味方撃ちOKのスナイパー   作:Damned

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最新話の黒霧に涙と笑顔が止まらないので初投稿です。



#08 ハートストリングス

 

 

 ──一週間前に、心操人使(しんそうひとし)はその姿を見た。

 杖を突いて、ゆっくりと歩く黒髪の男。雄英高校では、そんな状態の生徒は少ない。たちどころに傷を回復させてくれる看護教諭──リカバリーガールがいるからだ。

 それなのに、このような状態だということは、相当の重傷だったのだと。心操でなくても気付いただろう。

 

 そして彼は今、自らの前を走っていった。息も乱さず、氷の上を真っ直ぐ。そしてワイヤーを滑って、心操の前から消えていった。

 人とはそこまで、回復できるものだったのか。心操の頭に浮かんだのは、羨望にも近しい恐れ。ああいう奴がヒーローとして名を馳せたり、前線に立つんだろうな──そう考えて、舌打ちが漏れた。

 どうしようもなく、悔しくなったのだ。自分の個性と、立っている場所を強く意識させられたから。

 

 体育祭の本戦──内容は、騎馬戦だ。自分を含めた四十二人の生徒が思い思いに動き始めている。誰と組むかどう動くか、誰もが上位に入るために駆け引きをする中で、心操人使も例外ではなかった。

 視線の先にあるのは、天成。目を伏せて佇む横顔は、浮世離れして見える。その姿の通り、声を掛けてくる者もおらず、しかし焦る事もなく存在していた。

 自分がいるから、確実に援護するから勝利できる。傲慢にも近い思考が感じ取れた気がする。──こいつだ。理由もなく、心操はそう感じた。

 

「なぁお前」

 心操は案じるように、声をかけた。マイナスの感情があれど、負傷をバカだと一蹴できるような思考回路ではないから。

「この前まで杖使ってたくせに、騎馬戦なんて出られるのかよ」

 天成の視線が、こちらに向く。首を傾げながら答えた彼に意識は集中させたまま。

「ああ、それなら──……」

 

 意識の糸が、かかった。琥珀色の瞳が曇っていくのが見えた。問いに反応した者を逃がさずこちらに手繰り寄せて、ほんの僅かな沈黙。

「カフェインを取りすぎた時に似ているな」

 言葉の意味しか、理解できなかった。返事は確かにあったはずだ。無力に絡め取られる意思の糸を、心操は掴んでいた。確かに掴んでいた、そのはずなのに。

 心臓が一気に跳ねた。引き攣る喉に何とか空気を通して、出たのは途切れ途切れの言葉。

 

「……は、お前。何で、」

「少しふわふわとしているが、重たい。不思議な感覚だ」

 彼の瞳は、確かに。

 こちらを、見ていた。

 ほとんど揺れぬ視線。瞳孔は開き、瞬きもなくただ〝見ている〟。敵意はない。ただ、監視カメラのようでありながら──こちらの根底にまで踏み込むような、圧迫感。

 獲物を狙っていた側が、いつの間にか狙われる側になったような錯覚がそこにあった。

 

 無意識に一歩、退いていた。縛ってきた糸を辿ってきた手が、自身の手に触れているような。そんな感覚──洗脳の糸が、奪われている。いや、最初から奪われていたのを、知らなかっただけなのかもしれない。

 自分を形作る要素が、支配という構造が、意味を失った気がした。

「初対面ではないぞ。心操人使」

「……は?」

「そなたとは既に、縁があった」

「何言って……」

 

 天成の声音は変わらず、どこか遠くを見ていた。

「確か、四月だったと思うが。廊下でそなたとぶつかった」

「……あ」

 ぼんやりと思い出す。入学してすぐ、誰かにぶつかったのを。あの時は下駄箱に家の鍵を置いてきてしまって、予鈴がなるからと急いでいた。それが、彼だったか。

「……悪い」

「いいや。謝罪するほどの事ではない」

「人として良くないのは確かだろ」

「気にするな。そなたがこうやって話しかけてくれた、それで十分だからな」

 

 再び、天成の視線がこちらを向いた。今度はあの、観測しているような視線ではない。

 そもそも、自分は何をしている? 浮かれたヒーロー科を蹴落としてヒーロー科に編入する。それが目的で、ここにいるんじゃないのか。

 それなのにどうして、彼の言葉に返してしまっているのだろうか。

「ああ、それと」

「……何だ」

「お前の個性。ヴィラン向きとかみみっちい言い方されるもんじゃないでしょ」

 

