STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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12月24日(金) 和光市 オフィス

 

 

『今大学?』

 

「いや、和光市だ。知り合いの教授の研究室みたいなところにお邪魔してるんだ」

 

『そっかー。わこう市……。じゃあ間に合うね!』

 

こいつ。絶対に和光市がどこか分かってないな。まぁ喜んでいるからそれでいいか。

 

『オカリンさ~ん!女子全員でサンタコスして待ってま~す!』

 

まゆりの声が遠のいたかと思うと、別の女の子たちの声が響いた。

 

『待ってるニャ!』

 

『待って……ます』

 

『ほら、るかくんも!』

 

『ええ⁉僕は女子じゃ……』

 

ルカ子も苦労してるな…。

 

『マユシィもコスプレするなんて珍しいよね~。そう言えばオカリンさん。パンツの色はピンクでしたぜ!』

 

お、おう…。

 

別に知りたくもないが…。慌てふためくまゆりが顔を真っ赤にしていた。

 

真っ赤なまゆりの顔を最後にして通話は終わった。

 

「今の人が岡部さんの彼女?またずいぶんと女の子を侍らせているのね…」

 

比屋定さんがにやにやしながら近づいてきた。

 

「そ、そんなんじゃないぞ!まゆりはただの幼馴染だし。他の子もまゆりの友達だ…」

 

「メイド喫茶の…フェイリスさん?もいるようだったし。岡部さんってけっこうモテるのかしら…」

 

そういえばラボに来るメンツには女子が多い。男は俺とダルと……一応ルカ子もか。この三人しかいない。勘違いされてしまうのもある程度は仕方がないのかもしれないな。

 

「ところで、女の子たちの中に1人見覚えのある人がいる気がしたのだけれど……」

 

「うん?フェイリスのことか?」

 

「そうじゃなくて……漆原さん?がいたわよね?見間違いかしら……」

 

俺は思わず目を見開いた。

 

「ルカ子のことを知ってるのか?」

 

「る、ルカ子?私が知っているのは漆原るかという巫女服を着た人なのだけれど……」

 

やはりルカ子だ。それも巫女服だと?

 

「それがルカ子だよ!どこで知り合ったんだ?」

 

「数日前に秋葉原で道に迷っていたのよ。あなたと警察に行った次の日よ。そのときに声をかけてくれたのが漆原さんだったの。結局、倒れそうな女の子を介抱することになってその場で分かれたのだけれど……」

 

「それってもしかして……」

 

「えっと、確か鈴羽さん、って呼んでたわ。もしかして、その人も知り合いなの?」

 

まさか鈴羽とも会っていたとは……。

 

鈴羽が熱を出してルカ子がラボまで連れてきた日のことだ。そこに比屋定さんまで居合わせているなんて、世界は狭い。

 

「あ、ああ。今日のパーティにはルカ子も鈴羽も来るんだ」

 

「へぇ、世間って狭いのね。それにしても、岡部さんにはずいぶんとたくさん可愛い女の子の知り合いがいるものね」

 

ジトっとした目で見られる。

 

「だ、だからまゆりの友達だって言ってるだろう!別に俺は誰かと付き合ってるとかではないんだって!」

 

必死に否定する方がそれっぽく聞こえるかもしれない。

 

「ふーん。まあいいわ。それよりも、漆原さんって男の子……なのよね?どう見ても女の子にしか見えなかったのだけれど……」

 

それはそうだろう。ルカ子はどう見ても女……だが、男だ。

 

「あいつは男だよ。俺もルカ子なんて呼んでるが、普段は学ランを着ている男子高校生だよ」

 

「そ、そう……それならどうして巫女服なんて着ていたのかしら?秋葉原にはメイド喫茶以外にも巫女服を着て接客するようなお店もあるのかしら?」

 

「さ、さすがにそれはないんじゃないかな……あはは。あいつの実家は神社なんだ。柳林神社ってところで。だから巫女服を……」

 

よく考えればこれは説明になっていない。男なのだから巫女服など着ないじゃないか。

 

「そ、そう……。やっぱりいろいろとあるのね。秋葉原は……」

 

これ以上何を言っても誤解が深まるだけな気がする。ルカ子の名誉のためにも何も言わないでおこう。

 

「聞いての通り、友達同士で集まってクリスマスパーティをするんだが、よかったら比屋定さんも来るか?」

 

彼女はそういうことには無頓着そうだ。クリスマスであってもこのがらんとした研究所に一人きり。レスキネン教授はいろんな研究者に会いに行っているらしく不在だ。誘っても問題ないだろう。

 

「私?いいわよ。気を遣わなくて。こうして一人で研究できる方が気が落ち着くもの。せっかくの友達同士のパーティに水を差すわけにもいかないし」

 

そういうものか。

 

研究者の気質というか、まず何よりも研究が先にある。そういうクールな感じが、やはり彼女は紅莉栖に似ている。

 

このお誘いにはちょっとした下心があったのだが、こうもあっさり断られてしまっては改めて誘いにくい。ひとまず置いておくことにする。

 

