STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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「岡部さん」

 

「………俺の事か?」

 

「あなた以外に誰がいるのよ……」

 

あれからずっと2人で小難しい話を続けていた。俺はやることがなくて、豪勢な絨毯の毛の数を数えていた。

 

もうすでに昼を過ぎている。

 

「話は終わったのか?」

 

「オカリン、男のジェラシーは格好悪いって」

 

「黙ってろバカダル!別に俺は俺の任務をこなしていたから問題はない」

 

「あーはいはいワロスワロス」

 

「……それで、要件は何だ?」

 

ため息交じりに真帆が応答する。

 

「タイムリープマシンの段取りはついたわ。そうね。2か月もあれば形にはなると思う。もう一度日本に来たタイミングで実際に組み立てることになると思うわ」

 

「そうか。それはいいことだな」

 

「………。それで、さっきの話の続きなのだけれど」

 

「さっきの?」

 

「これから具体的にどうするのか、という話よ。シュタインズゲートを目指すためにね」

 

昨日、ダルのアジトで真帆に話したのは、α世界線で俺が経験してきたことや、β世界線での未来……つまり第三次世界大戦が起こる事についてだ。

 

シュタインズゲートを目指すために必須である中鉢論文の消去。それについてはほとんど話していない。

 

これまでの真帆との付き合いの裏にはかなりの打算があった。『Amadeus』の中に眠るタイムマシン論文や、

 

今思い返してみると、最低な事をしていたと思う。

 

 

「真帆。俺たちはまず、君に謝らなければならないことがある」

 

昨日の晩もこんなことを言ったな。……隠し事が多いな、俺たちは。

 

「………あの話なら聞かないわよ?」

 

紅莉栖の件についてだ。あれについてはあの場限りにしてくれと言われた。全てを分かった上で、俺を許してくれたんだ。その気持ちを無碍にするつもりはない。

 

「そうじゃないんだ。あの……だな。俺たちは君に対してまだいろいろと話していないことがあるんだ」

 

ダルは俺を一瞥すると、頷いた。俺に任せるということだ。

 

「聞くわ」

 

「俺たちは、『Amadeus』の中にあるタイムマシン論文を消し去りたいと考えている。出来ることなら論文のデータだけを。だが、もしそれが無理なら『Amadeus』ごと消しさりたい。そう、考えているんだ」

 

真帆に驚いた様子はなかった。

 

「……驚かないんだな」

 

「ええ。その可能性は考えていたから。紅莉栖のノートPCが狙われた時点でね」

 

流石は真帆だ。

 

「あの中に、タイムマシン論文があるのは間違いないのよね?」

 

「……ああ。ある。確実にな」

 

「………」

 

「俺たちはいつか、君の研究を奪うことになる。それを分かっていながら、俺たちが歩みを止めることはない。いつかは必ずそうする。それでいて、俺たちは君に一緒に来てほしいと思っている」

 

真帆がどれだけ『Amadeus』を大切に思っているかは知っている。真帆は誰よりも研究者らしい研究者だ。彼女からそれを奪うことが何を意味するのかも知っている。それを伝えないまま、彼女を受け入れた自分のズルさが嫌になる。

 

「私は大丈夫よ」

 

「……真帆」

 

「強がっているのは間違いないわ。『Amadeus』を消し去る日が来たら大泣きするかもしれないわね。でも、それが必要な事だとは分かっているつもりよ。紅莉栖を助けるために必要であるなら私は躊躇わない。だから………私は大丈夫よ」

 

強いな。本当に強い。これだけの覚悟を前に誤魔化すのは不誠実だ。……全てを話そう。

 

「もう一つ、話しておきたいことがある。それは……俺たちが、レスキネン教授が明確に敵だと考えている事だ」

 

「明確な……敵?」

 

レスキネン教授とレイエス教授。その2人が怪しいと真帆も言ったが、俺たちのそれはそのレベルじゃない。

 

「12月にホテルの地下で襲われた件、そして昨日のこと。オフィスと君のホテルが荒らされたこと。それら全て、レスキネン教授によるものだと考えている」

 

「…………」

 

真帆は言いたいことを飲み込んで、続きを話すように促してきた。

 

そもそも、俺たちが教授を怪しんだのは、『Amadeus』のテスターを勧めてきたことだ。ただの大学生である俺に、最先端の人工知能の研究協力を依頼するなんて考えられない。