 言葉の内容よりも先に、心操は一瞬返す言葉をなくした。

 落ち着いた低さでも、芝居ががったような口調でもない──同年代の男子が気楽に零したような一言。

「……今、お前……?」

「個性って、ただのツールなんだよ。包丁とか車とかと同じ、使い方で法に触れる」

 カサついているはずなのに、それでいて湿り気を含んでいた。

 頭では理解している。挑発だ。冷静で理屈っぽく、こちらの動揺を確かめるような調子で──だが彼の言葉が、心操の何かを揺らしている。

 

「俺の個性は〝生体由来の化学物質を合成〟する」

 ──だから、洗脳は効果をなさなかった。

 原理は理解した。脳内物質を操作することができるのだから、通常と変わらない思考能力を維持することが出来る。かかった糸が張り詰めないようにしている、というのが近い表現だろうか。

 全身が強い敗北感に支配された。個性は効いているのに、それを個性で屈服させられた。屈辱に睨むことさえ、無力の証明にしかならない。

 

 天成の唇は、淡々と事実を並べ立てる。

「興奮剤、その逆の鎮静剤。筋弛緩剤やアルコール。やろうと思えば違法ドラッグも作れるだろうな。やった事ないけど。お前がヴィランに向いてるなら、さしずめ俺は麻薬売買の元締めだろうな」

 笑うことは、出来なかった。

「……自分で言ってて、怖くないのか」

「怖いさ」

 迷いのない回答だった。続く問いを奪われ、心操は彼を見つめたまま、次の言葉を待つ。

 

「怖いに決まってる。俺が作れるものは、誰かを殺すことだってできる……扱いを間違ったら、よくて壊れる」

「──じゃあ」

「だから使う。ヒーローとして、人を救うために」

 光も影もなく、底が知れない琥珀。

 揺らぎもしない彼の目に、また、言葉を発することができなかった。そういう次元じゃない、深い恐怖を知っている。

 だから、天成と言葉を交わすほど、自分の何かが変わっていくような気がした。彼は他人と話している以上に、己の中にある答えを掘り下げているように見える。ただ、確かめるように置かれる言葉とその佇まいが、どうしようもなく胸を掻き立てた。

 

「……お前は、誰と組むつもりだ」

「特に考えていないな」

「随分余裕だな。普通科の俺とは違う」

「違わない。……違うようで、同じだ。目的は、勝利してトーナメントに進むこと」

 理屈としては正しすぎる。癪に触って、舌打ちとともに皮肉が出る。

「ヒーロー科は口が上手いな。敵を丸め込むのも、授業で習ったのか?」

「それが目的なら、もうちょっとうまくやるって」

 ほんの一瞬、二人の間に沈黙が落ちた。周囲ではすでにチームを組み終えた者たちが増え始めていて、打ち合わせの声が聞こえる。熱気の中で、自分たちだけが冬にいるような感覚に陥った。

 

「なら、俺に組まないかって持ちかけるのか?」

「え?」

 天成が首をかしげる。決定事項を覆されたような返答。

「組まないの? 逆に」

「は?」

「ここで言葉と個性投げ合ってたって時間の無駄だと思わないか? お前も分かるだろ、頭いいんだから」

 

 先ほどから、声色も発言も変わらない。ただ合理を語る声には、こちらを利用してやろうなんて打算は微塵もなかった。

「なら、俺はお前の右腕にも騎馬にもなるよ」

 何を言っているのか、理解が追い付かなかった。

 害意を向けた側に乗るよう持ち掛ける──そんな想定、誰ができる?

 

巫山戯(ふざけ)ろ」

「冗談で言うわけない」

「お前、俺の個性がなにか分かってるだろ」

「洗脳。やり取りした相手を操る。違うのか」

「そうだ。俺がいるってことは、言葉一つで人を動かせる。そんな状態で安心できるってのか」

「できる」

 

 理由を並べ立てられるでもなく、最低限の──そして、躊躇いも疑念も、恐れもない言葉だった。

「……なんで、そこまで信じられる」

「お前は、人を傷つける為に使ってる訳じゃない」

「俺はお前を洗脳して使おうとしたんだぞ」

「でも、それは誰かを妨害するわけじゃない。自分が進むために、ヒーローになる未来のために、使ってる。この先人を救うためで、私利私欲なんかじゃない」

 

