STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
「それじゃあ報告会のことを聞かせてクレメンス。『Amadeus』のテスターは辞退したんだよね?」
「え、あ、ああ」
テスターの辞退は無事に完了した。俺のスマホには『Amadeus』のアプリがインストールされたままになっているが、あちらから話しかけてくることはない。
「レスキネン教授の食いつきはどうだったん?やっぱ怪しい感じ?」
「少し待ってくれ。その前に、鈴羽に聞いておきたいことがある」
「どうしたの?」
「俺がホテルに入る直前、お前は比屋定さんは白だと言った。その理由を教えてくれ」
俺も比屋定さんに裏の顔はないと考えている。だが、それはあくまで感情的な部分であって、明確な根拠はないのだ。鈴羽の口ぶりは、明確な根拠があるものだった。
「……あんまり未来のことは話すべきじゃないんだけどさ」
もったいぶらずに早く言え、と目で急かすともっと怖い顔で睨まれてしまった。
「比屋定さんって、未来のワルキューレのメンバーなんだよね」
「……………」
「……………」
俺とダルは目が点になった。
「あの、聞いてる?」
「はぁっ!?」
「はいぃ!?」
そんなことがあり得るのか?というか、それならどうしてもっと早く言ってくれなかったのか。
「いやぁ、あたしも気づいたのがつい数日前のことだったんだよね……あはは。というか気付いたのは……」
「かがりだよ!かがりが気づいたんだよ!クリ……むぐっ!ふぉねえあんふぁなして~!!」
何かを言いかけたところで、鈴羽がかがりの口を手で塞いだ。
クリ?
「比屋定さんの顔、どこかで見たことがあると思ってたんだ。それでかがりに写真を見せたら気付いたって流れでさ……」
「比屋定さんが、ワルキューレのメンバー……」
彼女は紅莉栖の死の真相を知りたがっていた。真相解明のために、危険を顧みずどこまでも突っ走ってしまいそうな危うさを持っている。そんな彼女が……。
鈴羽がすぐに気づかなかったということは、おそらく偽名を使っていたということだろう。
「それってめちゃくちゃ心強いんじゃね?というかタイムリープマシンの問題も一気に解決じゃん!」
それもそうだ。ヴィクトルコンドリア大学の脳科学研究所で、『Amadeus』を作った張本人。VR技術を作った精神生理学研究所はお隣だという。彼女が仲間に加わってくれれば鬼に金棒だ。
「でもいきなり全てを打ち明けるのはダメだよ!こんな話をすぐに信じてもらえるとは思えないし。何も知らない比屋定さんがどんな行動に出るのかも分からない」
それもそうだ。タイムマシンなんて荒唐無稽な話を信じるはずがない。
「それに、レスキネン教授が比屋定さんを介して探りをかけてくる可能性だってある。彼女に全てを話すにしても、バックドアを全部調べ尽くしてからだ」
鈴羽の言うとおりだ。短絡的な行動に出てはいけない。
「じゃあおじさん。話を戻すよ。テスター報告会はどうだったの?」
比屋定さんに裏がないと分かった事で、改めて報告会での会話を振り返ってみる。
「……やはりレスキネン教授は怪しいと思う」
「そう思う理由は?」
教授に裏の顔があって、俺から情報を集める事が目的なら、俺がテスターを辞退するのを無理にでも引き留めようとするはずだ。だが、教授は無理には引き留めなかった。それどころか、無責任な俺に憤慨する比屋定さんをたしなめる程だった。
そういう意味では怪しさはないと言える。だが。
「比屋定さんは紅莉栖の遺品……ノートPCとHDDを持っているらしい」
「え?」
「牧瀬紅莉栖の遺品……?」
紅莉栖の死後、紅莉栖の母親から譲ってもらったと言っていた。
「その中にも、中鉢論文が眠っている可能性が高い」
論文を書くとして、真面目な紅莉栖が研究室のPCを使うとは考えられない。専門外のトンデモ科学の論文を書くのだ。自前のPCを使うはずだ。となると、ノートPCとHDDには中鉢論文……タイムマシン論文があるはずだ。
「ダルに頼んでいた件が関係している。紅莉栖の実家が放火された件についてだ」
複数犯によるプロの犯行。あまりにも手際が良く、火の回りも異常なまでに早かった。いきなり現れて火を放ち、その後すぐに立ち去っていった。
「そいつらが、ロシア語を話していたらしい」
「っ!」
「マジ!?」
2人が目を見開いて驚くのも当然だ。
ロシアから思い浮かぶのは、中鉢論文。
「犯人の狙いは中鉢論文だったってこと?」
鈴羽が前のめりに聞いてくる。
「どうなんだろうな。何かを盗もうともしなかったようだ。だが、紅莉栖の書き上げた論文が実家にあるかもしれないと分かれば、他の誰かに取られる前に処分しようと考えるのは当然だ」
ロシアは中鉢論文の原本を持っている。タイムマシン開発競争では単独首位にいるのだ。
