STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
12月17日(金) ラボ
昨日、俺は家に帰って親に事情を説明した。信じてもらえたかどうかは自信がないが、俺の傷を見て何かしらがあったことは理解してくれたようだった。まゆりも説得に付き合ってくれた。
その後は、俺も一緒にまゆりの家へと行った。まゆりは急にラボに泊まることになってしまったため、その言い訳に戻って来たのだ。
まゆりの両親はまゆり溺愛している。目に入れても痛くないという程なのだが、その分、門限には厳しい。とはいえ、まゆりの趣味やバイト先に対しては理解があるようで。頭の柔らかい親であることが羨ましい。うちは堅物のオヤジだからな。
かがりがやって来てから、ラボに泊まる事が増えたため、2人は心配していた。まゆりだけでは分が悪いということで俺がついていったのだが、意外な事にお咎めはなかった。2人は俺に対して絶大な信頼を置いてくれているのだ。
年中白衣を着て、おかしな言動をしている俺のどこに信用するところがあるのか甚だ疑問だったが、俺がいるなら安心だ、とまで言ってもらえた。
まゆりはそのまま学校に行ったが、俺は家に戻って爆睡した。
そして今日。ダルたちと話をするためにラボにやって来た、というわけだ。大学の授業も今日はない。本当は井崎のゼミがあったのだが、あんなことがあったばかりで、井崎は休講にしていた。
「おじさん。傷はもういいの?」
やはり傷は浅く、一日中寝ていたらもうほとんど治っていた。もうガーゼも外しているくらいだ。
「オカリンが無事でよかったお。日本で銃撃戦とか、二次元かよって感じだけど……」
本当にそう思う。あんなことが現実で起こるなんて考えられない。α世界線で幾度も経験したとはいえ、あんなもの、慣れるようなことではない。
「心配かけたな。でももう大丈夫だ。かがりにも心配かけてしまったな」
「かがりこそ、オカリンおじさんが大変な時に寝ちゃっててごめんね?」
さすがはまゆりの娘だ。
「ありがとう。遅くまで起きてくれていたんだろ?嬉しいよ」
頭を撫でるとかがりは喜んでくれた。
「さて、遅くなってしまったが円卓会議を開始する」
鈴羽とかがりは首を傾げているが、ダルはどこか嬉しそうだ。ま、円卓会議なんて久しぶりに言ったからな。
「一昨日はあまりにも多くのことが起こった。ひとつひとつ検証していきたい」
ある程度は鈴羽が話してくれているようだ。まだ話していないのは、テスター報告会から後のこと。
「まず、未来から届いたDラインについてだ」
俺はラインを立ち上げ、例のDラインを見せる。
マッドサイエンティスト
『世界は欺ける』
『可能性を繋げ』
『世界を騙せ』
内容はこれだけ。具体的な指示も何もあったものではない。
「鈴羽。どういうことか説明してくれ」
昨日、鈴羽はこの問題は既に解決されたと言った。だが、俺には何のことかさっぱり分からない。
「このDラインが送られて来たのが2011年12月18日。まず、2025年からじゃないっていう時点で、このDラインはこの世界線から送られて来たものじゃないと考えられる」
「うん?どういうこと?」
「この世界線……1.130205の2025年から送られてくるはずのDメールは3つ。2010年7月28日に受信したムービーメール。そして8月21日に受信した『テレビを見ろ』のメール。そして、2011年の7月頃に受信するであろう『オペレーション・アークライト』のDメールだ」
まゆりと鈴羽がタイムトラベルをして、紅莉栖の救出に失敗し、諦めそうになった俺を叩き起こしに来る作戦。それでは長いと言って、鈴羽は『オペレーション・アークライト』と名付けた。アークライトとは織姫のことだが、なぜその名前にしたのかを鈴羽は教えてくれなかった。
「今回のDラインは2011年の12月。アークライトの発動予想時期よりも5か月も後の事だ。そしてその送信先が2010年12月15日。Dラインを送る先がアークライトよりも後でいいのなら、それは別に2025年から送ったっていいはずだよね?だからDラインを送って来たのは、アークライトを発案した世界線とは別の世界線だと考えられるってわけ」
