STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月23日(日)
「こ、これは……まさに“Paradise”……!」
秋葉原の街で、比屋定さんは異常なまでにテンションが上がっていた。
秋葉原と言っても、いわゆる萌えの街ではなく、電気街の方を案内していた。およそ女の子を案内して見られる反応ではない。そもそも電気街の方なんて案内しない。
それからもジャンクパーツを見ては大声を上げて感動している。正直ついていけない。
『真帆先輩は、実はこういう人なのよ』
「俺も、ここは何度か来たことがあるが、あんな顔をしてパーツを愛でる人間には、これまで1人しかお目にかかったことがない」
『分かった。橋田さんのことでしょう?』
「ああ…」
『さすがにあの人と同類扱いするのは、先輩がかわいそうよ。あんたの話を聞く限り、橋田さんってとんでもないHENTAIだから』
教授と比屋定さんは2月頃には帰国すると言っていたのが、数日後に決まったのだ。もうすぐ日本を離れることになったので、以前約束した秋葉原案内を頼みたい、と連絡があったのだ。
だから俺は比屋定さんと“紅莉栖”を連れて、秋葉原の街に繰り出していた。
昨日はフブキのお見舞いに行っていた。面会時間は短く、あまり話せなかったが、それなりに収穫はあった。フブキはロシア世界線のことをかなり鮮明に覚えていたのだ。
そして俺が自分と同様の症状を持っている事も理解していた。
俺はフブキの不安を和らげるためにリーディングシュタイナーについて説明しようかとも思ったが、やめておいた。フブキには悪いが、俺が話したことを看護師や他の人に話してしまった場合、俺に疑いの目がかかってしまう。
鈴羽もそれで納得してくれていた。
鈴羽、といえば、今日も見えないところから俺たちを見ているらしい。それとなく周囲を見回してみたが、鈴羽らしい姿は確認できない。やはり軍人というのはすごいんだな。
「ちょっとだけ、覗いてみてもいいかしら?」
そろそろ昼食でも、と思い駅前の方に出たところ、比屋定さんがある店の前で足を止めた。
それはゲームセンターだった。
真帆はわき目もふらず、クレーンゲームに近づいていくと、ガラスにへばり付いて中を覗き込んだ。
そこには、@ちゃんねる生まれのキャラクターを商品化したぬいぐるみが色々と入っていた。
もしや真帆も紅莉栖と同じように、隠れ@ちゃんねらーなのだろうか。
「おい、“紅莉栖”。比屋定さんもお前と同じく@ちゃんねらーなのか?」
こういうものに興味を示すのが意外過ぎて、俺は“紅莉栖”にそう尋ねた。
『ちょっ!おま…っ!わ、私、そんなの知らないわよっ!あっとちゃ…?なにそれ?』
分かりやすく焦っている。隠すつもり、ないだろコイツ。
「隠さなくていい。お前が生粋のねらーであることは把握済みだ」
『ちょっとあんた!勝手なこと言ってんじゃないわよ!どこにそんな証拠が……』
「ぬるぽ」
『ガッ………あ、しまった』
コイツ、『Amadeus』でも変わらないな。
「お前がねらーであることで、研究に影響が出たりはしないのか?なんというか、研究対象は清廉潔白でなければならないというか……」
『べ、別に個人の趣味までとやかく言われないわよ!というか先輩たちには絶対にバレないようにしてるんだから、余計な事言うんじゃないわよ!』
そんな“紅莉栖”は無視して、比屋定さんに声をかける。
「比屋定さん、そのぬいぐるみがほしいのか?」
「え、ええ。これ、かわいいじゃない」
“紅莉栖”と同じことを試してやる。
「ぬるぽ」
「………?」
引っかからない。さすがに違ったか。
「ぬる…何?それは何なの?」
「いや、“紅莉栖”の好きな——」
『うるさいうるさいうるさーい!真帆先輩に余計なこと吹き込んでんじゃないわよ!』
「?」
必死になる“紅莉栖”に、比屋定さんは首を傾げる。
「でも、比屋定さんがそんなぬいぐるみに興味を示すなんて、意外だな」
「ああ。これね。紅莉栖のベッドルームに置いてあったのよ」
「へぇ。そうなのか」
『ちょっ!真帆先輩?』
アメリカまでわざわざ取り寄せたのだろうか?
