STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
「こんなところで何してるの?」
しんみりとした空気を、鈴羽の声が引き裂いた。急速に意識が現実に戻る。
「鈴羽、どうしたん?パーティ抜け出して、まゆ氏に怒られんかった?」
「抜け出したのは2人も同じじゃないか。あたしだけ言われる理由はないよ」
「……それもそうだな」
自分にはパーティを楽しめと言っておいて、2人して抜け出しているのだから文句の一つでも言いたくなるだろう。
「何の話をしてたの?」
「え……あぁ、いや。ちょっとな……」
鈴羽とまゆりが行ってしまう。そんな話をしていたと正直に話すわけにはいかない。適当な理由を探していると。
「オカリンが当てたこれをどうしようかって話してたんだお」
ダルが俺の右手を持ち上げた。
俺の手にはプレゼント交換で引き当てた、エロセクシーなスケスケ下着が握られているわけで……。
「ちょ、ダル!放せバカ!」
強引に振り払おうとするが時すでに遅し。鈴羽にバッチリ見られてしまった。
「……まゆねえさんにあげたら喜ぶんじゃない?あたしはよく分からないけど、この時代ではそういう下着が流行ってるんでしょ?」
「へ?」
「フブキって人、まゆねえさんの友達なんだよね?なんだかおしゃれな感じだし」
そうか。鈴羽はおしゃれをする間もない時代で育ったんだったな。こんなものがスタンダードだと勘違いしてしまっても仕方ないか。
「鈴羽、これはな……」
「いっそのこと鈴羽が履けばいいんじゃね?これは鈴羽の言うとおり、この時代だとすっごく流行ってるんだよね。きっと鈴羽にも似合うお!」
ダルがノリノリで言い放った。
「あ、あたし?あたしはおしゃれとか興味ないし……。そんなの似合わないって」
「そんなことないお!鈴羽は可愛いんだから、何着ても似合うって!父さんが保証するのだぜ」
「え、いや……でも……」
可愛いとか、言われ慣れていないのだろう。分かりやすく顔を赤くしている。
「バカダル!実の娘にこんなエロい下着を勧めるやつがあるか!鈴羽も真に受けるな!こんなもの履かなくていい!」
「う、うん。そうだよね。まったく、父さんはくだらないことばっかり言って……。やっぱりあたしには似合わないって」
「ちょっと待て!似合う似合わんの話じゃなくてだな……」
鈴羽にこんなことを言わせてしまうのも、ダルが服を買ってやらないからだ。ダルが悪いのだ。
「ダル!お前が責任をもって鈴羽の服を買ってやれ!こんなアホなやつじゃなくて、ちゃんとしたヤツをだ!」
「え、でもボク服とか分からんし……」
「それこそまゆりにでも相談しろ!鈴羽、行くぞ。俺がまゆりに話をつけてやる」
「え、おじさん。ちょ、ちょっと!」
強引に鈴羽の手を取って階段へと向かう。
……真面目な話をしていたのが馬鹿みたいだ。
「あ、3人揃ってどこ行ってたのかニャ?秘密の悪だくみならフェイリスも呼んで欲しかったのニャ!」
「ラボの熱気にあてられてな。ちょっと涼みに屋上に行ってたんだ」
「ふーん。フェイリスには内緒かニャ?ふむふむ。ニャるほど……。スズニャンのことでお話してたみたいニャ」
「なっ……!」
どうして分かるんだ?さすがはチェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)。恐るべし。
「マユシィは忙しいから、代わりにフェイリスが聞いてあげるのニャ。なんなりと言うがいいニャ」
相談先がまゆりということまで分かるのか……。
「お、おじさん。あたしは別に。ルミねえさんにまで迷惑は……」
「スズニャンのことならどんなことでも迷惑だニャンて思わないのニャ♪」
「えっと……その……」
「ダルでは服の事は分からないからな。鈴羽に似合う服を見繕ってやってほしいんだ」
「服?あ~。スズニャンっていっつも同じ服ばっかり来てるのニャ。よぉ~し。フェイリスにどんと任せるニャ!」
「ちょ、ルミねえさん!?」
「ルミねえさんなんてここにはいないのニャ♪」
フェイリスには勝てないようで、鈴羽は観念したようにおとなしくなった。後日、買い物に連れまわされ、着せ替え人形になることは確定した。
