STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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「どうしたの…?」

 

俺は腹を決めた。多少のリスクは伴ったとしても、ここは話すべきだ。

 

「実はこの理論…紅莉栖からレクチャーされた」

 

「え…今、なんて?」

 

「牧瀬紅莉栖が、教えてくれたんだよ」

 

「紅莉栖が…あなたに?……いつ、どうして?」

 

「彼女がこっちに留学してたときだ。友達になって、こういう話をよくした」

 

もちろんウソだ。それはα世界線での話なんだから。

 

「……そうだったの。あの紅莉栖が。…ありがとう。感謝するわ」

 

その言葉に驚いた。まさかそう返されるとは思っていなかったから。

 

「彼女と友達になってくれてありがとう。日本に来てたったひとりで——」

 

彼女は言い淀んだ。

 

「たったひとりで勉強していても、つまらなかったと思うから…」

 

「口喧嘩ばっかりだったけどな」

 

「ふ…あの子らしいわね。絶対に負けを認めなかったでしょう?」

 

「あぁ。屁理屈ばかりこねていたよ」

 

「ふふ…」

 

「ロボトミー手術してあんたの前頭葉を掻き出してやるぞ、とかよく言われたし」

 

「そんなこと……紅莉栖なら、言いそうね」

 

「だろ?ちゃんと後輩の教育をしておいてほしかった」

 

「その点に関しては認めるわ。陳謝します」

 

ここまでの会話の中で、見せたことのない笑顔を見せてくれた。

 

悪くはない選択だったらしい。怪しむどころか、俺と紅莉栖の関係を知って喜んでくれている。

 

 

だが——。

 

「………っ!」

 

笑ったと思えば、突然泣き出した。

 

「ど、どうした?」

 

慌てつつもなんとかハンカチを差し出す。

 

「え、え?」

 

彼女は自分で泣いていることに戸惑っているようだった。

 

何かが彼女のスイッチを押してしまったのだろうか?

 

「ご、ごめんなさい」

 

ハンカチは受け取らず、自分のポケットから取り出したティッシュで涙を拭った。

 

 

 

 

「勇敢なる第三のアインシュタイン!」

 

「え?」

 

その声に振り替えると、大柄なレスキネン教授が大股でこちらに近づいて来ていた。そのままの勢いで俺の手をつかみ、ものすごい強引な握手をしてきた。

 

「あ、あの…俺……教授…その」

 

テンパる俺を見ながら笑う教授。

 

「しかし、私の助手を泣かせてしまったのは見過ごせないね」

 

「あ!いや!これは!」

 

にこやかな笑顔から一転。顔がぐっと引き締まる。

 

「ち、違います教授!私が勝手に!彼は関係ないですから!」

 

俺と彼女は揃って全力で否定した。だが俺は彼女がなぜ泣いたのかよく分かっていないから言い訳のしようがない。

 

「マホは、どうして泣いていたんだい?」

 

「く、紅莉栖です。彼と紅莉栖の話をしていたら、いろいろ感情が溢れてしまって…」

 

「クリス?」

 

教授の顔がまた変化した。

 

「彼は、クリスの友人なのかい?」

 

「え、あぁ…はい」

 

「岡部倫太郎さん。学生だそうです」

 

「…………」

 

教授は優しげな表情で、俺にゆっくりとハグしてきた。巨体によるハグで俺は窒息しそうになる。だが、それが紅莉栖への哀悼の意だと分かった。

 

「そうですか。そういうことならマホ」

 

「…はい?」

 

「ミスターオカァベに会わせてあげたらどうかな?彼女を」

 

「まさか、『Amadeus』を?」

 

「ここで彼に出会った偶然。その幸運を大切にしたいじゃないか。日本にいる間、彼にテスターになってもらってもいいよ」

 

「本気ですか?部外者なのにそんないきなり…」

 

「クリスの友人なら部外者ではなぁい。そうだろう?」

 

「ですが…」

 

いったい何の話だ?分からないが、せっかく舞い込んできたレスキネン教授との繋がりだ。彼女に紅莉栖とのことを話したのだから今さらだ。ここで引いては無駄になる。

 

 

「俺、やってみたいです!」

 