 

『Amadeus』の講演を聞いた時には、その中に眠るタイムマシン論文が、誰かに利用されないようにするにはどうすればいいのか、ということしか考えていなかった。懇親会で真帆と話したのは偶然だったが、そこにはもちろん探りを入れてやろうという下心もあった。だからテスターを引き受けたんだ。

 

「あなたからすれば、そんな爆弾を引っ提げて近づいてくる私たちを怪しむのは当然ね」

 

「君を利用していたようで申し訳ない」

 

だが、真帆のことはすぐに信じられるようになった。紅莉栖の死の真相を知りたいと願う真帆の顔に、嘘はないと思ったからだ。

 

「気にする事ないわ。打算があったのはお互い様なんだから。私は私で、あなたが紅莉栖の真実を知っているのではないかと考えていたわけだし」

 

「……そう言ってもらえると助かるよ」

 

俺はテスターを続ける中で、“紅莉栖”に余計な情報を与えてしまいかねないと考えて、やめるとまでは言わないが、積極的に関わるべきではないと判断した。“紅莉栖”と話すのが辛い、というのは嘘ではなかったしな。

 

「でも、俺がテスター報告会で、テスターに消極的だと伝えた時、教授は俺を引き留めなかった。教授が俺にテスターを依頼した理由が、俺から情報を引き出すためだと考えていたから、分からなくなったんだ」

 

「あなたから情報を引き出すなら、テスターは続けさせたいものね」

 

「ホテルの地下で男に襲われたとき、教授も一緒にいたのが災いした」

 

「そうね。教授が黒なら、自分は巻き込まれない形で襲わせるはずだもの」

 

「でも、その疑念はすぐに解消された。決定的だったのは君がノートPCとHDDを持ち込んだことだ」

 

ホテルの地下で襲われたのは、『Amadeus』を狙う産業スパイか、『Amadeus』に反対する人間か。そのどちらかだと思っていた。だが、真帆がノートPCを持ち込んだことで、真帆を狙う理由が判明した。目的は紅莉栖のノートPC。つまり、タイムマシン論文だ。

 

敵の狙いがタイムマシン論文であると分かった事で、レスキネン教授が再び浮上した。

 

「教授は被害者を装ったんだと考えた。狙いは紅莉栖のノートPCだが、いきなりホテルやオフィスを狙えば身内が疑われる。だから一緒にいるところで男に襲わせた。男は人工知能に対して浅からぬ感情を抱いていたようだが、それにしてもあれはやりすぎだった。普通ではない。ノートPCとHDDが持ち込まれたことで、あの事件は改めて教授を疑う理由になった」

 

「教授はあの中でも冷静だったものね……」

 

でも、と真帆は続ける。

 

「教授はどうして岡部さんのことを知っていたのかしら?」

 

それについては俺たちもまだ結論を出せていない。

 

「そこなんだよね。オカリンって牧瀬氏のこととかタイムマシンのこととかなんでも知ってる重要人物だけど、どこから情報が漏れたのかが分からんくてさ。β世界線ではオカリンが目を付けられる理由がないし……」

 

「ATFでの出会いは偶然だった……という可能性は?」

 

「それも一度は考えた。俺のことを知らなかったのなら、俺と真帆が紅莉栖の話をしているのを聞いて、急遽俺にテスターを依頼した……としてもつじつまは合う。だが、それだとそもそも日本で『Amadeus』の講演を行う必要があるのか、という疑問は湧いてくるがな」

 

「アメリカでは人工知能を快く思わない人が多いわ。だから少しでも認知してもらうために日本を選んだのだけれど……」

 

「その程度の理由なら、教授は日本に来るよりも『Amadeus』に集中しておくべきだよな。タイムマシン論文が狙いなら、日本に来る理由が薄いし……」

 

それでも日本に来る理由として考えられるのは、『Amadeus』から論文を取り出せない可能性だ。

 

「『Amadeus』の秘密の日記って、本当に外部からはアクセス出来ないんだよな?」

 

「……ええ。私がそういう風に設計したから。開発者である私でもアクセスは無理。“紅莉栖”に頼めば中のデータを取り出してはくれるけど、外部から勝手にデータをいじるのは不可能よ」

 

『Amadeus』は望み薄だから、日本に来て別の可能性を探った、というところだろうか。

 

真帆が持つノートPCとHDDを狙うにしても、本拠地であるアメリカよりも、日本での方がやりやすかったとか?