 息が、詰まる。まただ。言葉を返すことを求める自分が、言葉を返せなくなっている。

 ──誰にも、言われたことのない言葉だったから。

 教師にもクラスメイトにも、それ以外にも。その個性は悪であると、自分には使わないでねと、気味が悪いと、言われ続けていた。

 無意識に求めていた言葉を、当然とばかりに発したのだ。

 

「言ったろ。個性はツールだって。扱い方を間違える奴が悪いだけだ」

「……同情かよ」

「いや。……あえて言うなら、自己弁護かもしれない」

 

 別の意味で、空気が色を変えた。

「自己弁護……」

「そう。俺も心操と同じだから。ごめん」

 先ほど言い切った時とは違う。悲壮感のような、言葉にできない雰囲気で天成が謝った。

「ごめん、勝手に同類扱いして。でも、心操みたいに前に進んでないと、その力が正しいって自信持てると思えなかったんだ。クラスが違っても、やろうとしてることは同じだって……そういうのも含めて、勝手に共感してた」

 

 胸の中にある(おり)がかき混ぜられて、全体に広まるようにして身体を撫でた。ヒーロー科でも、普通科でもない。誰もが自分の個性を疎ましく思って、そうでなければ利用してくる。彼も、そうだったのだろうか。

 ──同じ。そんな言葉で片づけられることじゃない。だが、否定できるほど心操は強くない。

 

「……お前、変な奴って言われないか」

 吐き出した言葉は、呆れの裏に微かな安堵を滲ませていた。

「否定できないなぁ」

 天成もまた、いつもの大人びたものでなく、柔らかく開くつぼみのような笑みを浮かべている。

 

「……一応言っとくが、俺は普通科だぞ。ヒーロー科の連中からすればいい的じゃないのか」

「いや? お前が誰をどう止めるかが大事だろ」

 迷いなどない。感情もあるが、天成は自身の個性を理解しているうえで〝選んだ〟。

「心操と俺で組める作戦は一つ。お前の個性で動きを止めて、ポイントを頂戴する。騎手はお前で騎馬は俺。それでいいか? 他に提案があるなら教えてほしい」

「いや、それでいい。元から俺も、そうするつもりだった。残りの仲間の候補はあるか? 俺はこんなだから、洗脳決めるくらいでしか用意できねえぞ。それに、二人でも組めるが、この前まで背骨逝ってた奴に肩車させる気はない」

 

 本心だった。あの具合を察するに、広範囲にわたって背中を負傷していることは明確だった。クラスメイトらしき眼鏡の男に、「天成くん! 荷物を渡してくれないか!」と通る声で言われていたのを見ているし、天成の方は「そこまでしなくともよい。昨日よりは大丈夫だ」と返していて──そこで、心操は気付いた。

 声音も、口調も、一人称も。一週間前に見た天成とは、一致しない。

 誰に対しても老成したような雰囲気と口調で接し、見守るような姿だったのに、今はその片鱗も感じさせない。そうだ。最初に話した時も同じ口調だったはずなのに、何も考えず受け入れていた。

 演技か? それとも、こっちが〝本当〟? 問いが浮かんだ瞬間には、天成が「それなら」と動いていた。人ごみの中に消え、そして彼はまた現れる。一人の生徒を連れて。

 

「待たせた。彼は尾白猿夫(おじろましらお)。私のクラスメイトだ」

「……心操人使だ」

 また、戻っている。少し前に聞いた喋り方に。

 ほんの刹那、どちらが〝天成〟なのか、分からなくなった。落ち着いた音色、整った言葉遣い、控えめなジェスチャー。けれど先ほどまでの、年相応の振る舞いがどうしても、身体に残っていた。

 

 

 

 

 視線が、こちらを向いた。

 心操人使──紫の髪を逆立てた、隈の目立つ少年。冷たく、けれど固い空気を纏った〝洗脳〟の個性を持つ普通科の男子生徒。

 知っている、この先、この少年がどういう道を歩くかも。そして、個性を否定されながらもそのコンプレックスを前に進む原動力とした、本当の意味での〝ヒーロー〟の一人。そんな彼を、俺は心の中から尊敬している。

 でも、心操から接触してこない限りは──俺は、何もしない。それが、世界を変えない為の一線として、俺が改めて決めたルールだ。下手な介入は、本来存在する未来を大きく捻じ曲げてしまう。相澤先生の時の比じゃない。でももし、彼の方から声を掛けてきたのなら。それは、彼自身の意思だ。俺は、戻れない。

