質問に、俺は答えた。

「構わない。これから先、把握してくれるのに損はないだろう。私の個性は〝ナノセラム〟。生体由来の物質を生成する」

「普段使っている銃弾や針は、それが材料なのね。ケロケロ」

「ああ。貫通力を落とした弾丸に薬を詰めて、味方や敵に効果をもたらす」

 

 流れていく風景をちらりと見る。少しずつ、不安が広がってきた。俺はこの先、原作よりも大きな被害を出さないよう立ち回れるだろうか?

「お医者さんみたいだ。リカバリーガールとはまた、違った個性?」

「緑谷の言う通り、彼女の個性とはまた違う。あてにし過ぎない方がいい」

「なんで? 直せるのに」

 

「重傷を瞬時に治すことはできないし、弾丸がなければまともに発動さえできない。彼女より遥かに、天井が近いのだよ。何より、怪我はしない方がずっといい」

「ま、そうだよね。痛いのは嫌だもん」

 どれほど強くなったって、人は傷つくし血が流れる。生き物である限り、それは変えられない。

 

「でも、誰かを癒す個性っていうのは凄いと思う。僕にはそういうこと、できないから」

「できるさ」

「え?」

「誰かを救う。笑みを見せる。それだけで、ヒーローは人を癒すのだから。手段が違えど、やることは変わらない」

 デクくんはしばらく考え込んだ後、頷いた。

「うん。僕もそうなれたらいいな」

 

 広大なドームが見えてきた。嘘の災害や事故ルーム(USJ)は一箇所に様々な状況の事故・災害のエリアがある。広いあの場所の中で起きる事件が、どこか狭い。

 内部に踏み入った俺たちを迎えたのは、主に災害救助で活躍するヒーロー〝13号〟。マシュマロマンのような丸っこい見た目と綺麗な声の先生だ。

 人を殺せる個性や、その扱い方についての話があって、そこで異変。

 

「一塊になって動くなっ。13号は生徒たちを守れ!」

 それが、俺が知り、恐れていた事件だった。

 ヴィラン連合によるUSJの襲撃。ここで相澤先生/イレイザーヘッドは重傷になって、戦闘に関する後遺症を負うのだ。

 俺がやるべきことは、先生を可能な限り軽傷で済ませて、この先での戦力を保ってもらうこと。もちろん、原作の展開を変えるということは、それだけ未来が歪む可能性が高まる──というのは建前で、来てほしくなかった光景だから。けど、この程度なら問題ない……はず。覚えてる限りでは、インターバルが長くなるだけだから。

 

 それに、救える人間は救いたい。あんなふうに痛めつけられて、血を流して、骨を折られる人間を無視できるわけがないのだ。

「天成君」

「どうした、飯田」

「大丈夫か?」

「……ああ。これだけ歓迎されれば、そうなるさ。私は皆を守れるのか。それだけが、恐ろしい」

「いくら天成君が慕われようとも、同じ歳の人間であることに変わりない。お互いに守り合おう」

 

 そう言って、飯田くんは頼もしい表情を見せる。先日学級委員長に任ぜられた彼らしい。

「ありがとう。少し、肩の荷が降りた」

 その向こうで、相澤先生が敵の中心に飛び降りる。まさに大立ち回りという表現が似合う戦闘の中で、デクくんが感激するような反応をして叱られている。分析してる場合じゃないし、とっとと避難するべきだ。俺だってそうする、誰だってそうする。

 

 そこに、原作と同様黒霧が立ち塞がる。

「私たちは〝ヴィラン連合〟。今回雄英高校に侵入させていただいたのは、平和の象徴たるオールマイトに、息絶えて頂こうかと思ってのことでして」

 つらつらと並べ立てられる言葉の中で、俺はセレクターを切り替える。ストーリーが前倒しになってもいいよう、高濃度の治療弾に。その手前へ、切島くんと爆豪が飛び出した。

 

「その前にッ!」

「俺たちに殺られることは、考えてなかったのかよ!」

「馬鹿、前に出るな!」

 

 思わず口にしていた。無謀な突撃はあちらの歓迎するところ。射線に立たれた13号先生は個性を封じられるし、人質にされた日には目も当てられない。

 原作ではこの先、黒霧にバラバラにワープされた生徒達を数の利で囲って殺すはずだ。もちろん撃退されているヴィランがほとんどだし、爆豪や轟くんに至ってはほとんど無傷だった記憶があるけど。

 

 可能な限り、相澤先生の近くにいなければ。逃げを選んだが、俺も例外なく黒霧の個性に呑まれる。悲鳴の重なる中、ワープゲートの中はこんなふうになっているんだと思う間もなく放り出された。

 コンクリートの床に転がされ、腰を強かに打ち付ける。前にもこんな目にあった気がする。

 誰かいるかと声を上げるが、誰もいない。代わりに返ってきたのは、ヴィラン達の下卑た声だけだ。

 

