STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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「これ以上は考えても無駄か……」

 

情報漏洩の対策をするくらいしか出来ることがない。やはり、その時になってみないと分からないのかもしれない。せっかく、鳳凰院凶真の復活というアドバンテージを得たのに、何も出来ないのは歯がゆい限りだ。

 

「そうだね。今はそれよりも、そんな事態がいつ起こるのかについて考えた方が良さそうだ」

 

現段階の仮説としては、それはまゆりと鈴羽のタイムトラベルと紐づいていると考えられる。

 

その2人がいつからやって来たのか。

 

「まゆねえさんと父さんの話だと、もう一台のタイムマシンはあたしが乗ってきたものと全く同じだったみたいだよ」

 

「全く同じ……」

 

「未来で父さんは、いくつかタイムマシンの試作機を作ったって言ってた。その中でも、完成品と言えるのはあたしが乗って来た機体、C204型しか存在していない」

 

それはつまり、2025年や2036年の鈴羽やまゆりではなく、この時代にやって来てからの2人がタイムトラベルして来たということになる。

 

割と近い未来での出来事だということなのだろうか。

 

「もう少し取っ掛かりが欲しいな。鈴羽。2人はそれ以外に何か言っていなかったか?」

 

俺は倒れるように寝てしまったから、詳しい話を聞けていない。

 

「えっと……」

 

鈴羽はまゆりから聞いた言葉を必死に思い出している。

 

 

 

『そのときに、どんなことをしてでも……あなたにとっての彦星さまを、呼び覚ましてほしいんだ。』

 

『26年と…1年分の想い。あなたに託したからね!』

 

 

 

「まゆねえさんはこんなことを言ってたよ」

 

「彦星……?それに26年と1年分というのは……?」

 

彦星はまるで分からんが、26年というのは分かる。今が2010年。そして運命の日は2036年。その間がちょうど26年だ。世界線Aのまゆりにとっては、俺が諦めてしまっている状況を26年間も見せられていたことになる。2036年のまゆりには、募る想いがあるのだろう。

 

「彦星は………まぁいいか」

 

鈴羽は何か分かったようだ。

 

「うん?何か分かったのか?」

 

「ううん。なんでもないよ」

 

だが、鈴羽はピンときていない俺を見て、なんだか呆れたような顔をしている。……なんだというんだ?

 

「26年は2036年だろうね。それで1年分っていうのは……」

 

どこから数えて1年なのか。今からというのであれば2011年ということになるが。

 

「2011年……か」

 

「思い当たる事が?」

 

「うーん。タイムマシンのことなんだけどさ。燃料の限界が来るのが2011年の7月頃なんだよね」

 

鈴羽はさらりとそう言った。

 

「………燃料?」

 

そう言えば、タイムトラベルをする前にそんなことを言っていた気がする。何度もタイムトラベルをするだけの余裕はないと。

 

「跳ぶ先を2010年7月28日として、安全に跳べる限界がそれくらいなんだ。今すぐ跳ぶっていうなら、まだある程度余裕はあるんだけどさ。タイムマシンって燃費が悪くてね。起動していない時でも、内蔵されている量子コンピューターが座標計算をし続けているんだ。だから少しずつ燃料が減っていくことになる」

 

「……それはこの時代では用意する事が出来ないのか?バッテリーを交換するとか」

 

鈴羽は首を横に振る。

 

「あたしも詳しくは分かってないけど、2036年の技術はこの時代とは比べ物にならない。今ある最新鋭のバッテリーを用意したところで、数秒も持たないはずだよ」

 

「そ、そんなにか……」

 

簡単に量子コンピューターと言っているが、それだって現時点では存在しないオーパーツだ。いくつかの国で完成したなどとうそぶいているが、実用段階には到底及ばないレベルだろう。

 

「話を戻すよ。世界線Aのおじさんは、世界線を変える事を良しとしない。となれば、燃料の限界までにタイムマシンを動かすことをおじさんは絶対に認めないはずだ。でも、そうしている間に取り返しのつかない事態になった。だから作戦を実行した。……そう考えれば、タイミングは来年の7月、ということになる」

 

だから1年。未来のまゆりの想いと、この時代のまゆりの想いを乗せた作戦。

 

「それが正しいとすれば、あと1年もしない内にお前とまゆりはタイムトラベルをしなければならないということだな」

 

「うん。そうだね……」

 

「2人は無事に帰ってこられるのか……?」

 

「…………」

 

β世界線のタイムマシンは過去にも未来にも跳べる。だから何も心配していなかったが、こうなると話は変わる。仮に作戦実行が来年の7月だとして、燃料は片道分しかない。出発したタイミングに帰ってこられるかどうか。いや、それ以前の問題だ。

 

そもそも無事に跳ぶことが出来るのか。

 

だが、この作戦が実行されるのは確定している。この作戦を起因として、鳳凰院凶真が死なないという結果が生じたのだから。鳳凰院凶真が死なないことが確定しているこの世界線においても、それは踏襲されなければならない。

 

2人は無事に帰ってこられるのか……。

 

「……待てよ。なぁ、鈴羽。お前はまゆりを知っているんだよな?」

 

「はぁ?何言ってんの?知ってるに決まってるだろ」

 

「いや、そうじゃなくてだな……」

 

まゆりと鈴羽がタイムトラベルから帰ってこないのであれば、椎名まゆりという存在は2011年を境に消える事になってしまう。

 

それならば、鈴羽はまゆりを知らないはずだ。鈴羽だけじゃない。まゆりがいなければ、どうやってかがりを養子に迎えると言うんだ?

