STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
(1)
2010年8月21日(土)
「もしもし、あなたは、誰ですか?」
『どうか、お願い。落ち着いて、私の話を聞いて』
「どうして、まゆしぃのケータイ、持ってるの?誰なの?」
『それは、言えない。ごめんね?』
『ねぇ。あなたは、鳳凰院凶真のこと、好き?』
「ふぇぇ?い、いきなりそんなこと言われても…困っちゃうよぉ」
『これから1分後に、オカリンは、牧瀬さんの救出に失敗して、戻ってくるの。』
「っ…ウソ……」
『そのときに、どんなことをしてでも……あなたにとっての彦星さまを、呼び覚ましてほしいんだ。』
「彦星さま……って」
『鳳凰院凶真……』
「鳳凰院凶真……」
『このままじゃ、オカリンの中から、鳳凰院凶真の思い出が消えちゃうから…』
『だから、オカリンの折れた心を、蹴っ飛ばしてでも、立ち直らせて?』
『ただ名前を呼ぶだけじゃ、届かない…』
『鳳凰院凶真が生み出された瞬間のことを、思い出して。』
「生み出された、瞬間……?」
『あと30秒。そろそろ退散しないと…!』
『26年と…1年分の想い。あなたに託したからね!』
「ね、ねぇ!ひとつだけ聞かせて!」
「シュタインズゲートは、あるよね!?あるんだよね!?」
『跳ぶよ!つかまって!』
『うん。きっとある。私はそう信じてる…!あなたも信じて?オカリンと、仲間と、そして…自分自身のことを、信じて』
『あとは、よろしくね!トゥットゥルー!!』
「わぁっ!」
「ちょ、二台目も消えたぁ!いいい、いったい何が起きているんですぅ?誰かぁ、説明プリーズ!つーか、まゆ氏まゆ氏ぃ!今の電話、誰からだったん?」
「……信じるよ。…ありがとね。未来の……まゆしぃ!」
*****
「無駄だよ…無駄なんだ……なにもかも無駄なんだよ…」
「俺は、やっぱり、紅莉栖を助けられないんだ……。は、はは、ははは…」
「分かってた……。分かってたんだ……。こうなるって、予想してたんだ…」
「もう疲れた…ずっと、休んでないんだ…。だから、もういいよ…」
「は、はは…」
「オカリン!」
パシン。
乾いた音が響いた。
「なに……を……?」
まゆりがこんな行動に出たのは初めてで。俺の頬を打った?
俺はあまりの驚きで、我に返っていた。
「………っ」
まゆりが俺を睨んでいる。
「オカリンは…途中で諦める人じゃないよ。まゆしぃは知ってるもん。いつもね、絶対に最後まで諦めたりしない。覚えてる?まゆしぃがおばあちゃんのお墓の前で、毎日“助けて”って心の中でつぶやいていたとき、オカリンも…毎日まゆしぃに会いに来てくれたよね……。雨の日も雪の日も、諦めずにまゆしぃの横に来て、まゆしぃの名前……ずっと呼び続けてくれたよね……。まゆしぃはね、オカリンが最後までそばにいてくれたから……おばあちゃんと、しっかりお別れすることが出来たんだよ。ね?だからオカリン。まゆしぃはよく分からないけど、諦めちゃ、ダメだよ……元気……出してほしいよ」
「でも……俺が殺してしまったんだ…」
俺の一番大事な人を……。
助けたいと願った人を……。
「俺が……っ、殺した……っ」
「オカリン……」
紅莉栖の胸に深々と突き刺さったナイフ。その残酷な感触が、まだ手に残っている。絶望で心が張り裂けそうだった。罪悪感で、胸が張り裂けそうだった。
けれどこれは、時間を遡るという神に等しい力を手に入れた俺が、それを使って過去をめちゃくちゃにしたことに対する自業自得。チート能力を使って、普通の人にはできないこと——神に等しいこと——をやろうとしてはいけなかったんだ。
紅莉栖は、救えない。まゆりがどれだけ俺を励ましてくれたって。
「無駄なんだ……」
「無駄じゃないよ」
鈴羽は、まゆりが持つ俺のケータイを指さした。
「オカリン、メールが……」
まゆりに預けていた俺のケータイにメールが来た。俺はメールを見る気力すらなかったが、鈴羽がなぜか見るように促してくる。
『テレビを見ろ』
なんだこれ?