悪く思うな鈴羽。あのままではダルの欲望のままにきわどい服やコスプレ衣装などを着せられる羽目になっていただろうからな。
鈴羽にこの時代を少しでも楽しんでもらうためにも、これは必要なことだ。
それからもパーティは続き、フェイリスを中心に大いに盛り上がった。比屋定さんはフェイリスの早業に心から感心しているようだった。
「は~い。それじゃあそろそろお開きにしようと思うニャ!みんニャ楽しんでくれたかニャ~?」
綯とかがりがうとうとし始めたところで、フェイリスが締めに入った。
「岡部さん。今日はありがとう。こんな楽しいパーティに呼んでくれて」
と、隣に座る比屋定さんが、プレゼントで貰ったオルゴールを大事そうに抱えながらそう言ってきた。
「いや、あいつに言われて無理に誘ってしまったからな。迷惑じゃなかったか?」
“紅莉栖”の恋愛脳に助けられる日が来るとは思いもしなかった。いろいろと打算のある招待ではあったが、楽しんでくれたのなら願ったりかなったりだ。
「たまにはこういうのもいいわね。私一人だと、どうしても研究ばかりになってしまうから」
「それならよかった。俺も人の事は言えないが、本当ならこういうのは苦手でさ」
「そうかしら?あなたは誰とでもうまく話せるという印象よ?それに、このラボの所長さんなんでしょ?」
「ちゃ、茶化さないでくれ。ラボなんて言っても、所詮は学生のお遊びサークルだよ。それに俺が誰とでも話せるなんて……」
鳳凰院凶真全盛期は誰かれ構わず話すことが出来た。だが、あれは所詮こちらの独りよがりだ。勝手にまくし立てるように話していただけで、会話にはなっていなかった。黒歴史……とまでは言わないまでも、恥ずかしい過去であるのは間違いない。
「岡部さんと初めて会った時、あの子……紅莉栖がね、短い期間で誰かと……それも男の人と仲良くなるなんて、意外だと思っていたのよ。“紅莉栖”もそう言っていたわ」
そう言えば、“紅莉栖”がそんなことを言っていた気がする。自己分析の結果、オリジナルと俺が仲良くなったきっかけが分からない、とかなんとか。
「でも、今ならあの子が心を開いた理由が分かる気がする」
「理由……?」
ひとえに紅莉栖が俺を受け入れてくれたからだと思うのだが。俺はタイムリープをして何度も何度も同じ時間を繰り返していたから、短い期間とは言えないだろう。
「これは……あの子のためにも言わないでおくことにするわ。ま、あなたを信用しているということよ」
「むぅ……」
なんだかよく分からないが、信頼を得たというのならそれでよしとしよう。
「今さらながら、テスターの件については納得出来たわ。あなたが辛いというのもね。でも……」
「でも……?」
「たまにでいいから、気が向いたらまた、あの子と話してあげて?あの子も喜ぶと思うから」
これまで見せたことのない柔らかな表情だった。
「ああ。約束す………っ!」
その時だった。
いきなり。世界が歪んだ。
「うぐっ……⁉」
俺は、自分の身体を貫くように駆け抜けた激しい“違和感”に、たまらず苦痛の声をもらしていた。
ぐらりぐらり——と。
目の前の幸せなパーティの風景が、まるで蜃気楼のように揺らぎ出す。
こ、これは?まさか…そんなっ……!
どこか遠くで、ガターンと激しい音が響いた。
焦点の定まらなくなった目でかろうじてその方向を見ると、フブキがテーブルをひっくり返しながら床に倒れるところだった。
カエデやフェイリスが、驚いてフブキの名を呼び、駆け寄っている。
しかしそれは、あたかも水中の光景を見ているようにゆらゆらと不鮮明で、しかもひどくスローモーションなビジョンだった。
声も遠くへ遠くへと離れていく。
いくら手を伸ばしても誰にも届かず、何にも触れることが出来なかった。
時間と空間が支離滅裂に乱れ、全ての物質の“自我”さえもその主体性を失うかのように崩壊していく。そんなおぞましい感覚があった。
この感覚は———。
思い出したくもないこの最悪の事象を俺は知っている。
いやというほど思い知っている。
これは——。
リーディング……リーディングシュタイナーだ……!