 登校初日にぶつかってしまったのは、その条件に引っかからない。

 

 クラスのみんながチームを組んでいくのを遠めにしながら、俺は脳内で配列を組み替える。……皆、俺に声かけてくれないと寂しいよ。今回の競技で使える個性持ってない俺が悪いんだけどさぁ……。そのおかげで個性(セラム)回すのが捗るから、まぁいいけど。

 今回は体外に排出するわけじゃないから、比較的楽だ。ノルアドレナリンとβ-エンドルフィンの比率を少し調整して、前頭葉の活動を促進する。〝思考を奪う〟信号を緩和させるための簡易的な処置だ。彼の個性を受けても正常な判断力を保つ。そのためだ。心操が話しかけてこない可能性もあるけど、原作から一人俺に差し変わっているわけだから、可能性としては高い部類だと思う。

 

「なぁお前」

 声が、かかった。

 振り返って、意図的に首をかしげて答える。喉の奥で、声が震えていた。

「ああ、それなら──……」

 音が、遠のいていく。

 筋肉の張り、心拍、血中酸素濃度。体内で把握しているものは理解しているのに──身体と繋がっているはずの思考の糸が、他の糸に絡め取られて主導権を奪われた。

 

 これが、心操人使の個性。

 問いに答えた瞬間、自らを操る糸は彼に明け渡される──脳の指令系統を、肉声に乗せて奪う力。

 かかってはいる。けれど、それの根元はまだ、俺が握っている。鼓膜からその奥、蝸牛で電気信号に変換されたそれに動かされぬよう、脳内が〝本来あるべき〟形を保っている。伝達物質に干渉される言葉にできない感覚を味わいながらも、俺は静かに口を開いた。

 

「カフェインを摂りすぎた時に似ているな」

 ばつん、と糸が切られた気がした。動揺したのは俺じゃない、心操の方だ。

「……は、お前。何で、」

「少しふわふわとしているが、重たい。不思議な感覚だ」

 

 見えている。一度切断した糸が、再度こちらに伸びてくるのを。自分が失敗したと思ったのだろう。むしろ、二度目こそかからない。抑制系を増やして、心拍を下げる。意識が曇る前に、正常な思考は心操の個性に「わかっている」と答えた。

 自分の力が通じない。今まで劣等感を覚えるほどの個性だったのに、それに拍車がかかるほどの失敗だと見える。後ずさった分、俺は距離を詰めた。

 

「初対面ではないぞ。心操人使」

「……は?」

 心操の眉間にしわが寄った。そりゃそうだ、覚えてる人間がおかしい。俺も興味が無い人間なら忘れてたかもしれない。単に俺が、心操が好きで記憶に残っていたのだ。

 

「そなたとは既に、縁があった」

「何言って……」

 そういえば、という顔をした心操に、少しだけ肩の力を抜いた。

「……悪い」

 こうやって謝ってくるのが、証拠だ。彼は悪い人間じゃない。ただルールの中で、許されるラインを守っているのだ。

 

 試合の為に炎や氷の個性を使うのは、正義?

 試合の為に自分の個性(せんのう)を使うのは、悪?

 

 違うだろう。個性とは道具だ。それを悪意を持って振るうのではなく、自らが前に進むために使用するのなら、誰も咎めることは出来ないだろう。

 刃物と同じ。使い方を誤らなければいい。

 彼は個性を開示した。だから俺も、個性を開示する。歩み寄るにはまず、同じ場所まで明かすのが必要だ。

 俺の個性〝ナノセラム〟は、体内に存在する物質を組み替えて液体を作る。だから、事前に準備していればこうやって抵抗ができる場合もある。次に通じるかは分からない。三月末にミスをしたように、 身体に害のあるものを生成してしまうことだってある──どっかで薬をやったみたいになってもおかしくない。

 

 実際、阻害弾はボツリヌス毒に似た物を使用しているし、睡眠針(ダーツ)はジアゼパムを体温で溶ける針に込めている。濃度を上げれば、動物だけじゃなく人間だって簡単に死ぬだろう。彼がヴィランなら俺はその黒幕にだってなれる。

「……自分で言ってて、怖くないのか」

「怖いさ」

 怖いに決まってる。半数を超える個性が、人を殺すことができる。その中でも、俺のナノセラムは上位数パーセントに食い込んでいるかもしれない。

 だから制御する。使う。ヒーローとして、人を救うために使う。

 

