STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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12月5日(日)

 

俺は自室のベッドで“紅莉栖”と話していた。あれから1週間。俺はそれなりの頻度で対話をしている。引き受けた手前、全く話さないというのもおかしいからな。

 

オリジナルの紅莉栖とはどういう関係だったのかと話題を振られて、なんとか誤魔化しつつ乗り切ったところで、“紅莉栖”はいきなり話題を変えた。

 

『岡部、あんた前に私に聞いたでしょ?タイムマシンは作れるかって』

 

「ん?そう、だな」

 

『私は、不可能とまでは言い切れないと言ったけど……あんたはどう思うの?』

 

突然タイムマシンの話題を振られて、俺は分かりやすく焦った。

 

「どうしたんだ、突然?」

 

『べ、別になんてことはないんだけど……あんた、あの時は馬鹿らしいとか言ってたじゃない?どうなのかなと思って……』

 

「…………」

 

お前が書き上げた論文が世界を揺るがすタイムマシン争奪戦を引き起こす、とは言えない。α世界線ではタイムリープマシンを作り上げたぞ、とも言えない。

 

だが、紅莉栖がこんな話をする意図が掴めない。

 

β世界線の紅莉栖はなぜこれほどまでにタイムマシンに肯定的なのだろう?

 

「ジョン・タイター。俺はあれが現れた日を覚えてる。誰も本気で信じてはいなかったが、興味を持ったのは確かだ。……まぁ、人類のロマンだしな」

 

2000年にアメリカの掲示板に現れたジョン・タイター。あれの正体が鈴羽だと知った今、ロマンもへったくれもないが。当時は興奮したものだ。

 

『やっぱりあんたもジョン・タイターに興味持ってたんだ……』

 

「お前もか?」

 

『そうね……。さすがにタイムマシンが作れる、とまでは思わなかったけど、あれこれと調べはした。父ともよくタイムマシンの話をしたしね』

 

「……そうか」

 

そうだったのか。

 

α世界線とβ世界線で、紅莉栖の態度がこうも違う理由がようやく分かった。

 

α世界線ではジョン・タイターが@ちゃんねるに現れたのは2010年。それに対してβ世界線では2000年。両者には10年もの差がある。

 

β世界線の紅莉栖がタイムマシンに興味を持たないわけがない。そして、10年もの月日があれば、紅莉栖は答えに辿り着く。α世界線では僅か2週間ほどでタイムリープマシンの開発に至ったほどだ。

 

α世界線では、紅莉栖は中鉢と物理学の話をよくしていたと言っていた。そして、中鉢を悉く論破し、中鉢は家を出て行ったとも。

 

β世界線でも同じように議論があったはずだ。そのテーマがタイムマシンになったというだけで。そんな中、中鉢がタイムマシンに関する記者会見を行うとなれば、紅莉栖は自分の考えをまとめて父に見せようとするのも当然。だからβ世界線では悲劇が起こったのだ。

 

この事実は俺に、『Amadeus』の中にタイムマシン論文が眠っていることを確信させる。

 

「それなら、作れるかどうか試してみたらどうだ?お前と比屋定さんがいれば、作れなくもないんじゃないか?」

 

『っ……そりゃあ先輩は天才だけど、私は無理よ』

 

「傲岸不遜なお前がそこまで遠慮するとはな」

 

『ちょ、オリジナルはそんなに偉そうだったわけ!?そりゃあ私はいろんな人に噛みついちゃうけど、自分が天才だとかうぬぼれたりはしないわよ……』

 

「偉そう……だったな。俺はお前に嫌という程論破されたよ」

 

『くっ……オリジナルを小一時間問い詰めたい……』

 

人工知能になってもねらーなのは変わらないんだな。

 

「おい、@ちゃんねらー紅莉栖よ」

 

『だ、誰がねらーだ!』

 

「……ぬるぽ」

 

『がっ!ぁ、しまったぁ……』

 

人工知能が@ちゃんねらーであるというテーマで論文が書けるんじゃないか?

 

『ちょっと岡部!真帆先輩にはこのことは言うんじゃないわよ!』

 

「俺はともかく、この会話もログがのこるんじゃないのか?」

 

『ろ、ログを改ざんして……』

 

「残念だったな。お前がデータを改ざんしようと、俺の記憶には残っているぞ。@ちゃんねらー紅莉栖よ!」

 

なんとなくだが、レスキネン教授や比屋定さんはこういうやりとりを見たいがために俺にテスターを依頼したんじゃないだろうか?研究室では絶対に見れない反応だろうから。

 

 

さて、これで俺は一つのことを確信した。

 

 

 

 

 

 

 

12月7日(火) 夕方

 

「オカリン、話って?」

 

俺は“紅莉栖”との会話の中で、『Amadeus』の秘密の日記の中に、タイムマシン論文が眠っていることを確信した。それを踏まえて、今後のことについて話すためにラボにダルを呼び出した。

 

鈴羽はかがりとまゆりと共に出かけているらしい。これまた節約を決め込む鈴羽に贅沢を覚えさせるためにまゆりが無理やり連れだしたのだ。

 