以前、俺と鈴羽の会話の中で、俺が諦め、アークライトのDメールを送る世界線をA、それを受信し、2人を過去へと送り出す世界線をB。今いるこの世界線をC、というふうに分類した。それらとは違う世界線ということは、Aよりも前の世界線を意味しているのだろう。
「そんな前まで遡るとなると、もう何がなんだか分からんって……」
俺が諦めてしまっているのは前提で、12月15日にさらに分岐した世界線、ということになる。
「俺がフブキの質問に答えるかどうかで世界線が変わる、と言ったよな?あらためて考えてみても、あの質問で何が変わるのかが分からないぞ」
フブキは俺に、好きな人は誰か、と聞いた。その瞬間にDラインが来て、俺はフブキに答えなかった。
「おじさんの好きな人。それって牧瀬紅莉栖だよね?」
「あ、ああ。それはそうだが……」
改めて聞かれると恥ずかしいぞ、これ。
「あ~なるほどなぁ。そういうことね」
「父さん、分かった?」
「うん。ま、これはオカリンには分からんでしょ。期待するだけ無駄って言うか……」
「だよね。まゆねえさんも報われないって言うか……」
橋田親子が揃って俺を憐れんでいる。というよりも、ゴミを見るような目で見ている。
「俺が紅莉栖を好きな事がどう関係すると言うんだ?」
「おじさんが牧瀬紅莉栖を好きだって答える事で、まゆねえさんの行動が変わるんだよ」
「はぁ?どうしてまゆりが?」
「その世界線ではおじさんは諦めてしまっているわけ。となると、それを横で見ているまゆねえさんは、ずっともどかしい気持ちになっているはず。どうにかしておじさんを元気づけたいってね」
「それは、まぁ……」
諦めて腐っている俺を、まゆりならきっと励まそうとしてくれるだろう。
「でも、おじさんには決して無理強いはしない。まゆねえさんはそういう人だ。そんな中、牧瀬紅莉栖を好きだとおじさんが言った。それを聞いたらまゆねえさんはどうすると思う?」
「どうするって……」
「『オペレーション・アークライト』だよ」
「はい?」
「だから、『オペレーション・アークライト』なんだって。諦めたと思っていたおじさんの口から牧瀬紅莉栖の名前が出た。そうしたら、ねえさんはなんとか牧瀬紅莉栖を救おうと考えるはず。でも、リーディングシュタイナーを持たないまゆねえさんには何も出来ない。だから、あの日に行って、おじさんを叩き起こそうとするはず」
まゆりが1人でそこまで辿りつくだろうか……いや、辿り着くだろうな。あいつならきっと。
「でも、結果としてアークライトに辿り着くのなら、それを阻止するDラインを送ってくる必要はないんじゃないか?」
その結果として、鳳凰院凶真が復活するのなら問題はないはずだ。今の俺たちと同じ状況になるということだ。
「それについては分からない。でも、Dラインを送って来たってことは、その未来では取り返しのつかない事態が起こるってことだ。それこそ、シュタインズゲートを観測する条件をどうやってもクリア出来ないとかね」
条件、か。
「所詮は推測の域を出ないから何とも言えないけどさ。結果としてDラインを送って来て、おじさんはフブキって人の質問に答えなかった。この問題は解決出来たっていうことなんだよ」
なるほど……。分かるような分からないような。2人だけが納得しているが許せないが……。
「むぅ。かがりはママの味方だよ!おじさんってばひどいんだぁ!」
「なっ……!かがりまで理解出来ているというのか?そして俺が悪いのか?」
まゆりの味方ということは、俺は敵だということだ。俺が何かをやらかした結果、そのしわ寄せがまゆりにいってしまったということなのだろう。
クソ……。こいつらはそれを俺に説明するつもりはないようだし。
「だからこの話はこれで終わり。おじさんは気にしなくていいよ」
「待て!それならこの文面は……」
『世界は欺ける』『可能性を繋げ』『世界を騙せ』
「内容はどうでもよかったんだよ。ただ、おじさんが質問に答えないように出来ればね。まぁその内容から考えるに、おじさんを勇気づけたかったってところじゃない?シュタインズゲートに到達できるぞ、って」
「そう、なのか……?」
世界を欺く。騙す。それが意味するのは何だろうか?