STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
ラボ
「そういえば2人はどこに行ってたんだ?」
「んあ?もちろんゴーゴーカレーだお。うまかったなぁ。な、鈴羽」
「……うん。連れて行ってもらっておいてあれだけど、父さんはさすがに食べ過ぎだよ」
「ぬあ!それ言う?でも結局は鈴羽の方がいっぱい食べてたじゃん!」
「うっ……。だ、だって仕方ないだろ!あそこのカレーはすごくおいしいんだから!」
恥ずかしそうにする鈴羽。こんな顔を見せられたら、ダルはなんでも食べさせてやりそうだ。デレデレしているのが目に浮かぶ。
「うわぁすごいなぁ。スズさん、メジャーカレー食べたの?おいしいけど、さすがにまゆしぃでもあの量は食べられないのです」
「めじゃーかれー?」
「うーん。かがりちゃんにはまだ早いかなぁ。辛いのって食べられる?」
「うーん。どうかな。でも食べてみたいなぁ」
「それじゃあ今度一緒に行こっか!えへへ。おいしいよぉ」
すっかりと夕飯トークで盛り上がっている。だが、俺が聞きたかったのはそこではない。
「水を差して悪いが、俺が聞きたかったのは昼間のことだ。ダル。アジトに行ってたんだろ?何をしてたんだ?」
かがりを置いてまで2人で出たとなれば、要件は間違いなくタイムマシン関連だ。
何か進展があったのだろうか。
「あ、忘れてたお!オカリン!ビッグニュースだお!」
そう言ってダルはポケットから何かを取り出した。
「……ハードディスク?一体何だ?」
まゆりやかがりがいる前で、さすがにエロゲを出したりはしないだろうが。
「これ、牧瀬紅莉栖のHDDだよ」
「っ……!?」
紅莉栖の……?
「どうやって手に入れたんだ!?それは比屋定さんが……」
「落ち着いて。ちゃんと話すよ」
興奮する俺を鈴羽が制止する。
「昨日、クライアントから依頼があったんだ。ノートPCとHDDのロック解除の依頼。両方とも強固なフルディスク暗号化が施されてて、鍵になってるパスワードがないと起動できない状態になってる。もちろん、中のハードディスクを取り出して別のPCなんかにつないでも復号化は不可能。クライアントはいろんな会社に相談したらしいんだけど、どこもさじを投げてさ。ボクらのところを紹介されて来たっつーワケ」
「その暗号は解けたのか?」
「それは無理。この暗号ソフトを作ったのってボクらなんだよね。でもって、作った本人でも絶対に開けられないシステムを組んだんだ。解毒剤の作れない毒じゃないと、暗号としては意味ないじゃん?」
「そ、そうか……」
この中にタイムマシン論文が眠っているかどうかはまだ分からないと。
「比屋定さんが来たのか?」
「そうだお。でもボクはまだ真帆たんとは面識なかったから、オカリンの知り合いだとはバレてないお。もちろん、所有者が誰かなんてのは言われなかったけど、ボクらが作ったセキュリティソフト使ってるから、どうしても気になって調べたんだよね。そしたらこれが牧瀬氏の持ち物だって分かったんだ。となると、こん中にはヤバいものが眠ってる可能性がある。だから絶対にバレないように、アジトに隠してきたってわけ」
それはノートPCの方だろう。HDDはこうしてここにあるわけだし。
「これはどうするんだ?」
「こいつに関してはタイムマシンの中に隠しておくつもり。ノートPCの方は解析を進めたいからアジトにおいてあるけど、こっちは予備っつーか保険っつーか」
このどちらにもタイムマシン論文が入っていたとして、それを狙う勢力に奪われでもしたら一大事だ。だから片方は絶対に見つからないタイムマシンの中に隠す、ということだ。
「真帆たんには時間がかかるって言っておいた。これは嘘じゃないし。これで時間は稼げるけど……」
ダルは鈴羽の方をチラリと見る。
「真帆たんって信用してもいいんだよね?」
「うん。彼女に関しては大丈夫。でも、あたしは彼女がどういう経緯でワルキューレに合流したのか知らないから……」
ロックの解除に成功したとして、その中身を彼女に見せるわけにはいかない。いつの日か、全てを打ち明けるタイミングが来るのかもしれないが、どのタイミングでどういう風に話すべきかはまだ判断できない。
というか、こんな話をしたところで信じてもらえない気がする……。
「流れに任せる他ないかもしれないな。その時が来れば、否が応でも彼女も俺たちに合流するのかもしれない」
それよりも、だ。
「ノートPCとHDDの中に、本当にタイムマシン論文が入っていたとして……それを狙う連中は当然、比屋定さんを標的にするよな?」
この前のホテルでの襲撃がそれだったのかは分からない。だが、可能性は高いだろう。
「今は俺たちが保管していて、彼女の手元にはない。だが、連中はそんなことお構いなしに比屋定さんを狙うはずだ」
「うん。この際、この中にタイムマシン論文が入ってない、なんて考えない方がいいね。入っている前提で動くべきだ」
荒事になれば、俺やダルではどうにも出来ない。頼りになるのは鈴羽だけだ。だが、鈴羽一人ではできる事に限りがある。
鈴羽の仕事はラボの死守。それ以外に比屋定さんも、となると……。
「敵は明確にしておきたいところだね。SERNの動向はまぁ、天王寺裕吾を見張っていればいいとして。ロシアはどうしようもないな……。問題はレスキネンって人だけど」
レスキネン教授に関しては判断材料が足りていない。彼への不信感は、ただの学生である俺にテスターを勧めたという一点だけだからだ。それに、俺としてはあの人はシロであってほしい。どこまでも研究に熱心な人、というイメージしか湧かないのだ。
「昨日、和光市のオフィスを見てみたけど、セキュリティのレベルが高いね、あそこ。どうやっても中に侵入できそうにない」
「侵入って……」
「鈴羽。危ない事はしちゃだめだって」
「分かってるよ。父さん。リターンがあまりにも小さいし」
そういう問題じゃないわけだが、とダルは突っ込んでいたが。
「ともかく、これは大きな前進だな。中鉢論文の方から俺たちの元に舞い込んでくるとは……」
これも鳳凰院凶真が復活した……『オペレーション・アークライト』のおかげなのだろうか。
俺が自ら何かをした結果ではないだけに、今後の流れが全く読めないのが怖いところだ。
紅莉栖の実家を放火した連中。ホテルの地下で襲い掛かって来た男。あれらがノートPCとHDDを狙っての者だったなら……もう一波乱ありそうな気がする。
俺は出来る限り、比屋定さんに気をかけようと思った。