 

「まゆりは未来において存在している…………それはつまり」

 

「あたしとまゆねえさんは、無事に帰って来る……?」

 

いや、無事に帰って来るのは難しいだろう。燃料は片道分のみ。

 

「鈴羽。お前は小さい頃からまゆりのことを知っていたのか?」

 

「え、あ……どうだろ。小さい頃のことなんて……」

 

「だが、お前は俺を知っていただろう?俺は少なくとも2025年にはこの世界線から消えるはずだ」

 

どうやって死ぬのかは定かではないが、俺は2025年に死ぬ。それはαでもβでも共通しているらしい。鈴羽が生まれるのは2017年。少なくとも、8歳か9歳頃までは俺がいたはずだ。

 

「俺と一緒に、まゆりがいた記憶はあるか?」

 

「そう、いえば……おじさんとまゆねえさんが一緒にいるところって見た事ないかもしれない。ううん。絶対にない。おじさんがいなくなったことは覚えてるんだ。あたしが悲しんでた頃、ふと気づいたらまゆねえさんがいた」

 

「……まゆりの年齢はいくつくらいだった?」

 

「年齢?2025年頃ってことは、ねえさんは30歳くらいなんじゃない?いや、でもそんな年齢には見えなかったな。もっと若かったような……」

 

その答えで俺は確信を得た。

 

やはり、この作戦の結果、まゆりと鈴羽は帰ってこない。だが、死んでしまったというわけではない。2025年を迎えたら、俺たちはタイムマシン試作機を完成させ、2人を迎えに行くのだ。そして無事に2人を連れ戻した。

 

2人がタイムトラベルするのが2011年だとして、その時点でまゆりは17歳。その年齢のまま2025年へと戻ったのなら、14年ものブランクがあることになる。鈴羽が若いと感じるのも当然だ。

 

 

……これは希望だ。

 

「具体的な作戦内容やタイミングはまだ分からないが、鈴羽とまゆりは無事に戻って来られる。これは楽観的なわけでもなく、お前が未来で経験したことに基づく収束だ」

 

片道切符の過酷な旅だと思っていたが、希望が見えた。

 

まだ推測の域を出ていない仮説だが、的外れではないはずだ。

 

「かがりにも確かめてみる必要があるな」

 

「……かがり?」

 

「まゆりがかがりを養子として引き取ったのはいつだ?」

 

「2032年.まだかがりが6歳だった頃だよ」

 

俺の推測通りなら、2032年時点でまゆりは24歳。かがりの母親となってもおかしくはない年齢だ。

 

「でもさ、未来であたしはもう一人のあたしを見たことなんてないよ?」

 

「それは……そうだろうな。過去と未来の自分が鉢合わせるなんて、取り返しのつかないタイムパラドックスが起こりかねない。連れ戻すのがまゆりだけ、なんてことはありえないだろうから、お前は2025年に戻った後、幼い自分に見つからないように身を隠していたんじゃないか?」

 

「あ、そうか……。そうだね」

 

いつか訪れるその日、俺は2人を送り出すことなんて出来ないと考えていた。シュタインズゲートのためであっても、2人を巻き込むことなんて出来ないと。だが、これなら……。

 

「お前はこのことを心配していただろう?」

 

「え、あ……うん。おじさんがまゆねえさんを行かせるわけないって思ってたからね。でも、希望があるならおじさんは止めたりしないよね?」

 

「ああ。そうだな。もう少し話がまとまったら、まゆりにもこの話をしなければならない」

 

「まゆねえさんは、絶対に行くって言うだろうね。一度決めたら絶対に曲げない人だから」

 

鈴羽の言うとおりだ。あいつは優しいが、頑固だ。ここ一番の時には、絶対に誰にも流されない強さを持っている。

 

 

 

「そう言えばさ、この世界線では作戦が実行されること……おじさんが諦めないのは確定しているんだよね?」

 

「ああ。そうだな。俺がそう選択した以上、そういうことになるはずだ」

 

「それなのに、世界線は変動しなかったの?おじさんなら変動するのが分かるんでしょ?」

 

まゆりが俺の頬を張って激励した瞬間だろう。

 

「変動はしなかった。というよりも、あの作戦によって世界線が変動することはないだろうな」

 

「え、どういうこと?」

 

「先ほど鈴羽は世界線をAとBに分けたが、実際には3つ。Cまで考える必要がある」

 

「3つ……?」

 

「そもそもの話になるんだが、この作戦はまゆりと鈴羽の思い付きで実行されたものではないはずだ」

 

「思いつき?」

 

