STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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「父さん!おじさん!無事っ!?」

 

ラボに着くなり、鈴羽がものすごい勢いで入って来た。

 

「ごめん。おじさんたちを追いかけてた連中とやりあってたんだ。ケガはない!?」

 

鈴羽の顔や服に血が付いている。

 

「俺たちはなんとか大丈夫だ。それより鈴羽。お前は大丈夫なのか!?」

 

付着した血を指さして言うと、鈴羽は首を横に振った。

 

「大丈夫。これは相手の返り血だよ」

 

どうやら鈴羽は相手を撃破したらしい。流石だ。

 

「間に合わなくてごめん。クソっ……肝心な時に傍にいれないなんて……」

 

鈴羽は落ち込んでいるようだったが、十分な活躍だ。鈴羽がやりあったのはおそらく、監視カメラに最初に映った連中だろう。ラウンダーとロシア以外の第三勢力。鈴羽が奴らを押さえてくれていなければ、あの場はもっと混沌としていたはずだ。

 

「鈴羽!無事でよかった!って血がついてるじゃん!やられたのか?撃たれたのか?うわぁ!鈴羽に傷が……!」

 

洗面所から戻って来たダルが血を見て大騒ぎする。鈴羽に触れて、傷をくまなく確かめている」

 

「と、父さん。あたしは大丈夫。大丈夫だから!」

 

これは返り血だと説明するがダルは聞いていない。無理もないが。

 

 

「岡部さん。ここ、タオルって置いてある?」

 

「ああ、洗面所にあるぞ」

 

真帆は洗面所に行くと、新しいタオルを持ってきた。

 

「岡部さん、首、血が出てる。これで押さえて」

 

そう言ってタオルを渡された。

 

「え?あ、あぁ……ありがとう」

 

首筋は血でべっとり濡れていた。幸い、そこまで深い傷じゃなかったが、血が止まるまでしばらくかかった。銃撃で吹き飛ばされたときに切ったのだろう。

 

真帆は床にペタンと座り込んで、放心していた。無理もない。襲われるのは二度目。そして今日は人が目の前で殺された。

 

「大丈夫か、比屋定さん」

 

「え、ええ…」

 

真帆は曖昧にうなずいたが、さっきから顔色はずっと真っ青だった。

 

それに、よく見ると左手をずっときつく握りしめていて、そこから少し血が流れている。

 

「怪我したのか?見せてくれ」

 

「え、あ……」

 

自分でもそれに気づいていなかったらしい。自分の左手を見て、困惑している。

 

「あ、ら…?」

 

「どうした?」

 

「指、開かない……変ね」

 

真帆の左手は、なにか小さい破片のようなものをギュッと握りしめていた。そのまま硬直してしまって、自力では指を開けなくなってしまっている。そのうちに、ブルブルと震え出した。

 

俺は真帆の左手を取ると、少し強引に指を1本ずつ開いていった。

 

なんとかその手を開いてやると、握りしめていたものが床に落ちた。いったい、何を握ってたんだ?

 

拾い上げてみる。

 

それは赤い色をした、マグネシウム合金の破片だった。銃で粉々にされた、紅莉栖のノートPC。路上に転がっていたその破片の一つを、逃げる時にとっさに拾って持ってきたのだろう。

 

こんなにも先端が尖っているものを強く握りしめていたのなら、血が出るのも当然だった。

 

「………」

 

無言で真帆に渡す。

 

彼女はすでに壊れてしまったその残骸を、大切そうに両手で受け取り、呆然とした顔で見つめた。ふと、その目から涙が一筋こぼれ落ちる。

 

「う……うっ……ううっ……」

 

後はもう、止まらなかった。真帆は表情をくしゃくしゃにして、泣き崩れた。

 

「く、紅莉栖……ごめん。ごめんね……。守って、あげられなくて……」

 

まるで破片そのものが、紅莉栖であるかのように。それを胸に抱きしめて、嗚咽し続けた。

 

「比屋定さん。きっと、紅莉栖は安心したと思う。」

 

「え?」

 

「君が無事でよかったって…。だから、君が謝ることなんてない。謝らなくて、いいんだ」

 

真帆の返答はなく、その代わりに、スマホのバイブ音が響いた。

 

「レスキネン教授からだわ…」

 

その名前に俺はビクッと反応する。

 

レスキネン教授……。どうやっても疑いを晴らすことの出来ない人。

 

「何かあったのか?」

 

教授から届いたメールに目を通す真帆の顔がさらに蒼白になった。

 

「…荒らされた、って。オフィスと、あとホテルの部屋。教授と私の。ひどいことになってるって」

 

「そうか…」

 

ラウンダーにしろ、ロシアの兵士たちにしろ、最初にコスプレショップを包囲した連中にしろ、狙いは紅莉栖のノートPCだったんだ。

 

そこにレスキネン教授の陰があるのかどうか……。

 

「あのPC、俺たちが預かってるHDD以外にバックアップは存在しないんだよな?」

 

「ええ…」

 

「それなら、これでよかったんだ。紅莉栖の残したものが、何十億人もの人を殺す道具として使われることは、なくなったんだから」

 

結果的に、俺が望んでいた形になった。データは誰の手に渡ることもなく、破壊された。あれだけ粉々になったら、復元するのも不可能だろう。

 

「よかったの……かしら?」

 

「俺たちの気持ちは別として、な」

 

ロシアの兵士たちは俺たちに銃を向ける事なく去って行った。

 

「ロシアとしてはタイムマシン論文が他勢力の手に渡るのを防ぐことが出来た。それで十分だと判断したんだろう。だから俺たちの事も見逃した」

 

「あれだけ粉々にしちゃったら、もう復元なんて不可能だろうし……」

 

「そう。それが重要なんだ」

 

「へ?」

 

「あの場には、SERNのラウンダーと所属の分からない勢力がいた。そいつらの前でノートPCが完全に破壊された。そしてそのノートPCのロックを解除できていないことも連中は把握している」

 

「なるほど。結果的には悪くないかもしれないね」

 

鈴羽はすぐに気が付いたようだ。

 

「俺や比屋定さんが狙われる理由がなくなった、ということだ。公衆の面前でノートPCが破壊されたことで、俺たちに価値はなくなった。連中はロシアの持つ中鉢論文を直接狙う他なくなったというわけだ」

 

もちろん、『Amadeus』の中にあるタイムマシン論文が狙われる可能性は十分にある。だが、見るからに衰弱している真帆の前でそれを言うのは憚られた。

 

「比屋定さん。紅莉栖の形見が壊されてしまった事は残念だが、悲しんでもいられない。まずは生きて帰ってこられたことを喜ぼう」

 

「そう、ね……」

 

「オカリン。これからどうするん?あれだけやらかしておいて、すぐに狙ってくるなんてことはないと思うけど……」

 

「さすがにラボに居続けるのは危険だろうな。天王寺さんの動きも気になるし……」

 

ラウンダーが動いたのなら、階下の天王寺の指示であった可能性は高い。俺たちに目を付けているかどうかは分からないが、少なくともここからは離れた方が良いだろう。

 

「となると、やはりあいつに頼るしかないか……」

 

こういうときにいつも頼ってしまうのが申し訳ないが。

 

「日が暮れたら移動しよう。比屋定さん。動けそうか?」

 

「え、ええ。大丈夫よ。……岡部さんって、強いのね」

 

「俺が?そんなことないよ。ただ少し慣れているだけだ」

 

こんなことに慣れているなんて、誇れることではないがな。

 

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