「うわああああ!?!?」
昼食もそこそこに、サポート科の工房の扉を叩いた俺は、突然の爆発に受け身を取って転がった。
黒い煙が見えた。あと
「すみませーん……今お時間空いてるでしょうか……」
「……ああ?」
「ひえっ」
不機嫌なのかと思ったら普通に返答だった。いつも通り上裸のパワロ先生はこっちに振り向いて──そして、なんか真横から穴が空きそうなほどの視線が突き刺さる。
「これはこれは天成さん! 以前はアイテムの件でお世話になりました! 今回はどういう改造をする予定で? もしかしてライフルの形状の変更とか? それとも拳銃の方ですか? それか弾の変更──」
「発目ちょっと静か──ちょっと待て、発目が名前を覚えている……!?」
弾幕よろしく声を掛けられたのと、先生がびっくりしているのが聞こえて固まってしまう。
「えーとまあ……そうなんだけどね発目
「落ち着きます落ち着きます。まず要件聞かせてくださいね話はそれからです」
「全然落ち着いてないじゃんね……」
最後に会った時と変わらない饒舌ぶりに面食らってしまったけど、発目ちゃんはそういう人間だった。サポートアイテム以外に基本的に興味ナシ。俺のこと無視してサポートアイテムと会話しやがる。だから名前覚えられてないと思ってたし、パワロ先生がびっくりしたのもそのせいか。
「とりあえず、昼食がてらまとめたので大まかにですが。これを作りたいんです」
バインダーを取り出して、作業用の机に置く。二人とも何も言わずに設計思想と設計図に目を向けていて、空間が一気に沈黙に包まれる。
「天成……」
なんかまずかっただろうか、とパワーローダー先生に視線を向けると、続いたのか「距離感だな」という言葉で。俺の眼帯のせいだろう。
「室内なら壁に投げりゃいいし、足元に投げればいい。お前の個性薬剤って生成だろ、なら拮抗剤も組めるし使える……そういうこったな?」
「はい、そうで──」
「ナイスです天成さん! 二層構造ですかいいアイデアですね、圧力に強く点での衝撃に強い、要するに圧縮荷重を面で受け意図的な脆性を作りたいと! であれば外殻はポリカーボネートかナイロン系、内側にセラミック系の物を使用すればいいかと! ざっくり説明すると一枚目が外殻が開く方式で二層目が内殻が割れるようにしてああでも割れ方に気を使いたいという事ですよね? 現場で踏んでしまったり刺さると危険ですから! そうなれば」
「ちょっとは落ち着け」
パワロ先生のゲンコツが降ってきた。痛そう。落ち着かせてくれて助かります……。
先生はうんうん唸った後、「発目。やっていいぞ」と許可を出している。目の輝き方が舞台照明くらいのレベルで、この子本当にサポートアイテムの話になると手が付けられないんだなって改めて学習した。
「そうですね……。割れても破片が刺さらないのがお望みだと。であればやはり、外殻をポリカーボネートで、破断させる為のラインが欲しいですね。散布は外殻が開いた瞬間にスリットを通して飛沫化させれば破片は出ません。点での衝撃で開けたいのならば、ノッチと薄肉の
そして、内部のアンプルについては〝粉砕しても刺さらない〟あるいは〝粉砕しても外に出ない〟ことが必要なのでしょう? 車のガラスの構造はご存じですか? 割れても破片が膜に保存されて、蜘蛛の巣みたいになるアレです。飛び散りにくい構造にするんです。破片は残って、液体だけが飛散します。これが一つ目の案です」
打って変わって静かになった発目ちゃんが説明してくれる。しかも知識が甘い俺にも分かりやすいように。
「二つ目は、発泡系の素材を使用します。例えば硬化した樹脂や薄いポリマーを使うんです。割れると崩れて粒になりやすいようにするのがいいですね。欠点として、薬液との相性に大きく左右されます。実装するとしても後々がいいでしょう。天成さんは来週仮免が控えてるんですよね? とりあえずは前者で実装して、後々こっちも確認しましょう」
「OK。その時はよろしく」
「それで、〝刺さりにくい〟と〝刺さりにくいのに割れる〟を確実化するなら対策は〝保持〟が最適です。つまりこういう事です」
外層:ポリカの楕円カプセルで周囲にリブ。片側に薄肉ヒンジ、反対側にノッチの破断ライン。点での衝撃でロックが外れて開く。外殻は割れずに開くから刺さらない。
