STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
和光市 ホテル
真帆はホテルで“紅莉栖”と話していた。
『さすがにそれはないでしょう。いくら秋葉原だといっても巫女服で歩いてる人なんて……』
「本当にいたのよ!迷ってる私に道を教えてくれたのだから」
休日で秋葉原に足を運んでいたのだが、駅の方向が分からなくなって助けを求めたのが漆原るかだった。巫女服を着た可憐な女の子……と思いきや、男だというのだから秋葉原は分からない。そこで偶然出会った鈴羽なる少女も随分綺麗な人だった。昨日訪れたメイド喫茶にいたネコミミのフェイリスという人もめちゃくちゃ可愛かった。
そんな美少女たちと自分を比べて落ち込んでしまうくらいにはショックを受けていたのだ。
『そんなもんですかね……。あー、私も一度秋葉原を見てみたいなぁ』
「岡部さんには連れて行ってもらわなかったの?」
『あ、あんな奴の話なんて……』
分かりやすく嫌そうな顔をする“紅莉栖”。3Dモデルの制作を依頼した業者の仕事は完璧だ。ここまで嫌そうな顔を再現出来るのだから。
「ふふ。そう邪険にするものじゃないわよ」
『……オリジナルと交流のある人物と接触するのは避けるべきだったかもしれませんね』
オリジナルの死に苦しむ岡部にテスターを依頼したことを、真帆も“紅莉栖”も後悔していた。“紅莉栖”に至っては、自分が無神経に通話を重ねたことを反省しているようだ。
「かなり親密だったようね。私たち脳科学者からすると、独特の視点を持っているというか。紅莉栖が気に入るのも分かる気がするわ」
『それもそうですね。分野が違うと見え方も変わってきますし』
「あら、もっと必死に否定するかと思ったのだけれど?」
意外な反応に真帆はニヤリと笑う。
『そうでもないですよ。自分で言うのも変ですけど、私とオリジナルはもう別の存在なんです。私自身がそう言う風に日々思考してしまっている、と言うべきかも。交換留学で腐っていた頃だろうし、岡部のことを気に入るのも分かるんです』
岡部とは脳科学のことについて多く話した。専門である“紅莉栖”にとっては初歩的なことを岡部は知らない。かと思えば“紅莉栖”でも驚かされるようなことをさらと言うのだ。一個人としておもしろいと思うのは当然だった。
「なるほどね。そういうものなのかな……」
元来、紅莉栖の自己分析は正確だったが、『Amadeus』となってからは特に客観的になったと真帆は思う。“紅莉栖”がオリジナルの死をどう受け止めているのかは聞いた事がないが、“紅莉栖”なりに思うところはあるはずだ。もちろん、それを無理に聞くつもりはない。
『先輩の方こそどうなんです?岡部と会う口実がなくなって、寂しいんじゃないですか?』
「なっ……!」
『ホテルの地下で襲われたときも、岡部が助けてくれたんでしょう?』
ニヤニヤと笑う“紅莉栖”が憎らしい。
「あのね!私は別にそんな……」
『年が明けたらアメリカへ帰ることになるわけですし、今のうちに積極的にならないと絶好のチャンスを逃すことになりますよ?先輩だってもういい歳なんですし……』
「母親のような言い方をしないでちょうだい!後輩のくせに生意気よ!」
それからも恋愛脳な“紅莉栖”にからかわれる形で2人のやりとりは続いた。
『先輩。これで最後にするので聞いてください』
「……これ以上変なことを言ったらウイルスをぶち込むわよ」
そう言いつつ、“紅莉栖”の雰囲気が変わったのを感じ、真帆も真剣な表情になる。
『オリジナルの死から4か月が経ちました。教授や先輩は変わらずに私と接してくれています。でも、岡部はそうじゃなかった。私と話している中でも、オリジナルのことを思い出して、苦しんでいるように見えました。それを分かっていながら、対話を続けていたのは性格が悪いですけど』
「………」
『でも、岡部の反応が当然なんだと思うんです。教授はどうか分からないですけど……少なくとも、真帆先輩はオリジナルの死を忘れられる人ではないと思ってます。……生意気ですけどね』
「そんなこと……」
『一度、岡部と本音で話してほしいなと思ったんです。私は牧瀬紅莉栖ですけど、やっぱり人工知能に過ぎません。誰かの死の悲しみを共有できる相手にはなれません』
「そんな寂しい事を言わないでちょうだい……」
『でも、それが事実です。私では、岡部にとってオリジナルの代わりにはなれなかった。なりたいわけじゃないですが、少しでも力になれるなら……とは思ってます。だから……』
核心を突かれて真帆は言葉が出ない。
紅莉栖の死から4か月。ずっと考えることから、向き合うことから逃げ続けていた。研究だからと無理矢理割り切ったふりをしていたのだ。
それを他でもない“紅莉栖”本人から言われるとは、先輩失格だ。
「ありがとう、紅莉栖」
『いえ。さしでがましいことを……』
「そんなことないわ。……うん。私も一度、ちゃんと向き合わなければいけないことだから」
『先輩……』
「うん。一度、岡部さんと話してみるわ。すぐには出来ないかもしれないけど」
岡部に惹かれていたのは事実だ。
真帆よりも身近で、紅莉栖の死を経験した。それなのに、『Amadeus』のテスターを引き受けた。結果として、それを辞退することにはなったが、それでも一度は向き合ったのだ。
自分などとは比べられないほど勇敢に。
腹を割って一度話してみたいと思っていた。だが、その勇気がなかったのだ。それを、他でもない“紅莉栖”に後押ししてもらったのだ。
ここで頑張らなければ合わせる顔がない。
『それじゃあ、これで失礼します。遅くまですみません』
「ううん。ありがとう、紅莉栖。おやすみなさい」
通話を切り、ふぅと息を吐く。
「岡部さん、か」