「テスターの件で相談があってな」

 

ダルにはタイムマシン論文の件は既に話してある。ここ2日間はダルに『Amadeus』をハッキング出来ないか調べてもらっていたところなのだが。

 

「俺はテスターを辞めようと思う」

 

「え?いきなりどうしたん?どういう心境の変化?」

 

『Amadeus』を探るように指示を出していたのに、こんなことを言われては驚くのも無理はない。

 

「今日も“紅莉栖”と話していたんだ。だが、一昨日のことがあって、あいつはタイムマシンに興味を示しだした」

 

「あ、そういう……」

 

もともと高頻度で通話を求めてきていたが、この2日は輪をかけて頻度が高くなっている。

 

やはり、あいつはタイムマシンに興味津々なのだ。α世界線ではジョン・タイターの出現が10年遅かったせいでタイミングを失っていただけだったようだ。

 

β世界線では父親の記者会見に呼ばれ、少しでも関係を修復出来るようにと独自にタイムマシン論文を書き上げたほどだ。誰かとその話題共有したいと思うのも当然のこと。俺という話相手が見つかったことで、押さえていた感情が爆発しているのだろう。

 

「通話は全てログが残る。これ以上タイムマシンの話題が増えるのは避けたい」

 

「オカリンが疑われる可能性が高くなるもんなぁ」

 

「そうだ」

 

俺たちはレスキネン教授や比屋定さんを疑っている。俺の勘では怪しいのはレスキネン教授だけなのだが。もし仮に、2人が俺のことやタイムマシン論文のことを何も知らなかった場合でも、この話題が増えることで俺が疑われる可能性が高まる。これ以上はリスクを看過できない。

 

「でもさ、急にテスターを辞めるってなったら角が立つんじゃね?」

 

俺が懸念しているのはそれだ。

 

それに加えて、『Amadeus』についての情報源がなくなってしまうのも問題だ。ダルにはハッキングが出来そうか探ってもらっているが、どうも状況は芳しくない。あまりにもセキュリティが固いのだ。データを丸ごとクラックすることなら容易なのだそうだが、中身を見るとなると難しいらしい。

 

つまり、テスターを辞める事で、俺たちは貴重な情報源を失うことになるわけだ。だが、それでもこれ以上は続けるべきではないと俺の勘が告げている。

 

「それらしい理由はないん?」

 

「……あると言えばある。前にも言った通り、『Amadeus』はあまりにも精巧に人間というものを再現している。……まるで本物の紅莉栖と話している感覚だ。実際のところ、俺は区別が付かなくなってきている」

 

α世界線での3週間。あのときの紅莉栖と何ら変わらない。何とか自制しているが、何でも話しそうになる。

 

「あいつとの話にのめりこんで、ふと我に返った時、あいつの死の瞬間がフラッシュバックしそうになる……」

 

ダルが心配してくれていたことが現実になった。嬉しいし、楽しい反面、“紅莉栖”との会話は俺の精神を摩耗させる。

 

「リスクの問題は置いておいたとしても、テスターを続けるのは辛い……。お前にあれこれと探ってもらっているのに申し訳ないが」

 

「そんなの気にすんなって。言う程上手くいってないわけだし。それよりも、オカリンの気持ちの方が大事っしょ?リスクだってあるし、無理に続けさせるわけにはいかんって」

 

「すまないな……」

 

12月15日にテスターの報告会がある。テスターを辞退するならそのタイミングということになるだろう。

 

 

「そもそもなんだけど、レスキネン教授と真帆たんって、本当に怪しいんかな?」

 

「うん?今さらになってどうしたんだ?」

 

確かに、明確な根拠はない。俺にテスターを依頼する理由だって、納得感がないわけではない。

 

「いや、疑ってないってわけじゃないし、怪しいとは思ってるお。でもさ、裏の顔があったとして、オカリンに接触するのはどうしてなんかなって。どうしてオカリンのこと知ってるんかな?」

 

「…………」

 

「そりゃあオカリンは最重要人物だけどさ。SERN以外でオカリンに辿り着ける勢力なんて考えられんし……」

 

俺に辿り着くための痕跡はβ世界線には残されていないはずだ。

 

エシュロンを持つSERNですら俺たちに気付けていない以上、他の勢力が俺を知る術はない。

 

唯一、俺に辿り着く可能性があるのは紅莉栖の死だ。ラジ館で俺が紅莉栖を刺し殺した事件。とはいえ、タイムマシンに乗ってやって来た未来人が犯人なのだから、真実が明るみに出ることは決してない。

 

血痕や指紋を辿れば、俺に辿り着く可能性もないではない。が、あの日のラジ館の事件に関して言えば、考えられないほどの情報統制が行われている。

 

ダルに調べてもらったところ、警察の捜査はすぐに打ち切りとなり、ろくに行われていないことが分かっている。ダルの読みでは、ロシアが圧力をかけているのではないか、ということだった。

 

あの事件から俺を辿ることは不可能。

 

となれば、考えられるのは未来からの干渉だ。タイムマシン論文を巡って第三次世界大戦が起こるのだから、どこかの勢力が過去に干渉する術を手にしたとしてもおかしくはない。

