STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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帰路

 

「待たせたな鈴羽……ってダルまでいるのか?」

 

オフィスを出て、バス停の近くで鈴羽と合流する予定だったのだが、予想外にもダルがいた。

 

「当たり前っしょ!娘1人で危ない事させられんって」

 

「……父さんがいる方が動きにくいんだけど」

 

戦闘の素人かつ巨漢のダルがいては機敏な動きは出来ない。荒事になったとして、鈴羽は護衛対象が増える分リスクが増す。……これは言っても仕方ないだろうが。

 

「話はどうだったの?」

 

「ああ。テスターは引き受けることになった。詳しい事はラボについてから話すが……」

 

誰に聞かれているとも分からない。こんな場所で話すべきことではないだろう。

 

「これといって予想外の出来事はなかった。安心してくれていい」

 

考えるべきことはいくつかあるが、差し当たって問題となることはない。

 

それを聞いて鈴羽も安心しているようだ。ダルはずっと鈴羽の顔色を窺っている。ダルは女の尻に敷かれているのが似合っているな。未来でも鈴羽には頭が上がらなかったのだろう。

 

「まゆりとかがりが待っているんだろう?」

 

「あ、うん。秋葉原の駅に集合ってことになった。別にあたしは適当なものでいいのに……」

 

今日は久々に皆で外食することになっていた。

 

鈴羽とかがりはラボ暮らしだ。外食する機会なんてめったにない。俺、ダル、まゆりの3人は事あるごとにうまいものを食わせてやろうとするのだが、鈴羽が頑なにそれを拒否するのだ。

 

「たまの外食なんだから別にいいじゃん。ちょっとくらい贅沢したって罰は当たらんのだぜ?」

 

「別に……」

 

理由は単純。もったいないからだ。

 

この時代で公的身分がない鈴羽とかがりは、働くことが出来ない。自分で稼いでいないのに、贅沢をするというのが鈴羽には許せないらしい。

 

 

ダルならいくらでもお金くらい出すのだが、鈴羽は絶対に甘えようとしない。自立しているのは立派だが、そこが少し寂しくもあるようだ。

 

かがりは鈴羽ほど露骨ではないが、同様に遠慮するきらいがある。

 

俺たちとしては、この時代では楽しく過ごしてほしいのだが、これは言っても無駄だろうな。

 

「フェイリスのところでバイトさせてもらったらどうだ?あいつなら事情を知ってるし、働かせてくれるだろう」

 

「うはっ!鈴羽のメイド姿とかヤバすぎ!想像しただけで鼻血出そう。あ、でもダメダメ!ぎらついた男どもに、鈴羽の可愛い姿は見せらんないよ!」

 

「か、可愛いとか……。あたしなんかがメイド服?を着ても似合わないだろ?」

 

似合うと思うが、まぁやめておいた方が無難だな。フェイリスのおもちゃにされるのが目に浮かぶ。

 

「ま、それなら今日はおとなしくうまいものを食べるんだな。別にそんな高級な店に行くわけじゃない。ちょっとした贅沢ってやつだ」

 

「うぅ……」

 

 

 

 

ラボ

 

今日は奮発して少しいい店に……と思ったが、鈴羽の反発が強く、結局はファミレスで食べることになった。かがりにはお子様セットが大好評だったが、まゆり、ダルの親コンビとしては不満だったようだ。もう少しいいものを食べさせてやりたい。そう思うくらいには親の自覚が芽生えているらしい。

 

……ラボにいろいろと食べ物を買い置きしておくか。

 

 

 

「レスキネン教授が怪しい?」

 

俺はこくりと頷く。

 

「そっちの教授さんだけ?もう一人、比屋定……真帆たんだっけ?そのロリっ子は?」

 

「お前な……」

 

直接会った事のない、写真で見ただけの相手をそんな風に呼べるのはダルくらいだ。

 

「比屋定さんは怪しくない……といっても俺の直感に過ぎないんだが」

 

オフィスでの一幕で、俺はレスキネン教授への疑念を強めていた。もちろん根拠はない。専門ではない俺への依頼理由におかしなところはなかった。そして“真帆”ではなく“紅莉栖”のテスターである理由についても。

 

「教授という立場からくる余裕……というかゆとりというのか、レスキネン教授はあまり紅莉栖の死を悲しんでいる様子は見られなかった。一方で、比屋定さんは気丈に振舞いながらも、ところどころ言葉に詰まっていたように感じた。だから何だ、と言われればそれまでだが……」

 