「紅莉栖はそれがなんのキャラクターなのか教えてくれたか?」
「いいえ。何度か訊いてみたけど、延々とはぐらかされたわ」
「ははは。だろうな…」
「だからずっと気になっていたのよ。岡部さんは知っているの?」
「うーん。まぁ」
『お~か~べ~……!』
「お、俺も知らないんだ。ははは…」
そこまでして隠さなくてもいいだろうに。まぁ、その界隈に明るくない人の反応は刺さるからな。何も知らない彼女には知られたくないというのも分かる話だ。
「そう…」
名誉は守ってやったぞ。感謝しろ、“紅莉栖”。
「やっぱり、2人は仲がいいのね。たまに私の分からない言葉でやりとりしているみたいだし」
『わ、分からない言葉って、何のことでしょうかね……あはは、あはははは』
それから比屋定さんはそのクレーンゲームに挑戦した。クレーンゲームは初めてのようで、意気揚々とチャレンジしたのだが。
「ちょっ、これ、どうなってるのよ!アームが弱すぎるんじゃないの⁉」
商品を取らせないために弱く設定してあるアームに怒っていた。次々と100円玉を投入しては撃沈している。そして——。
「むぅぅっ……」
真帆は唸ると、残った300円を握りしめたまま、ゲームセンターの奥へと歩いていった。
…かつて偉い人は言った。クレーンゲームは貯金箱であると。
その後、“紅莉栖”の厳命により、レースゲームに夢中になっている比屋定さんの代わりに俺がぬいぐるみを手に入れることになった。挑戦してみると、意外とあっさり手に入った。
それを持ってレースゲームの筐体に向かうと、人だかりができていた。レースゲームの達人らしい。この店のレコードタイムを叩きだしていた。
「おめでとうございまーす!当店のベストレコードでーす!」
周囲から歓声と拍手が起こる。それに気づいた彼女は顔を真っ赤にして目を泳がせている。
「え、あぁ…う」
これは助けた方がよさそうだ。俺は人をかき分けて彼女のもとまで行くと、手を掴んで店の外まで出た。
雑踏の中をしばらく歩き、ようやく店が視界から消えると、比屋定さんは大きく息を吐きだした。
「ふぅ。迂闊だったわ…」
「何がだ?」
「つい熱くなってしまって、本気を出してしまったの…」
「これのせいか?」
俺は提げていた戦利品を渡した。
「なに?」
がさごそと袋を開けてぬいぐるみを引っ張り出した。
「これ、とれたの⁉」
「運が良くてな。君にプレゼントするよ」
「いいの?」
「俺が持っていても仕方ない」
「そ、そう?じゃあ遠慮なくいただくわ」
まるで幼い少女のように無垢な表情で、ぬいぐるみをぎゅっと抱いた。こっちまで嬉しくなる。
「紅莉栖が亡くなった後ね、お母さんから形見を色々ともらったわ。けど、これは紅莉栖がとても可愛がっていたからって、お母さん、自分のベッドルームに飾っていたのよ」
@ちゃんねるのキャラクターだと知らなければ、それなりに可愛い造形をしている。娘の形見として飾っておいてもおかしくはなそうだ。
「だけど、紅莉栖の実家がね、ああいうことになって…ぬいぐるみも燃えてしまったと思うの。きっと」
『先輩…』
“紅莉栖”が神妙な顔で聞いている。去年の3月を最後に、紅莉栖から派生した存在だとは言え、母親の記憶については変わらないはずだ。
“紅莉栖”はそういうことを一度も語ったことがないが、どう思っているのだろうか。
「だから、これはアメリカのお母さんにプレゼントしていいかしら?」
「もちろん。喜んでもらえるなら、それが一番いい」
「ありがとう」
“紅莉栖”も嬉しそうな顔をしていた。
「さてと、次はどうする?見てみたい場所はあるか?」
と、提案したところで、比屋定さんの表情が変わった。
「……“紅莉栖”、悪いけど、しばらく岡部さんと二人きりにしてくれる?」
だがやはり“紅莉栖”は恋愛脳で——。
『先輩…ついに、自分の気持ちに素直になることにしたんですね……!岡部、ちゃんとしなさいよ』
それだけ言うと画面から消えていった。真帆も全く相手にしていなかった。
「行きたい場所。もうひとつあるんだけれど…」