「……お前は、誰と組むつもりだ」

 唐突な問いだった。けれど、その裏にあるものを察するのは簡単だ。警戒と興味。心操は俺を信じたいとも、信じちゃいけないとも思っている……当たり前だ。今まで欲しかった言葉をくれる。そんな人間が腹の中で何を考えるかなんて、容易に想像がつく。俺だったらその甘さに負けそうになるし、でも振り払って拒絶する。

 その後に、後悔の痛みを抱えながら一人になるのだ。もしかしたら、本当に手を差し伸べてくれたのかもしれない、って。

 

「随分余裕だな。普通科の俺とは違う」

 飛び出たのは、皮肉。試し行動にも近いのかもしれない。──俺がそうだったから。彼よりもずっとぬるい環境で、本当に手を差し伸べられていたのに、吐いた。

 

 ──もう辛いでしょ、介護すんの。

 ──どうせあと一年で死ぬんだろ? だったら、安楽死させてよ。

 ──その方が、■■■の為にもなるでしょ? 皆に迷惑かけない。

 

 あと一年、ほとんどをベッドで過ごすようになってから、そんな言葉を何度も。死ぬのは怖かった。なのにそう言って、自分が愛されてるって……生きてていいって、教えて欲しかった。

 両親も弟も言ったのだ。死なないで。迷惑なんかじゃない。生きててくれてるだけいい。その言葉に縋って、ようやく息を吸い込めたのだ。心操を見ていると、その時の自分を見ているような気がした。認められない痛み。信じたいのに信じきれない心。その全てを覆い隠すように吐いた言葉。

 

「違わない。……違うようで、同じだ。目的は、勝利してトーナメントに進むこと」

 自分で発しておきながら、胸の奥が鈍く揺らいだ。

 過去の自分が、心操と重ねていたのだ。傲慢にも。

 心操に比べたら、俺の環境はどれほど甘かっただろう。自宅の白い天井の下で、あれほど無力だったくせに、それでも自分を必要としてくれる家族がいた。

 彼らは否定するどころか、「生きていてくれてありがとう」と言ってくれたのだ。それなのに俺は、その言葉を繰り返して生きている意味として使っていた。俺はずっと、自分がどれだけ傷つけても許されるのか確かめた。何よりも生に執着していた。

 

 それを、自分で立ち上がれるようにしてくれたのは、かつての相棒だった。

 ──「死ぬのが怖い」って言えよ。

 ただ一言だけで、俺は救われた。本当に自分が必要な言葉を、ようやく貰えたから。家族の言葉が駄目だったとかじゃなくて、立ち上がるための言葉として。

 それからあいつと通話してるまま号泣して、落ち着いた時には「死ぬまでにやりたいこと全部やる」って決めた。それが、俺がオーバーウォッチを始めた理由で──〝アナ・アマリ〟という狙撃手に出会えた初めてだった。

 

「ヒーロー科は口が上手いな。敵を丸め込むのも、授業で習ったのか?」

 

 心操の掛ける言葉の一つ一つが、悲鳴を上げていた。

 ──信じられない。

 ──でも、信じたい。

 その狭間で、彼はもがいていた。

 だから、言いたかった。同情でも慰めでもなく、甘えたものでもない。ただ、今必要な言葉を──彼の居場所を作れる言葉を、返したかった。

「それが目的なら、もうちょっとうまくやるって」

 

 心操の顔に一瞬、迷いが走った。きっと俺の言葉が、予想と違っていたのだ。挑発でも反論でも、懐柔するでもなく、ただそこにいていいと認められたときの、あの一瞬の戸惑い。

「なら、俺に組まないかって持ちかけるのか?」

「え?」

 問われて、思考が一瞬止まる。間抜けな声が──自分でも驚くほど気の抜けた声が、出ていた。俺に組まないか、って。そういうことだ。

 

 心操人使はずっと、信じることを試され続けていたんだ。なのに今、俺に問いかけてくれた。「お前は俺と組むのか」じゃなく、「俺に組まないかって持ちかけるのか」と──それはつまり、俺の答え次第で、彼の中の何かがまた、壊れるかもしれないということ。

 

 

そういえば相澤先生の抹消使ってる時の色どっちが好き? 原作とアニメでゴリゴリに違うんですけどぉ……

  • 赤(アニメ)
  • 金(原作)
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