 

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

「あ、あぁ…」

 

ラボでのパーティの時間もある。ずるずると引き延ばすわけにもいかない。

 

「私に仲裁してほしいということでしょう?そんなに“紅莉栖”が怖いかしら?」

 

怖いか怖くないかで言えば、怖い。中途半端に繋がっている分、いつ怒りの電話が来るかと思うと、四六時中落ち着かない。

 

「はぁ…。顔を見ていれば分かるわ。あなたって真面目な人よね」

 

真帆は笑いながらため息をついた。

 

「ま、仲裁でもなんでもしてあげるわよ。せっかくのクリスマスイヴなんだから、少しは気の利いたことを言ってあげたらどう?」

 

「そ、そうだな」

 

気の利いたセリフなど、俺からもっとも遠いところに存在する概念だ。期待はしないでほしいが。

 

気は進まないが、真帆にせかされて俺はスマホを取り出した。『Amadeus』のアプリをタップする。

 

すぐに“紅莉栖”は出た。

 

『ちょっ、おまっ、まさかまた連絡してくるなんて、はぁ⁉な、なによ、なんなの⁉』

 

あ、こいつ完全に油断していたな。

 

「や、やぁ…」

 

『………んん。どうも、岡部倫太郎さん。私になにか用でも?もう話したくないんじゃなかった?』

 

怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる…。

 

「いや、その…」

 

俺は目だけで真帆に助けを求める。

 

「“紅莉栖”、彼から話があるから、少しだけ聞いてあげて」

 

柔和に真帆がそう言うと——。

 

 

『別に聞かないとは言ってませんよ?岡部さんは、私とはもう会話を交わしたくないはずでは?と事実確認をしただけです』

 

取り付く島もないな…。

 

「ほら、早くしなさいよ」

 

ここから何を言えばいいと言うんだ?何を言っても許してもらえるとは思えないぞ。

 

「あ、ああ…」

 

こうなれば、誠心誠意謝るしかない。

 

「わ、悪かった…」

 

俺は頭を下げた。

 

「俺なんかに付き合ってくれていたのに、お前のその親切を、裏切るような形になってしまった。それに、この前最後に話したとき、急に会話を打ち切ってしまったのも失礼だったと思ってる。昔あった個人的なことを思い出して、混乱してしまったんだ。でも、それはお前には関係のないことで…。せめて一言だけ、謝りたかったんだ」

 

『…………』

 

「い、以上だ……」

 

我ながら情けないセリフだと思う。スマホの画面に向かってぺこぺこと頭を下げているのも格好悪い。

 

 

すると——。

 

『…………プッ』

 

“紅莉栖”はたまらずといった感じで噴出した。

 

『それ、本気で言ってるの?』

 

「な、なんだよ。こっちが本気で言っているのに笑うなんて…」

 

『だって私は人工知能よ?なのに、そんな神妙な顔をして、本気で謝ってくれるなんて。この前、私と話すのが照れ臭いとも言っていたわね』

 

それを言われると恥ずかしいのだが。

 

『………変な人』

 

だが、人工知能に本気で謝ることは、へんなこと……なんだろうか。

 

いや、変なことなんだろうな。

 

『いいわ。正直ちょっと失望していたところだったんだけど、考えを改める。こっちから出す交換条件を飲んでくれたら、水に流す』

 

「交換条件だって?」

 

嫌な予感しかしない。何を言われるのだろうか。

 

「…分かった、その条件とやら、聞こう……」

 

 

 

 

『今日、これから真帆先輩をディナーに誘いなさい』

 

「………は?」

 

俺と同時に、比屋定さんまでもが目を丸くした

 

「ちょっと“紅莉栖”!何を言い出すかと思えば!」

 

『今日は何の日か、ご存じないんですか、先輩』

 

「……クリスマスイヴ」

 

『そういうことです』

 

「どういうことよ!」

 

『さあ岡部さん。条件を飲むの?飲まないの?』

 

こいつ、なんでそんなに目をキラキラさせているんだ。本当に人工知能なのか?

 

「お前、相変わらずスイーツ(笑)だな…」

 

『だ、誰が脳内お花畑だ!』

 

「あ、あなたたちって、たまによくわからない言語で話すわよね……流行りなの?」

 

「これは@ちゃ——」

 

『知らない知らなーい!それより岡部さん!条件を飲むの⁉』

 

こいつ、知られたくないからって打ち切りやがった。ねらーであることくらい、知られても問題なさそうなのに。

 

比屋定さんはそういうのに疎いだろうから、ドン引きされることもないだろう。

 

「…分かったよ。比屋定さん。さっき話したパーティ、正式に招待させてもらうよ」

 

『パーティ?』

 

「ああ。友達とクリスマスパーティを開くんだ。さっき誘ってみたんだが、断られてしまって…」

 

『そうじゃないでしょうが……。いや、でもいきなり二人きりだとハードル高いし、逆にいいか…』

 

「“紅莉栖”、それ以上からかうと怒るわよ。私はパーティなんて行かないわ」

 

