STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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2010年8月22日

 

 

俺は爆睡した。これでもかというほど爆睡した。

 

俺が目覚めたのは昼過ぎのことだ。昨日、ラジ館からラボに戻り、ソファに腰掛けたところで俺の記憶は途切れている。まだ19時にもなっていないくらいだったはずだから、18時間くらい寝ていた事になる。こんなに寝たのは初めての経験だった。

 

まぁ、α世界線からの疲労を考えれば無理もないのかもしれない。緊張の糸がプツリと切れたからな。

 

と、余計な話はこれくらいにして。

 

起きると全員がラボにいた。かがりはすっかりとまゆりに懐いており、まゆりはまゆりで困惑しつつもかがりを受け入れているようだった。ダルはダルで、鈴羽が自分の娘であることに納得しているようだった。

 

俺が寝ている間に鈴羽が事情をあらかた説明したらしい。ダルとまゆりはあっさりと信じてくれた。そして、親睦を深めるという意味を兼ねて、まゆりたちは出かけて行った。

 

俺も一緒に行こうとしたのだが、鈴羽に止められたのだ。話したいことがあるとのことだった。鈴羽は食料調達のために一度外出し、たった今帰ってきたばかりだ。

 

「まゆりとかがりはともかく、ダルまで行かせてよかったのか?あいつにはいろいろとやってもらわなければならないことがあるはずだが……」

 

まゆりが小難しい話を理解出来るとは思えない。だが、ダルは別だ。タイムマシンを開発してもらわねばならないのだ。この場に同席してもらう必要があるように思えるのだが。

 

「父さんはまだあまり状況を飲み込めていないからね。まゆねえさんとかがりを2人だけで行かせるのも不安だったし、父さんには付いて行ってもらったんだ」

 

かがりに秋葉原を見せてやりつつ、外食する予定のようだ。

 

「まずはあたしとオカリンおじさんの2人で話を固めておく必要があると思ってさ」

 

それもそうかもしれない。

 

「まずは……」

 

何から話すべきか。話しておきたいことは山のようにあった。

 

「お前がどこまで知っているのか、だ」

 

俺が一度、紅莉栖の救出に失敗すること。それは織り込み済みだと鈴羽は言った。だが、『テレビを見ろ』というDメールについては、存在そのものは知っていたものの、内容までは聞かされていなかったようだ。

 

「おじさんを騙すようなことしちゃってごめんね……」

 

「それはいい。必要な手順なのであれば仕方あるまい。だが、俺たちの情報源はお前だけ。それなのに、お前にも知らされていないことがあるというのが問題だ」

 

「……あたしが聞かされていたのは、牧瀬紅莉栖の救出に一度失敗した後にDメールが届くことと、7月28日におじさんが受信したムービーメールが見れるようになること。それだけなんだ」

 

7月28日。紅莉栖とラジ館の踊り場で会話した後に受信したあのムービーメールはノイズまみれで見れなかった。

 

「見れなかったものが見れるようになる……なんてことがありえるのか?」

 

技術的な問題ではない、と思う。それならダルに解析させれば内容を確かめられることになる。おそらく、ダルに手を尽くさせたとしてもあれは見れないはずだ。

 

「どうなんだろ……。ムービーメールを見れないのはあたしにとっても想定外だったんだ。未来で父さんは詳しい話を教えてくれなった」

 

鈴羽は父から説明されていないことに落ち込んでいる。それもそうだろう。過去を変えるためのミッションに赴くというのに、詳細を語られていないとなれば裏切られたような気持になるのも当然だ。

 

「もう一つのDメールについては……?」

 

テレビを見ろ。

 

やはりそこでも詳細は語らずに、亡命した中鉢が映るテレビニュースを見せられただけだ。

 

「あれも、届くって事しか知らなかったよ」

 

「タイムマシン論文のことは知っていたのか?」

 

紅莉栖から奪った論文を中鉢がロシアに持ち込んだ。あれこそが第三次世界大戦の引き金となる。鈴羽の話ではロシアとEUが戦争を始め、アメリカまでもが横槍を入れたことで収拾がつかなくなったのだと。

 

「あれが第三次世界大戦を引き起こすってことはね。でも、あの場で中鉢が牧瀬紅莉栖から奪ったとか、そんなことは知らなかった」

 

やはり鈴羽はほとんど何も知らされていない。つまり……。

 

「ムービーメールに全てが書かれていた、ということか」

 

なぜ、こんなもったいぶったことをするのかは分からないが、あれを見なければ何も分からないということだけは確かだ。

 

「仮に今からもう一度、タイムマシンに乗ってあの日に行ったとする。論文が中鉢の手に渡るのを防ぎつつ、紅莉栖の生存を確保出来れば、俺たちはシュタインズゲートに辿り着けるんじゃないのか?」

 

中鉢の乗るロシアン航空の貨物室は火災に見舞われる。だが、まゆりが落としたメタルうーぱによって、論文は火災から守られる。わざわざDメールまで寄越してあのニュースを見させたのだから、これは確定している事象なのだろう。つまり、論文が中鉢の手に渡った時点で詰みだ。

 

それなら、そもそも中鉢の手に渡らないように立ち回れば……?

