STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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比屋定さんを駅まで送り届けて、俺はラボに顔を出した。

 

俺がフェイリスにキョーマと呼ばれていることについて、比屋定さんはやはり聞いてきた。鳳凰院凶真というあだ名なのだと伝えると、不思議そうに首を傾げていた。別にこの程度なら話しても問題ないのだが、俺の精神が持たない。やはり鳳凰院凶真は黒歴史だ。ある程度普通の人間として生活してみて実感する。あれは異常だ。

 

心の情熱は絶やさないまま、装いだけは普通でいようと誓ったひと時だった。

 

 

 

「あ、オカリンおじさんだぁ!こんにちは」

 

今日はかがりたっての希望で、俺とまゆりとかがりの三人で出かけることになっていた。

 

かがりは未来で俺と会った事はなく、俺がいるというのが新鮮なようだ。かがりが養子として迎え入れられるのが2032年のことで、俺が死ぬのが2025年だからな。そうなるのも無理はない。

 

「今日も変わらずだな、かがり。もうじきまゆりも帰って来るぞ」

 

まゆりは夕方ごろまでシフトに入っていたのだが、事情を知っているフェイリスが気を利かせてくれたらしい。あと一時間ほどで上がらせてもらえるようだ。

 

「ほんと!?ママ、今日は夕方までお仕事だって言ってたから……やった!うれしいな!」

 

2人が仲睦まじくしているのを見ると、こちらまで幸せな気分になる。

 

かがりとしては、まゆりにはずっとラボにいてほしいだろう。だが、まゆりも家に帰らないわけにはいかない。両親にこんな事情を話すことなんて出来ないからな。

 

夜は鈴羽と2人、もしくはダルを含めて3人でいることが多いようだ。

 

……ダルを置いておくのは危ない気もするが。

 

「ダルはいないのか?」

 

「うん。今は誰もいないよ」

 

「そうか……。鈴羽もまだ帰ってきていないんだな」

 

鈴羽はレスキネン教授を監視すると言っていた。和光市のオフィスの方へ足を運んでいるのだろうか。

 

「朝にね、ダルおじさんとおねーちゃん、急いで出て行ったよ」

 

「ん?鈴羽も一緒にか?」

 

「うん。1人でお留守番してなさいって」

 

鈴羽も一緒に……?何かあったのだろうか。

 

「お前は平気だったのか?」

 

「うん!かがり、1人でお留守番できたよ!それに、この時代はおもしろいテレビが見放題だからちっとも寂しくなかった!」

 

テレビを見ると、昔のアニメの再放送が流れている。未来ではテレビを見るなんて余裕はなかっただろうし。

 

「ところで、これは全部1人で食べたのか?」

 

再びかがりの方を見ると、テーブルの上には大量のお菓子と空のカップラーメンの容器が3つも置いてあった。

 

「あ……こ、これは………その……」

 

かがりはまゆりに似てとんでもない大食いだ。鈴羽と似ていると言うべきかもしれない。あいつは関取でも食えないだろう特盛のゴーゴーカレーをぺろりと平らげるからな。

 

「いや、別に怒ってるわけじゃないぞ?ここにあるものはいくらでも食べていい。まぁ、まゆりや鈴羽に怒られない程度ならな」

 

俺とダルが甘やかして、かがりにいくらでも食べさせてやるのだが、それに怒るのは鈴羽と、そして意外な事にまゆりだった。

 

俺としては、未来で満足に食べられなかった分、この時代では好きなように食べさせてやりたいのだが。鈴羽はお金がもったいないという理由で、まゆりは栄養が偏るからという理由だ。

 

まゆりはかがりと初めて会った日から、母親としての自覚が芽生えているように思う。ダルが鈴羽に対して父親らしく振舞うのに似ているが、少し違う。

 

ダルはどちらかというと俺寄りの考え方で、不自由なくなんでも好きな事をさせてあげたいと思っているようだ。一方でまゆりは躾をしなければならないと考えているように思う。鈴羽と違ってまだ幼いからな。