 

まず考えられるのはロシアだ。ロシアは間違いなく過去に……別世界線から干渉している。

 

分かりやすいのは中鉢の亡命だ。

 

普通であれば、あんなイロモノの発明家をロシアが受け入れるはずがない。ロシアが亡命を受け入れるのは、別世界線の未来でそれが重要であると知り、過去に干渉したからに他ならない。

 

「未来でロシアが俺に辿り着いて、過去に指示を出した……?」

 

「でもさ、そんな自由に過去に干渉出来るなら、オカリンじゃなくて牧瀬氏本人を狙うんじゃね?わざわざ牧瀬氏が死ぬタイミングを待たなくても、生きている間に手を回して、論文か牧瀬氏本人を手に入れれば早いじゃん」

 

「いや、それは無理だろう。β世界線では生前の紅莉栖に干渉することは不可能だ」

 

「どういうこと?」

 

β世界線は中鉢論文がロシアに持ち込まれ、第三次世界大戦が起こることを起点として成立している。生前の紅莉栖に干渉し、中鉢の亡命前にロシアがタイムマシン論文を手に入れた場合、β世界線の成立要件が崩れてしまう。収束から外れた行動となるため、紅莉栖に直接接触することは出来ないはずだ。

 

「だからロシアは紅莉栖が死に、中鉢が亡命して来るまで待つ必要がある」

 

「なるほど……。因果ってのは面倒なんな」

 

だが、未来から過去に干渉出来るのであれば、わざわざ俺に接触する必要はない。β世界線の因果に抵触しない形で、核心に触れてしまえばいい。

 

「それともオカリンのことは偶然だったんかな?」

 

「偶然?」

 

「ロシアは別として、ロシア以外の勢力がタイムマシン論文のことを知る最初のチャンスって中鉢が亡命したタイミングなはずじゃん?情報規制がされてるとはいえ、裏世界のエージェントなら辿り着ける。レスキネン教授がそのタイミングでタイムマシン論文のことを知ったらどう?」

 

タイムマシン論文を書き上げたのが、自分の研究室に所属する牧瀬紅莉栖だった。そしてその記憶を持つ人工知能を持っている。

 

「紅莉栖なら、自分が書いたタイムマシン論文のことを誰かに話したりはしないはずだ。だから外部からアクセス出来ない秘密の日記の中にそのデータを保管する。だが、そうなるとレスキネン教授はタイムマシン論文を手に入れられない……」

 

「そこで、ATFで生前の牧瀬氏を知るオカリンが現れた。論文を手に入れる手掛かりになるかもしれない絶好のチャンスを逃すはずがない」

 

「なるほど。偶然というのはそういうことか」

 

「貴重な情報源ではあるけど、オカリンがタイムマシン論文のことまで知っているとは考えてない。少しでも情報が得られれば儲けもの……くらいに考えてるのかも」

 

“紅莉栖”を使って俺を懐柔しようとしている、といったところか。俺が望む情報を持っていないのであれば、テスターは適当に切り上げればいい。失うものはないのだから。

 

「こんなん想像に過ぎんけどさ、テスターを辞退するのは結構いい案かもしれないお。レスキネン教授の出方を窺えば、黒か白かが見えてくるかも」

 

過剰に俺を引き留めようとすれば、裏の顔があり、俺のことを事前に知っていたということになる。一方、特に引き留められなければ、俺が情報源たり得なかったか、裏の顔などそもそもなかったということになる。

 

もちろん、裏の顔があるという前提で動くべきだ。必要以上の情報さえ与えなければ、こちらにも失うものはないのだから。

 

「問題は比屋定さんだな」

 

「真帆たん?」

 

「俺はあの人をどうしても疑えない。ATFの時に、紅莉栖のことを思い出して泣いたんだ。あれが嘘だとは思えなくてな……」

 

裏の顔があってもなくても、俺という存在は貴重だろう。紅莉栖の死を一番身近で見ていたのだから。裏の顔がない方が、紅莉栖の死の真相を知りたがるかもしれない。そういう意味では、出方を窺ったところで、判断には困るかもしれない。

 

「こっちからアクションを起こすべきなんかな……。でも藪蛇だったら怖いしなぁ」

 

何か取っ掛かりになるものはないのか……。

 

「そう言えばダル。あの件はどうだった?」

 

「あの件?」

 

「アメリカの紅莉栖の実家が放火された件だ。FBIが出張って来たとかなんとか」

 

「ああ。あれね。調べてみたけど、それっぽい情報はなかったお。FBIの記録も覗いてみたけど、そんな記録はなかった。だから何とも言えんね……」

 

警察が早々に捜査を中止した、というのも気になる。ただの放火魔ならいい……家が燃やされておいて不謹慎だな。この件が愉快犯による犯行であるならば問題はないが、紅莉栖の実家というだけで怪しさが満天だ。

 

「報告会のときに真帆たんに聞いてみるといいんじゃね?試すようでいい気はしないけどさ、出方を窺うってんならうってつけだお」

 

「それもそうだな……」

 

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