STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月10日(月)
この世界線に来てから20日ほどが経過した。この最低最悪な世界線で俺は新年を迎えることになった。最初は驚きの連続だったが、戦争という非日常の世界にも少しは慣れてきた。
どうやら俺は丁重な扱いを受けられる立場にあるらしい。その理由については教えてもらえていないが。
今は、目立たないように時間をかけて遠回りしつつ、沖縄へと向かっている。
その途中で立ち寄った地下施設にここ数日はとどまっている。近くで大きな戦闘が続いているらしい。焦って飛び出すよりも、ここである程度戦闘が収まるまで待っている方が得策なようだ。ちなみにここがどこかは分かっていない。教えてももらえていない。
少しでも時間ができると、俺は世界線が変動する前のことを考えていた。
ラボでのクリスマスパーティ。比屋定さんと話している時、突然世界が歪んだ。その原因は言うまでもなく、ロシアによるタイムマシン実験だ。2010年8月21日にロシアの手に中鉢論文が渡ってから4か月。ついにロシアが動き出したのだ。
詳しくは分からないが、ロシアではなく、今なおソ連が存続している。冷戦が終了し、米ソによる戦争が始まったようだ。そこに日本も巻き込まれる形になったらしい。
過去をどんなふうに変えたのかは分からない。考えるだけ無駄だ。VIPのような待遇で迎えられている俺にも、何も情報は降りて来ない。おそらく俺には何かしらの利用価値があるということだろう。思い当たることとしてはリーディングシュタイナーを持っているということくらいだ。もしそうだとして、なぜそのことが知られているのかは分からないが。
考える余裕が出来たことで、俺にはあることを思い出した。
パーティの日。遠のく意識の中で、フブキが倒れるのを見た。あのタイミングで急に体調を崩したとも考えられるが、体の震え方が俺とあまりにも似ていた。
「リーディングシュタイナー……か」
それは誰もが持っているものだ。α世界線ではフェイリスやルカ子も、俺が別の世界線のことを目の前で話すことで、ないはずの記憶を思い出していた。
「フブキも、リーディングシュタイナーを持っているのか?」
可能性はゼロではない。
仲間たちと合流できないものか。ずっとそんなことを考えていた。
2010年1月21日(金)
沖縄に辿りつくまで1か月もかかったのは、戦況の悪化のせいだった。本来なら、俺は入間基地から空路で沖縄へと向かうはずだったらしい。それが陸路で向かうことになったため、こんなにも時間がかかってしまったのだ。
……冬の沖縄はどんよりとした厚い雲に覆われていた。
そんな呑気なことを考えていたら、迎えに来ていたフルスモークのワゴン車に乗せられた。
車内には運転手の他に、中年の男が助手席に座っていた。
「岡部倫太郎君だな?私は防衛省、中央情報保全隊の下山という。これから空港に寄り道してから、嘉手納の沖縄防衛局へ向かう。長旅で疲れているところ申し訳ないが、もうしばらく我慢してくれ」
「……はい」
東京が壊滅したことは聞いていた。在日米軍との協力体制を密にするために、沖縄の防衛局を臨時庁舎としているらしい。つまり、これから向かうのは日本の防衛の中枢というわけだ。
そこに行けば、俺がVIP扱いされ、命を懸けてまで護ろうとする意味が分かるのだろうか。
那覇空港では、意外な人物が乗り込んできた。
「わ、オカリンさんだ!」
フブキ——もとい、中瀬さんと、鈴羽だった。
こんなところで2人と出会うとは思ってもみなかった。だが、この世界線に来てから、はじめて会うことのできた知り合いだ。それだけで、涙が出るほどうれしかった。
「まゆりは?まゆりの行方を知らないか?」
ここまでの1か月間、ずっと気にかけていたことだ。
「大丈夫。さっきまでいっしょだったんだ」
一緒、だった?