「俺たちの予想通り、2011年の7月に取り返しのつかない問題が起こって、鳳凰院凶真を復活させなければならない状況になったとして、2人がいきなり空白の1分目掛けてタイムトラベルしよう、という流れになると思うか?」

 

「それは……」

 

出鱈目に過去に干渉して、それが確定してしまった場合、予想も出来ない世界線がアクティブになる可能性がある。そんなイチかバチかにかけて、鈴羽が行動するとは考えられない。

 

「まず、世界線Aでは鈴羽とまゆりがこの作戦を思いつく。だが、何かしらの邪魔が入って実行は出来ないはずだ」

 

起こる問題か、世界線を変えさせまいとする俺自身か。

 

「鳳凰院凶真が復活しないことが確定している世界線だからな。だからこそ、その未来においてこの作戦が立案されることになる」

 

取り返しのつかない事態になったのなら、諦めてしまった俺だって重い腰を上げるだろう。未来で俺とダル、その他のワルキューレのメンバーによって作戦の詳細を決めるはずだ。

 

「そしてそれをDメールにして過去に送るはずだ」

 

「それを受け取るのが……世界線Bってこと?」

 

「そうだな。Dメールを過去に送信した瞬間に世界線は変動する。本来は存在しなかったDメールが存在する世界線Bがな」

 

Dメールを送る先は、おそらく俺ではなく鈴羽になるはずだ。諦めている俺に送ったところで、そんな作戦を実行に移すとは考えにくい。鈴羽に送る事で完璧に実行させようとするはずだ。

 

「だが、世界線Bにおいても鳳凰院凶真が復活することはない。Bもまた、鳳凰院凶真が死んでいる事が確定している世界線だからな」

 

鈴羽とまゆりが鳳凰院凶真を蘇らせるためにタイムトラベルする、という行動は本来存在しない事象だ。仮にそれを実行したとしても、確定した未来から外れた行動は無意味となる。だが、

 

「その結果、俺が復活したという事実が世界線に認められた時、確定した過去と未来に反した行動となり、鳳凰院凶真の復活が確定する」

 

「その瞬間に、世界線Cがアクティブになる?」

 

「そうだ。そしてその世界線Cこそ、俺たちが今いるこの世界線だ。作戦は成功し、鳳凰院凶真は復活した」

 

「……それなのに、世界線は変動しないの?」

 

「その考え方は間違っているぞ、鈴羽。世界線の変動なんてのは、どの立場から見るかによって変わる曖昧なものなんだ」

 

単純化すれば、世界線Aから世界線Cへと変動する流れになるが、俺たちがいるのはCだ。Aの俺から見れば、Cがアクティブになるわけだから、世界線は変動することになるが、そもそもCにいる俺にとってはその世界線がそのまま続くことになる。だからCの俺にとって変動は起こらないことになる。

 

だからあの時、俺のリーディングシュタイナーは反応しなかったのだ。

 

「えっと……でもそれだと、AのオカリンおじさんはリーディングシュタイナーでCへと移動して来るんじゃないの?」

 

「……そうだな。世界線が変動するのは、過去への干渉を行ったタイミングだ。俺たちの予想が正しければ、Aの俺が移動して来るのは来年の7月だと言える」

 

俺はα世界線で、過去改変を行う立場だった。だから俺は過去に干渉するたびに世界線を移動し、変動先の俺に上書きされる形で世界線を漂流し続けてきた。

 

だが、今回は違う。俺は変動先の世界線にいるのだ。つまり、その日が来れば俺は移動して来る別世界線の俺に上書きされることになる、ということだ。

 

「……おじさんがおじさんじゃなくなっちゃうってこと?」

 

鈴羽が不安そうな顔で俺を見る。

 

「心配には及ばん。記憶が上書きされようと俺は俺だ。紅莉栖を救うために闘うのは変わらないさ」

 

俺がこれまで何度もしてきたことだ。今回は俺にその順番が回ってきたというだけのこと。恐れる事では決してない。

 

「…………」

 

強がってみたところで恐怖はある。リーディングシュタイナーで移動してきた自分自身に上書きされるという事態ははじめての経験だ。

 

「昨日からずっと考えていた事だ。だからダルやまゆりには話さなかった。あいつらはきっと、それを知ったらしり込みするだろうからな」

 

「そ、そんなのあたしだって……」

 

「ああ。分かってるさ。お前は優しいやつだ。だが、お前なら分かってくれるだろう?」

 

「卑怯、だよ……」

 

シュタインズゲートに辿り着けば、β世界線は全てなかったことになる。その最たる存在が鈴羽だ。α、βとタイムトラベラーとしての運命を仕組まれた鈴羽。シュタインズゲートではそんな過酷な運命から解放されることになるが、これまでのことは全て消える。

 

鈴羽がそれについて何も思わないはずがないのだ。

 

例え消え行く世界だとしても、何かしらの足跡は残したい。誰かに覚えていてもらいたい。そう願うのは当然だ。

 

「お前のことは俺が必ず覚えている。リーディングシュタイナーを持つこの俺がな。だからお前も俺の事を覚えていてくれればいい。俺はそれで大丈夫だ」

 

キザな台詞だという自覚はある。だがそれでいい。

 

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