 

とはいえ、2人とも、目に入れても痛くないというくらいには娘たちを溺愛している。いきなり未来から現れて娘だと言われて、こうも簡単に受け入れられるのは驚きだが、そこは2人の優しさが為せる業だろう。親としての自覚を持てるのは心から尊敬する。

 

「ママに言わないでくれる……?」

 

「ああ。だが、バレたら素直に謝るんだぞ?まゆりはお前のためを思って怒るんだからな」

 

「はーい」

 

かがりはまゆりに嫌われないためにしっかりといいつけを守る。……まぁ、誰もいない環境では欲望に負けるよだが。

 

「ところで、ダルと鈴羽が急いで出て行ったと言っていたが、何か用事があったのか?」

 

「うーん。なんだっけな。確かアジトに行くって言ってたような……」

 

「アジトか……」

 

ダルはああ見えてスーパーハカーだ。パソコンやネット関係ならあいつに出来ないことはない。そんなダルは裏の顔を持っている。

 

ハッカー連中で仕事をしているのだ。かなり大手からの依頼も多いようで、秋葉原内の各所に秘密のアジトを持っているらしい。

 

そこに行ったという事は、何か大きな案件でも来たのだろうか。だが、そこに鈴羽を連れて行ったのはどういうことだろうか。

 

「タイムマシン関連……か」

 

あれから3日。大きな動きはない。

 

今日は比屋定さんにノートPCとHDDのことについて探りをいれるつもりではあったのだが、襲撃された件で聞ける雰囲気ではなかった。彼女は気丈に振舞ってはいるが、やはり相当なショックを受けているようだ。

 

それも当然か。普通なら殺されかけてわずか3日後に普段通りに戻れている方がおかしい。かく言う俺だって、あんなことに慣れているわけではない。多少耐性があるというくらいのものだ。

 

「ところでかがりよ。お前はこれだけ食べて、晩御飯を食べられるのか?」

 

まだ昼、とはいえもう2時過ぎ。今日は本当なら夕方から街に出て、まゆりと3人で夕食を取る予定だったのだ。まゆりのバイトが予定よりも早く終わることになったから、その前に秋葉原の街をうろつくことになるだろうが。

 

「え?うん。全然大丈夫だよ。別にまだお腹いっぱいってほどじゃないもん」

 

「こ、これだけ食べて……か?」

 

カップ麺なんて1つ食べれば十分だ。それを3つに大量のお菓子まで……。こいつの胃袋は底なしか?

 

「そ、それは結構。……うまかったか?」

 

「うん!未来じゃおいもさんとかばっかりだったから。こっちの食べ物は何でもおいしいよ!それにこのカップラーメン。お塩の味が好きだなぁ」

 

「塩、か」

 

紅莉栖も塩が好きだったな。

 

かがりはどうにも紅莉栖と似ている。まだ10歳だからいろいろと小さいが、成長すれば紅莉栖のような見た目になるだろう。

 

かがりは戦災孤児だが、まゆりはどうしてかがりを引き取ったのだろうか。

 

もしかして、紅莉栖に似ていたから……とか?

 

「今日はもっとうまいところに連れて行ってやるぞ」

 

まゆりとどこの店にするかを考えていたのだが、結局はファミレスに落ち着いた。お子様セットがいたくお気に入りだったのもある。

 

「ありがとう。でも、いいのかな……。お外で食べるのって高いんだよね?」

 

「む……」

 

こちらの懐事情を気にするなんて、さすがはまゆりの娘だな。

 

「お金のことか?それなら気にしなくて大丈夫だ。お前は存分に好きなものを食べるといい」

 

「そう、かな……」

 

「もしかして鈴羽のことを気にしているのか?」

 

「えっと……うん。かがりだけおいしいもの食べたらおねーちゃんに悪いなぁって」

 