「一人かよ。面白くねぇな」

「とっとと終わらせて別んとこ行こうぜ」

「握ってんの狙撃銃じゃねぇか」

「カワイソー。思ってないけどなぁ」

 

 十人を余裕で超える敵。いくら睡眠針(ダーツ)があり、チンピラに等しいと言っても数は強さだ。

 だからここは逃げる。恥かもしれないが、役に立つ。けれど行くならこのドアの少し先まで──それが、俺が一対多数で勝てる、数少ない方法だ。縦に並んだ敵を各個撃破。一人でも味方がいれば違ったかもしれないが、泣き言を吐いたって現実は変わらない。

 俺は恐怖の表情を浮かべながら、恐れをなしたようにドアノブを捻った。

 

「逃がすな!」

「逃げんよ」

 壁に背中をつける。この状態で真っ先に突入するのは、真ん前にいた近距離型のどちらか。そう検討をつけたとおり、彼らは肉体変化型の個性で詰めてくる。

 それなら、俺が取れる対応は二つ。ライフルでどつくか──

 

「そうか、そんなに楽しいか」

 睡眠針(ダーツ)を当てることだけ。

「寝ていろ」

 意識を失い、うつ伏せになった一人の手を蹴飛ばす。足にかかって邪魔だった。

 

「こいつの個性はこれだけだ! 全員でかかれ!」

 そこから複数人。ドアから突進してくる連中は蹴散らしたが、階下から複数の足音が聞こえる。別のお仲間らしい。俺がファイアセレクターを操作したのと変わらないタイミングで、三人のヴィランが駆け上がってきた。

 殴りかかってくる一人を捕まえて、残りの二人に投げつけると、派手に階段を転がり落ちていく。……痛そうだ。

 

 今回持ち込んだスリープダーツは、半日以上目が覚めることのない特注品。実験に付き合ってもらった動物がそうなのだから、ヴィランが目覚めるには数時間近くかかるかもしれない。

 これを作っていたからこそ、自分は入学前に昏睡していたのだ。事前に準備していたのに、調子のいい日しか作れないせいで、残りの弾は五十と少し。人数を考えたら、外した時も加味して倍は必要だったはず。見通しの甘い自分に呆れながら、ビルの屋上に伏せる。

 

 左目でスコープを覗く。異形型の個性持ちが見えた。大きく走った傷跡は、肉体を強化されて膨れ上がっている姿にまず二発。頸動脈と、太ももだ。

 弾ける。掠っただけの弾に、動きを阻害されたヴィランの一人が場所を探してきょろきょろしている。

「……まずは建物に入るべきだろうに」

 スナイパーと相対するときの鉄則だ。ただ、彼らに「撃たれた」という意識はないだろうが。

 

 斜め前にいる方が気付いたらしい。脚力に任せて飛んでくるが、飯田くんの個性に比べれば遥かに遅い。ダーツを向けて一発。

「ダウン」

 地面に叩きつけられる音が耳に届く。骨折じゃ済まないだろうが、今は構っていられない。可能な限り音を殺して走りながら、相澤先生のいる中央広場へと向かう。

 予備の阻害弾をマガジンに詰め込んで、内ポケットに固定する。残り百二十発、いけるはず。

「巣にかかったな」

 背後から襲いかかってきたヴィランに、振り向きもせずダーツガンの引き金を引いた。即座に振り向いて、崩れ落ちたのを確認する。先に振り向いていれば間に合わないと判断したが、どちらを選んでも結果の確率は同じ。ならば、少しだけ早い方を選んだまで。

 

 ただ──俺の中にも、焦りが滲んでいる自覚はあった。

 この位置から、中央広場までは二キロほど。皆がバラバラになったのもそうだが、敵の個性で内部での通信さえままならない。周囲の状況を確認しながら進んで、不意に爆発音。あれ絶対爆豪だろ。原作では確か、切島くんと一緒のはず。

 ……あそこ二人はほっぽって大丈夫だろ。

 それより、相澤先生だ。このままじゃ間違いなく手がいっぱいの奴と、オールマイトをメタってくるデカいのにやられるはず。正史通りに進めば。

 

 あのデカい奴に捕まったら最後、圧倒的なフィジカル差で先生は押し切られる。

 頭では理解しているのに、一定の速度以上では走れない。靴底がコンクリートを噛むたびに焦りが膨れ上がっていく。

 抱えていたライフルを構える。曲がり角の先、足音が複数聞こえて、地面に転がっている石を壁に投げつければ、意識がそっちに集中するのを感じた。

 USJの中は広すぎる。相澤先生が大きな負傷をするより先に、俺は辿り着けるのだろうか──いや着かねばならない。走ることしかできない自分に無力感が募った。こんな事なら、グラップルでも装備して機動性をあげた方が良かったかもしれない、けど。

 