 

「……たぶん、無理だと思う」

 

「その理由は?」

 

「それが出来るなら、ムービーメールを送って来る意味がなくなるからだよ。どんな因果があって無理、ってのは分からないけどさ。たぶん、現状ではあたしたちはシュタインズゲートを観測するための条件を満たせていないはずだ」

 

「条件……か」

 

第三次世界大戦が起こるのがβ世界線の特徴。それが起こらないようにするには、タイムマシン論文がロシアに渡らなくなるようにしなければならない。そのためには……と、何段階も続いていくわけだ。

 

「もう一つ、あたしたちが過去に行っている間に現れた、もう一台のタイムマシンも関係してるはずだ」

 

「それか……」

 

俺と鈴羽が紅莉栖の救出に向かっている間、わずか1分間にもう一台のタイムマシンが現れた。そこから誰かが降りてくることはなかったようだが、間違いなく、まゆりと鈴羽が乗っていたようだ。

 

「俺のケータイに未来のまゆりから電話があり、俺を……鳳凰院凶真をなんとしてでも叩き起こせと言ったそうだな」

 

未来のまゆりがこの時代のまゆりに電話をして来たのだ。目的は、鳳凰院凶真を立ち上がらせること。

 

「もちろん、あたしはそんな作戦を聞かされてない。でも、あの作戦が意味するのは、おじさんがシュタインズゲートを目指すのを諦めてしまった世界線があった、ということ」

 

「俺が、諦めた……」

 

「その世界線では、おじさんが諦めてしまっていることで何か問題が起こっていたはずだ」

 

「つまり、俺はこれからその問題を解決しなければならないというわけか。そうでなければ、シュタインズゲートを観測することは出来ないと」

 

俺の精神的な問題。そんなもので世界線が変動するとは思えない。世界線が変動するのは、あくまでも物理的な事象に基づいてのことだ。鳳凰院凶真の生死などという曖昧な変化では世界線は変わらない。

 

「その問題が何かっていうのは全く予想も出来ないけどね」

 

時間と共に、その問題とやらも明らかになっていくのだろうか。せっかく、鳳凰院凶真が復活するというアドバンテージを得られたのだ。出来ればこちらから能動的に行動したい。

 

「何か手立てはないか?」

 

鳳凰院凶真がいなければ解決出来ない問題。俺からすれば、俺のやる気次第で世界規模の戦争をどうにか出来るはずがないという思いはあるが。まぁそれはいい。鳳凰院凶真は無限の可能性を秘めているのだから。

 

「うーん。おじさんが諦めてしまっていた世界線……何度もこう言うのは面倒だね。その世界線をA、今いるこの世界線をBとしようか。世界線Aにおけるおじさんの行動を明らかにすれば、何か見えてくるかもしれない」

 

Aの俺、か。

 

Aの俺は紅莉栖を救うことを諦めてしまっている。そもそも、俺がβ世界線を選んだのはまゆりを守るため。その上で紅莉栖を諦めたというのなら、俺はまゆりを守ることを第一に考えて動くだろう。

 

「まゆねえさんを第一に、か」

 

まゆりの生存は2036年時点まで確保されているはずだ。鈴羽とかがりがタイムトラベルする瞬間までまゆりが生きていたわけだし。まゆりが死ぬ事はない、という安心感はあったはず。

 

「だが、世界線が変動するような事態になれば、それも保証はなくなる」

 

つまり、Aの俺は世界線が変動する事を極端に嫌うはずだ。第三次世界大戦が起こる未来を受け入れ、それでもまゆりが生きていられる未来を望むだろう。それが幸せだとは思えないが、言っても仕方のない事か。

 

「鈴羽とは折り合いが悪かっただろうな。おそらく鈴羽はなんとしてでも俺を二度目の紅莉栖救出に向かわせようとするはずだ。だが、俺はそれを拒み続けるだろう」

 

「……うん。容易に想像出来るね」

 

「そんな俺が、あの作戦を許容するとは思えないな……」

 

まゆりと鈴羽が2人でタイムトラベルをする。タイムトラベルなんて、因果の輪から外れる行為を俺が認めるはずがない。

 

「でも、まゆねえさんはやって来た……」

 

「そうせざるを得ないほどの問題……か」

 

まゆりや鈴羽の死、とは考えづらいが、それに類する事態が起こった。そうなれば、俺はあの作戦を認めるだろうか?

 

「考えられるとすれば、ラジ館のタイムマシンが狙われる……とか?誰かに悪用されるとなれば、おじさんは絶対に動く」

 

後ろ向きな俺ならば、2人を過去に送り出すのではなく、タイムマシンの破壊を考えそうなものだが。

 

「悪くないな。それが一番あり得そうだ。……仮にそうだとして、タイムマシンの場所が漏洩するならどこからだと思う?」

 

β世界線では俺たちはSERNに目を付けられていない。ロシアは在り得なくもないが、可能性は低そうだ。タイムマシン論文を手に入れた上、タイムマシンそのものを手に入れようものなら、β世界線はロシアが支配することになる。だが、第三次世界大戦が起こり、ある種の膠着状態に陥っているのなら、ロシアが単独首位に立つことはないだろう。

 

となると、それ以外の勢力ということになるが。

 

「おじさんがこれから出会う誰かにバレた、と考えるのが妥当だね。おじさんの考えの通り、ロシアってことはなさそうだし」

 

仮説の域を出ていない推論だが、十分にあり得そうだ。起こる問題というのも、俺がこれから出会う者が引き金となる可能性が高い。

 

 

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