STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
ミネラルウォーターを一気に飲み干してから、俺は一息ついた。レスキネン教授たちとの約束の時間までは、まだ少しある。ここで風に当たってなんとか回復しておきたかった。
陸橋から、下の景色をぼんやり眺める。クリスマスムード一色。浮かれた雰囲気。まるで今の俺とは対照的だ。
深呼吸を繰り返した。まだ吐き気は消えない。頭痛も少ししてきたような気がする。
この調子でレスキネン教授に会いに行ったら、絶対に心配されてしまいそうだ。
「自分の気持ちに嘘はつけないな……」
『Amadeus』は人工知能。ただのプログラムだ。
そんなふうに考えたところで、割り切る事なんて出来ない。あれは紅莉栖そのものだ。
あの日から4か月。自分は強くなったつもりでいた。だが、蓋を開けてみればこんなものだ。結局のところ、無理に強がっていただけなのだ。あそこまで酷いフラッシュバックが起こるとは思わなかった。
俺は“紅莉栖”をただの人工知能だとは思えない。そういう風に接することなんて出来ない。
だからこそ、距離を置くべきだ。
テスターを辞退することで、目的から少し遠ざかるかもしれないが、これ以上はやめるべきだ。改めてそう思った。
「……?」
そのとき、階段を上って来た女性2人組がこっちを見ていることに気づいた。薄暗くなりつつある中で目を凝らし、相手の顔を確かめてみる。と、2人組のうちのひとり、ショートカットの少女が軽く手を振ってきた。
「やっぱりオカリンさんだ」
「こんにちは」
「あ、あぁ。まゆりの友達の……」
まゆりの友達であり、コスプレ仲間。コスプレネームは確か……カエデとフブキ、だったはず。本名は知らなかった。どっちがカエデで、どっちがフブキだっただろう?
「大丈夫ですか?具合悪そうですけど…」
とロングヘアの少女が訪ねてきた。…たぶんカエデ、だったはず。
「……大丈夫」
ここで心配されて、まゆりに連絡でもされたらそれはそれで後のフォローが大変だ。まゆりには無駄な気遣いをさせたくない。そもそも秋葉原にもどってくるんじゃなかった。街を歩くだけで知り合いに会ってしまう。
さっきだって神社から神田の方へ行くべきだった。
「オカリンさんって、夏の終わりごろから少し変わりましたよね?」
おそらくフブキの方だ。
「そ、そうか?」
夏の終わり、という言葉にギクリとする。
「何て言うかその……無理してる、みたいな……」
「……っ!」
鋭い、な……。
「フブキちゃん……」
カエデがフブキをたしなめるように手をそっと握る。
「マユシィもなんだか……うまく言えないけど、どこか遠くへ行っちゃいそうな気がして。って、私何言ってんだろ……」
まゆりが?
あいつはかがりのために母親代わりをしてくれている。急な環境の変化にも文句も言わずよくやってくれている。だが、それがあいつにとって負担になっているのだとすれば……。
このフブキっていう子は、まゆりのことをとても大切に思ってくれているようだ。
紅莉栖のことも、“紅莉栖”のことも……。これ以上うじうじと悩んでいても仕方がない。
礼を言おうとしたそのとき。
「あのっ…」
これまた聞きづらそうにフブキが口を開く。
「オカリンさんの好きな人って、誰ですか?」
「……!?」
好きな、人?
あいつが脳裏をかすめる。
「っ………!」
「オカリンさん?……ご、ごめんなさい!失礼なこと聞いちゃって!」
「い、いや…大丈夫、だ」
せっかく心を落ち着かせるためにここに来たんだ。これでは——。
「でも、やっぱり、マユシ——」
「なっ!!」
その瞬間、白衣を着て、あの頃のように高笑いをする俺の姿が頭に浮かんだ。
ラボに皆もいる。まゆりも、ダルも、ルカ子も、フェイリスも、そして比屋定さんも。あともう一人は…誰だ?
紅莉栖?
いや、違う気がする。
かがり……?
分からないが、全員の顔が希望に満ち満ちている。
そんな気がした。
フブキが何かを言いかけていたが、頭に浮かんだビジョンに気を取られ、聞いていなかった。
何かを言おうとしたところで、手に持っていたスマホが震えた。
「すまない……ライン、か」
2人に軽く頭を下げると、俺はラインを立ち上げた。
「これ、は…っ!!」
マッドサイエンティスト
『世界は欺ける』
『可能性を繋げ』
『世界を騙せ』
「オカリンさん?」
「本当に、大丈夫ですか?」
これは……なんだ?
「え、あ、ああ……大丈夫…」
カエデとフブキはなおも俺のことを心配そうに見つめていた。
だから俺は半ば逃げるようにして2人と別れた。