内層:中心にラミネートアンプル(薄いガラス+樹脂膜)。跳弾後の二回目で、内部の慣性球がアンプルに当たって割れる。割れても膜が保持して破片は出ず、膜のスリットから薬液だけが滲み出て噴霧される。
「──これで、圧力には強く、点での圧力に弱く、刺さりにくい構造にできます。ただ」
「ただ?」
「刺さりにくいということは、破片での散布が難しいでしょう。だからそのための機構を別に持たせる必要があります。ここを雑にすると、ただ液体を投げただけになりますからね」
「合点。中身はこういうものなんだけど……」
使用する成分もまとめてある。基盤は今まで使ってた筋弛緩+血流阻害or腐食。そこに揮発性を足したのが阻害バイアルで、回復は揮発性に加え、瞬時の回復を外に、遅れて使用したい低速の継続回復成分、もしくは痛み止めから止血のどちらか。戦場に残らないし、証拠も残留成分も最小限だから解析もされにくい。
「なるほどなるほど理解しました。これなら多少投擲ミスしても問題なさそうですね。形状の希望はありますか? ないですか。なら形状はしっかり分けておきますね、阻害はオーバル、要するに卵型で回復は角を落とした直方体にしましょう。収納性重視です。後者は握りやすいよう凹みも少し付けておけばよいかと。暗所でもわかりやすいように阻害の方はザラっとしたマット加工にしますよ。どうでしょう?」
「発目ちゃん」
「はい!」
「……俺の設計、どっかで見た?」
「見てません!」
相変わらず、キラキラした目でこっちを見てくる。ああ、天才ってこういう子をいうんだろうな……。俺のガバガバな説明でここまで繋げてくれるんだから。隣で聞いてたパワロ先生も驚いてる。
「よくここまで思いついたな、天成。入学前に整備依頼された時も思ったが、学生でここまでサポートアイテム使いこなしてる奴見たことないぞ」
「お褒めにあずかり光栄です」
「…………。まあいい、素材はある。今日からでも作れるが……どうする?」
「明日取りに来てもいいですか? 午後からまた別の用事があって……あ、でも。薬液は置いてった方がいいですよね」
「明日ね、了解。中身は練習用にこっちでペイント弾用のもの詰めとくよ。試験直前の練習で本物は使いな。あとはポーチとかいるんじゃないか? コスの変更もしとくよ」
「ありがとうございます。サイズと形はお任せしてもいいですか」
「もちろん。メーカーにも上げとくから待ってな」
意外とあっさりまとまった案は、発目ちゃんの一言によって止められた。
「この子の名前、何にしますか?」
「……名前」
「ベイビーにはちゃんと名前を付けないとダメですよ。名前というのは祈りなんですから、この子にどういう風に育ってほしいのか込めてあげるんです」
考えてなかった。確かに、今までのアイテムは〝バイオライフル〟〝ナノペン〟〝スリープダーツ/ダーツガン〟。まんまか、似た名前ばかりだ。アナの装備の匂いが拭いきれない。
俺はもう、アナと同じ戦場には立てない。同じやり方は、少なくとも今は出来ない。けれど、違う言葉を使うことで過去の自分を切り捨てたくなかった。真似じゃない、継承でもない。あの場所を、ルーツを理解したまま生きる名前だから。
未練と言えば、そうかもしれない。でも、未練は依存と違う、と思う。依存は
「……バイオバイアル」
「バイオバイアル! いいじゃないですか名前の響きも意味も! 生物テクノロジーと薬の保存容器! 神の名称です!」
「うん。ありがとう」
さっそくと工房に引っ込んでしまった彼女を見送って、俺は部屋を出る。〝バイオティック・グレネード〟じゃない。これは
「天成さ~~~ん!!! お待たせしました!! 昨日お話ししていたベイビーです!! 昨日は時間がなく二十八つ子しかできませんでしたがいかがでしょうか!!」
「………………え?」
午前九時。コスチュームに着替え、工房に向かおうとした天成の前に現れたのは、中々汚い──もとい、煤に塗れたままの発目だった。
「……俺、取りに行くって……言ったよね?」
「聞いてません!」
それはもう一切の嘘なく。自分が作った折り紙を見てもらいたい子供のように純粋な目で天成を見上げている。ずずいと寄ってくるのに若干口角を引き攣らせながら、天成は新聞紙に包まれたものと箱に梱包されたものを受け取った。二十八だというからてっきり合計だと思ったが……どうやらそれぞれらしい、と気付いた天成は戦慄した。
──この女……有能すぎる!!