送信者は見たことのないアドレスだった。
戸惑いつつも何気なく送信時間を見て、息を呑んだ。
2025年8月21日17時59分。
「Dメール!?」
間違いなく、未来から送られてきたものだった。
「聞いた通りだ…!本当に、届いた…!」
鈴羽は2036年から来ている。このメールは2025年。11年もの差がある。このメールは鈴羽とは無関係なのか?
「テレビってどういうことなのかな?」
「見ろって書いてあんじゃん!何かを伝えたいんだよ!」
ケータイのワンセグをつける。
「ドクター、中鉢…」
『ドクター中鉢こと、牧瀬章一さんが乗っており、先ほど、現地にて報道陣に向けてコメントしました』
『この中だ!この中に私がまとめた人類の夢が詰まっておる!近いうちに学会で発表する予定だがね。そのとき全人類は驚愕し、やがて私を称えることになるだろう!』
刺された紅莉栖を見捨て、あの封筒をもって1人で逃げていった中鉢を責める資格は俺にはない。
ないのだが——。
死人に口なし、ということなのかよ。
『…その神による業がこれだ!これが封筒に入っていたおかげで、荷物を預ける際に金属探知機に引っかかってしまってな。私は封筒だけをスーツケースから出して、機内に持ち込んだのだ。先ほど、機長は英雄だと言ったが、人類の夢を守った真の英雄は、この小さな人形であると言えよう』
「あー!あのときなくした『メタルうーぱ』だ!ほらほら見て、まゆしぃのサインが入ってるー」
「げ、マジだ!なんでそれをドクター中鉢が?」
「あの発表会の会場でね、落としちゃったのー。探したけど見つからなくて、諦めてたんだけど、このおじさんが持ってたんだー。ロシアじゃ、返してもらいにいけないよー」
「ぁ……ぉ……バタフライ、効果(エフェクト)……」
東京、秋葉原で3週間前に行われた発表会の会場で、まゆりがなくした小さな小さなオモチャが、第3次世界大戦のきっかけとも言える『中鉢論文』が失われるかどうかを左右した。
結果的に、あの『メタルうーぱ』があったおかげで、『中鉢論文』は火災から守られた。そして世界はこの結果により、やがて第3次世界大戦を迎えることになる……。
「鈴羽、お前はこれを……知っていたのか?」
「…………」
「さっきの、2025年からのDメールは、誰が送ってきたんだ?」
“テレビを見ろ”というのが、このドクター中鉢に関するニュースであることは明白だ。
「ごめん……」
なにが“ごめん”なのか。
「ちゃんと説明しなくて、ごめん。でもさ、どうしてもオカリンおじさんには一度、牧瀬紅莉栖の命を救うのを“失敗”してもらわなくちゃいけなかったんだ」
「俺を、騙したのか……?」
「騙したわけじゃない。段取りとして必要なことらしいの。そう指示された」
指示って…誰に?
「オカリンおじさんに辛い思いさせちゃったことは、謝る」
「…どういうことか説明しろ……」
「その必要はないよ。聞けば分かる」
「聞くって……何を?」
「そのケータイに、“もうすでに”入っているはずだよ。2025年のオカリンおじさん自身からの伝言が」
「……え?」
「ムービーメール。そのケータイに、受信してるよね?」
「あ………!」
確かに受信した。7月28日。あの日。
紅莉栖と初めて会った直後。
まゆりに連絡を取ろうとしたそのときに、謎のムービーメールを受信した。
送信者は見たことのないアドレス。
「だが、なにも映っていなかった。ノイズしか入っていなかった……」
「今なら————。“牧瀬紅莉栖の命を救うのに一度失敗した”今なら————見ることができるはずだよ」
……ウソだろ?
そんなこと、有り得るのか?
半信半疑のままケータイを操作し、調べてみる。
1通だけ保存されている、ムービーメール。2025年と言えば、鈴羽の話によると俺が“殺される”年ということになる。
死の直前の俺が、2010年、今の俺に残した伝言……。
『シュタインズゲート』と呼ばれる未知の世界線へ到達するための“計画”。
その答えが、このムービーメールにある……?