STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
「あ、メール……」
真帆はスマホを取り出して、受信したメールを読む。
「教授だわ。落ち着いたら連絡が欲しいって」
昨日、ホテルが荒らされたと連絡が来た時、襲われたことについては報告している。安全な所に身を隠すということも伝えてある。
「こちらのことを探りたがっている……のだろうな」
だが、裏の顔は抜きにしても教授の立場なら真帆の安否を確認するのは当然だ。さすがに無視するわけにはいかない。
「タイムマシン関連の話を横に置けば、真帆たんが狙われる理由は『Amadeus』……だよね?」
「そうだな。昨日、真帆が言ったように、『Amadeus』には軍事転用の可能性がある。教授としてもそれを表向きの理由にしておきたいはずだ」
それはそれで重大な問題だ。各国の軍部も喉から手が出るほど欲しい代物だろう。
「ノートPCが破壊されたことは伝えるべきだ。真帆を狙う理由はなくなった、とアピールしておけば、ある程度の安全は確保出来る」
牽制の意味も込めて、一度話してみるべきかもしれない。
「真帆、教授と話してみてもいいか?」
「え?話すの?危ないんじゃない?」
「多少リスクはあるが、こちらが被害者であることを強調しておきたい。これからのことについても話を決めておきたいしな」
鈴羽には出かける前に、真帆の帰国のタイミングを決めてほしいと言われている。その間に教授の動向を探りたいとのことだった。
「白々しい会話にはなるだろうが、付き合ってもらうぞ」
『マホ!リンターロ!無事でよかった!』
結局、フェイリス邸の一室を借りて、教授とビデオチャットをすることになった。俺たちが襲われたことは簡単に伝えてある。
「教授こそ何ともありませんか?ホテルとオフィスが狙われたんでしょう?」
真帆はなかなか演技が上手い。
『おかげさまで私はなんともないよ。オフィスも特に何かが盗まれた痕跡はなかった。それよりも君たちのことだ。銃を持った連中に襲われたんだろう?』
「はい。ちょうどその日、俺と比屋定さんは一緒に行動していたんですが……」
『狙われたのはマホ、ということだね』
「はい。俺にはそう見えました」
『我々の研究……『Amadeus』を狙う連中は多いんだ。あれは軍事転用が可能な代物でね』
「軍事転用が?」
『だから産業スパイなどには注意してきたんだ。でも、日本に来て油断してしまっていたのかもしれないね』
すでに分かっていることの確認だ。だが、俺は焦らない。情報を小出しにして教授の出方を窺わなければならない。
「でも、具体的な物は盗まれなかったんですよね?」
『幸いにもね。物理的にオフィスには侵入されたが、データのセキュリティを突破することは出来なかったようだ。オフィス内のPCに直接データは入っていない。全ては大学のサーバーに置いてあるからね』
「なるほど……」
『マホが狙われたのは、クリスのノートPCを持っていたからだろう』
「あ……」
『マホ。あれはクリスの遺品だね?日本に持ってきていたんだろう?』
「ええ。紅莉栖には悪いと思ったんですけど、紅莉栖の残した研究を見てみたくて……。日本の秋葉原なら、セキュリティソフトの解析に詳しい業者があるんじゃないかと思って……」
『なるほど。ちょうど持ち込んだところを狙われた、というわけだね。だが、どうしてそこにリンターロが?』
当然行きつく疑問だ。
「比屋定さんが依頼した業者、というのが俺の知り合いだったんです。それを知ったのは後になってからでしたが。昨日はそれとは関係なく、比屋定に秋葉原の案内をしていたんですけど、知り合いが解析不可能だということで……」
不自然に隠すよりもある程度開示しておいた方が怪しまれないはずだ。話に真実味が増すだろう。
『解析は出来なかったのかい?』
「はい。そして襲われて破壊されてしまった……。もう、中身を見ることは出来ません。紅莉栖の研究は……」
『それは残念だが、命には代えられないからね。君たちが無事でよかったよ』
「もし、未発表の理論があったらと思うと……」
『ハハハ!それはマホがまた見つければいいさ!将来はリンターロも我が研究室へ来てくれるだろうしね』
「そ、そんな……俺なんて」
『私は君には期待してるんだ。少々気難しいところのある我が娘たちと仲良くなれた君ならね』
そう言って教授は真帆の方をチラリと見た。
「教授っ!」
教授も俺たちの報告に納得した、ということだろう。タイムマシン論文は失われた。そして俺たちはその存在さえ知らなかった。
そういう結果に落ち着いたはずだ。
そして、これ以上俺たちを疑うにしても、その矛先は真帆ではなく俺の方に向くだろう。知り合いに解析業者がいると告げたのだ。怪しむならそちらになるはず。
これはダルとも事前に決めたことだ。少なくともアメリカでの真帆の安全を確保出来るように、と。
「教授。これからのことなんですが……」
『ああ。リンターロ。申し訳ないが、そちらでマホのことを頼んでもいいかい?私とマホは出来る限り接触しない方がいいはずだ』
「はい。それは全然構いません。ただ、アメリカに帰るのはいつ頃の予定で?」
『そうだね。もともと1月の末には帰国するつもりだったんだ。こんなことがあったんだ。出来れば前倒しにしたい。……そうだね、1月26日。2日後、というのはどうかな?オフィスの引き上げにそれくらいはかかりそうなんだ』
2日、か。鈴羽にはある程度時間を稼いでほしいと言われている。引き上げの準備中に隙を見せるかもしれないとのことだった。
「分かりました。出来る限り身を隠します。比屋定さんのことは任せてください」
『リンターロは頼もしいね。マホもそれで構わないかな?』
「はい。何から何まで岡部さんにはお世話になりっぱなしで……」
『我が研究室から何かお礼をしなければならないね』
「ええ。教授の助手に迎え入れてあげたらどうですか?気難しい私の世話係にはちょうどいいかもしれませんよ?」
『おっと。怒らせてしまったようだ。リンターロ!後の事は任せたよ!どの便に乗るのか、決まり次第また連絡する。重ね重ね、マホのことを頼んだよ』
がははと笑って通話は切れた。
「これで……よかったのかしら?」
真帆は不安そうな顔だ。
「言わなくていいことまで言ってしまったんじゃ……?」
だが、昨日の俺たちの動きくらい、その道のプロが調べればすぐに判明する。どうせ知られることならこちらから言ってしまったほうが信頼を得やすいだろう。
「でも、あれだと橋田さんが疑われるわ」
「ボクは別に大丈夫だお。多少荒事には慣れてるしね。こっちのことは気にしなくてだいじょぶだいじょぶ」
これで帰国の日は決まった。2日間。その間にいろいろと準備を進めよう。