そして名前を付けた翌日に生まれてしまう事への、不快ではない恐怖。形にされた祈りへの、形容しがたい感覚。
「天成ー、どうした?」
遅れてやってきていた瀬呂が声を掛けてきて振り返った。
「いや、新しい試みをちょっと……」
「私と天成さんのベイビーです!!」
「言い方に!! 気を付けて……」
焦って訂正したが、時すでに遅し。瀬呂は新しいおもちゃを見つけたとばかりにニヤニヤしているし、続いて出てきた上鳴も聞いていたらしい。
「…………新しいサポートアイテムの話だから、ね?」
「ベイビーねぇ……」
「へぇ……」
「じゃあ私戻りますから! フィードバック期待してまーす! 私貴方の連絡先だけは通知つけてるんで!!」
俊足というに相応しい敏捷性でもって消えていった発目に、天成はげえ、と苦い顔をして。
「もう嫌……」
か細く声を漏らすことしかできなかった。
その後、発目に関して「他のクラスの女子と連絡先交換とかモテモテかよ」「しかもお前だけ通知オンだって?」「天成顔いいもんなー」など散々からかわれ、訓練よりも先に精神的な疲弊が来てしまった天成は、より一層励むことになるのだった。
ちゃぽ、と容器の中で揺れる液体を眺める。念の為とあの後工房に戻り、サンプルとして薬液を置いてきた俺は、壁や空間の形状を変えてもらいながら飛散度合いを確認していた。
一回ごとに発目ちゃんに送って、フィードバックの材料にする。どこにどう投げたよって。頻繁に投げてるはずなのに、迷惑そうな感じもなくむしろ楽しそうだ。天才メカニック怖い。本当にありがとう。
動画を撮ってくれてるのはエクトプラズム先生だ。最初にバイオバイアルを見た時、察してくれたらしい。距離感が
仮にこの試験が終わったあとでも使うはずだ。あまりに有用すぎる。だからこの練習は先の未来の為にも必要で──ずっと動画撮らせてるだけで申し訳ないです先生。
「……やはり、宙に委ねる行為は支配下にない。であれば大地に叩き伏せる方が、現時点では理に適っている」
「ですよねぇ。将来的には直下で当てられるようになりたいんですけど」
「擲弾兵の系譜に名を連ねるつもりか?」
「放物線描くよりも分かりにくくて、遮蔽の裏からでも通しやすいから……」
直下グレは有効だ。前世で散々学んだ──のもあるけど、物理的に考えたら合理性に満ちる。
「あと、仮免ってことは中身、安全性とか考えた方がいいんですかね」
「安心しろ。他にも死に直結させる個性の持ち主は控えている。良心が折れる前まで好きにするといい」
「倫理観ですか……なら」
揮発性+筋弛緩。一気に広げて、筋弛緩を短時間かつ高威力で曝露させる。効くのは数十秒──その間、全身が自分のものじゃなくなるように。倒れる人間も出るかもしれないけど、意識は落ちない威力で。血流も呼吸も滞らせない。逃げるために使う。生き延びて、命の使い方を選ぶために。
命には関わらない程度。阻害弾と似た内容だけど、こっちははるかに短い時間の効能と筋弛緩の強さが目立つ。血流の阻害や感覚に絡んだものがスキンケア用のクリーム程度の粘度で張り付くし、性質は別物と言っていいだろう。
「決めました。草案は置いてきたんですが、最終決定が完成しました。仮免用ですけど」
「まだ猶予の内側だ。関門にも、余裕をもって到達できる」
「あとはどれだけ習熟できるか、ですかね。仮免ではどっちもこれで、後々素材も変わるかもしれませんが」
扉が開く音に、振り向く。ブラド先生を戦闘にしたB組の面々だ。
相澤先生との鋭いやりとり。対抗心とかめんどい所を除いたらこの人いい先生なんだろうけどな。俺の感想としてはシンプルに「めんどくさ」。これだけだ。クラス対抗戦での偏向実況とかアホ臭かった記憶はある。
そんなことよりも。
B組の方に踏み出すと、何か言ってた物間が細く悲鳴をあげて避けられた。合宿といいそこまでしなくてええやんけ。
「やっぽー拳藤ちゃん」
「えっと、やっぽー……? ちょっと待って」
「合宿で俺の事拾ってくれたって聞いて。ありがとう」
「天成そんなキャラだっけ……?」
「まあうん。そんなキャラになっちゃうしかなかった。なっちゃったからにはね。そんなことより、本当にありがとう、俺の事助けてくれて。それだけ」
そりゃそうか。今まで〝私〟しか見せてなかったし、驚くのは当たり前で。困惑してる拳藤ちゃんには悪いけど、お礼だけは言いたかった。
鉄哲がこっちを見てくるのに気付いた。あー、眼帯だもんな。モロ。しかも「怪我してます」って感じの医療用だし。気にしなくていいよって笑っておく。
そうこうしているうちに残り十分は過ぎて、彼女には「間に合わなくてごめん」って言われちゃった。
「俺が勝手に対面して負けただけだから。気にしないで。むしろ助けてくれてありがとうだし、迷惑かけたって思ってるよ。……ごめん」
事実、そうだから。拳藤ちゃんが拾った時はグロ画像だったろうし、力の入らない高校生男子を女子ひとりでよく抱えてくれたよ……。
「……目、戻りそう?」
「戻らない。医学的に無理だってさ、別の方法模索するよ」
「……今回みたいに」
「ん?」
「今回みたいに、戻らないこともあるから。同じことしたら駄目だよ。あれで物間も心配してたから」
物間が? マジか。あんな煽りカスやってんのに?
「最大のアンチで最大のファンなんじゃない? ほら精神がアレだから……」
「アマデウスかな? まあ変なやつだとは俺も思うよ」
「物間、アマデウス扱いなんだ……。じゃあ、そういうことで。お互い頑張ろ」
ひらっと手を振って、拳藤ちゃんは施設の中に向かっていった。
十五連勤とか激務スギィ!
そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……
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赤(アニメ)
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金(原作)