『だったら、私も岡部さんを許しませんが?』

 

「ひ、比屋定さん!頼む!」

 

「どうしてこんな話になっているのよ……」

 

『先輩のために気を利かせてあげてるんじゃないですか』

 

「あなたねぇ…。そもそも、今日はこのあと教授が帰って来るのを待って、研究の報告をしないといけないし——」

 

比屋定さんが断る理由を必死に探していると——。

 

 

 

「やぁ、リンターロ!マホ!何の話かな?」

 

絶妙のタイミングで、レスキネン教授が帰って来た。比屋定さんは勝ち誇った顔をした。自分の机の上のファイルを開こうと手を伸ばす。

 

「おかえりなさい教授。これが今日、集計したデータなんですが——」

 

そこで教授が話を遮った。

 

「マホ、ストップ。今日はクリスマスイヴだ。こんな日にこんな時間まで仕事をしているなんてバカなことがあるかい?」

 

「え。で、でも……」

 

「我々は今日本にいるから家族と共に過ごすことは出来ないが、それなら親しい友人と食事にでも行くべきだとは思わないかい?」

 

 

真帆の顔が絶望に変わった。

 

『教授、ナイス!』

 

“紅莉栖”が画面の中で親指をぐっと立ててサムズアップをした。

 

「“クリス”…どうしたんだい?」

 

これは好機だ。

 

「ええと、教授?俺の友達がクリスマスパーティを開くんですが、よかったらご一緒に——」

 

俺が言い終わるのが早いか、教授は飛び上がる。

 

「素晴らしい!日本人は仏教徒なのにクリスマスパーティもするんだねぇ!」

 

そう言いつつ、教授の顔が曇った。

 

「だが、残念ながら私はジュディとの先約があってね……」

 

「……ジュディ?」

 

だ、誰の事だろう。もしかして、教授の奥さんとか?というか結婚しているのか?

 

「脳科学研究所のお隣。精神生理学研究所の教授よ。私たちと一緒にこっちに来ているの」

 

なるほど。精神生理学研究所か。

 

「マホはパーティに参加するんだろう?」

 

「え?い、いえ。私は……」

 

断る理由を必死に探そうとするも、教授はそれに先んじて比屋定さんを制止した。

 

「マホ。君はいつだって研究ばかりだ。研究者にとって何よりもそれを優先するのは美徳だが、たまには人との繋がりを大事にするのもいいんじゃないかい?そういうところにこそ、我々の望む発見があったりするものだよ?」

 

完璧な言葉だった。

 

朗らかで陽気な教授からは想像できないほど落ち着いていて、子供に言い聞かせる親のような穏やかな顔。

 

「マホ。今日くらいはいいんじゃないかい?」

 

こうも真摯な言葉で諭されては、断れるはずもなく……。

 

「………はい」

 

しぶしぶ比屋定さんは頷いた。

 

 

『決まりですね?』

 

「まったく……」

 

“紅莉栖”が俺に向けていたずらな笑みを向けてくれた。

 

許して、もらえたのだろう。

 

『ねぇ、岡部』

 

「っ!?」

 

急にその呼び方をされてハッとしてしまった。

 

『私なんかに、本気で謝ってくれてサンクス。嬉しかった』

 

「あ、いや…」

 

『気が向いたら、またいつでも話しかけてきて。暇つぶしぐらいには付き合うから』

 

「気が向いたら、な…」

 

『ええ。それじゃあ、また。真帆先輩をよろしく』

 

「“紅莉栖”‼」

 

“紅莉栖”は微笑むと、画面から消えた。

 

「満足したかしら…?」

 

真帆が俺を睨みつけながらそう言った。

 

「あぁ…ありがとう」

 

思った以上にホッとしている自分がいる。やっぱり俺は……心底、牧瀬紅莉栖という人のことを、好きだったんだな……と痛感させられた。

 

「でも、人工知能に謝るのは、そんなに変か?秋葉原のオタクには二次元の女の子に土下座する奴だっているぞ?」

 

「そ、そういう精神性は、私にはちょっと…」

 

たとえが悪かったか。

 

「と、とにかく、比屋定さんのおかげで助かった」

 

「“紅莉栖”の交換条件なんか、律義に守る必要はないわよ」

 

「まぁ……でも、来てくれるんだろ?」

 

俺の言葉に、教授はにこやかに白い歯を見せた。

 

「リンターロは口説き上手だねぇ。私の可愛いマホがとられてしまうんじゃないかと心配になるよ」

 

「教授!」

 

いつも教授と“紅莉栖”にこうしてからかわれているんだろう。“紅莉栖”はどこまでも脳内お花畑の恋愛脳だし。

 

「それに、“紅莉栖”と、約束したからさ」

 

真帆は呆れたような、それでいてすこしだけ嬉しそうな顔で——。

 

「あなた、本当に変わっているわ」

 

 

“紅莉栖”に許してもらえた安堵感と、ちょっとした企みがうまくいったことに俺は胸を撫でおろした。

 

 

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