「最初は地元の警察が捜査をしていたらしいんだが、途中からFBIを名乗る連中が来たらしい。それに加えて、紅莉栖の死の直後、大学に地元の警察と日本の警察が訪ねてきたんだそうだ。日米の合同調査ということらしいんだが……。後で問い合わせたところ、そんな記録は残っていなかったらしい」
「偽装工作……ってこと?」
俺たちの目が届かないところで、さまざまな勢力が動いているのだ。
「鈴羽。これこそが、シュタインズゲート到達のための条件、なんじゃないか?」
「どういうこと……?」
「シュタインズゲート到達のためには、ロシアに中鉢論文が渡るのを防がなければならない。だが、その方法を知るためにはムービーメールを見なければならない」
以前、俺と鈴羽はムービーメールを見られるようになるためには、それ以外の条件を満たさなければならないのではないか、と考えた。
「ロシアが手にした中鉢論文そのものを消し去ったとしても、それ以外に複製された論文が残っていては、第三次世界大戦の火種は消えない。おそらく順序として、紅莉栖が残した中鉢論文のデータを全て消し去った上で中鉢論文そのものに手を伸ばす。そうでなければシュタインズゲートの門は開かない、ということなんじゃないか?」
『Amadeus』に加え、紅莉栖のノートPCとHDD。それらを消し去らない限り、中鉢論文を消すことは出来ない。ムービーメールは見られない。
世界線AやBにおいて、鳳凰院凶真が諦めてしまっていた事でそれらの問題を解決出来なかったのではないか?だから『オペレーション・アークライト』が発動し、鳳凰院凶真が死ぬ事のない世界線をアクティブにして、それらの問題を解決させようとしたんじゃないか?
「じゃあ、進む方向はこれで合ってるってことなんかな?」
あの日からずっと、心の中に在った不安。このままで大丈夫なのかという疑念。
「間違ってはいないはずだ」
鳳凰院凶真の有無で、何がそこまで変わるのかとずっと疑問だった。
だが、俺が諦めてしまっていた場合、きっと俺は『Amadeus』と向き合うことが出来ていなかったはずだ。その中に中鉢論文が眠っている事にも気づけなかっただろう。だが、苦しみながらでもなんとか『Amadeus』と向き合い、紅莉栖のノートPCやHDDの中にも中鉢論文があると気づくことが出来た。
これは間違いなく前進だ。
「話を戻そう。俺たちが襲われたのは、この話を聞いた直後だった。あの時は必死で何も考えられなかったが、今になって考えると、男の目的は紅莉栖のノートPCとHDDだったんじゃないかと思う」
それを持つ比屋定さんを襲えば、それらが手に入る。
「でも、レスキネンもその場に居合わせたんだよね?レスキネンが黒であるなら、比屋定さんが1人の時を狙うんじゃない?」
それは確かにそうだ。だが、俺には違うように見えた。
「教授はあまりにも落ち着いていたんだ」
「どゆこと?」
「普通、発砲なんてされれば取り乱すだろ?俺と比屋定さんは分かりやすく取り乱していた。俺は収束で2025年まで死なないと分かっていても、まともに動けなかった」
それが普通の人間の反応だ。
「それなのに、教授は焦った様子もなく、冷静に対処していた」
「それはつまり……?」
「自分は被害者だというポーズを取っていたんじゃないかと思う。そもそも、ノートPCとHDDを狙うとして、それを比屋定さんが持っていると知っている人間なんて数が限られる。それこそ、内部の人間しか知り得ない」
レスキネン教授なら知っていてもおかしくない。
「たまたまそういうのに慣れてただけってことはないん?襲ってきた男、やばかったんしょ?さすがに命の保証がないっつーか」
その可能性はある。だが、それでも不可解な点がある。
「男はノーブレーキの車で突撃して来たんだ。何とか脱出出来たが……。でも、男はそれでも死んでいなくて、身体があらぬ方向に曲がった状態でへしゃげた車から降りてきた。そして教授に銃を向けた」
俺はそれを後ろから見ていた。
「だが、教授は動じることなく対峙して、気づけば発砲音とともに男は頭を撃ち抜かれていた」
「男がミスって自分を撃ったとか?」
「いや、最後の発砲音は男が使っていた特殊な銃の音とは違っていた」
男の持っていた銃は、特殊な形でサイレンサーのようなものはついていなかった。だが、静かで軽やかな音で発砲できる特別製のようだった。
それに比べて、最後の発砲音は一般的な銃のそれだった。明らかに種類が違う。
「レスキネンが撃った……ってこと?」
「角度的に俺には見えなかったが……その可能性もある」
教授を疑っているからこそ、何もかもが怪しく見えてしまうのかもしれない。
「ボクはその男について調べてみるお」
「じゃああたしはレスキネンだね。出来る限り張り付いて、決定的な瞬間を押さえるよ」
「俺は……」
「おじさんは比屋定さんをどうやってこっちに引き込むかを考えてほしい。タイムリープマシン完成の為にも、彼女は絶対に必要だ」
「ああ。そうするよ」
大波乱の一日だったが、それ相応の収穫があった。比屋定さんは手ごわそうだが、やってやろうじゃないか。