STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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「はいはい、みニャさ~ん!これで全員揃ったニャ♪」

 

フェイリスが司会を始める。各々が飲み物をグラスに注いでいる中、鈴羽が困惑した顔で俺を見た。

 

「おじさん……」

 

「事情を知らない人がいる前でおじさんはやめろ…」

 

「っ…ごめん」

 

「比屋定さんはどうだったんだ?」

 

彼女自身は問題ないとして、バックドアが仕込まれていないかどうか。会話の中でそのチェックは出来たのだろうか。

 

「うん。大丈夫。問題ないよ」

 

直接調べたわけでもないのに、あれだけで判断できるのか……。さすがは元軍人だな。

 

「………だというのにえらく浮かない顔じゃないか。何かあったのか?」

 

「あたしやっぱり、こういうの向いてないよ…」

 

パーティの雰囲気が、ということだろう。

 

「どうして?」

 

そう言いつつ、俺は鈴羽にグラスを渡し、ノンアルコールのシャンパンを注いであげた。

 

「だって、遊ぶためにこの時代に来たわけじゃない…」

 

「別に今、遊んでるわけじゃないだろ?お前は今もミッションの最中だ」

 

比屋定さんを観察する、というミッションの。

 

「それはそうだけど……」

 

まぁそんなものはくだらない建前だとは分かっている。

 

 

「たまには、いいんじゃないか?」

 

「え?」

 

「……ダルやまゆりの言葉だと、お前は聞かないだろうからな。改めて俺から言うぞ?」

 

「う、うん……」

 

「別にお前ばかりが背負う必要はない。お前はよくやっているし、無理し過ぎなくらいだ。俺でもダルでもまゆりでも、フェイリスでもルカ子でもいい。誰でもいいからお前は頼っていいんだ」

 

「でも……」

 

俺はα世界線で凄惨な最期を迎えた鈴羽を知っている。αとβの鈴羽は別の存在だが、それでも俺は2人を切り分けることは出来ない。

 

αでは、父のことさえ知らない状態でこの時代へとやって来ていた。それに比べてβの鈴羽はダルと親子として接する事が出来ている。そのどちらがいいか、という話ではないが、少なくとも鈴羽には甘えられる存在が出来たということだ。

 

「……ダルがお前を受け入れてくれていることが怖いか?」

 

「っ……!」

 

受け入れてもらえない、という覚悟を持ってこの時代に来たのだろう。というより、本当なら8月21日の時点でミッションは終わるはずだったのだ。ダルとの関係を気にする間もなかったというところだろう。

 

「お前の性格上、難しいかもしれないが、ダルに甘えていいんだ。あいつはお前の父親だからな。気にしなくていい」

 

「そう、かな?」

 

「その方があいつだって嬉しいはずだ。それとも何か?お前の父親は未来から来た娘を受け入れないほど度量の狭い奴だったのか?」

 

「そ、そんなことは……ない、けど」

 

「ならばそれが答えだ。俺やまゆりには気を遣ってしまうなら、ダルだけでいい。これからはそうするんだな」

 

 

自分でも気障な事を言っている自覚はあるから問題ない。いつかは消えてなくなる世界線かもしれないが、そこにもささやかな幸せはあっていいはずだ。

 

「おじさん。ありがとう」

 

「ふ。おじさんはやめろ」

 

 

 

「じゃあ、開会のあいさつはマユシィに任せるのニャ!」

 

司会進行がフェイリスから、今日の企画者であるまゆりに移った。始まりのあいさつをしろというご使命だ。想定していなかったのか、まゆりは慌てふためいている。

 

「まゆりちゃん。落ち着いて」

 

隣に座るルカ子に励まされている。

 

「えー、今日はクリスマスイヴなのです」

 

話し方がぎこちない。今でこそ、まゆりの人見知りも治ってきたが、昔はひどかった。その頃を見ているようだった。

 

「どこもりあ充さんでいっぱいだけど、今年はまゆしぃたちもパーティをして、りあ充さんになろぉ!」

 

リア充の意味をはき違えている気がするが、まぁ、クリスマスに友達とパーティをしているヤツは、十分リアルが充実していると言えるだろう。彼氏彼女のいるいないではない。

 

「えーと、うーんと……とにかく!みんなが楽しんでくれれば、まゆしぃは嬉しいな」

 

鈴羽が、リア充って何?と聞いてきたが、適当にぼかしておいた。

 

「終わりです」

 

締まらない挨拶だったが、これで終わった。

 

言い終わってからまゆりは鈴羽に向けて微笑みかけた。

 

鈴羽は、笑顔ともなんともいえない曖昧な表情でそれに応じていた。

 

 

 

 

 

 

そこからは怒涛の展開だった。

 

開催者であるまゆりは、かがりと鈴羽にかかりっきりだった。かがりはママにべったりだし、放っておくと帰りかねない鈴羽を引き留めるために、大皿から料理を取り分けては鈴羽の皿に放り込む。その合間にかがりにも食べさせたり口を拭いたりなど大忙しだ。

 

比屋定さんはこういう場が苦手だというのが見て分かった。ATFの懇親会でも、俺と2人だけ浮いていたからな。だが、そこでフブキとカエデが気を遣ってくれた。誰ともあまり話せないでいる彼女の相手をしてくれていた。比屋定さんも少しは楽しんでくれただろうか?