「マユシィでしょ、留未穂ちゃんでしょ、るかくん、カエデちゃん」
「今朝、空港に着いて。みんな防衛局で保護してもらえるって話だったんだ。だから待ってたんだけど……さっき急に、あたしたち2人だけ先に連れていくって言われて……」
「それでこの車に乗せられたら、オカリンさんがいたってわけ」
ダルとかがりの名前が出ていないことに違和感を覚えた。
「…とにかく無事でよかった」
その二人についても確認してみるべきだろう。俺が口を開こうとしたとき——。
「すまないが、積もる話は後にしてもらってもいいだろうか」
下山がそう遮って、車が再び出発した。
下山の話では、俺たちの家族も後々沖縄まで護送してくれるらしい。それにまゆりたちも、別の車に乗せられているだけで、防衛局まで一緒に行くことになっているようだ。この車の後ろにもう一台のワゴン車が走っているのが見える
。
「…………」
どうして車を分けたのだろう。無理にでも詰め込めば、この車は全員が乗れる広さがある。それとも、俺と鈴羽、フブキを一緒にこの車に乗せたことに、何か意味があるのだろうか。
鈴羽の方をチラリと見るが、特に反応はない。フブキはかなり顔色が悪いが、鈴羽は平気な顔をしている。やはり経験の差だろう。
そんな疑問を口にすることも許さない雰囲気で、車は進んでいく。だが、過ぎ行く店はどれも閉まっていてる。
「暗いな…」
ぽつりと漏らした言葉に下山が反応する。
「なぁ、岡部君。君の知っている沖縄は、夜遅くまでもっと明るくて、楽しい場所だったろう?」
なんだか持って回った言い方だ。
「どうでしょう。俺は沖縄は初めてなので…」
「それはもったいないな。なら、次は楽しい旅行で来られることを祈ってるよ。ここは本当にいい島だ」
わざとらしい話し方。俺はこの下山という男に言い知れない不気味さを感じていた。何が目的なのだろう。
車は長いトンネルに入った。そこでまた、下山が口を開いた。
「実は3人に、防衛局に着く前に少しだけ質問をしたくてな。それでこうして同乗してもらった」
やはり、そうだったか。だから俺たちだけを別の車に集めたのか。でも、どうしてこの3人なんだろうか?
俺と鈴羽はともかく、フブキとは特別親しいわけではない。出会ったのもほんの数か月前——いや、それは世界線が変動する前の話だ。この世界線では俺たちの関係がどう変化しているかは分からない。
鈴羽もどういう未来から来ているのか分からない。これまでの情報を共有できているとは限らないわけだ。
…下手なことは言わない方がいいだろう。理由は分からないが、俺はVIP扱いされている。その強みをなくしてしまうべきではない。
「橋田鈴羽さん」
「はい」
いきなりの指名にも鈴羽は落ち着いて対応する。
「君は、橋田至君……君のお兄さんがどこにいるか知らないだろうか?」
ダルのことは兄で通っているらしい。
「兄さんとは東京で離れてそれっきりです。そちらで何か分かっている事はないですか?」
「………」
毅然とした鈴羽の対応に、下山が逆に黙ってしまった。
この態度から、下山が何かを暴こうとしているのが分かる。ダルについて知りたがるのは何故だ?俺たちの秘密を知っているのなら、目の前にいる鈴羽の方が価値のある存在であるはずだ。……タイムトラベラーなのだから。
と、下山の目が俺に向けられる。
「ときに、岡部君は橋田君と何か研究をしていたらしいね?」
「え?」
研究ってなんだ?そんなこと——。
「どんな研究をしていたんだね?」
もしかすると、ラボのことを言っているのかもしれない。…ここは無難なことで濁しておくしかない。
「研究というより……なんていうか、ちょっとした発明のアイデアというか…」
「発明?」
「竹とんぼにCCDカメラをつけて、空撮ができないか、とか…」
「ほう。なかなかおもしろいね…。それじゃあ、何かとんでもない物を作っていて、それを知られないために我々から逃げた……というわけではないんだね?」
「逃げた?」
ダルは俺たちを保護してくれるはずの自衛隊から逃げたっていうのか?こんな状況だ。こちらから保護を頼みたいくらいのはずなのに。それを捨ててでも逃げる理由があったということなのか?
「知らないのならいいんだ。橋田君たちのことは保留にしておこう」
ダルたちのことが、これ以上追及されずに済んでホッとした。だが、味方だと思っていた自衛隊だが、怪しいところが散見される。
俺をVIP扱いする理由。そして、ダルと鈴羽にこだわる理由。
とんでもない物を作っていて、知られないために逃げた。そう言われて思い当たるのは電話レンジ(仮)だ。鈴羽がこの時代に来ているのなら、タイムマシンだってあるはず。自衛隊はそれを狙っていて、ダルはそれを隠すために逃げた、ということだろうか?
それなら鈴羽もいっしょに逃げていないと説明がつかない気がするが……。もしくは鈴羽がダルを逃がすために、こちらに残ったというのも考えられる。
それと、一向にかがりの名前が出てきていないことが気になる。世界線が変わってしまった事で、かがりはこの時代にはやって来ていないのだろうか?