「Nice!」

 

教授は俺の方をぽんぽんと叩き、満足そうに笑った。まるで子供みたいな無邪気な笑顔だ。

 

「じゃあ、詳細はマホに聞いて。よろしく」

 

教授は他の研究者に呼ばれて、俺たちの元を離れていった。

 

比屋定真帆は信じられないとでも言いたげに首を左右に振っていた。

 

「『Amadeus』に会せるとか、テスターとか、いったいなんの話なんだ?」

 

「コンペティションでやったデモンストレーション。『Amadeus』は私の記憶を使っていたんだけれど、もう一人分、研究者の記憶が保存してあるのよ」

 

もう一人分の研究者の記憶?

 

 

ここまでの会話から、その答えが導き出され、俺の心臓はドクンと高鳴った。

 

 

「まさか……あいつ、なのか?」

 

あいつがそこに——。

 

 

「そう。『Amadeus』の中には、牧瀬紅莉栖の記憶が保存されているわ。八か月前の紅莉栖だけれどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

ラボ

 

「絶対に引き受けるべきっしょ!」

 

俺の話を聞いたダルの第一声がそれだった。

 

「父さん!少しは考えてから発言して!どんなリスクが潜んでいるかも分からないんだ!」

 

「あ、あう……すんません」

 

ダルと鈴羽は驚くほど距離が縮まっていた。漫才のような会話はまるで親子だ。鈴羽も嬉しそうだ。

 

「鈴羽。やはり危険だと思うか?」

 

レスキネン教授たっての要望で、俺は『Amadeus』のテスターを依頼された。テスターと言っても、スマホに専用のアプリをインストールし、『Amadeus』の人工知能と会話をする、という程度ことだ。一見、危険はない。

 

その『Amadeus』のモデルが、比屋定さんではなく、牧瀬紅莉栖であるということ除いては。

 

「引き受けるのに反対、ってわけじゃないけど、多少様子は見るべきだよ」

 

「なぁオカリン。その『Amadeus』の中に、中鉢論文がある可能性は高いん?」

 

そう。それが問題なのだ。

 

講演で『Amadeus』の存在を知った時、もし、紅莉栖のモデルが存在するなら、その中に中鉢論文が眠っている可能性を考えた。

 

誰もが欲しがる代物、タイムマシンの設計図だ。

 

「比屋定さんの話では、紅莉栖モデルの記憶は8か月前……3月末時点のものらしい。紅莉栖がいつタイムマシン論文を書き上げたのかは分からないが……可能性は高いだろうな」

 

それが存在するだけなら構わない。誰にも気づかれていないのであれば悪用される可能性も低い。だが。

 

「おじさんがそのレスキネンって人と比屋定さんって人と親密な関係なのなら依頼するのも分かる。でも、牧瀬紅莉栖と知り合いだっていう事を考慮しても、初対面の人間にそんな重要な研究のテスターを頼むなんて考えにくい」

 

比屋定さんの話では、『Amadeus』とは対話を重ねてほしいらしい。『Amadeus』は人間の脳機能を再現する形で作られた人工知能だ。人と接する中で、脳の動きを観察し、メカニズムを解き明かす。

 

その点で言えば、俺という存在は稀有らしい。

 

これまでは研究所内の人間としか接してこなかった。だが、オリジナルの紅莉栖と知り合いでありつつ、研究所の関係者ではない俺という存在と接することで、これまでにない反応を見られるかもしれない、とのことだった。

 

「裏がある、という証拠もないが、疑い出したら全てが怪しくも見える……」

 

鈴羽の言うとおり、そんなに重要な研究を、出会ったばかりの大学生……それも専門が脳科学ではない俺に依頼するだろうか?