 

そして流石のフェイリス。ダルが流す音楽に合わせて歌ったり、前でゲームの進行をしたり、皆を回ってジュースを注いだりと、ナンバーワンメイドの辣腕をいかんなく発揮していた。ルカ子もそれに付いて回っていたが、女性陣からのセクハラにより涙目に。……あいつは男だ。俺はそう言い聞かせていた。

 

 

「それ、頭に被るん?」

 

パーティの熱気に当てられて、俺はビルの屋上に一時避難していた。やはり俺もこういう雰囲気が苦手だ。比屋定さんや鈴羽に偉そうに言う資格はないな。陽キャなんてのには程遠い。

 

「……ほしいならやるぞ?」

 

やって来たダルに、俺が手に持っていたスケスケのベビードールを揶揄される。……クリスマスパーティと言えばプレゼント交換。見事フブキのプレゼントを引き当てた俺は、向こうが透けて見える女性ものの下着を手にしていた。まゆりにプレゼントしろとのことだったが。

 

そんなことが出来るはずもなく、あの場に置いていくのも憚られたため、こうして屋上まで持ってきた次第だ。

 

「うーん。鈴羽、着てくれるかなぁ。もちろん、鈴羽なら何着ても似合うけどさ」

 

すっかり父親……なのかこれは?娘にエロい下着を着せようとするのが父親なら、そんなものは願い下げだが。

 

「どうしたんだ?わざわざこんなところまで来て」

 

ダルは取り返しのつかないオタクだが、ああいう場では積極的になれる逸材だ。思い返してみればコミュ力が高く、初対面の人とでも気楽に話せる。……こいつってなかなかハイスペックだな。

 

「鈴羽にいろいろ言ってくれてたっしょ?ボクが言っても聞いてくれんし」

 

俺と鈴羽が話しているのを聞いていたのだろう。珍しく頭を下げるダルに、俺は驚きを隠せなかった。

 

「やっぱりお前、父親になったんだな……」

 

「へ?まだ童貞なわけだが?」

 

「まだ見ぬ嫁との出会いが待ってるんだ。お前はもうリア充だよ」

 

「そのまだ見ぬってのが恐ろしいんですけど?実はボクは結婚なんてしなくて、鈴羽もボクの本当の娘じゃないみたいな展開あったりせん?」

 

まぁ不安になるのも分かる。割と未来のことを教えてくれる鈴羽が、頑として母親のことだけは教えてくれないのだ。一体どんな人がダルの嫁になると言うのか。

 

「って、鈴羽の話だったな。……あいつ、焦ってるのか?」

 

「うん。かなりね。めちゃくちゃ頑張ってるってボクは思うけど、鈴羽としてはこの時代に来てから何も出来てないってさ」

 

鈴羽の存在は非常にありがたく思っている。鈴羽がいなければ今後の方針を決めることすらままならないからな。だが、鈴羽が焦るのも分かる。

 

「やはり、『オペレーション・アークライト』……か」

 

タイミングはおそらく来年の7月。タイムマシンの燃料が切れるギリギリ。そのタイミングで未来からDメールが届くはずだ。

 

つまり、一年以内には鈴羽は跳ぶ、ということだ。そしてまゆりも……。

 

「……止めたくなってしまうな」

 

「っ……!」

 

まゆりとこの話をしたことはほとんどない。だが、まゆりはあれで鋭いからな。おそらく理解しているはずだ。いつかその日がやって来ることを。

 

そして、その先でどうなるのか。

 

「鈴羽は、迷うことなく跳ぶだろうな。俺たちが止めたところで、止まるような奴じゃない」

 

「……だよね」

 

「まゆりもきっとそうだ」

 

まゆりは一度決めたら絶対に譲らない。何があってもやり遂げる。そういうやつだ。

 

「鈴羽が気にしてるのは、まゆりのことだろう。自分はどれだけでも無茶をするくせに、俺たちには無茶をさせたくないと考えるだろうしな」

 

「オカリンは全部お見通しってわけね」

 

俺と鈴羽の中で一応の結論は出した。アークライトのために跳び立ったとしても、最終的には帰ってこられるはずだ、と。もちろん、希望的観測でしかないが、可能性は十分にある。

 

これ以上議論を続けたところで答えは出ないため、これといって進展はないが。

 

 

「……その時が来たら、オカリンはどうするん?」

 

「俺は……」

 

どうするだろう。

 

頭では、笑って送り出そうと考えている。だが、実際にその場面になったとして、そう出来るかどうかは分からない。いざとなったら止めてしまうかもしれない。

 

「俺の心がもっと強ければな……」

 

鈴羽は世界線の収束だから仕方ないと言ってくれた。俺が諦めてしまう世界線。そして、諦めなかったこの世界線。だから俺が悪いわけではないと、そう言ってくれた。

 

だが、そんなものは言い訳でしかない。最初に諦めた俺さえいなければ、こんなことにはならなかったのだから。

 

 

 

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