「その直感は悪くないよ。疑いを持つことは健全だ。なんでも安易に信じてしまうべきじゃない」

 

そう言いつつも、鈴羽は俺が比屋定さんにある程度の信用を置いていることが気に入らない様子ではある。もちろん、彼女に何も裏がないと確信したわけじゃない。まだ何も分かっていないのが現状なのだ。決めつけるほど愚かじゃない。

 

「これから俺は“紅莉栖”と対話を重ねることになる。もちろん、重要なことは何も話さないつもりだが、懸念点が一つある」

 

「懸念点?」

 

「『Amadeus』があまりにも精巧に人間を再現している、という点だ。俺が今日話したのは1時間程度だったが、俺は本物の紅莉栖と話しているような錯覚に陥った」

 

「……そんなにすごいん?」

 

「俺とは初対面、ということで遠慮はあったが、俺の知るα世界線の紅莉栖そのものだった」

 

「すごいよなぁ。記憶をデータ化するだけでもすごいのに、人格まで再現するなんて……」

 

かつて、紅莉栖はタイムリープマシンの制作時に、過去に送るのは記憶だけであり、人格はそこに含まないと言った。だが、結果として何度もタイムリープを繰り返した俺は、人格ごと時間を遡った。

 

あれと同じ技術が使われているのだ。プログラム上に紅莉栖の人格が再現されていてもおかしくはない。

 

「α世界線での会話と混同して、ふとしたときに言うべきではないことを言ってしまうかもしれない……」

 

自分を制御できていないと公言するのは躊躇われたが、その油断が致命傷になるかもしれない。

 

 

「なぁオカリン、牧瀬氏の『Amadeus』と話すの、辛いんじゃね?だったら無理しないでも……」

 

「っ!?」

 

「父さん?」

 

ダルに本心を見抜かれて、ハッとした。

 

「だってさ、オカリンは明るく振舞ってるけど、ほんとは辛いはずっしょ?あの日からずっと走りっぱなしじゃん。そりゃあ、無理にでも前に進まんといけんのかもしれんけどさ……。無理し過ぎて倒れたら意味ないって」

 

「ダル……」

 

「鈴羽も分かるっしょ?」

 

「……うん」

 

「オカリン。無理だけはすんなよ」

 

「ああ。すまない」

 

「謝んなっての」

 

真面目なトーンのダルを見るのが新鮮で、的確な言葉に俺はいくぶんか気が楽になった。

 

「で、さっそくどんなもんか見せてもらいたいわけだが」

 

ここからはダルの専門領域だ。俺の精神面の問題以外にも、話さなければならないことはたくさんある。

 

「いや、ここで『Amadeus』に繋げない方がいい」

 

「というと?」

 

「これは通話形式のアプリなんだ。俺のスマホのカメラを通して、“紅莉栖”は周囲を認識する。ダルや鈴羽のことは知られない方がいい」

 

教授たちが黒だと決まったわけではないが、情報は出来る限り与えたくない。俺たちの予想通り、俺たちの事を知っている場合、身を危険に晒すことになるかもしれない。

 

「映像から思考するとか、どんな技術だっての。AIなんてそこら中に転がってるけど、そんなレベルじゃねぇって」

 

「それってそんなにすごいの?」

 

「うん。そもそもAIにはフレーム問題ってのがあって、それをクリアするのがかなり難しんだ。そうだなぁ、人間なら曖昧な概念を理解するのは簡単だけど、プログラムだとそれが出来ない。一つ一つはっきりとした定義が必要になるんだ。画像読み取るとか、特にそれなんよな」

 

俺も知らないようなワードが飛び出している。

 

「さすがだね、父さんは」

 

「いやいや、それほどでも」

 

そう言いつつダルは嬉しそうだ。

 

「それともう一つ。このアプリでは位置情報が共有される」

 

「げ、マジ?」

 

「設定を確かめたら、俺のスマホの位置情報へのアクセス許可がオンになっていた。それは通話中だけだったから、今、位置情報が伝わっているということはないが……」

 

話すなら、俺の自宅か大学にするべきだろう。ラボはいろいろとマズい。開発中のタイムリープマシンがあるし、鈴羽やかがりもいる。

 

比屋定さんたちにもラボのことは全く話していないし、話すべきではないだろう。

 

「とりあえずは様子を見てみようと思う。何か分かった事があったらまた知らせるよ」

 

十分に注意しつつ、“紅莉栖”との対話を重ねてみよう。何か得られるものがあるかもしれない。

 

 

 

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