 

「オカリンのこと……タイムマシンとかのことをオカリンがいろいろ知ってるってことがバレてる可能性は?」

 

「……鈴羽。俺たちの存在がどこかの勢力に露見している可能性はあるか?」

 

「いや、そんな話は聞いた事がないよ。……あたしが聞かされていないだけかもしれないけど」

 

俺のことを知っているのなら、俺に接触するメリットはある。タイムマシン関連の情報を手に入れるなら、俺以上に詳しい存在はいない。

 

「でもそれなら、おじさんから情報を引き出そうとするより、『Amadeus』から中鉢論文そのものを手に入れた方が早いんじゃない?全ては仮定の話になるけど。『Amadeus』の中に中鉢論文があって、2人がそのことを知っているなら、わざわざおじさんから情報を得なくてもいいはずだ」

 

「それはそうだが……」

 

俺のことを知られている可能性は低い。仮に知っていたとしても、『Amadeus』の中に中鉢論文があるのなら、俺に接触するメリットはない。『Amadeus』の中のデータを掘り返せばいい。

 

「………」

 

「今すぐに結論を出すのは無理じゃね?決めてかかって予想と違ったら隙を見せることになるだろうし」

 

「そう、だな……」

 

「それじゃあ、父さんとしては?」

 

「とりあえず、テスターの件は引き受けるべき。引き受けて、2人に近づいてみて白か黒かを探る。そもそも、『Amadeus』の中に中鉢論文があるのかどうかについてもね」

 

「…………」

 

「リスクがあるのは百も承知だお。でも、今のところ電話レンジ(仮)の開発にも行き詰ってるわけだし、ある程度のリスクは取っても前進すべき。ってのがボクの意見だお」

 

2人の思惑はともかくとして、中鉢論文があることが確定したのなら、それにも対応しなければならない。あれは存在するだけで第三次世界大戦を引き起こす爆弾なのだから。

 

「それがいいのかもしれないな……」

 

中鉢論文だけでなく、2人と関わることはVR技術や脳波マッピングなど、俺たちが欲しているものを手に入れるチャンスでもある。

 

「鈴羽もそれでいいか?」

 

「……うん。でも慎重に行動してほしい。おじさんが2人と会う時には、あたしも近くから監視しておくことにするよ」

 

素人の俺なんかよりも、鈴羽の目があった方が確実だろう。

 

「次に会うのは?」

 

「11月28日……日曜日だ」

 

場所は和光市にあるオフィス。

 

「中までは入れないから、近くで張り込みかな」

 

「鈴羽。危ない事はしちゃダメだからね?」

 

「監視するくらい別に……」

 

「鈴羽!」

 

珍しくダルが声を荒げている。やはりダルには父親としての自覚が芽生えてきたらしい。

 

「う……。うん。分かった。危なくなったらすぐに撤退する」

 

鈴羽はダルには弱い。普段は痩せろとか食生活を改善しろとか、厳しいことをいろいろと言われているが、こういう時になるとダルの方が強いのだ。

 

だが、まんざらでもなさそうな鈴羽の顔を見ると、俺の頬も緩む。β鈴羽は快活なα鈴羽と違って、かなり暗い性格だ。従軍していたという経歴がそうさせているのだろう。そんな鈴羽が嬉しそうにしていると、こっちまで嬉しくなる。辛い運命を背負わせてしまっていることへの罪悪感、とまでは言わないが、俺は鈴羽には幸せになってほしいと思う。

 

「ダルもすっかり父親だな」

 

「そりゃそうっしょ!可愛い娘が危ない事しようとしてるなら、止めるのが父親だろjk!」

 

「か、可愛いとか言わないでよ……」

 

「え?なんで?鈴羽は可愛いじゃん」

 

鈴羽が耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている。

 

「そ、そういうのは母さんに言うべきだろ!娘相手にそんなこと言って、何の意味があるっていうんだ!」

 

「いやぁ……まだ嫁の顔も名前も知らないわけですが」

 

鈴羽の母親……ダルの奥さんについては何も教えてくれていない。俺もダルも、まゆりも何度も鈴羽に問うたのだが、鈴羽は頑として教えてくれなかった。鈴羽が阿万音を名乗っている事から、苗字が阿万音であることだけは分かっているが。

 

これは最重要機密事項だとか言って、頑なに口を閉ざすのだ。

 

この時代の俺たちが知ると、何かまずいことでもあるのだろうか?それこそ、タイムパラドックスが起こってしまうとか?

 

今さらながら、このダルが将来結婚して家庭を築くというのがイメージ出来ない。

 

「と、とにかく!あたしもおじさんについていくから!」

 

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