 

「真帆。アメリカに帰るのはいつになる?」

 

「一応、1月の末くらいには帰国する予定だったのよ。でも、こんなことがあったし、もう少前倒しになるかもしれないわ」

 

「………」

 

そもそも1月末に帰国する予定だった。となれば、テスターも本来はそこまでだったということ。日本での情報収集は期限付きだったと言える。

 

ノートPCが破壊されてしまった今、日本で出来ることはないはずだ。これからはアメリカで『Amadeus』に専念する、ということだろうか。

 

「俺は、教授は秘密の日記をこじ開ける方法を知っているんじゃないかと思う」

 

「え、マジ?真帆たんがそれを出来ないように設計したって……」

 

「本当に秘密の日記をこじ開けられないのなら、教授は日本に残るはずだ。ノートPCが破壊されたとはいえ、それを狙う勢力はまだ日本にいるはず。得られる情報はまだあるだろう。俺の事を元から知っていたのならなおさらな」

 

だが、そうしないというのなら、『Amadeus』に可能性があるということ。

 

「真帆が知らないところで、秘密の日記にアクセスする方法を組み込んでいた……そう考えるのが自然だ」

 

それともう一つ。

 

「やはり、『オペレーション・アークライト』が関係していると思う」

 

「なに?オペレーション?」

 

そう言えば、まだ真帆にはアークライトのことを説明していなかったか。

 

俺は急いで概要を説明する。

 

「鈴羽とまゆりにタイムトラベルさせてまで、鳳凰院凶真を叩き起こさなければ解決できない問題。それは『Amadeus』である可能性が高い」

 

ノートPCは破壊され、HDDは俺たちで確保した。残る中鉢論文は『Amadeus』だけだ。断定はできないが、ノートPCとHDDに関しては、鳳凰院凶真の有無は関係ないように思う。これらに関しては俺たちが能動的に行動した結果ではないからだ。

 

「レスキネン教授によって秘密の日記がこじ開けられ、教授が中鉢論文を手に入れた。それを解決するために、鳳凰院凶真を復活させた……。結論から考えれば、教授は秘密の日記をどうにか出来ると言える」

 

逆説的に考えれば、秘密の日記がこじ開けられるまで『オペレーション・アークライト』は発動しない、ということになるが。

 

この際、教授が元から俺の事を知っていたのかどうかは関係ないように思う。利用価値がないと判断したからこそ、テスターの辞退を認め、クリスマスパーティの際にもラボには来ず、アメリカに帰国するという選択をしたのだ。

 

「真帆。君に任せてしまうことになるが……教授を出来る限り監視していてほしい」

 

「具体的には『Amadeus』の動向を見ろということね」

 

「ああ」

 

今すぐにでも秘密の日記をこじ開けられるのなら、最優先でそうしているはず。現時点でそうしていないとなると、こじ開けるにはそれ相応のリスクがある、ということだ。まず、“紅莉栖”本人にバレるという事。そして真帆にも。“紅莉栖”はどこまでも真帆の味方であるはずだ。何かあれば必ず真帆に知らせてくれるだろう。

 

真帆が傍にいることで、教授は思い切った行動には出られないはずだ。

 

「ふぅ……。これから忙しくなるわね。普段の研究をしながら、並行してタイムリープマシンの開発と、教授の監視もだなんて」

 

「……悪いな。負担をかけて」

 

「構わないわ。それで紅莉栖を助けられると言うのなら安いものよ。それにね……」

 

真帆は大きく息を吸い込んで言った。

 

「天才、牧瀬紅莉栖に並び立てるチャンスでもあるの。紅莉栖は可愛い後輩だけど、ライバルでもあった。……あの子に勝ちたい。研究者としての私のプライドなのよ」

 

「真帆……」

 

あの天才をずっと傍で見てきたのだ。劣等感を抱かずにはいられなかっただろう。紅莉栖に勝ちたいという思いは、研究者であれば誰しもが持つ当然の感情だ。

 

「頼んだぞ」

 

大丈夫。俺は心の中でそう言った。

 

真帆も、紅莉栖に並び立つ天才なのだから。

 

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