「ふ。かがりは優しいな。だがそれも気にするな。今日はダルに言いつけてある。鈴羽にもたらふくうまいものを食わせてやれってな。晩になれば鈴羽もダルとどこかうまいものを食べに行くはずだ」

 

どうせあの親子のことだから、ゴーゴーカレーに行くんだろうがな。一度ダルに付き合って行ったことがあるが、あんなバケモノみたいな量を食べるのは俺には不可能だ。

 

「お前はここでは何も気を遣う事は無いんだ。食べたいものがあったらいつでも言うといい。……まゆりには見つからないところでなら、カップラーメンくらいいくらでも食べさせてやるぞ」

 

かがりと鈴羽。2人がラボで暮らすようになって、ラボのエンゲル係数は飛躍的に上昇した。まぁ、まゆりとダルがそんなことで怒るはずもなく、2人は金を惜しまなかった。2人だけに負担させるのは忍びないから、俺もいくらかは出すようにしている。

 

その話を聞きつけたフェイリスは、どこから用意したのか大量のお金を工面してくれたのだ。秋葉の家、おそるべし。ああいう金の使い方が出来る大人になりたいものだ。

 

 

 

 

 

「かがりちゃん。おいしかった?」

 

「うん!ママの料理くらいおいしかった!ママもおじさんもありがとう!」

 

よくあるファミレスだったが、かがりは満足してくれたようだ。3人でファミレスにいって、あの値段は見た事がなかったが、この笑顔を見られたのだから良しとしよう。今日はさすがにまゆりも食べ過ぎるなと口うるさく言わなかった。

 

「未来だと、まゆりの料理はおいしかったのか?」

 

「うん。ママはお料理上手だったよ。あんまり食材もないのに、毎日違う味にしてくれてた。かがり、ママの料理すっごく大好きなんだ」

 

今のまゆりからは想像できないな。まゆりは料理が壊滅的だ。

 

小さい頃、うちのおふくろに料理を教わりたいと言って料理教室が開かれたことがあった。俺は味見役として駆り出されたのだが。それはもう、ひどいものだった。

 

おふくろは俺なんかとは比べ物にならないほどまゆりに甘い。怒ったところなんてみたこともないし、自分の娘のように接している。だが、そんなおふくろでさえも、まゆりの料理にはお手上げだった。

 

「う……まゆしぃもお料理頑張らなきゃ……」

 

今のまゆりだと、まだ俺の方がマシなくらいだが。母親になれば自ずと上手くなっていくのだろう。

 

「オカリン。今日はありがとう。かがりちゃんも喜んでくれてよかったよぅ」

 

「気にするな。これくらいでよければいつでも。それとまゆり、おばさんたちには連絡してるのか?今日はラボに泊まるんだろ?」

 

「うん。コス作りだって言ったらおっけーしてくれたよ。オカリンもいるって言ったら安心してた」

 

「そ、そうか……」

 

俺のどこに安心材料があるのかは疑問だが。……うちの親もまゆりの親も、お互いに娘と息子だと思っている節がある。親同士もめちゃくちゃ仲がいいしな。

 

「おばあちゃんとおじいちゃんかぁ。会ってみたいなぁ」

 

「ふぇ?」

 

「だって未来でも2人に会ったことないんだもん」

 

「かがりちゃん……」

 

もちろん、それが出来ないことは分かっているのだろう。本気では言っていないようだ。

 

さすがに事情を説明するわけにはいかないが、あの2人ならかがりを受け入れてくれそうではある。

 

まゆりは近所のちびっ子たちとすぐに仲良くなってしまうから、その内の1人だとでも言えば、案外合わせてやる事が出来るかもしれないな。かがりがママと呼ばない限りは、だが。

 

「さぁ、ラボに着いたぞ」

 

鈴羽もダルの両親に会ってみたいとか思うのだろうか?思っていても絶対に口にしないだろうがな。

 

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