「あの女の真似だけは、したくねぇな……」

 ウィドウメイカー。アナ・アマリの片目を吹き飛ばした、情も呼吸も殺した人間兵器。

 俺が最もなりたくない狙撃手のあり方であり、それでも今はその機動性が欲しい。人を救うために。結局、道具というのは使い方ひとつで決まるのだ。個性のように。

 遮蔽物の裏で装填。頭をあげれば死ぬ、タイミングを逸しても死ぬ。生きるか死ぬかの二択しかない現実では、どこまでも冷徹な判断が必要だ。

 阻害弾で肉体の制御を弱め、ダーツで確実に眠らせる。射撃、装填、その繰り返し。何度やったか覚えていない状況で、不意に何かが視界を横切った。小石が壁にめり込むのを視認する。撃ってきた場所は分かっている。しかし、これをやったのはただのヴィラン(しろうと)ではない──呼吸が、読めない。

 

 いっそう心臓が跳ねるのを感じた。時間を食うのは、まずい。

「くそ……」

 体内に回復を循環させながら毒づいた。早く早く早く早くはやく。一刻も早く先生のところに向かわねばまた、同じ運命が待っている。嫌だ。仲間が傷付くのは嫌だ。

 位置取りは正確方向は把握しても居場所は分からない一発一発が丁寧で冷静。少し大きめの(たま)で遮蔽ごとぶち抜く気だ。どのタイミングで来るどこに来る。間隔を開けて飛んできた数発の弾丸が隠れた壁を削った位置はバレている睨み合いはこちら側の敗北を意味する、いつまでも見合っている訳にはいかない。だから。

 

 遮蔽から身を踊らせた。飛んでくる弾丸を一つは避けたが、次いだ二発目が肩に直撃して視界がブレる。ごく僅か、戦果を確認するために視線を向けるヴィランと目が合って──発砲。しっかりと、命中したのが見えた。皮肉にも、ウィドウメイカーがアナを抜いたのと同じ右目に。

 

 狙撃手は取った。そう都合よく、似た個性の人間は現れない。警戒は崩さず走っても、肩の痛みが時間を奪っていく。

「誰も、死なせない」

 何度も聞いてきたあの言葉が、無意識に漏れていた。祈りでも決意でもなく、自分への命令。奥歯がぶつかって、不快な音を立てる。

 

 誰も──相澤先生だけの事ではない。救えなかった味方も、前世の自分も含めて。

 戦いとは、帰るまでが戦いだから。

 遠くで、重たい音がした。地面を揺らす衝撃。そうだ、あれは。

 ほど近い中央広場には十秒もあれば着くが、間に合うのだろうか。相澤先生のもとに。

 

 土煙の中で、見えた。

 相澤先生を。

 あの怪物が。

 

 守るために飛び込んだ彼を、地面に叩きつけている。

「──や、」

 やめろ。叫んで突撃するなど、愚策だ。自分が人質にされれば、今度こそ相澤先生は敗北する。でも。

 セレクターを操作して、先生の姿をスコープ越しに確認する。抵抗しているのを押さえ付けているのが見える。撃つか? あいつを──脳無を。相澤先生の負傷を癒す為に、危険を犯して身を晒すのか。

 あの男──死柄木弔がこちらを視認すれば、〝崩壊〟の個性でこちらを殺しにくるのは確実。自分が狙われないタイミングを待つのが最善だと考えていても。

 

 相澤先生は、限界だ。

 今更考えたところでどうにかなるものか。顔面への負傷を自然治癒ではないやり方で回復せねば、原作と未来は変わらないのだ。使用するためのインターバルが伸び、戦力は大幅に低下する。それでも。

 引き金に指を掛けたままの指が震えて、俺は息を詰めていた。相澤先生は既に、地面に伏している。ゴーグルは既に砕け、流れた血がコンクリートと破片を混ぜ合わせていた──予想よりも、数段、酷く。

 

 もはやぴくりとも動かず、意識があるのかも分からない状態だ。おそらく重傷だが、一発一発確実に治療すれば、個性に影響が出る負傷も何とかなる。でも、ならない可能性もある。

 

 迷っている時間はもうない。その迷いが相澤先生の状態をより酷くしていくのだ、理性と感情の両方がそう叫んでいた。

 ()()を使えば、先生の生命力を一時的に底上げできる。単純な膂力は1.5倍に跳ね上がり、耐久も同様。少なくとも時間は稼げて──そのうえで彼の回復を続けていれば、いずれくるオールマイトが何とかしてくれるはずだ。

 皮膚を再生させ、破裂した血管を繋げ、砕けた骨を修復する。けれどそれが、成功するとは限らない。

 

 他人に使ったのは、一度きり。

 俺の個性の全てを注ぎ込んだ〝バイオティック・ブースト〟。その弾丸に相澤先生の身体が耐えられると、自信を持って断言することはできなかった。

 でも。

 それでも。

 俺は。

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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